ディープなNBA・バスケトーク+アメリカ文化

NBAとアメリカンカルチャー中心のブログ

ベン・シモンズとエージェントの力 (そしてレブロン)

どうも。オリンピックも終わり、フリーエージェンシーも一通り落ち着いて、引き続き小さなトランザクションはあるが、NBAはおそらく現在最も1年で静かな時期であると言える。その為、このブログの更新も怠ってしまっていたが、ここにきて面白いニュースが飛び交っている。

 

レイオフ敗退から続くシクサーズのベン・シモンズがチームと上手く行っていないことはオフシーズンずっと報道されてきており、シクサーズGMダリル・モレ―がシモンズのトレードをずっと模索しているが、モレ―が相手チームに対して高すぎるトレードの対価を要求をしていることで、どのチームとも交渉が進んでないとも伝えられていた。プレイオフで散々な結果を残したシモンズの評価は彼がリーグに入って以来最低となっており、彼の代わりにスーパースターを獲得しようとしているシクサーズの要求とギャップができてしまっているのが交渉を難航にしている原因である。No.1ドラフトピックであり、リーグ屈指のディフェンダーでもあり、オールスター、オールNBAにも選出されたプレイヤーではあるが、オフェンス面における様々な制約、勝負所で一切頼りにならないメンタルの弱さといった部分が対ホークスとのプレイオフで特に顕著に表れてしまった彼はスーパースター候補から、スター選手との境目レベルと見なされてしまっているのである。

f:id:atsukobe:20210906002736j:plain

レイオフで34%という壊滅的なフリースロー%を記録したのも大きな批判の要因

 

ちなみにシモンズのプレイヤーとしての問題とトレードのシナリオはシクサーズ敗退直後の記事でまとめたのでそちらをご覧頂きたい。

atsukobe.hatenablog.com

 

ということで、オフシーズン中のトレードがなかなか順調に進まなかったのだが、シクサーズが一方的に放出したいのではなく、シモンズ自身もシクサーズを離れたい意思が強いという事は言われていた。シモンズはエンビードやHCのドック・リバースが彼をバックアップしなかったことに不満を持っていると言われていて、チームとの確執が明らかであった。そして、ここにきて急展開となっているのが、各チームのトレーニングキャンプが9月末に始まる中、もしシモンズがこのままトレードされなかったら彼はトレーニングキャンプに来ることを拒否するという報道がされたのである

 

レーニングキャンプに参加しないということは、チームの一員としての行動はしないという意思表示であり、もしこのままシーズンに突入してもプレーするつもりはないということになる。貴重な15人のロスターの中で1人がプレーしないというのはチームにとってダメージであり、そうするとトレードをしなければいけなくなる。然し、チームが絶対その選手をトレードしなければいけないということを他のチームが知っていれば、シクサーズがトレードの対価として要求できるレベルがもっと下がる。何故ならその選手がトレードされると知っていたら、トレード受ける側のチームの発言権が増え、シクサーズが折れる構図に必然的になるからである。

 

チームが不都合ばかりになるこの公でのトレード要求だが、逆に選手にとっては自分をトレードしろというプレッシャーをチームにかけやすくなるので好都合である。ただここで肝になるのは、その選手のレベルである。こういったトレード要求をして実際にトレードが成立するのはスーパースターなのだが、正直シモンズはそこまでのレベルではない。更にこれまでは契約年数が残り1年~2年の場合の要求がほとんどだったの対して、(10年以上前はそれすらほとんどなく、契約が切れる直前だったが) シモンズはまだ4年も契約年数が残っているというのだからたちが悪い。

 

レーニングキャンプへの参加を拒否するという観点だけ見ると、昨年のジェームズ・ハーデンを思い出すが、彼はリーグトップ10に入る選手かつ契約年数も残り2年ということで、ハーデンの愚行の数々の中でトレードバリューが下がりながらも、ある程度交渉先が見つかりやすかったという背景はある。ハーデンが行った行為はもっと批判されるべきであったと個人的には思っているが、結果的にはハーデンが希望したネッツへの移籍が実現している。ハーデンの移籍ドラマについては下記の記事をお読み頂きたい。

atsukobe.hatenablog.com

何を言いたいかというと、今回は、選手の評価が一番下がった状態で、その選手がトレードを要求し、まだ25歳で契約年数が4年残っているということで、過去に例を見ない状況な訳である。(シモンズも素晴らしい選手であることに変わりはないが)

 

