ディープなNBA・バスケトーク+アメリカ文化

NBAとアメリカンカルチャー中心のブログ

NBAの新しいファールルールについて考える

どうも。NBAシーズンは開幕から2週間ほどたち、なんとなく各チームの傾向が見えてきた。

 

まずマイアミの強さは際立っており、ケガさえなければネッツとバックスに次ぐイーストのトップ3の1つとなるだろう。オフェンスではバトラー、バム、オフシーズンに加入したカイル・ラウリーというバランスの取れた布陣に、ベンチからタイラー・ヒーローが起爆剤となっている。そして何よりディフェンスとチームケミストリーが素晴らしく、見ていて楽しいバスケを展開してくれる。

 

楽しいバスケと言えば、エストではウォーリアーズも予想以上に強い。カリーがものすごい活躍をしているわけではないのだが、ジョーダン・プールが大躍進していたり、その他補強したビアリッツア、デイミオン・リーなども上手くフィットして、黄金期を支えたディフェンス力も戻ってきた印象である。もしケガから1月頃に復帰するクレイ・トンプソンが少しでも2年前の片鱗を見せることができれば一気にウォーリアーズの総合力は高まり、ワイドオープンな今シーズンのウエストの優勝候補に一気に踊りでるだろう。

 

一方ネガティブサイドでは、レイカーズがリーグ最弱ロスターのOKCに2連敗したり、ベン・シモンズがメンタルヘルスを理由にチームアクティビティや試合に不参加を証明しながら、チームからのヘルプは一切拒否して結局罰金されたり、ボストンのチームケミストリーがおかしなことになっていたりなどがあり、今後の動向が気になる。

 

また、NBAで一番問題になっているのは、サンズのオーナーであるロバート・サバ―女性差別、黒人差別など様々なToxic Culture (働きづらい、居心地の悪いカルチャー) を作り上げていたというものである。これは2014年にNBAから追放される形となった超人種差別主義者のクリッパーズオーナーのドナルド・スターリングほどではないものの、これからリーグがどう対応するのかに注目が集まっている。更にブレイザーズGMであるニール・オルシェイもToxic Cultureを作ったとして捜査が入っているようで、この問題はサンズだけでは終わらなさそうである。これについてはまた次回以降に記事をまとめてみたい。

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そんな中で個人的に今一番気になっているのがNBAの新しいファール罰則ルールである。原則にはこれまでファールにしていたオフェンス有利となるプレイをレフリーがコールしなくなったのである。具体的には、オフェンシブプレイヤーがスクリーンを使って自らディフェンダーに体をぶつけにいったり、腕を絡ませてディフェンダーがファウルしたかのように見せるプレイを取っ払ったのである。

 

これはジェームズ・ハーデンルールやトレイ・ヤングルールとも言われ、特にハーデンはロケッツ時代に6年連続1試合平均10本以上のフリースローを打っており、ファールを獲得することをリーグ史上最もマスターした選手である。上述のディフェンダーに故意的に自ら腕をひっかけたり、3ポイント打つ際に前に向かってジャンピングしてディフェンダーに当たったり、その他ディフェンダーにちょっとでも当たったらぶん殴られたような反応をしたりと彼のファール獲得テクニックを挙げたら枚挙にいとまがない。

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個人的には彼のそんなスタイルが大嫌いなのだが、これはスキルであり、オフェンスを擁護しがちなNBAのルールを上手く使ったいわば芸術であった。

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同様に昨年イースタンカンファレンスファイナルまで一気に躍進したホークスのエースであるトレイ・ヤングも現代のオフェンスびいきのリーグを象徴する選手となった。彼の場合はハーデンのようなアームフッキングをするというよりは、ディフェンダーをかわしたらわざとディフェンスの真ん前にポジショニングしていきなりストップし、ディフェンダーがぶつかりそうになったと同時にシューティングモーションに移動してファウルを誘うというものである。

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このまたうざいプレイの元祖はクリス・ポールであり、ポールの場合はよくトランジションの際に大体ビッグマンの前に近づき彼らが即時に反応できないことを利用して、臀部をディフェンダーにぶつけてその勢いでこけてファウルを誘うというものであった。このプレイ自体も大嫌いなのだが、ヤングはそれをハーフコートのオフェンスでもやり始めたのである。これをマスターしたことによって彼はリーグ屈指のスコアラーとなったわけである。その他ではルーカ・ドンチッチやデイミアン・リラード、ブラッドリー・ビールなどがフリースローによって大量の得点を稼ぎだしてきた。

 

問題はこういったファールを誘発するプレイスタイルは見ていてとにかく面白くない。スキルと言われればそうなのだが、バスケファンはタフなディフェンス相手にシュートを決めるのを見たいわけで、フリースローをたくさん見たいという人は全世界でほぼゼロに近いだろう。それも相手に向かって真っ向勝負の中でファールされるなら全然理解できるが、ディフェンダーとレフリーを馬鹿にしたようなやり方でファールを受けるのは正々堂々としていないとどうしても感じてしまう。リーグも一時期の不人気を取り戻そうと必死になるばかりオフェンスが得するルールばかり設置してしまい、結果的にディフェンダーが活躍できる場を奪ってしまったのである。加えてどんどんと長くなるレフリーのレビューで既に相当の時間を食っている試合時間が、ファール狙いのプレイによって更に長時間化してしまっており、リーグ内外から不満が続出していたのである。

 

NBAファンや識者から望まれたこのルール変更だが、今のところ概ね好評のようであり、個人的にもよりフィジカルなディフェンスが許されることでオフェンス対ディフェンスがフェアーになってきたと思う。

 

これによってハーデンのアームフッキングはコールされなかったり、オフェンシブファウルになったりしている。

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リーグ全体で見渡しても、最初の1週間でフリースローの数がリーグの歴史で最も少なくなったりとかなり笛の吹き方を変えた印象である。正直若干反対方向に行き過ぎで明らかにファールなものもコールされなくなってきているのが気がかりではあるが、全体的には良い兆候ではあるだろう。

 

また、スター選手の成績を見てもこのルール変更は明らかに影響が出ている。11月9日時点で、ハーデンのフリースロー率は1試合4.8まで落ち、昨シーズンと比べてヤングのフリースローは8.7→5.8、ルーカも7.1→5.1、リラードは7.2→3.4、ビールも7.7→4.0とこれでもかというほどフリースロー数が減っている。

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そして面白いことに、今挙げた5人の選手が全員とも昨年と比べて大きく数字を落としていることである。共通しているのは全員シュート確率がとても低い。リラードとハーデンについてはそもそも動きが遅くなっており全盛期を過ぎた感が出ているが、その他の3人はまだ若いし、むしろ成績が上がるべきではある中の下降線なわけである。これについては単純にフリースローの数が減ったことで得点数が落ちただけでなく、試合の中のリズムもあるだろう。これまで確実にフリースローで点を稼げていたことで、各選手の中で一定の落ち着きやリズムが確立されていたのが崩されたわけである。また、スター選手はどんなにシュートが決まってなくてもフリースローを打つことによって調子を取り戻す事も多々あるわけで、それを取っ払わてアジャストしきれていないのだろう。

 

もちろん彼らはリーグトップクラスのスコアラーであり、レギュラーシーズンが進むにつれて調子を取り戻してくるだろうが、この状況を打開できてこそが真のスーパースターであり、彼らの本当の実力が試されると思っている。そんな中このルール変更の影響を受けておらず現在スコアリングNo.1と2のデゥラントとイヤニスがやっぱり現在リーグトップ2の選手なんだなということを改めて気づかせてくれる。

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NBA開幕!:第1週から見えた5大注目ポイント

どうも。NBAシーズンも開幕して既に色々と面白い。ベン・シモンズとシクサーズの一騎打ちがが引き続き続いていたり、カイリーとワクチンの状況も全く好転しないが、各チームとも数試合戦い、少し見えてくるものがある気がする。ということで、今回は個人的に開幕後気になった点5個をピックアップしてまとめてみたい。

