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オールNBAチームとマーベリックスの失望

どうも、レギュラーシーズンもとうとう終了し、いよいよ今週からプレイオフがはじまる。プレイインの行方、プレイオフマッチアップも気になるところだが、加えてシーズンアワードをどうするべきか、またプレイオフを逃したチームの再建プランなど話題には事欠かない。

 

MVPについては前回の記事でエンビードがなるのではないかと書いたが、その後数週間若干チームもアップダウンがあったこともあり、ヤニスとヨキッチにもチャンスがあるのではと一瞬思われた。しかし、シーズン終盤で強豪ボストン相手に52得点を記録したことでエンビードがMVPをほぼ手中に収めたといってもよさそうである。

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- All NBA Team -

一方オールNBAチームについては、特にガードポジションの選手層が厚すぎて、選出が非常に難しくなってきており、MVP同様に大きな議論を呼びそう。ここで完全に主観でチームを選んでみたい。

 

<1st Team>

C: ジョエル・エンビード

F: ヤニス・アデトクンボ

F: ジェイソン・テイタム

G: シェイ・ギルジャス=アレクサンダー

G: ドノバン・ミッチェル

 

<2nd Team>

C: 二コラ・ヨキッチ

F: ジェイレン・ブラウン

F: ジュリアス・ランドル

G: ジャ・モラント

G: ルカ・ドンチッチ

 

<3rd Team>

C: ドマンタス・サボニス

F: ジミー・バトラー

F: レブロン・ジェームズ

G: ステファン・カリー

G: ディアロン・フォックス

 

All NBAは未だにポジションの指定があるので、エンビードをMVPとするなら同じセンターのヨキッチが自動的にセカンドチームになってしまうことが残念だが仕方ない。(来年以降はポジションレスになる予定である) MVP投票で3位、4位となるであろうヤニスとテイタムは異論なくファーストチームフォワードに入るだろう。

ガードが一番難しいところで個人成績やチーム成績、出場試合数など考えるとかなり悩みどこである。総合的に判断するとチームの絶対的エースとし再建チームのサンダーを引っ張ったSGA、昨年から飛躍しリーグトップクラスのチームのエースとして引っ張ったミッチェルを選んだ。

 

2ndチームのガードはどちらもいわくつきで、後述の失望度高いチームNo.1のマブスのドンチッチ、以前に記事にも書いた通りオフコートで警察沙汰を起こしたモラントを選らんだ。正直どちらもサードチームでも良かったが、ルカは圧倒的な個人成績、モラントはウエスト2位のチームのエースである点を考慮した。

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フォワードについても悩んだが、個人的にはプレイインに参加するチーム所属の場合は相当個人成績が良くないと選ばないとしているので、セルティックスのブラウン、ニックスからランドルを選んだ。彼らがTop10プレイヤーであるかというとそうではないが、どちらもイーストの強豪でチームのNo.1 or No.2であることが大きかった。

 

3rdチームセンターとガードは今年超久しぶりにプレイオフ進出を決めたチームの二大エースである、サボニスとフォックスを選出。もう1つのガードは、ジェームズ•ハーデン、デイミアン•リラード、ダリアス•ガーランド、ドリュー•ホリデー、ジェイレン•ブロンソンなど早々たる顔ぶれが揃ったが、出場試合数は少なめながら個人成績とチームへの貢献度合でカリーとした。

同様に未だにリーグトップレベルの実力を持つレブロンも試合数は少ないが、総合的に判断してサードチームに食い込んだ。個人成績とチームへの貢献度で言えばセカンドチームでもおかしくなかったバトラーは、ヒートが第7シードとなったことでサードチームに格下げした。

 

こうして考えるとオールNBAチームの選出がいぁに難しいかわかるが、一番の驚きはシーズン通してリーグMVPのトップ5になりそうだったドンチッチがセカンドチームとなったことである。その理由は何よりダラス•マーベリックスのお粗末なシーズンの終わり方に他ならない。

 

- 順風満帆な昨シーズン -

昨年マーベリックスは、ルカがリーグに入って以来初めてプレイオフのファーストラウンドを突破したと思ったら、カンファレンスファイナルで第1シードのサンズを木っ端みじんにして、カンファレンスファイナル進出と非常に明るい未来が感じられたシーズンの終わり方をした。ネッツとバックスでHCとして微妙な実績だったジェイソン・キッドマブスのHCになったことで懐疑的な目も強かったが(私含めて)、ルカというディフェンスの穴がいながらリーグトップレベルのディフェンスを築き、オフェンスはルカを絶対的な存在として使いながら、周りにある程度のレベルのシューターを配置しつつ、ジェイレン・ブロンソンやスペンサー・ディンウィディが第2のスコアラーとして彼をサポートしていた。

 

その前に2年連続ファーストラウンドでクリッパーズに敗退しながら、圧倒的な数字を残していたルカが、23歳にしてカンファレンスファイナルまで進出したことで、レブロンのように個人としてもチームとしてもリーグのトップに君臨する日が近づいたと思われた。

 

- なぜ歯車が狂ったか -

<チームロスター>

今年の問題として、まず第一に昨年のNo.2プレイヤーだったブロンソンがいなくなったのが大きい。数々の報道によると、ブロンソン自体はマブスに残りたいと考えていたが、プレイオフで大活躍することを予測してなかったマブス側はその前にオファーをなかなか提示せずに、オフシーズンの時点では交渉金額が跳ね上がってしまったことでマブスが更に難色を示したと言われている。結局ブロンソンは自分の父親がスタッフにいるニックスに移籍し、マブスは何もアセットの見返りがなくルカの次に大事な選手を失うことになる。その後ブロンソンのニックスでの大活躍は皆さんご存じの通りである。

ニックス復活の立役者のブロンソン

ブロンソンがいなくなったことに対して、各チームで問題児となりがちなクリスチャン・ウッド以外補強をしなかったマブスロスター完全にドンチッチ頼みとなる。そのおかげもあってか、彼は今シーズンキャリアハイの得点を上げたが、どうしてもサポート人が弱く、勝利に結びつかないケースも多かった。

 

<チームディフェンス>

昨年の快進撃の大きな理由の1つがリーグトップクラスのデイフェンスだったのだが、今年はそれが一気に退化したこともマブスが苦しんだ要因である。昨年リーグ6位だったDefensive Ratingは今年になってリーグ下位レベルの24位まで落ち込み、マブス相手ならどのチームでも130点取れる印象すらある。ルカのやる気のないディフェンスは見てられないし、センターとしてディフェンスの要にならなければいない選手がクリスチャン・ウッドでは話にならないということもある。また、チームNo.1ディフェンダーだったドリアン・フェニー・スミスが後述のカイリーのトレードでシーズン中盤に移籍したことも大きい。どんなにいいオフェンスがあっても相手を止められなければ勝ち目がないのがバスケットボールの定説である。(今年のキングスは別だが)

 

また、ジェイソン・キッドは毎度就任の最初のシーズンはそこそこチームが良い成績を残すのだが、途中から一気に求心力がなくなるという特徴ある。最初のネッツでは就任時に5割以上の成績を残したが、ネッツのフロントと折り合いがつかず1年で辞めてしまい、いきなりバックスのHCとなる。当時弱小だったバックスでは。1年目は5割の勝率と良い兆候が出たのだが、そっから負けが重なり、彼の変なコーチングスキームとスタイル、フロントやプレイヤーとの心理合戦は混乱を招き、結局4年で解雇された。マブスについてもバックスの時と同じようにならないかというのが私の予測であり、彼が啓蒙するディフェンスのアイデンティがもうチームに受け入れらなくなったのではないかと疑っている。これが事実であればキッドのHCの座も安泰では全くない。

