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レブロンの衰えとトッププレイヤーの変化

どうも。あっという間に2021-2022シーズンの4分の1が終わり、ある程度各チームの強みと弱みや今年のトップスターなどが見えてきた今日この頃である。

 

<各カンファレンスのトップチーム>

エストではウォーリアーズが快進撃でリーグトップの成績を残している。加えてクレイ・トンプソンも12月には復帰する予定となっておりもう楽しみでしかない。やはりカリーや他の選手が常に動き回ってボールムーブメントでディフェンスを崩すウォーリアーズのスタイルは本当に面白いし、アイソレーションヘビーなチームが多い中で新鮮であるし、バスケの良さを体現したチームである。

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同様に、サンズも11月28日時点で16連勝をしており、昨年から続く安定感抜群のチームである。オーナーであるローバート・サーバーのチーム内外での不適説行動が1か月前にニュースになった時は1週間ぐらいこの話で持ち切りだったが、その中でサンズは勝ち続けいつの間にかスキャンダルもどっかにいってしまったような印象である。サンズは前から言っているがとにかく弱点がない。クリス・ポールも昨年レベルの活躍をしているし、強固なディフェンスと安定したオフェンスのバランスは健在である。

 

一方、イーストでは抜きんでたチームがまだないが、なんだかんだでネッツが第1シードになっている。カイリーはワクチン不接種ということで、今シーズンはこのままプレイしないのではないかと思われるし、ハーデンも昨シーズンと比べて明らかにレベルが下がっている中、デゥラントの圧倒的な実力と脇を固めるベテラン陣によって安定してきてはいる。ただしディフェンスが弱く実力のあるチーム相手には敗戦を喫しており、決して頭抜けた感じではない。

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ヒートは逆に強豪相手に常に互角に戦えており、ジミー・バトラーはこれまでのキャリアで最高の活躍をしているし、シックスマンのタイラー・ヒーローも3年目でブレイクアウトしており、サンズと同じくオフェンスとバランスが良い。ケガがなければトップ4シードに入ってくるのは確実だろう。

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今年のバトラーのEfficiencyは目を見張るものがある

<レイカーズの苦戦>

リーグ全体で最も議論されるのは、良くも悪くもレイカーズである。開幕から勝率5割ギリギリのラインを行き来しており、ウエストで1位を狙えるという下馬評に全く応えられていない。強豪チーム相手にほぼ勝ててなく、11月29日時点で挙げた11勝全てが、12点差以内、延長戦にいったのが4試合と常にギリギリの戦いをしている。

 

レイカーズが苦戦するだろうということは、ウエストブルックのトレードが成立した時点で予想していたが、やはりエストブルックの補強はネガティブな影響がポジティブを上回っている印象である。

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彼のクラッチ状況下でのデシジョンメイキングは相変わらず疑問符だらけだし、パスがどんどんと下手になってきている気がする。彼のアシスト数が毎年多いのはクリス・ポールのように本当に正確なパスを送っているわけではなく、単純にボール保持率が高いからである。今年もそれは変わらずなのだが、よりチームメイトが頭を抱えるプレイをすることが増えているという印象である。(スタッツ上は今ままで通りでこうだと証明はできないが、試合を見たらわかる)

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アンソニーデイビスも2年前に優勝してから覇気のあるプレイをしておらず、今年は3ポイント%が20%という壊滅的な数字で、レイカーズ移籍時に期待されたようなレブロンの後を継ぐスーパースターという地位を確立できていない。先日バックス戦でヤニスと対決して圧倒されていたように、3年前にはリーグNo.1ビッグマンになる、ヤニスよりも良い選手という評判だったが、かなりの差がついてしまった。

 

他のロスターを見ても、どう考えてもディフェンスがウィークポイントのカーメロの出場時間が長すぎるし、ディアンドレ・ジョーダンも他チームじゃ完全ベンチ行き、ウェイン・エリントンやモリーク・モンクもディフェンスが弱点であり、戦力が整っているとは到底言い難い。そんなロスターであっても、ここ15年ぐらいレブロンさえいればどんなチームも軌道に乗るはずなのだが、そう上手くいかないのが12月で37歳になる彼の現状である。

 

<レブロンの覇権の終了>

もちろん、この年齢かつ、20歳からプレイオフにほぼ毎年出て、2011年から8年連続ファイナルにいった彼が未だにリーグトップクラスの選手と言われることだけでも偉業なわけで、とても評価されるべきことではある。シーズン開幕まではリーグトップのプレイヤーは誰かという質問に、今でもレブロンと答える識者も多かった。然しいつまでもトップでは居続けられないというのが世の中、特にスポーツの常である。(Father Time is undefeatedという言葉はスポーツでよく使われる)