 

1. ネッツは優勝筆頭じゃないかも

シーズン前の予想ではイーストからはネッツ、ウエストからはレイカーズがファイナルに出てくると言われてきた。どちらも出だしが不調なのはオーバーリアクションといえばそうかもしれないが、ネッツについてはカイリーのワクチン接種拒否の影響が予想以上に出ている。

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カイリーは自分のスタンスを変えるつもりが今のところなさそうだし、ニューヨークが罰則を変えない限り、カイリーはネッツで少なくとも今シーズンはプレイしないことになる。カイリーがいなくとも、、デゥラントとハーデンに多くのベテランを抱えた布陣だけで十分優勝候補かと思われたのだが、そう簡単にうまく行かないのがNBAである。

デゥラントは昨年と変わらない圧倒的な力を出しているが、ハーデンの動きが良くない。これは昨シーズン痛めたハムストリングの影響なのか、太ったせいなのか、単なる衰えなのか、シーズンが始まったばかりだからなのか分からないが、ディフェンダーをかわすクイックネスが明らかに遅くなっている。また今年からオフェンスがファウルを誘うプレイにはレフリーが反応しないルールともなっており、ファウルハンティングが大得意だったハーデンに大きな影響を与えているのかもしれない。彼のパスは未だに超エリート級だが、以前からお粗末なディフェンスに加えてオフェンス面でもし衰えが出てくるとなると、ネッツの爆発力が一気に下がってしまう懸念がある。ハーデンとデゥラント以外にオフェンスのクリエイターがいないネッツにおいて、ハーデンが以前のか輝きを取り戻さない限り、カイリーがワクチン接種に折れるか否かが当初の予想以上に今シーズンのカギを握るストーリーとなりそうである。

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2. レイカーズはファイナルに行けない

ネッツもシーズン序盤苦しんでいるが、レイカーズの出だしも微妙である。レブロンは未だに素晴らしい数字を残しているし、アンソニーデイビスもいいスタートを切っている。が、以前予想したように、やっぱりウエストブルックとレブロンはフィットがイマイチである。

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ボール保持率が高いという点では、ヒート時代のレブロンとウェイドも同じだったが、ウェイドはその分カットやミッドレンジで勝負ができた。対してウエストブルックはシュートが壊滅的な状態であり、なおかつボール持たないと突っ立てることが多いので、レブロン中心のチームである限り彼がアジャストする必要がある。

 

シーズン開幕戦では一度もウエストブルックがスクリーンを自分でセットすることなかったが、2試合目から少しづつやり始めたレブロンとのピックアンドロールを今後も継続していけば機能する可能性はある。が、これがシーズンを通して、またプレイオフに入ってからウエストブルックが脇役に徹することができるがは疑問符がつく。更にBig3以外の戦力も手薄感が否めず、オフェンス、ディフェンスともに若干中途半端なチームであり、おっさんだらけのロスターでプレイオフでウエストの強豪とやり合える要素がレブロンのLast Dance以外見当たらない。

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3. ジャ・モラントはスーパースターになる

シーズン開幕して個人的に最も目を奪われる選手がメンフィス・グリズリーズのジャ・モラントである。昨年は初めてプレイオフに出場し、第1シードのジャズ相手に47点を記録するなどスターになる片鱗を見せていたが、3年目となる今年は更にコートでの支配力が増している。全盛期のデリック・ローズのような圧倒的な身体能力と、アイバーソンのような恐れ知らずの精神、トラディショナルポイントガードのパス能力を合わせ持った選手であることは知られていたが、今年はそれに加えて自分のペースでプレイできており、試合をコントロールできていると思う。これはレブロンやルーカ・ドンチッチが非常に得意な分野で、スターに絶対に不可欠な要素だが (ルーカが3年でス―パスターになった理由はこれである)、モラントもこれ身につけてきているのだ。

 

元々の圧倒的な素質に、試合を読む力が加わったことで、NBAで最も層の厚いポイントガード勢の中でもTop5に入られる可能性は高いと考えており、初のオールスター出場、オールNBA選出も時間の問題であろう。同じドラフトで入ったザイオン・ウィリアムソンばかりがやたら注目されるが、ザイオンに全く引けを取らないハイライト製造機であるモラントがリーグのス―パスターと認識される日は近いはずだ。

 

4. ナゲッツは今年もウエストTop4に入る

ナゲッツは今年のシーズン大半、ジャマール・マレーがケガで不在となり、ナゲッツは苦戦するという予想もあったが、個人的にはそう思わない。何故なら二コラ・ヨキッチという絶対的なゲームチェンジャーがいるからである。昨年MVPのヨキッチのオフェンスは欠点がなく、そのシュート力、天才的なパス力だけでもナゲッツは平均以上のチームになれるし、加えてマイケル・ポーターJr、ウィル・バートンといったオフェンス力を持った選手もいる為、スコアリングには困らない。ディフェンスは穴が多いことは否めないがレギュラーシーズンの間はそこまで大きな問題とはならないだろうし、ウエストに強豪中の強豪が存在しないことを考えると、ここ数年続けたホームコートアドバンテージを今年も保持すると思われる。(こんなパスを選手がいる限り、ナゲッツはなんとかなる)

 

5. デイビオン・ミッチェルはNBAのベストオンボールディフェンダーになる

今年のルーキーは、Top5の選手が全員将来性があり楽しみなグループとなっているが、私が最も注目しているのがキングスのミッチェルである。全体9位でNBAに入ったミッチェルは大学時代からそのディフェンス力が際立っていた。身長が183センチとNBAではかなり低いこともありドラフトでTop5に食い込むことはできなかったが、"Off-Night" (スコアラーが本来の活躍をできないこと) というニックネームを持つミッチェルのディフェンスはデビュー後数試合だけでも存分に発揮され、既にリラード、ドノバン・ミッチェル、カリーと対しており、その激しい1 on1 ディフェンスとフルコートプレスでスタープレイヤー達を困らせている。ミッチェルの凄さはとにかく諦めない、相手をシャットダウンしようという意気込みであり、加えて常にアクティブな手の動きででターンオーバーも誘う。このままいけば、昔のトニー・アレンのようなディフェンシブ・スペシャリストかつ、自分でシュートを狙えるスコアラーとの両立が可能な選手に成長するのではと期待している。

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NBAシーズンプレビューとカイリー vs. ワクチン

どうも。NBAシーズンがまもなく開始する!ここ2シーズンはコロナの影響でスケジュールが後ろ倒しになっていたこともあり、ファイナルが終わってからほんとにあっという間だなという気がして心の準備ができていないが、今シーズンは確実に面白くなる気配がある。そこですごいざっくりとだが、ウエストとイーストそれぞれのトップ4レベルに加わりそうなチームの可能性をプレビューしつつ、トレーニングキャンプ開始後問題となっているスター選手とワクチンの問題についても言及したい。

 

<ウエスト>

1. レイカーズ

エストはレイカーズが大量補強をしてロスターの半分が元オールスターみたいになっている。一番の注目は今年37歳になるレブロンがどのくらいのレベルでプレイができるか、ボール保持率がむっちゃ高いウエストブルックがレブロンと共存できるかとなる。私的に彼らがファイナルで勝てる戦力とは思わないが、今年のウエストの状況を見るとファイナルに一番近いのがレイカーズであることに異論はない。

 

2. ケガ組

ここ20年近くウエストがイーストより総合的に強いのはよく知られていたが、今年はウエストのトップレベルチームがどこになるのかが定かでない。クリッパーズはレナードがケガでシーズンの大変は欠場する為プレイオフに参戦できるかぎりぎりだろうし、ナゲッツもジャマール・マレーがACLの怪我で苦しむだろう。ナゲッツは昨年MVPのヨキッチがいる限りプレイオフは確実だろうが、マイケル・ポーターJrがどこまで飛躍するか+自分がスターかのように振る舞わないかに今シーズンはかかっている。

