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レブロンが変えたNBA (ジェームズ・ハーデンとNBAプレイヤーの持つ力: 後篇)

どうも。今回の記事では、引き続きジェームズ・ハーデンのトレードとPlayer Empowermentについて最近の事例を基に深堀をしていきたい。
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既にネッツで3試合でプレーしているハーデンは、トレード前のロケッツの時と比べて、明らかにモチベーションが高い。デゥラントとのコンビネーションにも大方問題なく、ハーデンがアシスト役をかって出ている様子である。ここにカイリーが入ってきたのだが、そこでチームダイナミックスが変わってくるはずである。やはりボールが必要なアイソレーションスコアラーが2人いるのと3人では大きな違いがあると思う。実際現地20日キャバリアーズ戦ではカイリーがボールを保持しすぎてオフェンスのバランスが崩れていると感じたし、これがみんなが慣れてきた30試合目になったときにチームケミストリーがどうなっているかは見ものである。個人的にはこの3人では最終的には機能しないと思っていて、何より、チームディフェンスが弱すぎるのがプレイオフではネックになる気がしている。ネッツについては更に詳しく次回見ていきたいと思う。


ということで、ここからは本題であるPlayer Empowerment時代と呼ばれるここ10年の流れを変えたレブロン・ジェームズとその後に続いた選手について見ていきたい。レブロン登場前の歴史は前篇の記事をご参照。
atsukobe.hatenablog.com

1. LeBronが変えたNBA

レブロンNBA史上最高の選手の一人であることは誰もが認めるところであるだろうが、彼のNBAにおけるインパクトはそれだけではない。ス―パスターである彼が、黒人差別、Police Brutalities、トランプといった政治的トピックに対しても積極的に自分の意見を発信したのたはスポーツ界に大きな影響を与えている。特にNBAでは、マジック、バード、ジョーダン、シャック、コービー等の最も有名なスター達がこういった社会問題に対して言及することは少なかった中、レブロンが自らリスクも負いながらも自分の意見を発信するようになったことで、NBAに限らず多くのスポーツ選手が表現の自由を重視するようになってきている。

彼がそれ以上にNBAの基盤を揺るがした革命的な動きがPlayer Empowermentである。そのターニングポイントとなったのは、2010年のレブロンFA権の動向についてNBA中が踊らされた、The Decisionだと言える。

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The Decisoinと名付けられた1時間の特番は大きな話題と批判を生んだ


2003年にクリーブランド・キャバリアーズに入団し、7年間のうち2007年にはファイナルにも進出したが、周りに他にスター選手がいない中孤軍奮闘していることが多かったレブロンは、The Decisionの前に既にNBAの慣習を変えることに成功している。ルーキー契約が終わる2007年は契約更新の年だったが、その当時通常5年以上の契約を結ぶ選手が多い中、彼は4年と短めの契約でサインしている。90年代後半から、2000年代初頭のNBAは、7年や8年契約といった長期契約が多く、チームはスターを確保する、スターは金銭面の安定を図るといった動きが見られていた。然し、これは各チームが不振になった際に再建しづらく、スターもチームに不満があっても、契約年数が多く残っていることから、トレード要求をしづらいという構造になっていた。そんな中、自分自身の実力に絶対な自信を持ち、4年目で既にリーグでもトップクラスの選手となっていたレブロンは、年数の短い契約にサインすることで、自分自身の選択肢を増やすとともに、チームが補強をしっかりとしなければ数年でFAでいなくなるぞというプレッシャーをかけるようにしたのである。


その後2008年にはカンファレンス・セミファイナルでセルティックスに敗退し、2009年には、MVPも獲得しレギュラーシーズン最高勝率を残しながらも、カンファレンス・セミファイナルでマジックに敗れていた。その為、フリーエージェントが迫る2009-2010年シーズンはレブロンがオフにどこに行くのかというのが1年中の話題となった。レブロンキャバリアーズに残留するとも、移籍するとも明言しなかったことで、メディアを踊らせていた。そしてその年のプレイオフでは再びカンファレンス・セミファイナルでセルティックスに敗れ、特に追い込まれた第6戦では、終盤諦めているようなしぐさやチームメイトに落胆しているような表情を見せながら、あっけなく負けたことで、彼が移籍するのではないかという報道が更に過熱していった。


