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ついにエンビードがMVPを取る時が来たのか

どうも。日本ではWBCの優勝で大盛り上がりだったが、NBAはシーズン半ばからMVPレースがヒートアップしまくっており、アメリカのスポーツメディアでは毎日のようにアホみたいな議論がされている。候補となっている選手達はそれぞれかなりハイレベルなプレイでチームを牽引し、誰がとっても文句言えなぐらいなのだが、もう今の時点で自分のMVPはこの人だと決定づけた生産性のない議論がたくさんされている。

 

レギュラーシーズンも残り10試合程度となり、最後まで見届けなければ分からないが、候補者は基本3人に絞られたと言ってもいいだろう。

 

<MVP候補Top3>

その3人とは、昨年のTop3と全く同じで、ジョエル・エンビード、ニコラ・ヨキッチ、ヤニス・アデトクンボである。3人全員ともアメリカ出身でない選手であり、3人全員ビッグマンというすごい組み合わせである。グローバルに広がったリーグの多様化に加えて、数年前のガードの時代から進化型ビッグマンの時代に戻りつつあることを表している。(正確には、元々2000年代半ばぐらいまではビッグマンの時代だったが、2010年過ぎたあたりから急激にガードとウィングが主導権を握り、ここ数年でガードのスキルも持ち合わせたビッグマン達が新しく登場してきた感じである)

 

<3人の特徴>

ヨキッチは身体能力はNBAの平均以下であるが、バスケセンスとIQに加えて史上最高級のパサーであるという特徴があるのに対して、ヤニスは圧倒的な身体能力とフィジカルの強さ、激しい競争心とディフェンスが凄く、エンビードは体の大きさに加えた柔らかなシュートタッチとフットワークで相手を翻弄するオフェンシブマシーンという、3人それぞれスタイルが違うのも面白い

 

また、3人それぞれ自分が今年MVPになるべきだというポイントもそれぞれそろえている。まずヨキッチは圧倒的なオフェンスのEfficiencyを記録しており、(なんとFGが63%、Ture Shootingにいたっては71%と普通のスター選手では信じられない数字) 更に周りの選手を最大限に活かすプレイメイクで、 (センターであるヨキッチが1試合平均10アシストで、リーグ2位のオフェンス)、彼がいなかったらナゲッツは全く機能しないといってもいいぐらいのインパクトの大きさがある。その為アドバンスドスタッツを見るとほぼ全部ヨキッチが他選手を圧倒している。弱点としては、ディフェンスについてはヨキッチは身体能力で補えない部分も多く、頑張っても平均レベルなのとこである。

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一方ヤニスについては、ディフェンスにおけるインパクトで言えばリーグトップレベルであり、オフェンスでもバックスの絶対的中心であることは変わらないのだが、今年は若干効率性に欠ける部分もあり (True Shootingは60%)、FTも65%と最近では一番低くはなっている。また、周りのサポーティングキャストも比較的充実しているところもヤニスにとっては不利に働くだろう。ただバックスはディフェンスでリーグトップクラスであり、シーズン中盤から一気にギアをあげてリーグベストの成績を残しており、リーグベストチームのベストプレイヤーということで票を集める可能性はある。

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そして、エンビードはオフェンスのアドバンススタッツではヨキッチに次ぐレベルであり、毎試合30得点超える活躍を連発して現在得点王となっている。ディフェンスも本気出した時にはペイントの脅威となっている。また、チームも最近絶好調でリーグ勝率でボストンにとうとう追いついてきた。何より、前者の2人は既に2回MVPを受賞しており、ヨキッチであれば3年連続、ヤニスであれば5年目で3回目のMVPということで、2年連続MVP投票2位のエンビードにそろそろトロフィーを渡してあげたいという感情論が増えているのも追い風となっている。

 

と、ここでそれぞれの候補者について更にDeep Diveしたいのだが、実はヨキッチとヤニスのそれぞれの凄さとNBAのトップスターとなるまでの軌跡は以前記事にしているので、今回はエンビードにフォーカスして彼の偉大さをまとめてみたい

atsukobe.hatenablog.com

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<エンビードのオフェンス>

エンビードが何故MVP候補になっているかというと、まずはそのアンストッパブルなオフェンスである。2メートル13センチに体重は130キロ近くとNBAの中でかなりの大柄な体格でペイントに来るだけでも対処が難しいのに、それを上回る技術がすごい。エンビードはその体の大きさからモダンシャックなどとも呼ばれた時期があったが、シャックのようにパワーと破壊力でペイントを支配する力があるのはどちらかというとヤニスの方であり、エンビードは意外とパワープレーをしてこない。