 

3. 安定組

サンズとジャズは昨年とコアが変わらない為安定した成績を残すことができるだろうが、パンチ力は欠ける。サンズに関しては昨年ファイナル進出した割に (相手チームの怪我に助けられたのもあるが) 下馬評が低いが、ブッカーやエイトンなどの若手コアの成長の可能性を考えると、今年もウエストのトップが狙える位置につけるのではないか。

 

4. 読めない組

エストで一番面白くなるのはおそらくウォーリアーズだろう。彼らが第7シードぐらいになっても、第3シードぐらいになっても驚かない。それを大きく左右するのがクレイ・トンプソンの怪我の状況である。レポートによると1月ぐらいから復帰すると言われているが、2年連続でACLとアキレス腱の怪我をしている彼がどこまでのレベルで戻って来れるかは未知数である。正直2年連続大きなケガをした選手が100%になって復活する前例はないので、個人的には彼らが優勝候補となるかは懐疑的である。

その他、マーベリックスも面白いだろう。レブロンを筆頭にスーパースター1人の力で一気に強豪となれるバスケにおいて、ルーカの存在は見逃せない。今年で4年目の彼は更に成長するだろうし、プレイオフでも恐れ知らずのことが証明されており、番狂わせでカンファレンスファイナルとかにいっちゃうこともあり得るのではと思う。コーチがジェイソン・キッドであることや、その他の戦力への疑問符がつくのだが、楽しみなチームではある。

後はブレイザーズもいつも通り中堅レベルの成果を残すかもだが、リラードやマコラムのトレードの可能性が捨てきれないので、それ次第でタンクモードに入るか強豪の一角に名乗り出るのかが決まりそうである。

 

イースト>

イーストはウエストと比べると強豪と中堅、それ以外のレベルがはっきり分かれる印象であり、下位チームはとことん弱くなると予想する。

 

1.補強組

オフにカイル・ラウリーとPJタッカーが加入したヒートは、バトラー、バム・アバデヨとの強力なディフェンシブコアができたひのは確かだが、ベテラン揃いかつオフェンスの爆発力に欠け、ネッツ、バックスの2強を苦しめるレベルまでいくかは疑問である。

デローザン、ロンゾ・ボールと大きな補強をしたブルズもイーストの注目チームの1つだが、デローザン、ラビーン、ブサビッチの3人は素晴らしいオフェンシブタレントだが、どちらもボールが必要なデローザンとラビーンのフィットは疑問符がつく。そしてスターターのディフェンス力の低さがネックとなって、そこまで上位に食い込めないと予想している。

 

2.中堅組

昨年大躍進したホークスはとにかく選手の層が厚いので今年も勢いを維持してホームコートアドバンテージを狙えるとこまでいくのではないかと思う。トレイの更なる成長とウィングプレーヤーが健康で過ごせるかがキーとなりそうである。一方ホークスにプレイオフで敗れたニックスはケンバとフォニエの補強はしたが、ケンバの衰えは隠せない。プレイオフで見えたジュリアス・ランドル頼みのオフェンスの限界が解決されるのかがカギとなるが、昨年のようにトップ4シードを狙えるとは思えない。

その他昨年低迷したセルティックスはテイタムとブラウンのコア2人の更なる成長が見込め、デニス・シュルーダーの加入はガードのパンチ力がなかったボストンに吉と出るだろう。ただ彼らもファイナルを狙える位置ではない。

 

3.全く読めないシクサーズ

そしてベン・シモンズ問題が解決しないシクサーズについてはどうなるかが全く読めない。仮にシモンズがトレードさらずにしばらく彼抜きか、100%本気出さないシモンズがプレイしながらレギュラーシーズンが進んでも、エンビードが健康でいる限り5割の勝率は残せるだろうが、このドラマの行方によってはプレイオフ1回戦敗退になっても、トレードが成立して優勝候補に躍り出ることもあり得るかもしれない。

 

4.全体トップ2

残るは昨年覇者のバックスと今年の優勝候補筆頭のネッツである。この2チームがリーグ全体でもTop2であり、シーズンが順当に進んだ際に、エリート集団のネッツ vs. NBAで這い上がってきた雑草組のバックスの戦いという超面白いカンファレンスファイナルになるかもしれない。メンタルと勝負弱さが見られたバックスは昨年優勝したことで、今年はより自信を持ってプレイできるだろうし、イヤニスは昨年のプレイオフでネッツとのシリーズ以降今までになかった支配力を開花させ、更に強力な選手となって戻ってくると思う。PJ・タッカー以外主力が抜けていないかつ、ケガ人だらけの昨年での優勝へのいちゃもんが多いとことで、今年も手を抜かずに全力で優勝を狙うと予想される。

 

対するネッツは現在リーグ最強プレイヤーのデゥラント、最強オフェンシブプレーヤーのハーデン、最強ボールハンドラー&フィニッシャーのカイリーに加えて、ベンチ陣も強化し抜け目が少ない。普通に考えたら優勝候補の筆頭で、バックスと比べてもギャップがある気がする。ただここで一筋縄でいかないのがネッツである。厳密にはカイリーの存在である。

 

<カイリーとワクチン拒否>

あくまでスポーツと文化のブログなのであまりコロナとワクチンの効果について言及したくもないのだが、昨今それを逃れることができないのが常である。NBAも例外ではなく、ワクチンの接種がリーグ全体で義務化はされていないが大きく推奨されている。NFLにおいてはもう半強制のようなもので、ワクチン未接種の選手がコロナになった場合、その所属チームは問答無用に試合放棄をしなければいけない。1年17試合しかないNFLで1試合を失うことは一大事なのである。

それに比べたらNBAのルールはもう少し緩いが、リーグのワクチン接種率は90%を超えている。然し、一部の選手の中には未だにワクチンに懐疑的な意見を述べる人もいる。マジックのジョナサン・アイザック、ウィザーズのブラッドリー・ビールなどもそのグループに入るのだが、ここで特に問題になるのがアメリカは国単位でなく州ごと、更には都市単位での統治力が強い事である。

 

コロナの規制が強いニューヨークとサンフランシスコはホームプレイヤーがワクチンを接種しない場合、試合に出場できないルールを作った。これによりニックス、ネッツ、ウォーリアーズの選手がレギュラーシーズンの半数あるホームゲームでワクチンを接種することが義務付けられた。これに伴い大きな話題となったのが、ウォーリアーズのアンドリュー・ウィギンズとネッツのカイリーがワクチン接種を拒否したことである。ウィギンズについてはしばらくReligious Freedom (宗教上の理由) ということで接種に抵抗をしていたが、四方八方からプレッシャーがかかったのか、いやいやながら最終的に打った。

 

カイリーについてはワクチン接種はプライベートな問題として公表こそしていないが、彼が接種していないことは明らかで、シーズンの半分に出場できないとしてもこれからも接種する気がないようである。これは優勝候補筆頭のネッツを悩ます大問題だが、これがカイリーだから厄介かつ、おそらく自分の意思を通すだろうと思われるわけである。カイリーは以前から予想外の行動を起こすことはしょっちゅうあり、突然トレード要求をしたり、地球は平だと言ったり、昨年もチームに説明なくいきなり離脱したりと、いわゆるドラマクイーンである。更に彼は非常に頑固で信じたことは譲らない性格であり、チームとしては非常に扱いづらい。

 

プロスポーツにおいてワクチン接種が何故大事かと言えば、自分が感染して、他の選手にもうつしてしまうと戦力が揃わなくなり、試合に出れなくなってしまうからである。特にプレイオフで集団感染が起きたら終わりである。どの職場でもコロナアのアウトブレイクを避けようとするだろうが、スポーツでお金を稼ぐ以上リモートワークはできないし、コンタクトスポーツであるバスケではそれが通常より難しい。だからこそチームに迷惑をかけない為のワクチンとなるのだが、カイリーにはそれが通じない。(カイリーは自分が社会全体よりスマートだと考えちゃう傾向が強い、、、)