真面目そうに見えて少々エキセントリックなことで知られるキッド

<カイリーのトレード>

ブロンソンの放出、弱体化したディフェンスもあってか、マブスは5割程度の勝率で推移していく。このままでは昨年の勢いが途絶えてしまうと恐れたフロント陣は博打にでる。ネッツからトレードリクエストしたカイリーの獲得に名乗り出たのである。

 

カイリーは実力は誰もが認めるとこだが、ボストン、ネッツと立て続けにチームケミストリーを乱すことを散々やってきた。今シーズンだけでもユダヤ人を差別的に描写する映画をプロモートしたことでネッツから出場停止処分を受けたり、コンスピラシーセオリーをツイートしたりとニュースに事欠かない。そして、諸々のゴタゴタの後ネッツと落ち着いたと思ったら、トレードデッドライン前に唐突にトレードリクエストを申請し、またリーグを驚かせる。カイリーの凄いところはいつ何をしでかすか分からない予測不能の行動パターンにあろう。

 

然し、その圧倒的な1on1能力はどのスカウトも認めざる負えず、魔法のようなボールハンドリングとフィニッシュ能力から選手達からの指示も厚い。そこで、ブロンソンの穴埋め・スケールアップを図り、カイリーをゲットしたわけだが、その代償としてブロンソンの代わりとして一定の成績を残していたディンウィディー、上述のディフェンスの要であったスミス、加えて将来のドラフトピックをトレードすることになる。ブロンソンをキープさえすればこんなことにならなかった訳でパニックトレードと言えるだろう。

 

カイリーの加入によってオフェンスは強固になったかもしれないが、どちらの選手も力を最大限発揮するにはボールが必要で、特にドンチッチはレブロンやKDよりも圧倒的なボール保持率が高いしアービングがオフェンスをハンドリングしている際にカットするなどをほぼしない為、シナジーが生まれにくい。何よりルカとカイリーの2人がバックコートでは相手オフェンスを止めるすべがなく(ウィングのレジ―・ブロックじゃ心細い)、ペイントで彼らをサポートしてくれる強力なビックマンもいない為、ディフェンスの弱体化が進んでしまった。キッドの戦術も上手く2人を使いこなせておらず(ガードとガードのスクリーンをかけるなど)、特に接戦での敗北が重なるようになる。

 

マブス入団後のカイリーについて、オフコートではこれといった問題は発生しておらず良いチームメイトであるようだが、彼はオフシーズンにFAになる為、ブロンソンと同じようにマブスにとって見返りなくいなくなる可能性は十分にあり得る。ドラフトピックもろくにないマブスはトレードの補強が難しく、FA選手もあまりダラスに来たがらないので、来年以降も苦しい戦いが見込まれる。

 

- ドンチッチにも問題あり -

ここまでの記事の内容を読んで頂ければ、私個人がドンチッチも批判されるべきだと思っていることが伺えただろう。実際チームの支配者である彼にも大きな問題はある。プレイスタイルから、レブロンの後継者と目されており、既にリーグトップ5の選手と認識されているスーパースターがレイオフおろかプレイインすら逃すとはかなりの異常事態なのである。過去にもコービーの2004-2005シーズンのように、スーパースターがプレイオフを逃すこともあったが、アービングという2人目のスーパースターが加わった上でのこの結果はかなりキャリアレジメにおいて痛手である。

 

今シーズン、個人成績だけで言えばリーグ2位、自己最高の32得点をあげたが、昔から指摘されるコンディションの悪さは改善されず、今年は更に一回り太ったようにすら見える。オフェンスが重労働な上にコンディショニングも微妙であれば、ディフェンスでフル回転できるはずもなく、昨シーズン向上したディフェンスへの努力は一気に落ちてしまった感がある。

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ルカのディフェンスへの努力不足は、彼がしょっちゅうレフリーに文句を言っているから、ディフェンスに戻るタイミングを逃すということにも関わってくる。彼はほぼ毎プレーでレフリーにファールだと文句をつけており、正直彼ほどComplainばかりする選手を今まで見たことがないレベルである。彼が文句を言い続けることでディフェンスに戻らなければマブスは4対5で勝負せざる負えないし、他の選手達に負担をかけているのは明らかである。

 

レフリーへの不平不満に付随するが、彼のボディーランゲージもリーダーとしてふさわしいものではなくチームの士気を下げるジェスチャーが多い。コービーやジョーダンも味方選手に厳しかったが、ドンチッチのように常にフラストレーション溜めている様子が見える選手は珍しいし、リーダーが常に不満そうな雰囲気を出していれば、チームメイトもやる気が下がってしまう。試合を見ていてマブスのベンチの活気があまり感じられないのは、ルカの態度が少なからず影響しているはずと考えられる。

 

とはいっても彼もまだ24歳であり、これから本当の全盛期を迎える選手である。肉体的にも精神的にも更に一回り成長し、真の意味でリーグを牽引するようになるのか、そしてマブスは果たしてそれを支えるチームを作ることができるのか、もしくはルカのチームへの不満が高まりトレードをリクエストしてしまうのか、オフシーズンから来シーズンにかけての行方が気になる

ついにエンビードがMVPを取る時が来たのか

どうも。日本ではWBCの優勝で大盛り上がりだったが、NBAはシーズン半ばからMVPレースがヒートアップしまくっており、アメリカのスポーツメディアでは毎日のようにアホみたいな議論がされている。候補となっている選手達はそれぞれかなりハイレベルなプレイでチームを牽引し、誰がとっても文句言えなぐらいなのだが、もう今の時点で自分のMVPはこの人だと決定づけた生産性のない議論がたくさんされている。

 

レギュラーシーズンも残り10試合程度となり、最後まで見届けなければ分からないが、候補者は基本3人に絞られたと言ってもいいだろう。

 

<MVP候補Top3>

その3人とは、昨年のTop3と全く同じで、ジョエル・エンビード、ニコラ・ヨキッチ、ヤニス・アデトクンボである。3人全員ともアメリカ出身でない選手であり、3人全員ビッグマンというすごい組み合わせである。グローバルに広がったリーグの多様化に加えて、数年前のガードの時代から進化型ビッグマンの時代に戻りつつあることを表している。(正確には、元々2000年代半ばぐらいまではビッグマンの時代だったが、2010年過ぎたあたりから急激にガードとウィングが主導権を握り、ここ数年でガードのスキルも持ち合わせたビッグマン達が新しく登場してきた感じである)

 

<3人の特徴>

ヨキッチは身体能力はNBAの平均以下であるが、バスケセンスとIQに加えて史上最高級のパサーであるという特徴があるのに対して、ヤニスは圧倒的な身体能力とフィジカルの強さ、激しい競争心とディフェンスが凄く、エンビードは体の大きさに加えた柔らかなシュートタッチとフットワークで相手を翻弄するオフェンシブマシーンという、3人それぞれスタイルが違うのも面白い

 

また、3人それぞれ自分が今年MVPになるべきだというポイントもそれぞれそろえている。まずヨキッチは圧倒的なオフェンスのEfficiencyを記録しており、(なんとFGが63%、Ture Shootingにいたっては71%と普通のスター選手では信じられない数字) 更に周りの選手を最大限に活かすプレイメイクで、 (センターであるヨキッチが1試合平均10アシストで、リーグ2位のオフェンス)、彼がいなかったらナゲッツは全く機能しないといってもいいぐらいのインパクトの大きさがある。その為アドバンスドスタッツを見るとほぼ全部ヨキッチが他選手を圧倒している。弱点としては、ディフェンスについてはヨキッチは身体能力で補えない部分も多く、頑張っても平均レベルなのとこである。