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まず今シーズンはケガで既に2回離脱しているのが気がかりで、レイカーズに移籍する前まで大きなケガを一度もしたことないアイアンマンだった彼の身体に若干ガタが来ているのは確かである。また、スタッツだけ見たら今年も平均25得点、6.8アシストと素晴らしい数字ではあるのだが、ウエストブルックと同じく実際のプレイを見るとやはり衰えたなと言わざるおえない。身体能力が落ちるのは36歳なら当たり前なのだが、プレイスタイルの違いが見ていて目につく。

 

レブロンと言えば、若い時はスピードと跳躍力を活かしたリムへのドライブ、後期クリーブランド時代からはパワードライブで相手を蹴落としてレイアップを決めるのがシグニチャームーブとなっていたが、今年はとにかくジャンプショットが多い。特に3ポイントの数が1試合平均8.5本と、昨年の6.3より2本以上、キャリア平均の4.4より4本以上とかなりスリー偏重となっている。これでスリーが得意ならいいのだが、彼はもともとジャンプショットでベストプレイヤーになったわけではないし、今年も34.4%とリーグ平均以下である。スリーが増えたのに比例するように、フリースローの本数が減っているのも気がかりである。キャリアで1試合平均7.9、ここ2シーズンも5.7だった中、今年は4.8と確実にファウルを誘う機会が減っている。これはやはりバスケットにアタックするという彼のベースであったスタイルがジャンプショット中心に変わっていることを表している。更に、リバウンドもレブロンの強みではあったのだが、キャリア7.4に対して、今年は5.2とこれも彼のアグレッシブさが落ちたことを象徴するスタッツとなっている。

 

ディフェンスについても2年前に優勝した際は、オールディフェンシブチームに入るかぐらい頑張っていたが、今年はかなり手を抜いている印象でやはり体力の温存をしているのだと思う。ディフェンスの弱さ、ジャンプショットの数が増える、リバウンドの数が減るという典型的な晩年選手の姿となってきている。もちろん1試合だけであれば、今でもベストプレイヤーとなれる気はするのだが、シーズンを通して、はたまたプレイオフを通してベストプレイヤーとして君臨するには中々厳しい現状となっている。実際昨年のプレイオフファーストラウンドでアンソニーデイビスがケガで離脱した際に、レブロン一人でサンズに打ちかつことができなかった。おそらく3年前であったらフェニックス相手にもレブロン一人で真っ向勝負できたではあろうが、Father timeが来たということなのだろう。(2018年のプレイオフは本当にレブロン一人でファイナルまで行ったと言っても過言でなかった) とはいっても、彼が未だにリーグ屈指の選手であることには変わりになく、確実にTop10には入るし、Top5-7の間ぐらいと個人的には思っている。然し、デイビスをはじめ他の選手がステップアップするか、また新たなトレードを仕掛けない限り、レイカーズの優勝の可能性は低いのではと考えている。

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<現在のトッププレイヤー4人>

レブロンが長く君臨したベストプレイヤーの称号は昨年あたりから変わってきており、誰がそのタイトルを確実なものにするのかというのが今シーズンのストーリーの1つとなりそうである。また、以前も記載したファウルコールのルール変更による影響がジェームズ・ハーデンやデイミアン・リラードに大ダメージを与えており、トップ10プレイヤーと言えば必ず入っていた彼らが圏外になっており、リーグのダイナミックが少しシフトしている気がする。

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ということで、より詳細なトップランキングはまた今度考えてみたいと思うが、ざっくりと現在のトッププレイヤーをまとめてみたい。個人的にTop4は確定しており、Top5以降はTBDといった感じである。

 

1. ケビン・デゥラント

現在のNBAで最も完成された選手であり、オフェンスにおいて全く弱点がない。今年は平均28.6得点、FGが54.8%と圧倒的な効率性で、シュートを外す気がしない。ディフェンスもここぞで頼りになれる存在であり、総合力で言ったら彼がNo.1であろう。今シーズンもバックス相手にヤニスとやり合ってくれることを期待している。

 

2. ヤニス・アデトクンポ

昨年ファイナルMVPのヤニスはケガ人が多く序盤つまづいたバックスで孤軍奮闘している。彼自身の実力は更に上がっており、インサイトの圧倒的な支配力に加えて、ミドルレンジショットやパスに磨きがかかっている。変わらずリーグトップのヘルプディフェンダーでもあり、デゥラントと僅差で2位だが、この2人が頭1つ抜けている印象である。

 

3. ステファン・カリー

泣く子も黙る史上最強シューターのカリーはウォーリアーズをリーグトップの成績に導いており、3度目のMVPも狙える。若干シュート確率は落ちているものの、今年はスリーを今まで以上に連発しており、一試合13発も打っている!彼の動き回るスタイルとシュート力はウォーリアーズオフェンスの全てと言ってもいいだろう。

 