 

正直カイリーがシーズン全休となってしまっても、ハーデンとデゥラントというリーグTop10、オフェンスに限ればTop5に入る選手を抱え、ベンチ層も厚いネッツは引き続き優勝候補である。スターの2人が健康であれば普通にバックス相手に台頭に挑める戦力が揃っているのは確かであるし、実際昨年はほぼKDの独壇場でバックスをぎりぎりまで追い詰めた。(ハーデンとカイリーのどちらかが最終戦まともにプレイできたらネッツが勝っていただろう)

ただ昨年と同じく今年もケガ人がでる可能性は否定できない。デゥラントは一昨年アキレス腱を断裂して昨年かなりの負担をかけているし、ハーデンもまたハムストリングを痛めてしまうことは全然あり得る。そういった事があっても大丈夫なように、スーパースターが3人集まったわけだが、カイリーも出場せず、残り2人のどっちかでもケガで離脱したらネッツの優勝の可能性は一気に低くなる。

 

カイリーの意思が変わってシーズン開始したらネッツが圧倒的な強さを見せてシーズン前の心配が消え去る可能性もある。もしくはプレイオフになっても彼がワクチン接種を拒否し、シーズンを通してこのストーリーが付きまとう事もあり得る。バスケジャンキーのデゥラントや、優勝経験のないハーデンにとって、優勝の可能性をチーム内の事情で阻まれるのは許せないだろうし、チームケミストリーもどうなるかが気になるところである。

 

ベン・シモンズのトレードドラマとカイリーの行方はシーズン開幕に向けたスパイスとして見逃せないニュースであり、どうなるか行方が楽しみである。

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NBA ベストボールハンドラー 歴代Top10!

どうも。今回はまたNBAトピックに戻って、突然だがランキング形式で私的な歴代ボールハンドラーTop10をまとめてみようと思う。以前にはトップダンカーに絞って、インゲームダンカーとダンクコンテストダンカーでそれぞれランキングを作ったのでそちらも是非チェックして頂きたい。

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このランキングはあくまで私的な見解なのでそんなはずはないとか選出がおかしいといった意見はあると思うが、数あるランキングの1つとしてご了承頂きたい。

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No.10 ピート・マラビッチ

長いNBAの歴史の中でドリブルの技術はどんどん進化してきた。最も古くは60年代のセルティックスレジェンドであるボブ・クージーがエンタメ要素を加えたドリブルをはじめたと言われるが、あくまで利き手の右手でのドリブルばかりだった。そこから更にショーマンシップと技術を持ち込んだのがピート・マラビッチである。60年代後半から大学での圧倒的な得点力と派手なドリブルやパスで大きな注目を集めたマラビッチは、70年にNBAに入ってからも同じようなプレイスタイルで人気を集めた。彼のプレイが直接チームの成功に結び付くことはなかったが、相手までも魅了するドリブル、パスの出し方、長距離のシュート力はその後のスティーブ・ナッシュやステファン・カリーに受け継がれており、NBAに革命を起こした一人として歴史上重要な存在である。

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No.9 ジェームズ・ハーデン

現代NBAのトップクラスのボールハンドラーと聞いてジェームズ・ハーデンを外すことができない。手にボールが吸い付いたかのようにドリブルを繰り返し、そこからステップバックスリーか、ドライブするという2択しかないのに誰もハーデンを止めれないのは、ディフェンダーを常に推測させる彼の読みの能力とリズム感からできる技であろう。また、彼の特徴はドリブルの回数の多さと姿勢の低さ、切り返しの上手さであると思う。ロケッツ時代は彼がオフェンスにいくら時間をかけてよかったこともあり、ドリブルを何回もしながらディフェンダーがリーチした瞬間を狙って低い姿勢から一気に切り返してペイントまで向かっていくことができた。逆にそこでディフェンダーがドライブを警戒してきたらステップバッグでシュート打つ。シンプルなようで止められない彼のスタイルに賛否両論あるが、その技術に疑問の余地はない。

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No.8 ジェイソン・ウィリアムズ

NBAとストリートボールはプレイのレベルやスタイルに大きな違いがあるが、ストリートボールをNBAに持ち込んだ先駆者の一人がジェイソン・ウィリアムズである。身長が高いか、シューターと言ったイメージが強かった白人選手の中で、派手なドリブルとパスで黒人選手みたいということでホワイト・チョコレートという特殊なニックネームがついたウィリアムズのプレーはとにかくエキサイティングであった。オープンコートに入ったら観客をあっと言わせるパスを出すことを楽しんだ彼のドリブル技術は卓越されたもので、クロスオーバー、ビハインド・ザ・バック、少し高めの位置でのドリブルなど多彩なスキルを誇った。プレーの安定感に欠け、チームを率いるリーダーではなかったが、特にリーグに入った最初の数年に残したハイライトの数々によって鮮烈なインパクトを残した。

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No.7 ジャマール・クロフォード

ウィリアムズと同じくストリートボールの要素が強いボールハンドラーがシアトルのレジェンド、Jクロスオーバーことジャマール・クロフォードである。彼はまさにHooperといった感じで、筋トレなどは一切せずにひたすらバスケをオフシーズンでもしまくっているタイプである。そんなバスケジャンキーのクロフォードは一旦シュートが決まりだすと止まらないヒートチェックタイプであり、スターターとしては安定感と協調性に欠けたが、キャリアの中盤以降はシックスマンとして開花した。彼のすごい所は30代半ばになっても自分が得意なクロスオーバーを中心として若手っぽいプレーができていたことであり、それは彼のドリブル技術の高さによって可能となった。

 

クロフォードのシグニチャーム―ブといえばビハインドバックなのだが、特にフェイクを入れてからビハインドバックをしながらギャザーステップをしてレイアップまで持っていくムーブをおそらくNBAで初めてした選手であり、彼以外にこの動きをマスターした人は知らない。

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スーパースターではなかったが、後世のアンクルブレイカーに残した功績は大きい。

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No.6 クリス・ポール

ウィリアムズやクロフォードがショーマンシップに長けたリスキーなアンクルブレイカーの代表だとしたら、クリス・ポールは堅実なボールハンドラーの代表である。Point Godのあだ名がつくほど、アシストの割合に比べてターンオーバーが少ないのが特徴であるのだが、その根底には彼のターンオーバーを誘発しないタイトなハンドリングがある。彼の代名詞であるミッドレンジエリアのフェイダウェイジャンプショットも綺麗なドリブルからなされる業である。ただ彼が派手なドリブルをしないわけではなく、相手の股下を通したり、パスと見せかけたヨーヨードリブルは別れの代表的ムーブである。

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今年で37歳と大ベテランの領域に入ったポールだがそのドリブルの技術は健在で、引退するその日まで堅実かつ効果的なクロスオーバーを見せてくれるだろう。

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No.5 ステファン・カリー

NBA史上最高のシューターであるステファン・カリーがベストシューターに慣れた理由こそが彼のハンドリングスキルである。これまでも単純なシュート力でカリーと同等の選手はいたが、大体がスクリーンを使ってのショットがメインで、クロスオーバーで自らスペースを作ってシュートする選手はほとんどいなかった。(唯一レイ・アレンが全盛期に時々したぐらいであろう)  カリーがすごいのはドリブルからディフェンダーをかわしてオフバランスの状態から超高速リリースでシュートを打てることである。そして彼の3ポイントがあるからこそ、ドリブルからのペネトレーションも活きてくる。カリーもビハインドバックが結構得意でドリブルムーブの中でかなりの確率で入ってくる。対クリッパーズ相手に繰り出したレッグスルー→ビハインドバックでディフェンダーをかわして、3ポイントラインに戻り僅かなスペースで決めたショットは過去最高に難しいショットの1つであると思う。