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一方ヤニスについては、ディフェンスにおけるインパクトで言えばリーグトップレベルであり、オフェンスでもバックスの絶対的中心であることは変わらないのだが、今年は若干効率性に欠ける部分もあり (True Shootingは60%)、FTも65%と最近では一番低くはなっている。また、周りのサポーティングキャストも比較的充実しているところもヤニスにとっては不利に働くだろう。ただバックスはディフェンスでリーグトップクラスであり、シーズン中盤から一気にギアをあげてリーグベストの成績を残しており、リーグベストチームのベストプレイヤーということで票を集める可能性はある。

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そして、エンビードはオフェンスのアドバンススタッツではヨキッチに次ぐレベルであり、毎試合30得点超える活躍を連発して現在得点王となっている。ディフェンスも本気出した時にはペイントの脅威となっている。また、チームも最近絶好調でリーグ勝率でボストンにとうとう追いついてきた。何より、前者の2人は既に2回MVPを受賞しており、ヨキッチであれば3年連続、ヤニスであれば5年目で3回目のMVPということで、2年連続MVP投票2位のエンビードにそろそろトロフィーを渡してあげたいという感情論が増えているのも追い風となっている。

 

と、ここでそれぞれの候補者について更にDeep Diveしたいのだが、実はヨキッチとヤニスのそれぞれの凄さとNBAのトップスターとなるまでの軌跡は以前記事にしているので、今回はエンビードにフォーカスして彼の偉大さをまとめてみたい

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<エンビードのオフェンス>

エンビードが何故MVP候補になっているかというと、まずはそのアンストッパブルなオフェンスである。2メートル13センチに体重は130キロ近くとNBAの中でかなりの大柄な体格でペイントに来るだけでも対処が難しいのに、それを上回る技術がすごい。エンビードはその体の大きさからモダンシャックなどとも呼ばれた時期があったが、シャックのようにパワーと破壊力でペイントを支配する力があるのはどちらかというとヤニスの方であり、エンビードは意外とパワープレーをしてこない。

 

彼のオフェンスについてまず凄いのがそのシュートタッチである。見るからに柔らかいフォームから非常にソフトなリリースをすることができ、特にフリースローラインからちょっと後方のミドルレンジショットの確実性はリーグトップクラスである。ディフェンダーをバックダウンしながら1本足でシュートもできるし、ドリブルからフェイスアップでガードのようなジャンパーも打てる。そしてフェイントからのターンアラウンドショットも難なく決めてしまえるということで、ジャンプショットだけでもバリエーションが非常に豊富である。更に、リーグ入団当初はスリーポイントの確率は30%以下だったが、ここ数年は35%前後を推移しており、アウトサイドからも脅威になりつつある。

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次に注目すべきはフットワークである。エンビード往年のハキーム・オラジュワンと比べられる要素の1つがこれである。ペイントに入ればピボットを使いながらフックショット、ジャンプショット、レイアップと変幻自在であり、特にターンアラウンドジャンパーに持ってくまでのフットワークは目を見張るものがあり、これはビッグマンの中では現役1位、歴代で言ってもオラジュワンやガーネットに匹敵するレベルなのではと思っている。ここまでナチュラルにガードのように動ける選手はほんとに稀である。

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そして彼がスキルとしてこの2年ぐらいで身に着けた大きなポイントがファウルを誘う能力である。センター版ジェームズ・ハーデン(この2人がチームメイトなのだからシクサーズの試合はフリースローが多めである)と言っても過言でなく、シュートすると見せかけてのフェイクから手にファウルを受けたり、体を上手くディフェンダーに自分から当てることでファウルを誘うなど、高度なテクニックを使ったものが多い。これは猪突猛進でディフェンダーに突っ込んでいくことでファウルを受けるヤニスと違うポイントである。その為、時に見ていてイライラすることもあるのだが、レフリーがファウルコールをする以上、彼の誘いに多くのディフェンダーが引っ掛かり、引き続き手を焼くことは間違いない。

 

ファウルの引きの多さは置いておいて、エンビードのオフェンスは視覚的にもアーティスティックであり、そのスキルの高さが分かりやすく画面から伝わるという点でリーグで最もアンストッパブルなオフェンスマシーンという印象を持たれやすい

 

<エンビードのディフェンスと弱点>

エンビードのディンフェンスについては賛否両論があるところで、彼のことをリーグ屈指のリムプロテクターだという意見もあれば、多くのポゼッションで本気を出さない場面もあることでLazyと表現されることもある。実際のところ、彼がディフェンスに集中した際は、リーグ内で最も恐れられるディフェンダーの1人であると思うし、ヘルプディフェンスからのブロックのタイミングや相手のペネトレーションを妨げる力は非常に長けている。運動神経も高い為チェイスダウンブロックもお手の物である。

 

但し、またヤニスとの比較になるが、常に全力投球のヤニスと比べるとどうしても手を抜いていることが多いのは否めない。その時は大体ボールを傍観していて、オフェンスのカットを見逃し、インサイドでレイアップを許してしまう時などである。また、スイッチをしてガードとアウトサイドで1 on 1になることは嫌い、基本ペイントエリアでのディフェンスに限定される点も、リーグ最高級のディフェンダーになりきれていない点である。(とはいってもAll Defensive 2nd Teamには複数回選ばれているのだが)

 

ディフェンスについてはMVP候補3人の中でヤニスが頭一つ抜けており、ヨキッチにいたってはどうしても運動神経の無さから頑張ってもリーグ平均レベルにはなってしまうし、最近は明らかにディフェンスに本気出していない場面も出ている為、エンビードは2人の中間といったところだろう。

 

一方、この2人に確実に劣っているいるのがパスとディフェンスの動きを読んだカウンターである。この分野に関しては史上最高レベルのヨキッチが群を抜くが、ヤニスもこの2,3年でかなりのパススキルを身に着けており、ディフェンスがどう反応してくるかを見据えた上でのプレイが上手い。エンビードについてもかなりレベルアップはしているのだが、未だにダブルチームの裁きには難がある為、ディフェンダーに囲まれた際のターンオーバーは多いし、観客をあっと言わせるパスを繰り出すことはできない。シクサーズにはハーデンというオフェンスの組み立ての要がいる為、そこまでこのスキルは現在求められていないかもしれないが、今後更なる高みを目指す上ではいかに上手くチームメイトをアシストして、的確なパスを出せるかが課題となるだろう、

 

<エンビードがMVPトップ候補となるまで>

エンビードの最大の弱点として挙げられるのがこれまではケガの多さであった。まずはルーキーシーズン前早々にケガをして2シーズン丸々棒に振ってしまう。そして満を持して3年目にして実質のルーキーシーズンとなり、いきなり平均20得点を挙げて大活躍するかと思ったところでまた欠場を余儀なくされ、結局31試合しか出場しなかった。その後はシーズンを棒に振るようなケガはなかったが、出場試合が70試合を超えるシーズンは今まで一度もなかった。その為5年目ぐらいまではエンビード=ケガというイメージはついて回ったが、それでも毎年50試合以上は出ており、ケガに弱いという印象は大分払拭してきた気がする。(とはいえ、プレイオフでも毎年のように何かしらの怪我や体調不良などがあるのでいつも万全とは言い難いが、、、)

 

そんな怪我とのたたかいもあった中、ルーキー時に見せたポテンシャルはどんどんと開花していき、実質3年目のシーズンでは平均27得点を記録し、ゴール下のディフェンスでも評価を得るようになっていく。その後は毎年のように特にオフェンスのスキル向上が凄まじく、上述の様々なオフェンスパターンから得点を量産していくようになる。加えてチームも力をつけていき、ベン・シモンズというNo.2の選手 (当時は) も加わりプレイオフの常連となった。レギュラーシーズンの個人成績としては本当に申し分なく、直近2年ではそれぞれMVP投票2位、昨年は得点王も獲得しており、リーグのTop5プレイヤーのリストでは必ず名前が挙がってくるまでになった。

 