4. 二コラ・ヨキッチ

昨シーズンMVPのヨキッチは、昨年以上の数字を残しており、課題と言われたディフェンスも今年は多いに向上している。ジャマール・マレーやマイケル・ポーターJRが戦線離脱中の中、ヤニス以上に孤軍奮闘状態ではあるが、シュートの確実性、オフェンスの多彩さと圧倒的なパス能力で、カリーと同じくナゲッツオフェンスの全てを担っていおり、リーグトップ4の選手であることを確実にし、センター対決でジョエル・エンビードの上をいく。

 

5. TBD

候補としては、レブロン、ルーカ・ドンチッチ、エンビード当たりが濃厚だが、今年で言えばポール・ジョージ、ジミー・バトラーが入ってもおかしくなく、今後のシーズンの経過に注目したい。

 

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現在のベストプレイヤーとして、この2人が真っ先に挙がる。

繰り返される不正義と許され続ける白人

どうも。NBAで書きたいことは一杯あるが、今回はそれよりもっと重要なアメリカの社会、司法制度の問題について議論したい。これまでもジョージ・フロイドの事件をきっかけに、アメリカ社会の白人至上主義について数回書いてきたが、またもアメリカを分断するかつ白人は何をしても許される構造が明らかになる判決が下された。何を話しているかというと、Kyle Rittenhouse (カイル・リッテンハウス) の無罪判決である。この僅か17歳の白人男は2人を殺害し、1人をケガさせたのに自己防衛として無罪となったわけである。拳を使ったわけでもなく、近くにあった器物を使ったわけではなく、AR-15を使っての自己防衛である。通常どんな状況で一般市民がAR-15を保持しているだろうか。それを考えただけでおかしな話なのに、銃保持の罪もなく、自己防衛として司法に守れたのである。ただただ怒りがこみ上げるが、正直驚きもしないのが悲しい現実である。何故なら彼が白人であるから。ただこれにつきる。彼が黒人だったら無罪になることなどありえない。それがアメリカの司法制度であり、未だに続く巨悪の根源を表している。(決してアメリカだけの問題ではなく、最もひどい国もあるし、日本の司法制度も十分やばいが)

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<何故全米の注目となったのか>

この裁判の経緯を改めて振り返ると、そもそもはウィスコンシン州のケノーシャで黒人のジェイコブ・ブレイクが白人の警察から銃撃を受けたことによる市民の暴動が発端である。これは昨年2020年にジョージ・フロイドの殺害をきっかけに全米で起こったBlack Lives Matterムーブメントの真っ只中で起きた事件であったことで大きな話題となった。ブレイク自身は運良く生存することができたが、無防備な状態で背後から4人の白人警官に7発打たれる映像は衝撃的なものであり、人々の大きな怒りを買ったと同時にジョージ・フロイドの件に続きまたかとなったのである。

 

昨年事件が起きた時もブログで書いたが、一番の問題は4人対1人の状況で、武器を保持していない一般人を7発も打つ必要がどこにあるのだろうかいうことである。4人もいればどんなことがあっても銃を使わずに取り押さえることは可能だろう。(そもそも武器の保持もしていなかったわけだが) 逆に銃を使わずに取り押さえられない時点で警察などやめた方がいい。ブレイクが何故7発も打たれたのかと考えると、それはどう捉えても相手が黒人であったからである。逆に白人であったらそもそも警察に囲まれることすらないだろう。atsukobe.hatenablog.com

 

この事件によってウィスコンシンに本拠地を置くミルウォーキー・バックスは第1シードながらプレイオフのファーストラウンドのオーランド・マジックとの第5戦をボイコットする事態となった。これ自体も大きなインパクトがあり、当時フロリダのバブルで実施していたNBAレイオフをこのまま継続する必要があるのかという議論になったぐらいである。

 

<事件の経緯>

ジョージ・フロイド、ブリアナ・テイラーなどを筆頭に何件も続いた白人警官による黒人への攻撃に人々は声を上げデモがはじまり、デモが過激化してケノーシャでは暴動化していた。その暴動に対して反発する人達で作られた(主に白人至上主義者) がFacebookでの呼びかけによって、一般市民による防衛隊もどきとなるものが出来上がる。彼らは普通のどこにでもいる市民なわけだが自ら武器を持っていて、抗議者に対抗するというものであった。そこに参加したのが今回の登場人物のカイル・リッテンハウスである。ケノーシャ市長は公にはこの防衛隊に反対したが、白人だらけのウィスコンシンの警官が彼らに感謝の意を示して、水を渡していたと伝えられている。

 