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昨年孤軍奮闘で過去最高の得点を記録したカリーが今年こそはプレイオフに導けるか注目である。

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No.4 アレン・アイバーソン

ストリートボールの最高峰かつ、NBAのアイコンとして、2000年代以降のNBAファンにとっては、クロスオーバーと言えばアレン・アイバーソンを思い浮かべるのではないか。平均的な日本人と大して変わらない体格で得点王、MVPまでに上り詰めた彼を支えたのは誰も恐れないメンタルとハンドリング技術である。特にヘジテーションドリブルから右→左、左→右のクロスオーバーで相手を一気に抜き去りドライブする、そこからレッグスルーでステップバックしてのジャンプショットが彼のシグニチャームーブであった。彼のこのクロスオーバーはNBAに大きな影響を与え、その後多くの選手が取り入れるようになった。昔のNBA選手からはクロスオーバーの前でボールを1秒近く保持するのでキャリーじゃないか批判もされたが、ディフェンスをフリーズさせるという意味でこのちょっとのキャリーは非常に効果的だった。彼を一躍スターにしたのが、ルーキー時代にジョーダン相手に1 on 1を仕掛け、クロスオーバーからジャンパーを入れた瞬間だが、この時も高いボールの位置からのクロスオーバーを有効活用している。

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そのスタイリッシュさと観客を引き付けるプレーで時代を席巻したアイバーソンは今後も永遠に語り継がれる唯一無二の選手である。

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No.3 ティム・ハーダウェイ

アイバーソンのクロスオーバーをキャリーだと批判した張本人こそがティム・ハーダウェイである。90年代に活躍したハーダウェイは、キラー・クロスオーバーと呼ばれたムーブを開発し一時代を築いた。このキラー・クロスオーバーの特徴は低い状態からレッグスルーと左右の切り返しを1、2で連続で行うことであり、一瞬レッグスルーでディフェンダーの体重が後ろに乗った状態から一気に切り返す為、ディフェンダーのリアクションが追い付かない。しかもアイバーソンと違いキャリーせずに少ない動作で一連の動きが完結するのでで個人的によりプラスポイントである。クロスオーバーをマスターしたハーダウェイはハーフコートの1 on 1だけでなく、速攻の時でもミスなくこの動きを繰り出せたのが、他選手と違うことである。

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クロスオーバーを人気にしたのはアイバーソンだが、ボールハンドリングの技術に革命をもたらしたのはハーダウェイなのである。

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No.2 アイザイア・トーマス

この選出を見て、えっと思う人も多いかと思うが、クロスオーバーやシグニチャームーブ関係なしに、単純なボールハンドリングスキルで、80年代のスーパースター、アイザイア・トーマスに勝つ人はそうそういない。彼のスタイルはその後のハーダウェイやアイバーソン、ポールの原型となるようなもので、ボールハンドラーの先祖がピート・マラビッチだとしたらアイザイアがゴッドファーザーといった感じだろうか。彼の凄い所はとにかくハンドリングがタイトであることであり、低い姿勢からボールが手にくっついたかのようにドリブルを続けてられる。彼のハイライトには何個も転びそうになりながらボールをキープしているシーンが見られる。このドリブルの技術と勝負強さ、チームをセットアップできる実力によって80年代でマジック・ジョンソンに次ぐポイントガードとして君臨したレジェンドに敬意を払い2位とさせて頂いた。

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No.1 カイリー・アービング

ポールやアイザイアの確実なハンドル、アイバーソンやハーダウェイのクロスオーバー、クロフォードやウィリアムズの派手さが全て組み合わさったのがカイリー・アービングであり、彼のレベルは歴代での中でも頭1つ抜けていると思っている。(リーグ入団当初はよくカリーと一緒にベストハンドラーの一人と言われていたが、カリーとカイリーでは雲泥の差がある) 彼のハンドリングと、空中でのものすごい角度からのレイアップの正確さは群を抜いており、バスケをやる為に生まれてきたボディーコーディネーションだなとつくづく感じる。これまで挙げてきたような左右のクロスオーバー、ビハインドバック、レッグスルーだけでなく、スピン、インアウトドリブルなど技術の多彩さがとにかく光る。

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それだけでなく、ボールが手にくっついているかのごとくどんな方向にも切り返しができ、どのボールの高さでも自由自在にドリブルをし、どんなに体勢が崩れてもボールを失わないコントロール力には脱帽である。長いNBAの中でもここまで見ていて美しく感動するボールハンドラーは他にはおらず、ハイライトを見たらただただ見とれてしまうので最後の動画を是非見て頂きたい。

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オマーのアメリカンカルチャーにおけるインパクト <The Wire> RIP Michael K Williams

どうも。アメリカではNBAのニュースが非常に少なく、アメリカンフットボールのシーズンが丁度はじまった時期で、アメリカのスポーツ熱は完全にフットボール一色であると言える。フットボールももちろん面白いのだが、今回はスポーツから少し離れてエンタメの話をしたい。

 

皆さんはマイケル・K・ウィリアムズという俳優をご存じだろうか。ハリウッドのトップスターではなく、有名な映画の出演もあまりなかった彼だが、ボードウォーク・エンパイアや、ザ・ソプラノズなどのドラマに出演した名脇役的な存在であった。日本での知名度はかなり低いとは思うが、アメリカでは特に黒人コミュニティから非常に多くの尊敬を得ていた。そんな彼は以前から薬物の問題を抱えていたようで、残念ながら9月6日に薬物の過剰摂取で54歳の若さで亡くなってしまってた。そこで彼へのトリビュートを込めて彼の代表作であり、私自身も大好きなHBOのドラマ「The Wire」のキャラクターであるオマーアメリカンドラマにおけるインパクトについて焦点を当てて記事を書いてみる。

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The Wireもあまり日本ではあまり知られていないTV Showだと思うが、アメリカでの評価は非常に高く、毎年のように評論家から絶賛を浴びるドラマをリリースするHBOの中でも歴代トップドラマの1つとして必ず名前が挙がる。The Wire自体放映当初すごい人気があったわけではないのだが、じわじわと知名度が上がり、2008年に放送が終了してからもストリーミングなどの効果でベストショーの1つとしての地位を確立をし、オバマ大統領が最も好きなドラマであると公言していた。

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The Wireの何がすごいかというとその徹底したリアリズムである。アメリカのボルティモアという都市を舞台に、5シーズンを通して、警察、ドラックディラー、ボルティモア議会、ブルーカラーワーカー、メディア、人種差別など、犯罪、政治、教育、差別などが複雑に絡み合った社会を描いている。通常の刑事ドラマのような激しい銃撃戦やドラマチックな展開がしょっちゅう起こるわけではなく、地味な警官の仕事をそのまま見せたり、世の中の現状、社会構造を描くことにフォーカスした作品であることで多くの賞賛を浴びた。一応主人公っぽいキャラクターはいるが、彼のストーリーはあくまで各エピソードの一つであり、登場人物と描かれている舞台の全てがアンサンブルキャストといった感じである。そして警察や一般市民が善とは限らず、悪の警察もいればドラックディーラーの中でも善悪が分かれ、世の中に絶対的な正義はないことを見せてくれる。

 

そんな中でもファンから最も愛されたキャラクターがマイケル・K・ウィリアムズが演じたオマー・リトルである。彼はドラックディーラーを襲って現金やドラックを奪ういわゆるStickup Manであり、ボルティモアのストリートから最も恐れられた人物という設定である。オマーは実際に存在したドニー・アンドリューというSitckup Manをモチーフにしている。ボルティモアストリートに彼の名前と伝説が知れ渡っており、オマーがショットガンを持って口笛を吹きながらストリートに現れると、皆が"Omar coming"と叫びながらその場から逃げていくというほど凶悪な存在である。