然しレイオフでは中々上手くいかず、2019年のラプターズとのイースタンカンファレンスセミファイナルの第7戦でクワイ・レナードにブザービーターを決められたり、2021年のカンファレンスセミではベン・シモンズのメルトダウンがあり、またも第7戦で格下のホークスに負けたりと未だにカンファレンスファイナルにたどり着けてはいない。エンビード本人もプレイオフでレギュラーシーズンと同等のレベルの成績を残しているかと言うと若干疑問で、実際スタッツは軒並み低下傾向にあるし、何かと突発的なケガをしやすい。(とは言え、チームメイトや運に恵まれず可哀そうな部分もあるが)

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今年で28歳を迎え、まさに全盛期と言える年齢である彼にかかる期待は大きい。今年こそMVPを取って、更にはカンファレンスファイナルまで出場というのが最低限のレベルと目される中、昨年から加入したハーデンとのコンビは大分板についてきたのはプラスである。パサーとしての才能を最大限に使い、身体能力が衰えたが故にNo.2としての立場を受け入れたハーデンとのピックアンドロール/ポップは、リーグで最も強力な武器の1つであり、ハーデンの存在によってエンビードのジャンパーがより活かされている。しかも今まではロールするのがあまり好きでなかったエンビードが積極的にバスケットに向かっているのをみても、このコンビが機能していることが分かる。

 

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これまでいなかった優秀なNo.2ができたこともあり、このまま残り試合も順調に勝ち星を重ね続け、リーグトップ3の勝率で終えれば、メディアの同情票も相まってエンビードのMVPは確実なものになっていくのではないかと思う。一方プレイオフへ向けて全てが明るいというわけではない。ハーデンはプレイオフ黒歴史が諸々あるし、HCのドック・リバースのここ最近のプレイオフでの手腕もかなりクエスチョンマークがつくところではある。更にイーストはバックスとセルティックスという2大強豪が君臨しており、エンビードシクサーズにとっては今年のプレイオフも高い壁が待っている。そういったハードルも超えて、これまでの屈辱を晴らし、あわよくばファイナルに進出して、MVP獲得と共に2022-2023年シーズンはエンビードの年だったと言えるようになるのか今後の彼の活躍が見物である。

 

ジャ・モラントと早すぎる富と名声の代償

どうも。NBAも残り1か月でプレイオフになってしまうのかと思うとほんとあっという間である。日本ではWBCで野球が大盛り上がりだが、NBAも話題に事欠かない。特にここ最近で一番大きなニュースとなったジャ・モラントの一連のメルトダウンについて触れてみたい。リーグで最も人気のあるスーパースターの一人かつ、優勝争いにも加われるレベルのチームのエースが個人的な理由でシーズン終盤にチームからサスペンドされるというのは前代未聞だからこそ、このニュースは非常にショッキングなものであった。

 

<モラントが関与したと言われるここ半年の事件>

ここで改めてモラントと彼の取り巻きが絡んだとされる事象を振り返ってみよう。諸々明るみになったのはこの1か月程度だが、時系列で見てみたいと思う。

1. 2022年7月16日:モール内でモラントの母親とセキュリティガードが言い争いにになり、連絡を受けたモラントとその取り巻き9人程度がセキュリティを脅し、セキュリティが警察に連絡。

2. 2022年7月22日: モラントの自宅で地元の子供たちを招いてピックアップゲームをしていたところ、17歳の青年と言い争いになりモラントが彼を10回以上パンチした。この青年も暴言を吐いたとされているが、モラントは更に自宅から銃を持ってきて青年を脅したとされている。

3. 2023年1月29日: インディアナ・ペイサーズとの試合後、モラントと取り巻きの乗る車からペイサーズのスタッフに対してレーザーのようなものが当てられたと報道される。NBAが調査し、危険性はなかったとされるが、その時にも銃を見せびらかしていたともされている。

 

こうして一連の流れが3月初めに報道されるようになり、モラントと彼の取り巻きの暴力的な性質や銃に対する強い興味が明るみに出始めたところで、モラント自身が非常に浅はかな行動に出る。なんとInstagram Liveでストリップクラブにいる様子を撮影し、その際一瞬銃を見せびらかす行為をしたのである。

 

スポーツ界におけるスーパースターである存在が誰もが見れるIG Liveで銃を見せること自体がとてもショッキングであるし、上述の通り、彼と銃に関する問題が取り出されていたタイミングでのこの行為は愚かというしかない。しかも誰かに撮影されたわけでなく、自ら配信しようとしたことで、彼が事の重大さを理解していないことをよく表していた。

 

<元々は謙虚な人間として知られていた>

モラント自身は比較的遅咲きの選手で、高校時代はエリート大学からの勧誘はなく、比較的無名のマレー州立大学に進学する。そして最近は高校の時点でリーグに目をつけられている選手が多い為、大学で1年目だけプレーしてプロ入りするいわゆるone and doneが主流だが、彼は1年目終了の時点ではまだプロは目指せなかった。それが2年目になって大きく飛躍し、ドラフトのトップ選手候補に一気に名乗り出て、No.2でグリズリーズに入団することになる。

 

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グリズリーズに指名された時の動画を見てもわかるように、こうしたいわゆる雑草魂的な精神があったからか、彼は入団当初は負けん気は強いしトラッシュトークはするが、謙虚でチーム思いの選手として言われていた。チームファーストの姿勢を持っていることは今でも変わっていないし、チームメイトからも概ね好かれているようだが、この2年程度で彼自身に少し変化が起きていたと個人的にも感じる。

 

<プレイオフでの活躍、リーグを代表する選手となる>

プロに入ると順調に階段を上っていき、1年目で新人王を獲得、2年目はプレイイントーナメントを勝ち抜き、第8シードながらプレイオフ初進出。敗れはしたものの接戦が多く、モラント自身も初のプレイオフシリーズで47得点上げる試合もあるなど、非常に明るい未来が想像された。また、リーグ入団当初から、リーグ屈指の身体能力を活かした数々のスーパープレイを残し着実に人気を上げていく。

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3年目になると更なる飛躍を遂げ、1試合平均27得点のスコアラーになるだけでなく、チームもウエストの第2シードになるまで成長し、名実ともにリーグを代表する選手の仲間入りをする。プレイオフではファーストラウンドを突破して、後のチャンピオンのウォーリアーズ相手に善戦。モラント自身は途中からケガで欠場を強いられたが、グリズリーズが今後何年も強豪となることは確実だった。4年目の今年も継続して強いチーム力を維持し第2シードで長らく推移し、モラント自身も昨年以上にまとまったプレーで、自身の初のシグニチャーシューズがデビューするなどスーパースターという名を確実なものにしていた

 

一方昨年あたりからモラントを筆頭としたグリズリーズの強気な態度、生意気と言われても仕方がない姿勢は目に着くところがあり、いたる場面でトラッシュトークを繰り広げるようになる。チームの若さとその団結力の高さから最初のうちは見ていて気持ちがいいと好意的に受け止められていたが、それがずっと続いてエスカレートするようになった今年は各チームの反感を買い始める。例えば優勝経験が何回もあるウォーリアーズのようなチームが相手を見下すようなことをしても許されるところはあるが、ファイナルにする進出したことがないグリズリーズとモラントがそういった態度を取ることはある意味彼らの未熟さを表していたのかもしれない

 

また、このコート内のCockyさ、自分達を強く見せようとする態度がモラントのコート外での態度や姿勢に影響を及ぼすようにもなった可能性もある。

 

<ギャングスターカルチャーの影響>

モラントが自信過剰になっていくなかで、彼の更なる変化はギャングカルチャーへの憧れにもみられるようになる。黒人文化にとってヒップホップは欠かせない存在であり、その一部にはストリートライフ、ギャングスターとしての生活というのも含まれている。そしてこのいわゆる「ハード」さがかっこいい、クールの象徴として捉えられることも多々ある。

 