リッテンハウスはウィスコンシンではなく隣のイリノイ州に住んでおり、かつ僅か17歳の年齢でわざわざ乗り込んできたわけである。州をまたいでわざわざ防衛隊に参加していること自体で動機満点だが、自己防衛のためにAR-15を持ってくるような人間はまともじゃない。人を殺しにやってきたようなものである。そんな彼や市民軍もどきの人達に対して、そこにいた白人中心の警官達は何も言わずにむしろ行動を促したわけである。これをWhite Privilageと言わずになんと言うだろう。(もしリッテンハウスが黒人だったらどうなるだろうか。問答無用に逮捕、最悪射殺されるだろう)

 

そして彼はプロテストに参加していた3人を銃撃し、そのうち2人を殺害した。もちろん暴動が起きていた為、カオスな状況だったわけで、彼が自らの危険を感じた可能性は否定できない。だからといって3人にも銃弾打つことがどうして正当化されるのだろうか。そもそも自分からわざわざ暴動の鎮静の為という目的 (本当はBLMへの反対だろう)で来ているのだから、事態を落ち着かせようとしたということであれば納得がいくが、悪化させた張本人なわけである。

 

そして3人殺した後に彼は得意げに警察の前を通ったにも関わらず、何もお咎めなく一旦家まで帰れちゃったのである。これこそがダブルスタンダードなわけである。黒人が3人を銃撃して警察の前に歩いてきたら、確実に銃を置いて立ち止まるように囲まれる、もしくは多くの場合その場で射殺されるだろう。彼がこれをできたのは警察も白人ばかりで白人至上主義のトランプ支持者が多かったことに他ならない。この待遇の違いもWhite Priviliageの表れであり、白人である限りどんな暴力を働いてもすぐに逮捕されない構造がアメリカ社会の闇を表している。この点は1/6のトランプ支持者によるアメリカ議会襲撃に似ている。

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<裁判の不当性>

そして裁判にうつると、裁判官のリッテンハウスへの明らかな贔屓な態度が話題になった。彼は携帯の着信音にトランプのテーマである曲を入れていたり、殺害された3人は犠牲者じゃないと発言したり、明らかにリッテンハウスよりの思考を持っていたわけである。何故この裁判官が選ばれたのか疑問だらけだが、初めからフェアではなかったのは確かであろう。

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裁判中もおそらく弁護チームが彼の正当防衛感を高める為の作戦であろうが、リッテンハウスが大きな声で泣き出したら裁判官が休憩を与えたりしていた。これがウソ泣きかどうかというのもTwitterでは大きな議論になり、レブロンもコメントしていた。個人的にこれはどう考えても陪審員の印象を良くしようという演技であろうと思う。

 

これも、もし黒人が同じように泣き出した時に白人の裁判官が似たような同情を見せることは想像づらい。こうして最初から最後まで弁護側に傾いた白人色が強い裁判で、リッテンハウスの無罪が決まったわけである。白人であれば人を殺しても罪に問われない、黒人と同じスタンダートでは裁かれないというメッセージを世界中に見せつける結果となった。最も悲しいのはまあそうだろうなという半ば諦めのような反応が多かったことである。

 

<分断される社会に光はあるのか>

この事件は改めてアメリカ社会の分断を象徴するものであった。BLM運動を支持する者はリッテンハウスが極悪人だと言い、BLMに反対するトランプ支持層 (保守派ではなくもう右翼である) は彼をヒーローと呼ぶ。真実はその間で、彼は極悪ではないが特権を持った白人至上主義の正義ぶった犯罪者であろう。少なくとも彼はヒーローとはほど遠い。彼は何かの危険から人を救っただろうか。彼が銃を使わなかったらおそらく当日誰も死ななかっただろう。また、彼が黒人だったら右翼は極悪犯罪者と呼ぶだろう。犯罪者をヒーローとして扱うナンセンスな話をニュースチャンネルであるはずのFox Newsが広めるのだから保守派が過激化するに決まっている。Fox Newsのアナウンサーのタッカー・カールソンはリッテンハウスをヒーローとして描き裁判の行方を追うドキュメンタリーを作成したぐらいである。中立性の欠片もない。  (ワクチンが右対左の政治問題になるのだから仕方ないのかもだが) 

 

左サイドはそれはそれで批判だけして建設的な話ができていないのも問題である。いかにこの悪の根を撲滅していくかということをもっと真剣に考えて、現実的かつ実効できる解決策を見つけていかなければいけない。

 

結局のところ、BLMで大きなモメンタムができた変革への動きは非常に遅いペースで進んでおり、腐った社会構造は今まで通りなわけである。更に社会がこれまで以上に分断されていくにつれて、裁判官や警官という秩序をもたらすべき存在が偏った思想を持つようになってしまう。これは将来に向けた大きな課題であり、どちらのサイドが何かしらの中間地点を見つけるようにしなければ悲劇は終わらない。今回の判決は驚きもしなかったが、昨年の世界中のうったえにより社会が変わるという兆候が見えていたからこそ、逆に背筋が凍るものであった。

