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NBAの新しいファールルールについて考える

どうも。NBAシーズンは開幕から2週間ほどたち、なんとなく各チームの傾向が見えてきた。

 

まずマイアミの強さは際立っており、ケガさえなければネッツとバックスに次ぐイーストのトップ3の1つとなるだろう。オフェンスではバトラー、バム、オフシーズンに加入したカイル・ラウリーというバランスの取れた布陣に、ベンチからタイラー・ヒーローが起爆剤となっている。そして何よりディフェンスとチームケミストリーが素晴らしく、見ていて楽しいバスケを展開してくれる。

 

楽しいバスケと言えば、エストではウォーリアーズも予想以上に強い。カリーがものすごい活躍をしているわけではないのだが、ジョーダン・プールが大躍進していたり、その他補強したビアリッツア、デイミオン・リーなども上手くフィットして、黄金期を支えたディフェンス力も戻ってきた印象である。もしケガから1月頃に復帰するクレイ・トンプソンが少しでも2年前の片鱗を見せることができれば一気にウォーリアーズの総合力は高まり、ワイドオープンな今シーズンのウエストの優勝候補に一気に踊りでるだろう。

 

一方ネガティブサイドでは、レイカーズがリーグ最弱ロスターのOKCに2連敗したり、ベン・シモンズがメンタルヘルスを理由にチームアクティビティや試合に不参加を証明しながら、チームからのヘルプは一切拒否して結局罰金されたり、ボストンのチームケミストリーがおかしなことになっていたりなどがあり、今後の動向が気になる。

 

また、NBAで一番問題になっているのは、サンズのオーナーであるロバート・サバ―女性差別、黒人差別など様々なToxic Culture (働きづらい、居心地の悪いカルチャー) を作り上げていたというものである。これは2014年にNBAから追放される形となった超人種差別主義者のクリッパーズオーナーのドナルド・スターリングほどではないものの、これからリーグがどう対応するのかに注目が集まっている。更にブレイザーズGMであるニール・オルシェイもToxic Cultureを作ったとして捜査が入っているようで、この問題はサンズだけでは終わらなさそうである。これについてはまた次回以降に記事をまとめてみたい。

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そんな中で個人的に今一番気になっているのがNBAの新しいファール罰則ルールである。原則にはこれまでファールにしていたオフェンス有利となるプレイをレフリーがコールしなくなったのである。具体的には、オフェンシブプレイヤーがスクリーンを使って自らディフェンダーに体をぶつけにいったり、腕を絡ませてディフェンダーがファウルしたかのように見せるプレイを取っ払ったのである。

 

これはジェームズ・ハーデンルールやトレイ・ヤングルールとも言われ、特にハーデンはロケッツ時代に6年連続1試合平均10本以上のフリースローを打っており、ファールを獲得することをリーグ史上最もマスターした選手である。上述のディフェンダーに故意的に自ら腕をひっかけたり、3ポイント打つ際に前に向かってジャンピングしてディフェンダーに当たったり、その他ディフェンダーにちょっとでも当たったらぶん殴られたような反応をしたりと彼のファール獲得テクニックを挙げたら枚挙にいとまがない。

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個人的には彼のそんなスタイルが大嫌いなのだが、これはスキルであり、オフェンスを擁護しがちなNBAのルールを上手く使ったいわば芸術であった。

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同様に昨年イースタンカンファレンスファイナルまで一気に躍進したホークスのエースであるトレイ・ヤングも現代のオフェンスびいきのリーグを象徴する選手となった。彼の場合はハーデンのようなアームフッキングをするというよりは、ディフェンダーをかわしたらわざとディフェンスの真ん前にポジショニングしていきなりストップし、ディフェンダーがぶつかりそうになったと同時にシューティングモーションに移動してファウルを誘うというものである。

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このまたうざいプレイの元祖はクリス・ポールであり、ポールの場合はよくトランジションの際に大体ビッグマンの前に近づき彼らが即時に反応できないことを利用して、臀部をディフェンダーにぶつけてその勢いでこけてファウルを誘うというものであった。このプレイ自体も大嫌いなのだが、ヤングはそれをハーフコートのオフェンスでもやり始めたのである。これをマスターしたことによって彼はリーグ屈指のスコアラーとなったわけである。その他ではルーカ・ドンチッチやデイミアン・リラード、ブラッドリー・ビールなどがフリースローによって大量の得点を稼ぎだしてきた。

 

問題はこういったファールを誘発するプレイスタイルは見ていてとにかく面白くない。スキルと言われればそうなのだが、バスケファンはタフなディフェンス相手にシュートを決めるのを見たいわけで、フリースローをたくさん見たいという人は全世界でほぼゼロに近いだろう。それも相手に向かって真っ向勝負の中でファールされるなら全然理解できるが、ディフェンダーとレフリーを馬鹿にしたようなやり方でファールを受けるのは正々堂々としていないとどうしても感じてしまう。リーグも一時期の不人気を取り戻そうと必死になるばかりオフェンスが得するルールばかり設置してしまい、結果的にディフェンダーが活躍できる場を奪ってしまったのである。加えてどんどんと長くなるレフリーのレビューで既に相当の時間を食っている試合時間が、ファール狙いのプレイによって更に長時間化してしまっており、リーグ内外から不満が続出していたのである。

 

NBAファンや識者から望まれたこのルール変更だが、今のところ概ね好評のようであり、個人的にもよりフィジカルなディフェンスが許されることでオフェンス対ディフェンスがフェアーになってきたと思う。

 

これによってハーデンのアームフッキングはコールされなかったり、オフェンシブファウルになったりしている。

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リーグ全体で見渡しても、最初の1週間でフリースローの数がリーグの歴史で最も少なくなったりとかなり笛の吹き方を変えた印象である。正直若干反対方向に行き過ぎで明らかにファールなものもコールされなくなってきているのが気がかりではあるが、全体的には良い兆候ではあるだろう。

 

また、スター選手の成績を見てもこのルール変更は明らかに影響が出ている。11月9日時点で、ハーデンのフリースロー率は1試合4.8まで落ち、昨シーズンと比べてヤングのフリースローは8.7→5.8、ルーカも7.1→5.1、リラードは7.2→3.4、ビールも7.7→4.0とこれでもかというほどフリースロー数が減っている。

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そして面白いことに、今挙げた5人の選手が全員とも昨年と比べて大きく数字を落としていることである。共通しているのは全員シュート確率がとても低い。リラードとハーデンについてはそもそも動きが遅くなっており全盛期を過ぎた感が出ているが、その他の3人はまだ若いし、むしろ成績が上がるべきではある中の下降線なわけである。これについては単純にフリースローの数が減ったことで得点数が落ちただけでなく、試合の中のリズムもあるだろう。これまで確実にフリースローで点を稼げていたことで、各選手の中で一定の落ち着きやリズムが確立されていたのが崩されたわけである。また、スター選手はどんなにシュートが決まってなくてもフリースローを打つことによって調子を取り戻す事も多々あるわけで、それを取っ払わてアジャストしきれていないのだろう。

 

もちろん彼らはリーグトップクラスのスコアラーであり、レギュラーシーズンが進むにつれて調子を取り戻してくるだろうが、この状況を打開できてこそが真のスーパースターであり、彼らの本当の実力が試されると思っている。そんな中このルール変更の影響を受けておらず現在スコアリングNo.1と2のデゥラントとイヤニスがやっぱり現在リーグトップ2の選手なんだなということを改めて気づかせてくれる。

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