アレン・アイバーソンとかは最たる例で、ファッションから生き様まで、ハードさを表した選手生活だった。アイバーソン自身は貧困に苦しんだ幼少時代、学生時代のトラブルなどのストーリーがあった為、90年代に大きく人気を得たヒップホップ文化と相まったのである。もちろんこのハードさ・タフさへの憧れは黒人だけではないが、黒人男性の中に深く根付く文化的要素があることは間違いない

 

モラント自身は不自由なく暮らせる家庭で生まれ、学校も私立の学校に行けるレベルであった為、生粋のギャングスターなどでは全くない。つまり単純にハードな奴だと思われたいという憧れがあるのだろうと思う。銃を持つことは自分が危険な存在なんだぞと表すツールでもあり、それを誇示したいという欲求があるのだろう。

 

ただ黒人文化におけるギャングカルチャーの心配は、生半端にそういった世界に首を突っ込んでいくと、自分の身に危険が及ぶ可能性が十分にあるということである。本当にリアルな奴だけが生き残れる世界なのであり、むやみに自ら入り込むべきではない。それがNBAのスーパースターなのであれば持ってのほかである。

 

<親含めた周りの変化があったか>

モラントがどんどんと自信過剰になり、ハードさをアピールしていく中で、そこに歯止めを効かせる存在がいなかったのも問題であろう。本来であればチーム内のベテランの選手であったりがこれを教えるのだが、グリズリーズは総じて若い選手が多い。その上モラント以上の実力を持ったプレイヤーがいないとなると、チームの顔である彼に物を申せる人が少なくってしまうのは確かである。(全く別の話ではあるが、トレイ・ヤングもコーチ、スタッフと上手くいっていないと言われるが、彼もまた若くしてチームの権力を手にしすぎてつけあがり、弊害が生じている感じである)

 

となると、モラントの家族や近い友達がサポートしてあげなければいけないのだが、そこが欠如してしまっていたようである。特に両親については結構問題があると思っており、父親のティー・モラントは毎試合コートサイドで試合観戦するのはいいが、昨年あたりから歌手のアッシャーに似てると、全国メディアでもてはやされるようになり調子に乗ってしまった雰囲気が否めない。いつも酔っぱらってハイテンションでいる姿がうつるし、息子が築いてくれた不自由がない生活を満喫しすぎているのではないかと思う。もちろん親である以上子供の活躍に舞い上がってしまうことはあるが、加えて自分自身が注目されたことでセレブ気分となり、ジャのストッパーになるのとは反対に、父親であるティー自身が状況を悪化させたのではないかと考えられる。(もちろん全て推測の範囲ではあるが)

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<多大な富と名声を手に入れることによる責任>

この自分を強く見せたいという虚栄心は、スーパースターとしてのプレッシャーからきているものなのか、イエスマンだらけに囲まれて彼の人格が変わってしまったのか、それか単純にギャングへの憧れがある人たちと吊るみたいだけなにかは分からない。いずれにせよここまで大きなニュースとなったのは、モラントがこれからのNBAを背負っていくはずの若手スーパースターだったからである。

 

特に最近のリーグのトッププレイヤーは、イヤニス、エンビード、ヨキッチ、ルーカなどアメリカ国外の選手が上位を占めており、レブロンとカリーの後を継ぐアメリカンスターの台頭が望まれていた。その上でリーグで最もエキサイティングな選手かつ、メンフィスというミッドマーケットのチームからのスターというのはNBAが最も望む将来であったはずに、彼への期待は大きかった。

 

それ自身が本人が望んだかは分からないが、リーグの顔として広告塔となり、一般人では絶対手に入らない富を得るということはどうしても責任が伴う。アービングのケースでもそうだが、単純にバスケが好きだからプロになっただけでも、プロになるということは営利企業の為に働くということであり、企業としてNBAが人気を保つためにそれを支えるスーパースターのイメージは非常に重要なのである。NBAという世界的ビジネスの中核にいて、何世代にも渡るお金を稼ぐには、常に世の中の注目を集め、自由が奪われるなど一定の犠牲が伴うのである。(スパイダーマンのGreat Power comes with great responsibilityと同じことである)

 

スポーツ選手としてスーパースターでいるのは簡単ではない。どこにいってもカメラを向けられ、周りには理不尽な期待をされ、自分の家族を養う必要もある。そしてちょっとでもミスをしたら非難轟々である。そういったことでモラントが対処しきれない精神的な重みを感じて、ストレス対処方としてギャングスターに憧れたのかもしれない。もしくは親を含めて周りにイエスマンしかいなくなり諭してくれる人がいなかったのかもしれない。(そう考えると、高校時代から全米の注目を浴び続けながらスキャンダルゼロのレブロンは本当にすごい)

 

どういった事情があれ、彼はまだ23歳と非常に若い。犯罪を犯したわけではないし永遠に咎められるべき話ではない。今年の期待値が高かったグリズリーズだけに、今シーズンが水の泡となってしまった彼のチームメイトは大変であろうが、モラント自身がこの経験を活かして選手として人間として成長した姿で戻ってくることを切に願いたい。



 

レブロン・ジェームズがオールスターウィークエンドを壊したか。

どうも。諸々忙しかったこともありとても久しぶりの記事となりますが、NBAは今年も面白く、オフェンスの爆発によりスタッツのインフレーション、MVP争いの質の高さ、デゥラント、カイリーをはじめとしたトレードデッドラインの白熱など話題にこと欠かない。ジャ・モラントの精神的なメルトダウンなどネガティブなニュースもあり、それについても近々記事を書きたいと思っているが、今回は少し前の話題で、先日のオールスターウィークエンドの盛り上がりの欠如、特にオールスター本戦のクオリティの低さについて考えてみたい。

 

今回のオールスター本戦を大きなバッシングを受けたのだが、本来であればシーズンの中で最も盛り上がるべき数日であるオールスターのレベルの低さはここ何年も指摘されており、数年に1回いい試合はあっても、それ以外はかなり緩いただのお遊びで、正直に見るに堪えないことも多い。リーグにとってはファン離れを防ぐためには改善が急務なはずなのだが、そもそもなぜこんなにオールスターが面白くなくなってしまったのだろうか。

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<いつもお祭りではあったオールスター>

オールスターはそもそもファンのためのイベントなので、プレイオフのようなIntensityがないのは当たり前である。それは今に限った話ではなく、80年代から昔からディフェンスは若干緩めでダンクを中心としたお祭り試合であったことは間違いないが、多少なりの努力が各選手から出ていたし、スターの祭典であるからこその、ライバルには負けたくないというスーパースターの競争心も垣間見れた。この理由の1つには、今のように敵チームの選手同士がとても仲良くするという風潮は昔はなかったことがあるだろう。また、League Passやケーブルなどファンが気軽に試合が見れる回数は2000年代序盤までは少なく、全国放送される数少ない機会であるオールスターで自分達のスキルセットを見せつけるという意思があったのかもしれない。

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<レブロン世代の台頭以降明らかにやる気が下がる>

昔の世代の方がオールスターが真剣だったのは、トップスターの競争心によるところもあるかもしれない。ジョーダンはどんな試合で手を抜かない事でも有名だし、その後オールスターを牽引をしたコービーも手抜きをすることを嫌ったことで有名である。その為、まだ2010年前後ぐらいまではそれなりにちゃんとした試合構成になっていた気がする。スーパープレーの中にもディフェンダーがいることで、彼らをかわしてのクロスオーバー、ダンクと言うのが生まれていた。然しこれが今となってはディフェンダーが全くいない状態での大したことないダンク、シューティングプラクティスのようなスリーの連発により、ファンがエキサイティングできるスーパープレイがほとんどなくなってしまったのである。

 