NBAの新しいファールルールについて考える

どうも。NBAシーズンは開幕から2週間ほどたち、なんとなく各チームの傾向が見えてきた。

 

まずマイアミの強さは際立っており、ケガさえなければネッツとバックスに次ぐイーストのトップ3の1つとなるだろう。オフェンスではバトラー、バム、オフシーズンに加入したカイル・ラウリーというバランスの取れた布陣に、ベンチからタイラー・ヒーローが起爆剤となっている。そして何よりディフェンスとチームケミストリーが素晴らしく、見ていて楽しいバスケを展開してくれる。

 

楽しいバスケと言えば、エストではウォーリアーズも予想以上に強い。カリーがものすごい活躍をしているわけではないのだが、ジョーダン・プールが大躍進していたり、その他補強したビアリッツア、デイミオン・リーなども上手くフィットして、黄金期を支えたディフェンス力も戻ってきた印象である。もしケガから1月頃に復帰するクレイ・トンプソンが少しでも2年前の片鱗を見せることができれば一気にウォーリアーズの総合力は高まり、ワイドオープンな今シーズンのウエストの優勝候補に一気に踊りでるだろう。

 

一方ネガティブサイドでは、レイカーズがリーグ最弱ロスターのOKCに2連敗したり、ベン・シモンズがメンタルヘルスを理由にチームアクティビティや試合に不参加を証明しながら、チームからのヘルプは一切拒否して結局罰金されたり、ボストンのチームケミストリーがおかしなことになっていたりなどがあり、今後の動向が気になる。

 

また、NBAで一番問題になっているのは、サンズのオーナーであるロバート・サバ―女性差別、黒人差別など様々なToxic Culture (働きづらい、居心地の悪いカルチャー) を作り上げていたというものである。これは2014年にNBAから追放される形となった超人種差別主義者のクリッパーズオーナーのドナルド・スターリングほどではないものの、これからリーグがどう対応するのかに注目が集まっている。更にブレイザーズGMであるニール・オルシェイもToxic Cultureを作ったとして捜査が入っているようで、この問題はサンズだけでは終わらなさそうである。これについてはまた次回以降に記事をまとめてみたい。

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そんな中で個人的に今一番気になっているのがNBAの新しいファール罰則ルールである。原則にはこれまでファールにしていたオフェンス有利となるプレイをレフリーがコールしなくなったのである。具体的には、オフェンシブプレイヤーがスクリーンを使って自らディフェンダーに体をぶつけにいったり、腕を絡ませてディフェンダーがファウルしたかのように見せるプレイを取っ払ったのである。

 

これはジェームズ・ハーデンルールやトレイ・ヤングルールとも言われ、特にハーデンはロケッツ時代に6年連続1試合平均10本以上のフリースローを打っており、ファールを獲得することをリーグ史上最もマスターした選手である。上述のディフェンダーに故意的に自ら腕をひっかけたり、3ポイント打つ際に前に向かってジャンピングしてディフェンダーに当たったり、その他ディフェンダーにちょっとでも当たったらぶん殴られたような反応をしたりと彼のファール獲得テクニックを挙げたら枚挙にいとまがない。

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個人的には彼のそんなスタイルが大嫌いなのだが、これはスキルであり、オフェンスを擁護しがちなNBAのルールを上手く使ったいわば芸術であった。

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同様に昨年イースタンカンファレンスファイナルまで一気に躍進したホークスのエースであるトレイ・ヤングも現代のオフェンスびいきのリーグを象徴する選手となった。彼の場合はハーデンのようなアームフッキングをするというよりは、ディフェンダーをかわしたらわざとディフェンスの真ん前にポジショニングしていきなりストップし、ディフェンダーがぶつかりそうになったと同時にシューティングモーションに移動してファウルを誘うというものである。

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このまたうざいプレイの元祖はクリス・ポールであり、ポールの場合はよくトランジションの際に大体ビッグマンの前に近づき彼らが即時に反応できないことを利用して、臀部をディフェンダーにぶつけてその勢いでこけてファウルを誘うというものであった。このプレイ自体も大嫌いなのだが、ヤングはそれをハーフコートのオフェンスでもやり始めたのである。これをマスターしたことによって彼はリーグ屈指のスコアラーとなったわけである。その他ではルーカ・ドンチッチやデイミアン・リラード、ブラッドリー・ビールなどがフリースローによって大量の得点を稼ぎだしてきた。

 