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本来であれば彼が悪役となってもおかしくないのだが、何故こんな彼の人気が最も高かったかというと、不条理だらけの社会の中で自分の生き様に負い目を感じることなく、また何も罪がない一般人は襲わないという自らのを信念を貫いていたからである。(A man gotta have a code) オマーが狙うのはドラッグディーラーを中心とした犯罪者のみで、何の罪もない一般人、もしくは女性や子供を狙う事は絶対しないのである。

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自ら罪を犯しながら、視聴者の人気者となった点でオマーはいわゆるアンチ・ヒーローの先駆けの一人と言えるだろう。アンチヒーローといえば、ドラマではThe Wireのちょっと前にザ・ソプラノズがこのジャンルを広め、その後マッド・マンのダン・ドレーパーやブレイキング・バッドのウォルター・ホワイトなどに繋がっていく。

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マフィアのボスが主人公というこれまでにないドラマの形を作ったザ・ソプラノズ

オマーはストリートの絶対的な強者であり、誰もが怯える冷酷さと、信念を貫くかっこよさを兼ね備えた人物であったのだが、それ以上にモラルとは何か、正義を訴える人は偽善者なのか、人によっては悪者が他の人には救世主となるといった、The Wireが教えてくれる世の中の複雑さを体現した存在であった。そこが彼のアメリカドラマ史上におけるステータスを押し上げた要因の1つと言える。オマーの有名なセリフの中に、ドラックディーラーを弁護するが、彼らに強盗しかけるオマーは極悪人だと主張する弁護士に向かって、"I got a shotgun. You got a briefcase"と言って、手段が違うだけでやっていることはどっちも同じと主張したものがあるが、まさにこのドラマのメッセージを象徴するシーンである。

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それ以上に大きなインパクトがあったのが、この誰もが恐れるギャングが黒人のゲイという設定である。それまでのドラマにおけるゲイのキャラクターはコメディー要素が強く、ギャグのネタとなったり、主人公の面白い友達といった扱いを受けることが多かった。また、ヒップホップやマッチョカルチャー、キリスト教の影響が強い黒人の間では、ゲイに対する反応が白人以上にネガティブだったりしていた。そしてそもそも白人もいるドラマの中で黒人キャラクターが脚光を浴びることが少なかった当時、そのドラマで最もクールなキャラクターが黒人かつゲイというのはこれまでのステレオタイプを根本から覆す革命的な出来事だったわけである。昔だったらあったキャラクターがなよなよしたり、ゲイであることを強調するシーンやセリフは一切なく、過酷なストリートを生き抜くタフな人物がたまたまゲイであるというスタンスで描かれている。

 

またただゲイという設定だけでなく、外ではタフなオマーは、自分の恋人と一緒いる時はパートナーに隠すことなく愛を伝えており、これまでタブーとされてきたゲイカップルのラブシーンをごく普通にストーリーの流れで入れた点もオマーは時代の先を行っていた。これもまたコメディタッチで描かれやすかったゲイのキャラクターをあくまで社会の中の一人として表現したThe Wireらしい演出である。

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このハードな外面とソフトな内面を持ち合わせていたこともオマーの大きな魅力の1つであり、マイノリティのRepresentationという点でも彼のアメリカンエンターテイメントへの影響は非常に大きいわけである。

 

複雑なキャラクターを見事にまで演じ、その他の作品の演技でも大きなリスペクトを得ていたマイケル・K・ウィリアムズがドラック依存症に悩まされて、早すぎる死を迎えたのは悲しい限りではあるが、彼とオマーのレガシーは今後もしっかりと受け継がれていくだろう。何故なら彼はいつまでもKingなのだから。

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ベン・シモンズとエージェントの力 (そしてレブロン)

どうも。オリンピックも終わり、フリーエージェンシーも一通り落ち着いて、引き続き小さなトランザクションはあるが、NBAはおそらく現在最も1年で静かな時期であると言える。その為、このブログの更新も怠ってしまっていたが、ここにきて面白いニュースが飛び交っている。

 

レイオフ敗退から続くシクサーズのベン・シモンズがチームと上手く行っていないことはオフシーズンずっと報道されてきており、シクサーズGMダリル・モレ―がシモンズのトレードをずっと模索しているが、モレ―が相手チームに対して高すぎるトレードの対価を要求をしていることで、どのチームとも交渉が進んでないとも伝えられていた。プレイオフで散々な結果を残したシモンズの評価は彼がリーグに入って以来最低となっており、彼の代わりにスーパースターを獲得しようとしているシクサーズの要求とギャップができてしまっているのが交渉を難航にしている原因である。No.1ドラフトピックであり、リーグ屈指のディフェンダーでもあり、オールスター、オールNBAにも選出されたプレイヤーではあるが、オフェンス面における様々な制約、勝負所で一切頼りにならないメンタルの弱さといった部分が対ホークスとのプレイオフで特に顕著に表れてしまった彼はスーパースター候補から、スター選手との境目レベルと見なされてしまっているのである。

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レイオフで34%という壊滅的なフリースロー%を記録したのも大きな批判の要因

 

ちなみにシモンズのプレイヤーとしての問題とトレードのシナリオはシクサーズ敗退直後の記事でまとめたのでそちらをご覧頂きたい。

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ということで、オフシーズン中のトレードがなかなか順調に進まなかったのだが、シクサーズが一方的に放出したいのではなく、シモンズ自身もシクサーズを離れたい意思が強いという事は言われていた。シモンズはエンビードやHCのドック・リバースが彼をバックアップしなかったことに不満を持っていると言われていて、チームとの確執が明らかであった。そして、ここにきて急展開となっているのが、各チームのトレーニングキャンプが9月末に始まる中、もしシモンズがこのままトレードされなかったら彼はトレーニングキャンプに来ることを拒否するという報道がされたのである

 

レーニングキャンプに参加しないということは、チームの一員としての行動はしないという意思表示であり、もしこのままシーズンに突入してもプレーするつもりはないということになる。貴重な15人のロスターの中で1人がプレーしないというのはチームにとってダメージであり、そうするとトレードをしなければいけなくなる。然し、チームが絶対その選手をトレードしなければいけないということを他のチームが知っていれば、シクサーズがトレードの対価として要求できるレベルがもっと下がる。何故ならその選手がトレードされると知っていたら、トレード受ける側のチームの発言権が増え、シクサーズが折れる構図に必然的になるからである。

 

チームが不都合ばかりになるこの公でのトレード要求だが、逆に選手にとっては自分をトレードしろというプレッシャーをチームにかけやすくなるので好都合である。ただここで肝になるのは、その選手のレベルである。こういったトレード要求をして実際にトレードが成立するのはスーパースターなのだが、正直シモンズはそこまでのレベルではない。更にこれまでは契約年数が残り1年~2年の場合の要求がほとんどだったの対して、(10年以上前はそれすらほとんどなく、契約が切れる直前だったが) シモンズはまだ4年も契約年数が残っているというのだからたちが悪い。

 

レーニングキャンプへの参加を拒否するという観点だけ見ると、昨年のジェームズ・ハーデンを思い出すが、彼はリーグトップ10に入る選手かつ契約年数も残り2年ということで、ハーデンの愚行の数々の中でトレードバリューが下がりながらも、ある程度交渉先が見つかりやすかったという背景はある。ハーデンが行った行為はもっと批判されるべきであったと個人的には思っているが、結果的にはハーデンが希望したネッツへの移籍が実現している。ハーデンの移籍ドラマについては下記の記事をお読み頂きたい。

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何を言いたいかというと、今回は、選手の評価が一番下がった状態で、その選手がトレードを要求し、まだ25歳で契約年数が4年残っているということで、過去に例を見ない状況な訳である。(シモンズも素晴らしい選手であることに変わりはないが)

 