これは何故かと考えると、カリーによって開拓されたスリーポイントを他の選手が真似しまくったという事が1つある。スリーの連発はカリーやリラードがやるから面白いのであって、他の選手がやっても何の見ごたえがないということを彼やリーグが分かっていない気がする。ダンクについてもただダンクすればいいということではなく、ウィンドミルや360などフレーバーを入れる事に意味があるのだが、特に今年は両手で味気のないダンクをする選手が目立った気がする。

 

こういったオールスター中に本気を出さない風潮は明らかにレブロン世代が天下を取り始めたころに影響すると考えられる。レブロンNBAに残した功績は計り知れないものがあるが、ネガティブな面もある。彼がもたらしたプレイヤーエンパワーメントは、オーナーではなく自分達が主導権を握るという新たな風をもたらし、ある意味リーグの思い通りオールスターで頑張らなくも罰を受けない慣習が出来上がってしまったと思う。

 

また、レブロン自身が自分のイメージの保護を非常に大事にする人間でもある為、リーグの他のスーパースターという構造を作りたがらないということもある。その為チームの勝ち負けにも拘らず、1オン1マッチアップなどを仕掛けずといった安定したプレーに終始することが多い。絶対的存在であるレブロンが低めのモチベーションでオールスターに参加するとなると他の選手達もこれに続くわけで、逆に彼がコービーや最近だとイヤニスぐらい常どんな時でも本気を出すタイプであれば、ここまで悲惨な試合内容にならないはずである。

 

オールスターゲームで頑張るインセンティブが減った理由は、ネットの普及による先週の注目度の上昇、給料の上昇などたくさんの要素もあるが、リーグで最も影響力のある存在として君臨するレブロンが手をぬくことよしとした責任も大きい。

 

<スラムダンクコンテストの停滞もレブロンが原因?>

ちなみに弱体化したのは何もオールスター本戦だけではなく、スラムダンクコンテストのクオリティの低下についても、もう10年以上のホットトピックである。そしてダンクコンテストはほんとにレブロン不参加が停滞を呼んだと言っても過言ではない。今年のダンクコンテストはマック・マクラングの活躍で結構な盛り上がりを見せたが、彼はあくまでGリーグの選手であり、NBAで実績を残しているスターではない。このスタープレイヤーが出場しないというのが最大の問題なのである。

 

ダンクコンテストが何故80年代に人気が出たかというと、ジュリアス•アービング、マイケル•ジョーダンやドミニク・ウィルキンスのようなスター達が自ら出場していたことに他ならない。90年代に一時低迷したが、2000年に復活できたのは当時現役No.1ダンカーだったビンス・カンターが参加したことも大きい。その後ドワイト・ハワードやブレイク・グリフィンといったスター選手が2000年代後半に優勝が、それ以外でスーパースターの地位を持った選手が出場したことはここ20年ないと言ってもいい。(ブレイクなんてダンクの質はそこまででもなかったのにハイプが高すぎたおかげで優勝できたようなもんである。ちなみにカーターもハイプの影響が多少なりともあったと個人的に思っている)

 

なぜこれがレブロンの影響が大きいかと言うと、レブロンが若手の時から全盛期は確実にTop3に入るインゲームダンカーだったからである。以前NBA歴代最強インゲームダンカーというランキングを作ったことがあるが、私的に歴代No.6に入るぐらいレブロンのダンクの迫力とスピード、パワーは凄いものがあった。

 

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そんな彼がダンクコンテストに出ていたらどれだけの注目、視聴率が取れていただろうか。彼だけなく同世代のウェイドも長らくリーグトップクラスのダンカーだったが出場しなかった。最高のダンカーであるだけでなく、最高の選手達がチャレンジしあったら歴代に残るイベントになっていたはずである。でも彼らは断固として拒否した。それは何故なのか。結局ダンクコンテストで負けるのが嫌、失敗して笑われるのが嫌だからである。そして、別に出なくも失うものはなく、出ることで恥をかく方を避けたいのである。こういった形でリーグを盛り上げるよりも自分のイメージの確保がレブロン世代にとっては大事となり、それが今の若手世代にも受け継がれ、モラントやザイオンなども出場する意欲を全く見せていない。

 

何とも悲しい現実であるのだが、この悪しき習慣を一般化したレブロンの罪は重いと個人的には思っており、次なるスーパースター達が抜本的改革をしない限り、オールスターからファンの心は大きく離れ、NBAの人気にマイナスとなっていくことは間違いない。数年前まで上昇傾向だったリーグの繁栄ががここにきて停滞気味と言われるNBAは打つ手を考えてくるのか。是非とも策を練ってもらいたいと切に願うファンとしての感想である。



シーズン開幕!今年のNBA注目ゴシップポイント5つ

どうも。あっという間にNBAのオフシーズンが終了し、シーズン開幕から1週間経った。序盤から予想以上に接戦が多く私の時間がなくなる限りだが、楽しみが多いシーズンとなりそうである。ルーキー達はいきなり活躍している選手が何にかいるし、スター選手のステップアップや、既に先行きが危ぶまれるチームなどシーズン展望の中で面白い要素がたくさんある。特にNBAは1年間噂話が絶えないリーグであり、ツイッターでほんとかウソかの話題が飛び交ったり、スポーツニュースで議論が飛び交う。そこで今回は個人的に気になる今シーズンのゴシップ5選を考えてみたい。

 

1. ドレイモンド・グリーンの今後

シーズン開幕直前に最も大きなニュースとなったのが、ウォーリアーズの練習中で起きたグリーンのジョーダン・プールに対するパンチ事件であろう。

 

チームメイト同士が喧嘩することはよくあることだが、一方の選手、しかもチームのリーダーと言える立場が、若手選手にパンチをくらわすというのはかなりショッキングな話である。グリーンは元から感情のコントロールが苦手な選手ではあったが、それはいつも試合中で主にレフリーに対するものであったり、コーチ陣がなんとか制御してきたところがあるが、最近は歯止めが利かなくなってきている感がある。

 

昨年のプレイオフ中にファイナルの時期も含めて自分のポッドキャストのプロモートに必死であったり、自己展示欲が年々強まっているかつ、年齢も33歳でオフェンスに関しては完全に衰えが見れる (シュート力は皆無) 彼をウォーリアーズがどこまで忍耐強くキープしようとするだろうが。今年が契約最終年となる中、ドレイモンドは高額の延長契約を望んでいると言われるが、既にラグジュアリータックス超えまくり、パンチされた側のプールが直後に延長契約したことなどを考えると、彼が来年以降ウォーリアーズにいるとは考えづらい。とはいえ今年のチームは、ベンチ層が厚く連覇を狙えるシーズンなだけに、彼のディフェンスと頭脳(これだけバスケ頭脳とそれ以外の頭脳の乖離がある選手はなかなか見たことない)  はウォーリアーズのシステムに欠かせないこともあり、今年は残留し、カリー、トンプソンとのBig3

ラストランになるのではないかと予想する。

 

2. ドック・リバースの今後

シーズン開幕直後から不穏な空気が流れているチームは既にいくつかあるが、今年の優勝候補の1つとなっているシクサーズの様子がおかしい。もちろんまだ数試合しかプレーしておらず、これから状況が好転することは全然あるが、 (昨年のセルティックスが最たる例でオールスター直前まで5割のチームだった) とにかくチームの雰囲気が悪い。初戦と2戦目はそれぞれセルティックスとバックスというイーストの強豪に接戦で敗れているのだが、エンビードが明らかにやる気のないプレイを見せていたり、ハーデンもオフェンスは調子がよさそうだがお粗末なディフェンスは変わらず、マクシーもオフェンスの進化は確実に見られるが、ディフェンスは引き続き弱いことは否めない。

 