ここでもう1つ注目すべきが、シモンズのエージェントであるKlutch Sportsとその代表のリッチ・ポールである。ご存じの方も多いと思うが、海外スポーツでは選手の代わりにエージェントがチームとの契約交渉をするが、最近はエージェントの力が非常に強まっているのが特徴である。何人もの選手を抱えるエージェントは、もし自分達と交渉チームが仲悪くなったり、馬が合わなかったりしたら、自分の抱えるスーパースターとは契約させないよという強行手段に出ることができる。選手の力が強まってきた2000年代に入るのに比例して、エージェントも力を増した感じである。

(NBAのプレイヤーパワームーブメントはこちらの記事をご参照)

atsukobe.hatenablog.com

 

強まるエージェントの影響力を体現したのが、Klutch Sportsとリッチ・ポールなわけである。レブロンの親友としての立場を上手く利用し、スポーツエージェントで有名なCAA時代からレブロンのエージェントとして立場を強めてきたポールは2012年にKltuch Sportsを創業する。ポールはレブロンがリーグに入る1年前に知り合いとなり、レブロンが2003年に入団後は、エージェント経験があったわけではない中、彼の契約交渉と担当するようになる。その後レブロンがプレーヤーとして絶対的な権力を持っていく中で、その親友であるポールは特にジェームズの所属するチームに対して強硬手段を取ることができるようになる。

 

例えば、ジェームズが2015年にクリーブランドにいたときは、クライアントであるトリスタン・トンプソンの契約交渉の金額が大分もつれ、ポールが求める金額をキャブスが出すように頑固としてキャブスのオファーを拒否した。トンプソンがジェームスの信頼するチームメイトであるということを餌に、トンプソンと契約しなければレブロンを怒らせるという言い方ができたわけである。結局キャブスが折れて、トンプソンはMAX契約を結ぶこととなる。

 

ポールの強引な交渉術の最たる例が、2019年のアンソニーデイビスのトレードである。ペリカンズでフラストレーションを溜めていたデイビスは、 (ペリカンズのチーム体制に不満が溜まることは十分理解できる) 契約年数が残り2年となった2018-2019シーズンの前にKlutchと契約を結ぶ。この時点で不満のあるスター選手を強豪チームにトレードさせるという評判が既にあったKlutchにジョインしたことでデイビスがトレードを要求するのではないかという噂が高まった。また同時にこのシーズンはレブロンレイカーズに移籍した年で、レブロンは自分以外にスター選手がいないチームでは優勝は狙えないということは移籍前から気づいていた為、どの選手をどのように獲得するかをポールと模索し始める。そこで目を付けたのがデイビスであった。ポールはデイビスに移籍を促すだけでなく、トレード先はレイカーズのみと指定した。デイビスについては、ボストンが以前から獲得に躍起になっていたし、ニューヨークも獲得を検討してより良いオファーができたのだが、ポールがレイカーズ以外とはトレードされてもデイビスは延長契約をしないと脅した為に、他チームがしり込みしてしまった。初めのうちは比較的強気だったペリカンズ側も、デイビスがトレードされるまではプレーを拒否し続けたことで状況がどんどん悪化し、動かざるおえなくなった。結局レイカーズが大量のドラフトピックをオファーした為、トレードが成立し、晴れてデイビスレイカーズに連れてくるというレブロンとの共謀を達成したポールによって、レブロンデイビスはコンビ結成1年目で優勝を成し遂げた。個人的には1人のプレーヤーの為にリーグのバランスを崩す強行トレードのやり方は好きではないが、少なくともレブロンがプレーしている限りはポールの権力とリーグへの影響力は安泰であろう。

f:id:atsukobe:20210906003009j:plain

 

このデイビスで上手くいったやり方を今度はベン・シモンズに適用しているわけであるが、シモンズが希望する強豪チームへ移籍できる可能性は上記の通り難しいし、長期戦となるのではないかと思う。そうなるとどんどんとシクサーズへのプレッシャーは高まり、メディアの報道も過熱するだろう。しかも全米の中でもニューヨークに次いで辛辣かつ感情的なメディアとファンを持つフィラデルフィアでこのドラマが繰り広げられるなると非常に醜い戦いとなる事も考えらえる。既にシモンズとエンビードの不仲の報道がされ、エンビードが火消しに入ったりしているが、シモンズとチームメイト、コーチ陣の間にできた溝の修復は難しくこういった報道はどんどん増えていきそうだ。

 

ちなみに、ブルズで契約交渉が進んでないザック・ラビーンがつい先日Kltuch Sportsと契約した。ラビーンがトレードを申し出ることも十分考えられるこちらの状況も今後注目していきたい。