 

彼のオフェンスについてまず凄いのがそのシュートタッチである。見るからに柔らかいフォームから非常にソフトなリリースをすることができ、特にフリースローラインからちょっと後方のミドルレンジショットの確実性はリーグトップクラスである。ディフェンダーをバックダウンしながら1本足でシュートもできるし、ドリブルからフェイスアップでガードのようなジャンパーも打てる。そしてフェイントからのターンアラウンドショットも難なく決めてしまえるということで、ジャンプショットだけでもバリエーションが非常に豊富である。更に、リーグ入団当初はスリーポイントの確率は30%以下だったが、ここ数年は35%前後を推移しており、アウトサイドからも脅威になりつつある。

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次に注目すべきはフットワークである。エンビード往年のハキーム・オラジュワンと比べられる要素の1つがこれである。ペイントに入ればピボットを使いながらフックショット、ジャンプショット、レイアップと変幻自在であり、特にターンアラウンドジャンパーに持ってくまでのフットワークは目を見張るものがあり、これはビッグマンの中では現役1位、歴代で言ってもオラジュワンやガーネットに匹敵するレベルなのではと思っている。ここまでナチュラルにガードのように動ける選手はほんとに稀である。

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そして彼がスキルとしてこの2年ぐらいで身に着けた大きなポイントがファウルを誘う能力である。センター版ジェームズ・ハーデン(この2人がチームメイトなのだからシクサーズの試合はフリースローが多めである)と言っても過言でなく、シュートすると見せかけてのフェイクから手にファウルを受けたり、体を上手くディフェンダーに自分から当てることでファウルを誘うなど、高度なテクニックを使ったものが多い。これは猪突猛進でディフェンダーに突っ込んでいくことでファウルを受けるヤニスと違うポイントである。その為、時に見ていてイライラすることもあるのだが、レフリーがファウルコールをする以上、彼の誘いに多くのディフェンダーが引っ掛かり、引き続き手を焼くことは間違いない。

 

ファウルの引きの多さは置いておいて、エンビードのオフェンスは視覚的にもアーティスティックであり、そのスキルの高さが分かりやすく画面から伝わるという点でリーグで最もアンストッパブルなオフェンスマシーンという印象を持たれやすい

 

<エンビードのディフェンスと弱点>

エンビードのディンフェンスについては賛否両論があるところで、彼のことをリーグ屈指のリムプロテクターだという意見もあれば、多くのポゼッションで本気を出さない場面もあることでLazyと表現されることもある。実際のところ、彼がディフェンスに集中した際は、リーグ内で最も恐れられるディフェンダーの1人であると思うし、ヘルプディフェンスからのブロックのタイミングや相手のペネトレーションを妨げる力は非常に長けている。運動神経も高い為チェイスダウンブロックもお手の物である。

 

但し、またヤニスとの比較になるが、常に全力投球のヤニスと比べるとどうしても手を抜いていることが多いのは否めない。その時は大体ボールを傍観していて、オフェンスのカットを見逃し、インサイドでレイアップを許してしまう時などである。また、スイッチをしてガードとアウトサイドで1 on 1になることは嫌い、基本ペイントエリアでのディフェンスに限定される点も、リーグ最高級のディフェンダーになりきれていない点である。(とはいってもAll Defensive 2nd Teamには複数回選ばれているのだが)

 

ディフェンスについてはMVP候補3人の中でヤニスが頭一つ抜けており、ヨキッチにいたってはどうしても運動神経の無さから頑張ってもリーグ平均レベルにはなってしまうし、最近は明らかにディフェンスに本気出していない場面も出ている為、エンビードは2人の中間といったところだろう。

 