問題はこういったファールを誘発するプレイスタイルは見ていてとにかく面白くない。スキルと言われればそうなのだが、バスケファンはタフなディフェンス相手にシュートを決めるのを見たいわけで、フリースローをたくさん見たいという人は全世界でほぼゼロに近いだろう。それも相手に向かって真っ向勝負の中でファールされるなら全然理解できるが、ディフェンダーとレフリーを馬鹿にしたようなやり方でファールを受けるのは正々堂々としていないとどうしても感じてしまう。リーグも一時期の不人気を取り戻そうと必死になるばかりオフェンスが得するルールばかり設置してしまい、結果的にディフェンダーが活躍できる場を奪ってしまったのである。加えてどんどんと長くなるレフリーのレビューで既に相当の時間を食っている試合時間が、ファール狙いのプレイによって更に長時間化してしまっており、リーグ内外から不満が続出していたのである。

 

NBAファンや識者から望まれたこのルール変更だが、今のところ概ね好評のようであり、個人的にもよりフィジカルなディフェンスが許されることでオフェンス対ディフェンスがフェアーになってきたと思う。

 

これによってハーデンのアームフッキングはコールされなかったり、オフェンシブファウルになったりしている。

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リーグ全体で見渡しても、最初の1週間でフリースローの数がリーグの歴史で最も少なくなったりとかなり笛の吹き方を変えた印象である。正直若干反対方向に行き過ぎで明らかにファールなものもコールされなくなってきているのが気がかりではあるが、全体的には良い兆候ではあるだろう。

 

また、スター選手の成績を見てもこのルール変更は明らかに影響が出ている。11月9日時点で、ハーデンのフリースロー率は1試合4.8まで落ち、昨シーズンと比べてヤングのフリースローは8.7→5.8、ルーカも7.1→5.1、リラードは7.2→3.4、ビールも7.7→4.0とこれでもかというほどフリースロー数が減っている。

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そして面白いことに、今挙げた5人の選手が全員とも昨年と比べて大きく数字を落としていることである。共通しているのは全員シュート確率がとても低い。リラードとハーデンについてはそもそも動きが遅くなっており全盛期を過ぎた感が出ているが、その他の3人はまだ若いし、むしろ成績が上がるべきではある中の下降線なわけである。これについては単純にフリースローの数が減ったことで得点数が落ちただけでなく、試合の中のリズムもあるだろう。これまで確実にフリースローで点を稼げていたことで、各選手の中で一定の落ち着きやリズムが確立されていたのが崩されたわけである。また、スター選手はどんなにシュートが決まってなくてもフリースローを打つことによって調子を取り戻す事も多々あるわけで、それを取っ払わてアジャストしきれていないのだろう。

 

もちろん彼らはリーグトップクラスのスコアラーであり、レギュラーシーズンが進むにつれて調子を取り戻してくるだろうが、この状況を打開できてこそが真のスーパースターであり、彼らの本当の実力が試されると思っている。そんな中このルール変更の影響を受けておらず現在スコアリングNo.1と2のデゥラントとイヤニスがやっぱり現在リーグトップ2の選手なんだなということを改めて気づかせてくれる。

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NBA開幕!:第1週から見えた5大注目ポイント

どうも。NBAシーズンも開幕して既に色々と面白い。ベン・シモンズとシクサーズの一騎打ちがが引き続き続いていたり、カイリーとワクチンの状況も全く好転しないが、各チームとも数試合戦い、少し見えてくるものがある気がする。ということで、今回は個人的に開幕後気になった点5個をピックアップしてまとめてみたい。

 

1. ネッツは優勝筆頭じゃないかも

シーズン前の予想ではイーストからはネッツ、ウエストからはレイカーズがファイナルに出てくると言われてきた。どちらも出だしが不調なのはオーバーリアクションといえばそうかもしれないが、ネッツについてはカイリーのワクチン接種拒否の影響が予想以上に出ている。

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カイリーは自分のスタンスを変えるつもりが今のところなさそうだし、ニューヨークが罰則を変えない限り、カイリーはネッツで少なくとも今シーズンはプレイしないことになる。カイリーがいなくとも、、デゥラントとハーデンに多くのベテランを抱えた布陣だけで十分優勝候補かと思われたのだが、そう簡単にうまく行かないのがNBAである。

デゥラントは昨年と変わらない圧倒的な力を出しているが、ハーデンの動きが良くない。これは昨シーズン痛めたハムストリングの影響なのか、太ったせいなのか、単なる衰えなのか、シーズンが始まったばかりだからなのか分からないが、ディフェンダーをかわすクイックネスが明らかに遅くなっている。また今年からオフェンスがファウルを誘うプレイにはレフリーが反応しないルールともなっており、ファウルハンティングが大得意だったハーデンに大きな影響を与えているのかもしれない。彼のパスは未だに超エリート級だが、以前からお粗末なディフェンスに加えてオフェンス面でもし衰えが出てくるとなると、ネッツの爆発力が一気に下がってしまう懸念がある。ハーデンとデゥラント以外にオフェンスのクリエイターがいないネッツにおいて、ハーデンが以前のか輝きを取り戻さない限り、カイリーがワクチン接種に折れるか否かが当初の予想以上に今シーズンのカギを握るストーリーとなりそうである。