ここでもう1つ注目すべきが、シモンズのエージェントであるKlutch Sportsとその代表のリッチ・ポールである。ご存じの方も多いと思うが、海外スポーツでは選手の代わりにエージェントがチームとの契約交渉をするが、最近はエージェントの力が非常に強まっているのが特徴である。何人もの選手を抱えるエージェントは、もし自分達と交渉チームが仲悪くなったり、馬が合わなかったりしたら、自分の抱えるスーパースターとは契約させないよという強行手段に出ることができる。選手の力が強まってきた2000年代に入るのに比例して、エージェントも力を増した感じである。

(NBAのプレイヤーパワームーブメントはこちらの記事をご参照)

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強まるエージェントの影響力を体現したのが、Klutch Sportsとリッチ・ポールなわけである。レブロンの親友としての立場を上手く利用し、スポーツエージェントで有名なCAA時代からレブロンのエージェントとして立場を強めてきたポールは2012年にKltuch Sportsを創業する。ポールはレブロンがリーグに入る1年前に知り合いとなり、レブロンが2003年に入団後は、エージェント経験があったわけではない中、彼の契約交渉と担当するようになる。その後レブロンがプレーヤーとして絶対的な権力を持っていく中で、その親友であるポールは特にジェームズの所属するチームに対して強硬手段を取ることができるようになる。

 

例えば、ジェームズが2015年にクリーブランドにいたときは、クライアントであるトリスタン・トンプソンの契約交渉の金額が大分もつれ、ポールが求める金額をキャブスが出すように頑固としてキャブスのオファーを拒否した。トンプソンがジェームスの信頼するチームメイトであるということを餌に、トンプソンと契約しなければレブロンを怒らせるという言い方ができたわけである。結局キャブスが折れて、トンプソンはMAX契約を結ぶこととなる。

 

ポールの強引な交渉術の最たる例が、2019年のアンソニーデイビスのトレードである。ペリカンズでフラストレーションを溜めていたデイビスは、 (ペリカンズのチーム体制に不満が溜まることは十分理解できる) 契約年数が残り2年となった2018-2019シーズンの前にKlutchと契約を結ぶ。この時点で不満のあるスター選手を強豪チームにトレードさせるという評判が既にあったKlutchにジョインしたことでデイビスがトレードを要求するのではないかという噂が高まった。また同時にこのシーズンはレブロンレイカーズに移籍した年で、レブロンは自分以外にスター選手がいないチームでは優勝は狙えないということは移籍前から気づいていた為、どの選手をどのように獲得するかをポールと模索し始める。そこで目を付けたのがデイビスであった。ポールはデイビスに移籍を促すだけでなく、トレード先はレイカーズのみと指定した。デイビスについては、ボストンが以前から獲得に躍起になっていたし、ニューヨークも獲得を検討してより良いオファーができたのだが、ポールがレイカーズ以外とはトレードされてもデイビスは延長契約をしないと脅した為に、他チームがしり込みしてしまった。初めのうちは比較的強気だったペリカンズ側も、デイビスがトレードされるまではプレーを拒否し続けたことで状況がどんどん悪化し、動かざるおえなくなった。結局レイカーズが大量のドラフトピックをオファーした為、トレードが成立し、晴れてデイビスレイカーズに連れてくるというレブロンとの共謀を達成したポールによって、レブロンデイビスはコンビ結成1年目で優勝を成し遂げた。個人的には1人のプレーヤーの為にリーグのバランスを崩す強行トレードのやり方は好きではないが、少なくともレブロンがプレーしている限りはポールの権力とリーグへの影響力は安泰であろう。

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このデイビスで上手くいったやり方を今度はベン・シモンズに適用しているわけであるが、シモンズが希望する強豪チームへ移籍できる可能性は上記の通り難しいし、長期戦となるのではないかと思う。そうなるとどんどんとシクサーズへのプレッシャーは高まり、メディアの報道も過熱するだろう。しかも全米の中でもニューヨークに次いで辛辣かつ感情的なメディアとファンを持つフィラデルフィアでこのドラマが繰り広げられるなると非常に醜い戦いとなる事も考えらえる。既にシモンズとエンビードの不仲の報道がされ、エンビードが火消しに入ったりしているが、シモンズとチームメイト、コーチ陣の間にできた溝の修復は難しくこういった報道はどんどん増えていきそうだ。

 

ちなみに、ブルズで契約交渉が進んでないザック・ラビーンがつい先日Kltuch Sportsと契約した。ラビーンがトレードを申し出ることも十分考えられるこちらの状況も今後注目していきたい。

Malice at the Palaceドキュメンタリー <変化するプレイヤーとファンのダイナミック>

どうも。オリンピックも終わり無事アメリカが金メダルを獲得したが、デゥラントが他のスターと比べても一枚も二枚も上手であることを証明する大会でもあった。困った時は常にデゥラントが何かしらの形で得点しており、イヤニスに傾きかけていたNBAのベストプレーヤーの称号を取り戻した感じである。一方、リラードは意外とオリンピックに向いていないということも明らかになってしまった。3ポイントラインがNBAよりも短いことで、彼が得意のロングレンジショットによるスペーシングの効果が薄れ、更にNBAよりフィジカルコンタクトが許されるFIBAルールではファールが取られづらいのもDameが活躍しきれなかった理由であろう。

 

そして今はサマーリーグが熱く、各チームの若手から、ブランドン・ナイトやケネット・フリードといった昔活躍したベテランまで様々選手が見られるのが面白い。特に今年のドラフト1位~5位にセレクトされた全ての選手がいい感じにプレーしており、それぞれがポテンシャルを開花させる可能性がある稀なドラフトになる可能性があるので、今シーズンが今から楽しみである。

 

オリンピックやサマーリーグ、フリーエージェンシーなど色々と忙しいところではあるが、今回は2004-2005シーズンに起こった有名なMalice at Palaceについてフォーカスしてみたい。というのも当時インディアナ・ペイサーズのエースだったジャメイン・オニールがエグゼクティブプロデゥーサーとして作成したドキュメンタリーが8/13にネットフリックスでストリーミング開始となったからである。このドキュメンタリーは今まで多く語られてこなかった当時の選手の観点からのインタビューがまとめられているのが興味深い。

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この「事件」について知らない方に向けておさらいすると、2004年シーズン初頭の11/19にピストンズのホームのPalaceアリーナで、デトロイト・ピストンズインディアナ・ペイサーズの試合が行われた。この2チームは前年のイースタンカンファレンスファイナルで対決しており、2004-2005シーズンもイーストのトップ2チームと言われていたライバル関係があった。試合自体はペイサーズが圧倒し、残り45.9秒で97-82とペイサーズの勝利がもう決まっていたところ、ペイサーズのロン・アーティスト (メタ・ワールドピース) がピストンズベン・ウォーレスにハード・ファールをして、それに怒ったウォーレスがアーティストを押して両チームの乱闘騒ぎとなったところから始まる。

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乱闘自体は収まりかけ、アーティストが自分を落ち着かせようとスコアボードに寝っころがっていたところ、ピストンズのファンが飲み物の入ったカップをアーティストに向かって投げ、それが彼に当たったところで事態が急変する。(観客席の上からアーティストに当てるショットの正確性には驚きだが、、、) スイッチが入ったアーティストは観客席に走り出し、観客を殴り始め(勘違いして犯人の隣に立っていた人を殴り始めちゃったのだが)、アーティストを擁護しようとペイサーズのスティーブン・ジャクションやその他選手も観客席に入り大乱闘となった。フーリガン化したピストンズファンがコートに入ってきてペイサーズ選手に喧嘩をしかけたり、ペイサーズ選手がロッカールームに避難しようとするところで、ファンが飲み物、ポップコーン、しまいには椅子を投げつけようとするなどNBA史上最もひどい乱闘騒ぎとなったのである。