一方、この2人に確実に劣っているいるのがパスとディフェンスの動きを読んだカウンターである。この分野に関しては史上最高レベルのヨキッチが群を抜くが、ヤニスもこの2,3年でかなりのパススキルを身に着けており、ディフェンスがどう反応してくるかを見据えた上でのプレイが上手い。エンビードについてもかなりレベルアップはしているのだが、未だにダブルチームの裁きには難がある為、ディフェンダーに囲まれた際のターンオーバーは多いし、観客をあっと言わせるパスを繰り出すことはできない。シクサーズにはハーデンというオフェンスの組み立ての要がいる為、そこまでこのスキルは現在求められていないかもしれないが、今後更なる高みを目指す上ではいかに上手くチームメイトをアシストして、的確なパスを出せるかが課題となるだろう、

 

<エンビードがMVPトップ候補となるまで>

エンビードの最大の弱点として挙げられるのがこれまではケガの多さであった。まずはルーキーシーズン前早々にケガをして2シーズン丸々棒に振ってしまう。そして満を持して3年目にして実質のルーキーシーズンとなり、いきなり平均20得点を挙げて大活躍するかと思ったところでまた欠場を余儀なくされ、結局31試合しか出場しなかった。その後はシーズンを棒に振るようなケガはなかったが、出場試合が70試合を超えるシーズンは今まで一度もなかった。その為5年目ぐらいまではエンビード=ケガというイメージはついて回ったが、それでも毎年50試合以上は出ており、ケガに弱いという印象は大分払拭してきた気がする。(とはいえ、プレイオフでも毎年のように何かしらの怪我や体調不良などがあるのでいつも万全とは言い難いが、、、)

 

そんな怪我とのたたかいもあった中、ルーキー時に見せたポテンシャルはどんどんと開花していき、実質3年目のシーズンでは平均27得点を記録し、ゴール下のディフェンスでも評価を得るようになっていく。その後は毎年のように特にオフェンスのスキル向上が凄まじく、上述の様々なオフェンスパターンから得点を量産していくようになる。加えてチームも力をつけていき、ベン・シモンズというNo.2の選手 (当時は) も加わりプレイオフの常連となった。レギュラーシーズンの個人成績としては本当に申し分なく、直近2年ではそれぞれMVP投票2位、昨年は得点王も獲得しており、リーグのTop5プレイヤーのリストでは必ず名前が挙がってくるまでになった。

 

然しレイオフでは中々上手くいかず、2019年のラプターズとのイースタンカンファレンスセミファイナルの第7戦でクワイ・レナードにブザービーターを決められたり、2021年のカンファレンスセミではベン・シモンズのメルトダウンがあり、またも第7戦で格下のホークスに負けたりと未だにカンファレンスファイナルにたどり着けてはいない。エンビード本人もプレイオフでレギュラーシーズンと同等のレベルの成績を残しているかと言うと若干疑問で、実際スタッツは軒並み低下傾向にあるし、何かと突発的なケガをしやすい。(とは言え、チームメイトや運に恵まれず可哀そうな部分もあるが)

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今年で28歳を迎え、まさに全盛期と言える年齢である彼にかかる期待は大きい。今年こそMVPを取って、更にはカンファレンスファイナルまで出場というのが最低限のレベルと目される中、昨年から加入したハーデンとのコンビは大分板についてきたのはプラスである。パサーとしての才能を最大限に使い、身体能力が衰えたが故にNo.2としての立場を受け入れたハーデンとのピックアンドロール/ポップは、リーグで最も強力な武器の1つであり、ハーデンの存在によってエンビードのジャンパーがより活かされている。しかも今まではロールするのがあまり好きでなかったエンビードが積極的にバスケットに向かっているのをみても、このコンビが機能していることが分かる。

 

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これまでいなかった優秀なNo.2ができたこともあり、このまま残り試合も順調に勝ち星を重ね続け、リーグトップ3の勝率で終えれば、メディアの同情票も相まってエンビードのMVPは確実なものになっていくのではないかと思う。一方プレイオフへ向けて全てが明るいというわけではない。ハーデンはプレイオフ黒歴史が諸々あるし、HCのドック・リバースのここ最近のプレイオフでの手腕もかなりクエスチョンマークがつくところではある。更にイーストはバックスとセルティックスという2大強豪が君臨しており、エンビードシクサーズにとっては今年のプレイオフも高い壁が待っている。そういったハードルも超えて、これまでの屈辱を晴らし、あわよくばファイナルに進出して、MVP獲得と共に2022-2023年シーズンはエンビードの年だったと言えるようになるのか今後の彼の活躍が見物である。