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2. レイカーズはファイナルに行けない

ネッツもシーズン序盤苦しんでいるが、レイカーズの出だしも微妙である。レブロンは未だに素晴らしい数字を残しているし、アンソニーデイビスもいいスタートを切っている。が、以前予想したように、やっぱりウエストブルックとレブロンはフィットがイマイチである。

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ボール保持率が高いという点では、ヒート時代のレブロンとウェイドも同じだったが、ウェイドはその分カットやミッドレンジで勝負ができた。対してウエストブルックはシュートが壊滅的な状態であり、なおかつボール持たないと突っ立てることが多いので、レブロン中心のチームである限り彼がアジャストする必要がある。

 

シーズン開幕戦では一度もウエストブルックがスクリーンを自分でセットすることなかったが、2試合目から少しづつやり始めたレブロンとのピックアンドロールを今後も継続していけば機能する可能性はある。が、これがシーズンを通して、またプレイオフに入ってからウエストブルックが脇役に徹することができるがは疑問符がつく。更にBig3以外の戦力も手薄感が否めず、オフェンス、ディフェンスともに若干中途半端なチームであり、おっさんだらけのロスターでプレイオフでウエストの強豪とやり合える要素がレブロンのLast Dance以外見当たらない。

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3. ジャ・モラントはスーパースターになる

シーズン開幕して個人的に最も目を奪われる選手がメンフィス・グリズリーズのジャ・モラントである。昨年は初めてプレイオフに出場し、第1シードのジャズ相手に47点を記録するなどスターになる片鱗を見せていたが、3年目となる今年は更にコートでの支配力が増している。全盛期のデリック・ローズのような圧倒的な身体能力と、アイバーソンのような恐れ知らずの精神、トラディショナルポイントガードのパス能力を合わせ持った選手であることは知られていたが、今年はそれに加えて自分のペースでプレイできており、試合をコントロールできていると思う。これはレブロンやルーカ・ドンチッチが非常に得意な分野で、スターに絶対に不可欠な要素だが (ルーカが3年でス―パスターになった理由はこれである)、モラントもこれ身につけてきているのだ。

 

元々の圧倒的な素質に、試合を読む力が加わったことで、NBAで最も層の厚いポイントガード勢の中でもTop5に入られる可能性は高いと考えており、初のオールスター出場、オールNBA選出も時間の問題であろう。同じドラフトで入ったザイオン・ウィリアムソンばかりがやたら注目されるが、ザイオンに全く引けを取らないハイライト製造機であるモラントがリーグのス―パスターと認識される日は近いはずだ。

 

4. ナゲッツは今年もウエストTop4に入る

ナゲッツは今年のシーズン大半、ジャマール・マレーがケガで不在となり、ナゲッツは苦戦するという予想もあったが、個人的にはそう思わない。何故なら二コラ・ヨキッチという絶対的なゲームチェンジャーがいるからである。昨年MVPのヨキッチのオフェンスは欠点がなく、そのシュート力、天才的なパス力だけでもナゲッツは平均以上のチームになれるし、加えてマイケル・ポーターJr、ウィル・バートンといったオフェンス力を持った選手もいる為、スコアリングには困らない。ディフェンスは穴が多いことは否めないがレギュラーシーズンの間はそこまで大きな問題とはならないだろうし、ウエストに強豪中の強豪が存在しないことを考えると、ここ数年続けたホームコートアドバンテージを今年も保持すると思われる。(こんなパスを選手がいる限り、ナゲッツはなんとかなる)

 

5. デイビオン・ミッチェルはNBAのベストオンボールディフェンダーになる

今年のルーキーは、Top5の選手が全員将来性があり楽しみなグループとなっているが、私が最も注目しているのがキングスのミッチェルである。全体9位でNBAに入ったミッチェルは大学時代からそのディフェンス力が際立っていた。身長が183センチとNBAではかなり低いこともありドラフトでTop5に食い込むことはできなかったが、"Off-Night" (スコアラーが本来の活躍をできないこと) というニックネームを持つミッチェルのディフェンスはデビュー後数試合だけでも存分に発揮され、既にリラード、ドノバン・ミッチェル、カリーと対しており、その激しい1 on1 ディフェンスとフルコートプレスでスタープレイヤー達を困らせている。ミッチェルの凄さはとにかく諦めない、相手をシャットダウンしようという意気込みであり、加えて常にアクティブな手の動きででターンオーバーも誘う。このままいけば、昔のトニー・アレンのようなディフェンシブ・スペシャリストかつ、自分でシュートを狙えるスコアラーとの両立が可能な選手に成長するのではと期待している。