3戦目は今年最下位争いをすると予想されるスパーズに対して完全にeffortで負けたりと、覇気もなければ、チームとしての一体感がない。特にフランチャイズプレイヤーのエンビードが何か不満を持っている感がプンプンでボディーランゲージが最悪である。この状況がもう少し続けば、誰かが責任を負う必要に迫られるだろうが、その真っ先の候補がヘッドコーチのドック・リバースである。ドックはボストンで2008年に優勝してから、クリッパーズシクサーズと何度も強豪チームをコーチする機会がありながら、結局10年以上カンファレンスファイナルすら進出できていない。人間としては非常に優れており、黒人コーチの重鎮として大事なポジションを担ってはいるが、ここ数年彼の戦術には批判が寄せられている。

そして現在のシクサーズGMはアナリティックス大好きなダリル・モーレーであり、古いスタイルを貫くリバースとはフィロソフィーが合わないはずである。ということは、序盤の不調の責任をHCにつける可能性は高く、彼をクビにして、代わりにハーデンがロケッツに所属していた際の栄光時代のHCであるマイク・ダントーニを連れてきても全く驚かない。

 

3. ネッツは崩壊するのか、勝ち抜くのか

チームとして時限爆弾みたいな存在なのがブルックリン・ネッツである。いい方向に向けばファイナル進出したっておかしくないタレントはある一方、悪い方向に向かえば一気にチーム解体することもありえる究極の博打チームである。選手層だけでいえばいまだにトップ5の実力を持つデゥラントに、カイリー、過去にオールNBAに一応入っているシモンズのトリオ、セス・カリー、ジョー・ハリスのシューターもおり、ベンチ陣もそこそこの実力がある為、少なくともオフェンスだけでいえば相当な力を持っている。全てが上手くクリックすれば、爆発力のあるオフェンスと、僅差の試合でのKDとカイリーのショットメイキング能力によってプレイオフ向きのチームであるとも言える。

 

然し、、、既に世間に知られているようにデゥラントは4年契約を残しながらオフシーズンにネッツからトレードリクエストし、それが上手く行かなかったら今度は自分かHDのスティーブ・ナッシュを選ぶかフロント陣に迫るという強行手段に出た。結局何も起きずにデゥラントは残留することになったのだが、チーム内に未だに緊迫感があることは確実である。更にアービングは今年のオフでFAとなる中、延長契約をオファーさらず、昨年からのワクチン拒否などによってチームからの信頼度は非常に低い。

 

そんでもって、ベン・シモンズはチームから感情を傷つけられたとして、昨年シクサーズに合流することを拒否し、トレードされるまで一試合も出場せず、ネッツにトレードされたと思ったら腰痛で結局一度もユニフォームを着なかった。そんな彼が2年前のアトランタ・ホークスとのプレイオフで砕け散った自信を取り戻す事ができるのかがカギとなるが、シーズン序盤を見ると過去の状態に戻ることは難しそうである。

ヘッドコーチのスティーブ・ナッシュも戦術家として疑問が残る部分も多く、特にペイント内でのディフェンス力が全然ないこのチームは、全てが上手くいくより、自滅する可能性に賭ける方が確実そうである。

 

4. レイカーズはプレイオフに行けないのか

Disfunctionalという意味ではレイカーズも一歩も譲らない。まだプレイオフに進出して勝ち抜く可能性が多少なりともあるネッツと比べて、レイカーズはそんな希望すらないのだから厄介である。38歳で20年目のレブロンとまだ20代だがもう全盛期過ぎた感が満載のデイビスというトップ2は3年前の優勝時と比較して迫力が欠けるし、加えてチームNo.3以降の戦力が一気に下がるところが痛い。

 

エストブルックは完全に峠を通り越しているかつ、レブロン、ADとのフィットが悪く、完全に部外者扱いを受けている。そもそもジャンプショットが全く入らない為、レブロンに必要なスペースを提供できないという事も問題だが、(実はデイビスの方がこの2年のジャンパーの確率が低いという驚愕のデータもある) とにかく頑固な彼はプレイスタイルを変えることはできずに不満を漏らしているのもいただけない。そのほかのロスターも他チームと比べて戦力が一段階落ちるし、レブロンのチームにはシューターが何人かいれば成功するという過去事例を全く無視したチーム構成を昨年から全く解決しきれていない。実際序盤3試合でチームの3ポイント確率が22%と壊滅的なシュート力のなさを露呈しており、接戦には持ち込んでいるが、終盤のexecusionとチームケミストリーの微妙さが垣間見れ、長いシーズンになるということが容易に想像できる。

 

前評判からしてプレイオフ行けるのかと懐疑的な目が多かったことはありつつ、伝統のレイカーズかつ、レブロンがいるというだけで良くも悪くもニュースになりやすいだけに、ウエストブルックをどうするか、スーパースターになり切れないデイビスの扱いをどうするか、その他のサポーティングキャストをどうするかなど問題は山積みで、史上最高の選手の1人であるレブロンの晩年シーズンが台無しになりそうである。もし大型なトレードがない限り、このチームはどんなに頑張ってもプレイイン出場が限界で、おそらくウエストの8チームには残らずシーズン終了するだろう

 

5. ジェイソン・テイタムのMVPの可能性

ドラマと言えばボストンセルティックスのオフシーズンは大変だった。昨年ファイナル進出の立役者かつチームカルチャーを変えたヘッドコーチであったイーメイ・ユドーカがチームスタッフとの不倫・セクハラ問題で1年間のサスペンドを受けるという緊急事態が起きたのでる。結局何が起きたのかは今でも分かっていないが、このゴシップに関する報道は過熱し、メディアの伝え方の問題を浮き彫りにしたことは前回のブログにまとめたとおりである。

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そんなゴタゴタの中でユドーカの代わりは、これまでNBAのヘッドコーチの経験がないジョー・マズ―ラが指揮を執ることになり、時には厳しい対応で選手に接するユドーカの求心力の不在はセルティックスのシーズンに大きく影響すると見られた。

 

然し蓋を開けてみると、昨年リーグトップだった強固なディフェンスは健在かつ、選手層も厚くなったことでチーム全体が安定したプレイを見せている。そして何よりチームの若手スターであるジェイソン・テイタムが更に進化して、アンストッパブルな存在となってきているのが目に見えてわかる。最初の数試合でこれまで課題とされていたペイント内のでフローター含めたフィニッシュ力が向上し、更にミッドレンジ、ロングレンジのシュート力に磨きがかかり、リーグ最高のオフェンシブウェポンの一人となっている。加えて定評あるディフェンスも引き続き高いレベルを維持しており、これはスーパースターの仲間入りも、もうすぐと思われる。

 

このまま行けば彼自身が平均30得点近く記録し、チームもイーストのNo.1かNo.2でフィニッシュする可能性が高いとみられる。そうなるとMVPは個人スタッツやチーム成績に加えてストーリー性とナラティブも重要視される為、HCが不在という逆境を乗り越えて、チームをまとめてあげたうえ、個人成績も申し分ないとなれば彼のMVPケースを大きく後押しになることになるだろう。

 

他にもエンビード、イヤニス、ルーカ、ヨキッチ、カリー、モラントといった選手がMVP候補に挙がってくるだろうが、シーズン後に初のMVPを受賞していても全然おかしくないレベルまでテイタムは到達している。

 

スキャンダルの続くNBAの報道のあり方

どうも。NBAのジャパンゲームが開催され、SNS含めて結構な盛り上がりを見せた。さいたまスーパーアリーナにも満員の観客が集まっていたり、セレブリティが観戦していたのを見ると、2006年に開催された世界バスケで同じさいたまスーパーアリーナの会場に私自身が行った際、アメリカ戦ですら半分ぐらいしか席が埋まってなかった状況と比べて日本のバスケへの熱度が大きく変わったなと思う。もちろん八村塁という存在もでかいし、カリーが来日したのも大きいのだが、2006年の時だって、レブロン、ウェイド、カーメロ、ポールなどが錚々たる布陣を揃えていたのだから、この15年程のバスケ人気の変化を考えると感慨深い。