希代のス―パスターを獲得しようと、キャブス以外に、ブルズ、ネッツ、ニックス、クリッパーズ、ヒートなどが名乗りを上げていた。様々な憶測が流れたが、ここでまたレブロンが歴史を作る。自分がどこに移籍するかをテレビで1時間の特番で放送すると伝えたのだ。そんなことは過去にどのスポーツでもなく、自分の移籍を世間の前で大発表するというのはメディアに驚きを与えた。テレビ放送をすると決まったことで、彼の行先は連日ようにスポーツ番組で取り上げられていく。そして、番組当日となり、アナウンサーのジム・グレイとレブロンが2人でひたすら話し、1時間のうち最初の45分はずーっと前置きというかなり退屈な内容であったが、最後の最後にレブロンが爆弾を落とす。"I am going to take my talent to south beach"と言い、マイアミ・ヒートに移籍することを発表したのである。しかも、地元クリーブランドの会場である。更に後から報道されたところによると、キャバリアーズレブロンが移籍をすることは事前に知らされておらず、皆と同じくテレビで知ったそうである。(これについて、キャバリアーズのオーナーがぶちギレしてレブロンを貶しまくる声明を発表したのもまた物議を呼んだ)


このある意味残酷な移籍発表のやり方だけでもレブロンは大きな批判を受けたが、移籍したチームがチームなだけに、更に反感を買った。レブロン移籍の前日に、ラプターズでスター選手になっていたクリス・ボッシュがスーパースターのドウェイン・ウェイドがいるヒートにFAで移籍することが決まっていた。そこにレブロンが加入するということで全盛期真っただ中のスター選手3人が同じチームに所属するという前例のパワーハウスとなったのである。それまでにも、80年代のレイカーズセルティックス、2008年に優勝したばかりのセルティックスもBig 3がいたが、それらはトレードやドラフトで集まった場合が多く、年代もバラバラであったが、同じ世代の仲良し3人選手が事前に話し合いをし、ヒートに3人で集まろうと計画を立てことが新しかったのである。また、昔ながらの考え方では特にレブロンとウェイドのようなス―パスターがチームメイトになろうとすること自体があり得ないことであり、違うチームで競い合うべきだと考えられていた。一気に優勝候補筆頭となり、シーズンが始まる前からちょっと調子に乗っていた感もあったレブロンとヒートはNBAのヒール役となり批判を受けまくったが、レブロンがいた4年間全てでファイナルに進出し、そのうち2回Championになったので、結果的にはレブロンが勝ったと言えるであろう。
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2. The Decision移行も歴史を塗り替えるLeBron


ヒートに移籍して念願のNBAファイナル優勝もしたレブロンだが、これだけでは満足はしない。4年間ヒートにいたと思ったら、あっさりと見切りをつけなんとキャバリアーズにまた戻ったのである。2014年の時点で、ヒートのサポーティングキャストは弱っており、ウェイドもケガが重なり全盛期を過ぎていた。レブロン移籍後最弱チームとなっていたキャバリアーズはドラフト1位でカイリー・アービングを獲得していた。そこでレブロンは今のヒートよりキャブスの可能性があると判断し、移籍を決断する。ちなみに、表上はレブロンが地元に戻ったのは、キャブスにチャンピョンシップを獲得させてあげたいからとエモーショナルな発表の仕方ではあったが、じゃあキャブスで優勝できるチャンスがない状態だったら戻ってはいないはずだと個人的に思っている。そしてキャブスに戻ることが決まると、レブロンはフロントにプレシャーをかけ、その年のドラフト1位のアンドリュー・ウィギンズをミネソタ・ティンバーウルブズのスター選手だったケビン・ラブとトレードさせ、再度Big 3を形成することになる。


2回目のキャバリアーズ時代では、2016年にはNBAファイナル史上初めて1勝3敗から、カムバックし優勝するわけだが、彼の改革は止まらない。最初のキャバリアーズ時代にはじめた短期契約を更に加速させ、基本的に2年契約をし、1年ごとにFA権を行使できる内容にしたのである。その為、チームの成績次第でいついなくなることもできるぞと、毎年フロントオフィスにプレッシャーをかけ続けられる。実際キャブスはドラフトアセットを毎年のように使って、選手補強をしていた。こういったプレーヤーが主導権を握るパワームーブは、この頃からレブロン以外の選手も真似するようになる。