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この乱闘に対してメディアはこぞってプレイヤーを責め立て、それを受けてNBAは主犯のアーティストを残りのシーズン欠場、ジャクソンは30試合のペナルティ、オニールも25試合(のちに15試合にカット)の欠場を強いられた。上述の通りリーグトップの実力を持っていたペイサーズの優勝の可能性はここで絶たれ、結局プレイオフ2回戦で奇しくもピストンズに敗退する。更にペイサーズ一筋18年で優勝経験のなかったレジ―・ミラーの最後のチャンスとなるはずだったシーズンがこの制裁により台無しになってしまった。

 

この乱闘騒ぎに関わった選手には様々なストーリーがあった。アーティストはもともと精神的に荒れた選手と言われていたが、実はメンタルヘルスの問題をリーグ入団時から抱えていて感情をコントロールするのが苦手だったことが後にわかる。また、ファールを受けたウォーレスも兄弟を亡くしたばかりで感情的になっていたこと、気性は荒いがチーム思いのジャクソン、スーパースターとなりつつあったオニールはこのシーズンの後ケガもあり下降線を辿ってしまうなど、非常に多くのドラマがある。ただここでは、ファンとプレイヤーの関係、そしてメディアの報道の仕方について焦点を当てて考えたい。

 

1) メディアの報道の仕方と世間の反応

Malice at the Palaceにおいて大きな問題の1つがメディアの報道の仕方と世論の扇動である。乱闘が起こった直後のESPNのリアクションではファンに批判的な言い方も多かったのだが、翌日には一気にプレイヤーが一方的に悪者扱いされるようになる。

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確かにプレイヤーが観客席に乗り込むことはタブーとされており、アーティストのリアクションが正しかった訳ではないし褒められるべきでもない。但し、そもそも沈静化した選手同士の乱闘をファンとのやり合いに悪化させたのもファンだし、アーティストがスタンドに行った以降に自体を悪くさせた責任もファンにある。そして、すぐに動かなかったセキュリティ、選手ではなくファンを守ろうとした警察も同罪である。選手の数は10人に対して、2万近くいる観客を相手にしているわけで、ファンが物を投げたり喧嘩を売っているの対してプレイヤーは完全に劣勢である。こうなった場合、プレイヤー達が自己防衛のために戦う必要があるのは当たり前ではないかと思う。

 

然し、事が非常に大きくなり、スポーツニュースだけでなく、一般のニュースも報じるようになったことで選手攻撃が始まってしまう。この時に見逃してはいけないのが、私の記事で以前から指摘している白人対黒人の構造と黒人に対する報道の仕方である。

 

NBAの試合の観客席は決して安くない。その席を購入できる多くは白人である。そして、この乱闘で騒ぎを起こしたファンの大半が白人である。一方ファンと取っ組み合いをしたペイサーズの選手は全員黒人である。この時点で体が大きく怖い黒人に対して白人が戦っているという幻想ができる。それだけで世論はファンに傾むくのだが、メディアも白人を守るような報道の仕方をする。そもそも当時のテレビに出てくるコメンテイターの多くが白人であることもあり、黒人が荒れている、彼らはギャングスターだ、Thug (犯罪者、暴力者のような意味) だという言葉を使って批判した。そして勝手に90年代に台頭したヒップホップの影響によって黒人は暴力的になっていると決めつけ、社会に悪をもたらすかのように伝えたのである。これが白人対白人だったらどうなるだろうか。アイスホッケーがいい例で、ホッケーでは頻繁に選手同士の乱闘が起こるが、誰も彼らのことをThugとは呼ばない。むしろ乱闘起こしている選手達をタフだ、ハードだと賞賛する傾向すらある。それが黒人 vs. 白人になった瞬間、黒人の怒りをコントロールしなければいけない、NBAは犯罪者の集まりだとなる。この構造はBlack Lives Matterへの批判にもつながると言える。白人の秩序を脅かす黒人という勝手なイメージとメディアの伝え方がリーグと選手を追い詰めたのである。

 

2) NBAの対応

世論のプレッシャーがあった中、NBAに取った措置は選手を裏切るものだった。ジョーダンが引退して人気が落ちていたNBAは更なるイメージダウンを避けるために、先述の選手への罰則だけでなく、彼らがインタビューで乱闘の件を発言することも禁じた。つまりリーグは選手ではなくファンの肩を持ったことになる。当時のペイサーズの選手としてはこの決断と方向性に納得はいかなかっただろう。更に、リーグ全体にドレスコードという試合時は基本的にスーツを着なければいけないルールを課したり、コートで乱闘騒ぎが起きたときにベンチの選手がベンチを離れたら出場停止というルールを作った。特にドレスコードは選手の表現の自由を規制する為、多くの批判もあったが、NBAネガティブキャンペーンを払拭する為に、とにかくクリーンなイメージを作る事に必死だった。こに当時のコミッショナーが暴君のデイビット・スターンであったことは大きい。スターンはリーグをグローバル化させて、現在の繁栄を気づいた最大の立役者であることには間違いないが、非常に高圧的で独裁者のような存在でもあった。諸々のペナルティやルールについても彼の独断で決められており、白人のコミッショナーが黒人選手に有無を言わさず従わせるという構造もできていた。その後レブロンやカリーといったファミリー第一のクリーンな選手がリーグを代表する存在となったことで、NBAが必然的に受け入れられやすくなったのも幸運であった。

 

3) ファンの態度と意識

先程から記載しているように観客が有利になるような報道や対応がされたわけであるが、これに白人対黒人の意識があるのはもちろんだが、根本にはファンであれば何をしても許されるという風潮があったことも大きい。これについてはNBAに限った話ではなく、ヨーロッパサッカーでは更にひどいが、お金を払って見に来ているファンはどんな酷いことを言っても、どんな悪態をついても許されていた感がある。

 

今回のドキュメンタリーでも取り上げられているが、カップを投げたくそ男も、アーティストに食ってかかろうとコートに降りてきたアホ男も、自分にはその権利があると思っていたわけである。そして選手がそれに反応して対抗してきても自分には非はないのだという特権意識、選手たちを訴えてお金を巻き取ればいいというつもりでいたのだろう。(司法のあり方の問題も大きい) これは今年の1月6日にトランプサポーターが議会を襲撃したテロも似たような現象であり、これまで社会に守られたきた白人の一部は自分の取った行動の重大さに気づかず、自分が処罰されるなんて想像もしていなかった訳である。

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そしてスポーツという枠組みの中でファンという立場にいることが、なぜか彼らに心理的パワー与え、選手に向かってカップを投げたり、暴言を吐いたり、つばをかけたり、飲み物をかけたりするのである。(これは人種に関係なく日本でもあるが) もしその選手に街中であったら、絶対に喧嘩を売るような行為はしないはずなのにである。(なので彼らはただの負け犬である)

 

こういった行為が以前までは批判の対象になることが少なかったのだが、最近は世論が変わってきている。今年のプレイオフでもトレイ・ヤングが唾をかけられたり、ウエストブルックがポップコーンを投げられたり、カイリーにペットボトルが投げらたりとファンの行動は変わってないのだが、それに対するリアクションがリーグも含めて大きく違う。今上げた3つの事例のファンは全てアリーナ永久追放になった上、TwitterなどのSNSで顔出しで笑いものにされるようになった。もちろん顔が出ることによって目立つことができるので、故意的に選手を困らせる迷惑YouTuberタイプも増えてくることは十分に考えられるが、少なくともそれに対する処罰と、プレイヤーを守ろうという風潮が強くなっていることは確かであり、ファンの優位意識が剥奪されることはいい事だと考えている。

 

今回のドキュメンタリーは改めて観客の愚行と傍若無人さ、メディアのバイアス、スポーツと黒人差別の関連性など様々な問題を浮き彫りにしてくれており、17年前の出来事だが、現在でも非常に関係のある内容となっている。是非一度見て頂きたい。