 

そんなハッピーなニュースの中ではあるが、今回はここ最近NBAで大きな話題となった、フェニックス・サンズのロバート・サーバーのセクハラ・パワハラ・人種差別的言動についての報道からのチーム売却、そしてボストン・セルティックスのイーメイ・ユードカの不倫・セクハラ問題からの1年間サスペンドというスキャンダラスなニュースが続いている状況とメディアのあり方について考えてみたい。

 

<ロバート・サーバーとサンズ>

まず、サンズのオーナーであったサーバーについての報道に触れてみよう。もともとサーバーが良いオーナーではないということはNBAコミュニティの中では広く知られていたことだった。2004年にチームを購入してからというもの、スティーブ・ナッシュを率いて5年程度強豪のチームとなったが、その時期から非常にケチなオーナーでラグジュアリータックスを超えないように選手を放出したり、やたら偉そうに振る舞っているなど評判は決して良くなかった。そこから2010年代になるとサンズは万年プレイオフを逃すチームとなり、その間にコーチがしょっちゅう変わったり、十分な補強をしなかったり、施設をアップグレードしなかったりと悪評は高まるばかりであった。また、元チーム関係者や選手達からの発言でも評判の悪さが伺えのだが、それがスポーツニュースのトップに来るほど話題になったことはなかった。

 

それが大きく変わったのは、昨年2021年にESPN (アメリカの大手スポーツサイト・ケーブルチャンネル) の記者であるバクスター・ホームズによる詳細な記事である。この記事では、多くのエビデンスをもとに、どれだけサーバーがやばい人間であるかを世間に明示したのである。

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この記事を書くにあたり、バクスター・ホームズは合計70人以上の現サンズ関係者や過去の従業員に取材し、全てちゃんと裏をとった上で報道をした。これを完成させるにあたり彼は相当の時間を費やして、立証できる内容をベースに、サーバーとサンズの問題点を指摘することに成功した。

 

この報道を受けてNBAは独自の調査を1年かけて行い(長すぎる気がするが)、サーバーを1年間オーナーとしてサスペンド、罰金1,000万ドルの罰金を課すことを決定した。しかしこの決定の直後には、罰則が甘すぎるとしてNBAご意見番であるレブロン・ジェームズや現役サンズ選手のクリス・ポールが失望のツイートをしたこと、Paypalなどがスポンサーから撤退表明を出したことによって、世の中と組織内部の大きなプレッシャーを受けて結局サーバーはチームを売却することを決定した

 

<ちなみにではあるが、このNBAの罰則決定からの、レブロンとポールのツイート、スポンサーの撤退は実は裏で関係者が合意を取った上でのコーディネーションだとも言われている。なぜこんな回りくどいやり方をコソコソしたかというと、オーナーがチームを手放すかどうかはNBAに決定権はなく、あくまでオーナーにプレッシャーを与える事しかできないからである。その為、チーム売却をせざる負えない状況に追い込むようにNBAの内部でコミュニケーションを取っていたということになる。>

 

このケースは、1人の記者の時間をかけた徹底的な取材と報道がチームの歴史を変えた、まさにInvestigave Journalismの最たる例と言えるだろう。

 

<イーメイ・ユドーカと女性問題>

サーバーを売却に追い込むきっかけとなった詳細な取材と記事とは正反対の、センセーショナルかつゴシップまみれの事象となったのがボストン・セルティックスのヘッドコーチのイメーイ・ユドーカの不倫・セクハラ?問題である。ニュースが出てきたのが9月22日、これを書いてる10月4日になっても未だに具体的な内容が分かっておらず、憶測の上で話が進んでしまってその憶測によるバックラッシュなども起きているという非常にMessyな状況である。どうしてこんなことになってしまったのかを観察すると以下のとおりである。

 

① Wojの匂わせツイート

事の発端は、元々は全く事前背景とかがない中で、このブログにも度々登場するニュースブレイカーのWojことAdrian Wojnarowskiが、ユドーカがセルティックスからサスペンドされる可能性があるという事実だけを先にツイートしたことに始まる。この段階で誰もセルティックスの内部事情を知らない中で、いきなりサスペンドの可能性だけ報告されたら、何があったのだと反応するのが一般的な感覚であり、ツイッター上でも憶測ツイートが飛び交うようになる。

 

② Shamsの追い打ちツイート

この曖昧なツイートがされた2時間半程度経った後に、今度はWojのライバルであるShamsこと、Shams Charaniaが既婚者であるユドーカ (Nina Longというアメリカでは知られた女優が妻) が女性と同意の上でセルティックスのスタッフメンバー親密な関係を持ったとツイートしたのである。

 

この事実だけを聞くと、正直よくある事なのではないかという話になるのだが、ここでSNSの悪魔的要素が浮かび出る。一部のツイッターユーザーがじゃあ誰がユドーカと不倫していた可能性があるのかを推測し、考えられるセルティックスの女性のスタッフの写真をツイートしまくったのである。その人であるという確証がゼロの中、憶測が憶測を呼び、セルティックスの女性スタッフ・社員の多くが私はユドーカの不倫相手ではないと表明しなければいけない事態にまでなった。これこそ本当にプライバシーの侵害であり、センセーショナルなニュースを面白がって相手の気持ちを全く考えない人間の醜さが表立って出た1日であった。

 

セルティックスの対応の悪さ

更にその翌日には、ユドーカが1年間丸々HCの座を降りるという決定がセルティックスから下されたことがツイートされると、更なるゴシップと議論が沸く。同意の上での不倫で1年もサスペンドされるのは長すぎるのではないか、いいか悪いかは別として他でも絶対ある事象なのにチーム内で不倫したことでこれだけ重い処罰なのか、実は不倫ではなくヘッドコーチとスタッフという力関係の差を利用して強引に不倫関係に持ちこんだのではないかなど、正確な事実が分からないまま異なる意見がツイッターだけでなくスポーツ番組でもたくさん見られた。もちろん報道のされ方やそれを受けての反応に批判がいくのは当たりまでではあるが。セルティックスも詳細を全く語らない為、ゴシップだけが独り歩きさせることに加担したことは事実であり、彼らの説明責任も問われるべきだと思う。

 

<スクープをとにかく狙う現代スポーツメディアの悪>

こうしてみてきたように、この件についてはまずWojがいけない。セルティックスからの正式な発表がある前に、詳細も不明な状態でユドーカがサスペンドされる可能性だけをツイートして不必要な会話をたくさん生んだ。そしてShamsもそれに重ねるように、ソースをもとに聞いた内容をツイートだけして更なる疑問を作ったという点でも責任重大である。SNSの発達によって、とにかく一番早くに情報を届けることが良しとされるようになってしまい、スポーツメディアも例外ではない。確かにFAやトレード情報においては素早い情報を得られるというのはありがたいことだが、オフィスの中の不倫・セクハラ問題というのはとても繊細に扱わなければいけないトピックである。それをあたかもトレードの発表のようにツイートしたブレイキングニュース文化が今回のゴタゴタと失態を生んだ根源であると思う。

 

冷静に揃った証拠をもとに、ファンに事実を伝えるという記者達のプロセスが中途半端であった為に、相手の気持ちを考えないやからが多数存在するSNSで誹謗中傷が助長され、事実でないことまでツイートされまくり、それを鵜吞みにするスポーツコメンテーターが適当な事を言って議論するというゴシップの悪循環が出来上がってしまった。

 

それぞれのニュースの内容が全く違うとはいえ、報道のされ方、反応の受け方があまりにも違うこの2つのショッキングな事例は、現代スポーツジャーナリズムの闇を表沙汰にすることになったといえ、これをきっかけに、関係する全ての人達がもっと相手へのケアを持ったresponsibleな行動をすることを願いたい。