3. LeBron以外の事例


リーグNo.2プレイヤーのケヴィン・デゥラントもレブロンの後を追うように、スーパーチームにジョインする。当時オクラホマシティー・サンダーに所属していたKDは、毎年強いチームではあったが優勝までいかず、2016年のプレイオフではステファン・カリー率いる73勝チームのウォーリアーズに3勝1敗と王手をかけながら、逆転負けする。(その後ウォーリアーズがファイナルで3勝1敗からキャブスに逆転負けする訳だから面白い) その年FAとなった、デゥラントはなんと自分が負けたばかりのウォーリアーズに加入することになったのである。レブロンが移籍した時のヒートは前年まであまり強いチームではなかったのだが、デゥラントが移籍したウォーリアーズは既に優勝経験もあり、前年に73勝したチームである。そんなゴリゴリ強いチームにデゥラントが入ったことで、彼は大バッシングを受けたが、ウォーリアーズは史上最強チームの1つとなり、KDは2度ファイナルMVPを手にする。また、KDもレブロンと同じく1年毎の契約更新をしていたが、結局3年でウォーリアーズを去り、友達のカイリーと一緒にネッツに加入する。
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既にスパーズで優勝経験があったカワイ・レナードもPlayer Empowermentを行使する。レナードは寡黙でいかにもスパーズらしいティム・ダンカンの後継者と思われていたが、2017年シーズンにケガをした足の診断と治療の意見の違いからスパーズにフラストレーションを溜めていく。スパーズ側はレナードがいつでもプレーできる状態だと主張していたのに対して、レナードはまだまだケガが完治していないと試合に出ることを拒否した。結局レナードを説得しきれなかったスパーズは彼をトレードせざるなくなり、オフシーズンにラプターズにトレードする。サンディエゴ出身でLAのチームに移籍を希望していると報じられていたレナードが、極寒のトロントでハッピーになるのかと言われていたが、移籍した年にラプターズは優勝をし、レナードは1年できっぱりとラプターズを去り、以前の予想通りFAでクリッパーズに移籍する。プレイオフの大活躍でかなりの力をもつようになったレナードは、スパーズ時代より更にすごい要求をする。クリッパーズに移籍するためには、サンダーにいるポール・ジョージをどうにかして獲得するようにとクリッパーズに指示したのである。ジョージは前年にサンダーと契約更新したしたばかりであり、その選手をトレードで獲得するのは通常あり得ないことだが、ジョージもクリッパーズへのトレードを要求したのだ。優勝する為に躍起になっていたクリッパーズはレナードをどうしても獲得する為に、自分達の持っているドラフトアセットや有望な選手をまとめてサンダーにトレードして、ジョージを獲得した。まだチームに加入していない選手が自分が欲しいならこの選手をトレードしろ指示するのは新たなPlayer Empowermentの形となった。レナードもまた2年だけの短い契約を結んでいる。
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最後に、ニューオリンズペリカンズにいたアンソニーデイビスの例を紹介した。長年弱小チームで孤軍奮闘し、プレイオフに1度しか進出していなかったデイビスは、2018年のオフにやり手のエージェント、リッチ・ポールがいるKlutch Sportsとエージェント契約をする。このリッチ・ポールはレブロンの昔からの親友であり、レブロンはじめ多くの選手と契約している。レブロンの親友ということもあり、実質上レブロンもマネージメントに関わっているようなものである。なのでレブロンのいたキャブスでもKlutch Sportsと契約していた選手は高額契約を勝ち取ったりして、明らかにレブロンの影響力が見えていた。正式には現役選手がそういった行為をしてはいけないのだが、書面上レブロンが関わってないといことで、黙認されているような感じである。こんなところからもレブロンがどらだけリーグに変化をもたらしたかが分かる。


話を戻すと、丁度2018年にレブロンレイカーズに移籍をしており、その直後にデイビスがKlutch Sportsと契約をしたことで、デイビスレイカーズに移籍を希望するのではないかと噂がはじまる。そしてデイビスはまだ後1年半契約が残っていたのだが、シーズン途中でトレードを要求し、レイカーズを指定した。まだ1年半契約が残っていれば、昔であればチームがスーパースターをトレードする必要はないのだが、デイビスは本気でプレーすることなく、ペリカンズにとってチームケミストリーを崩す大きな問題となっていく。最終的にペリカンズは、そのシーズン中にデイビスをトレードすることを決め、移籍が確実視されていたレイカーズに送ることにしたのである。もちろんペリカンズは他チームにトレードすることもできたのだが、結局一番多くのトレードアセットを提示したレイカーズで決めている。希望通りのチームに移籍したデイビスレブロンは1年目から息の合ったプレーを見せ見事に優勝しており、デイビスもトレード要求をして大万歳であっただろう。
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Player Empowermentですごいのは、事例で見たように、移籍を希望するス―パスターは移籍先で大体成功を収めてしまうことが多い。その為、より多くの選手が自分の力を行使するようになり、今まで支配権を持っていたチームはこの動きをどんどんと怖がり、一体どこまでプレイヤーのわがままが通じるのかと懸念するようになっている。この究極の形が今回のジェームズ・ハーデンのトレードなのだが、ハーデンのトレードの詳細とネッツのドタバタについてはまた次回の記事で記載したい。