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NBAシーズンプレビューとカイリー vs. ワクチン

どうも。NBAシーズンがまもなく開始する!ここ2シーズンはコロナの影響でスケジュールが後ろ倒しになっていたこともあり、ファイナルが終わってからほんとにあっという間だなという気がして心の準備ができていないが、今シーズンは確実に面白くなる気配がある。そこですごいざっくりとだが、ウエストとイーストそれぞれのトップ4レベルに加わりそうなチームの可能性をプレビューしつつ、トレーニングキャンプ開始後問題となっているスター選手とワクチンの問題についても言及したい。

 

<ウエスト>

1. レイカーズ

エストはレイカーズが大量補強をしてロスターの半分が元オールスターみたいになっている。一番の注目は今年37歳になるレブロンがどのくらいのレベルでプレイができるか、ボール保持率がむっちゃ高いウエストブルックがレブロンと共存できるかとなる。私的に彼らがファイナルで勝てる戦力とは思わないが、今年のウエストの状況を見るとファイナルに一番近いのがレイカーズであることに異論はない。

 

2. ケガ組

ここ20年近くウエストがイーストより総合的に強いのはよく知られていたが、今年はウエストのトップレベルチームがどこになるのかが定かでない。クリッパーズはレナードがケガでシーズンの大変は欠場する為プレイオフに参戦できるかぎりぎりだろうし、ナゲッツもジャマール・マレーがACLの怪我で苦しむだろう。ナゲッツは昨年MVPのヨキッチがいる限りプレイオフは確実だろうが、マイケル・ポーターJrがどこまで飛躍するか+自分がスターかのように振る舞わないかに今シーズンはかかっている。

 

3. 安定組

サンズとジャズは昨年とコアが変わらない為安定した成績を残すことができるだろうが、パンチ力は欠ける。サンズに関しては昨年ファイナル進出した割に (相手チームの怪我に助けられたのもあるが) 下馬評が低いが、ブッカーやエイトンなどの若手コアの成長の可能性を考えると、今年もウエストのトップが狙える位置につけるのではないか。

 

4. 読めない組

エストで一番面白くなるのはおそらくウォーリアーズだろう。彼らが第7シードぐらいになっても、第3シードぐらいになっても驚かない。それを大きく左右するのがクレイ・トンプソンの怪我の状況である。レポートによると1月ぐらいから復帰すると言われているが、2年連続でACLとアキレス腱の怪我をしている彼がどこまでのレベルで戻って来れるかは未知数である。正直2年連続大きなケガをした選手が100%になって復活する前例はないので、個人的には彼らが優勝候補となるかは懐疑的である。

その他、マーベリックスも面白いだろう。レブロンを筆頭にスーパースター1人の力で一気に強豪となれるバスケにおいて、ルーカの存在は見逃せない。今年で4年目の彼は更に成長するだろうし、プレイオフでも恐れ知らずのことが証明されており、番狂わせでカンファレンスファイナルとかにいっちゃうこともあり得るのではと思う。コーチがジェイソン・キッドであることや、その他の戦力への疑問符がつくのだが、楽しみなチームではある。

後はブレイザーズもいつも通り中堅レベルの成果を残すかもだが、リラードやマコラムのトレードの可能性が捨てきれないので、それ次第でタンクモードに入るか強豪の一角に名乗り出るのかが決まりそうである。

 

イースト>

イーストはウエストと比べると強豪と中堅、それ以外のレベルがはっきり分かれる印象であり、下位チームはとことん弱くなると予想する。

 

1.補強組

オフにカイル・ラウリーとPJタッカーが加入したヒートは、バトラー、バム・アバデヨとの強力なディフェンシブコアができたひのは確かだが、ベテラン揃いかつオフェンスの爆発力に欠け、ネッツ、バックスの2強を苦しめるレベルまでいくかは疑問である。

デローザン、ロンゾ・ボールと大きな補強をしたブルズもイーストの注目チームの1つだが、デローザン、ラビーン、ブサビッチの3人は素晴らしいオフェンシブタレントだが、どちらもボールが必要なデローザンとラビーンのフィットは疑問符がつく。そしてスターターのディフェンス力の低さがネックとなって、そこまで上位に食い込めないと予想している。

 

2.中堅組

昨年大躍進したホークスはとにかく選手の層が厚いので今年も勢いを維持してホームコートアドバンテージを狙えるとこまでいくのではないかと思う。トレイの更なる成長とウィングプレーヤーが健康で過ごせるかがキーとなりそうである。一方ホークスにプレイオフで敗れたニックスはケンバとフォニエの補強はしたが、ケンバの衰えは隠せない。プレイオフで見えたジュリアス・ランドル頼みのオフェンスの限界が解決されるのかがカギとなるが、昨年のようにトップ4シードを狙えるとは思えない。

その他昨年低迷したセルティックスはテイタムとブラウンのコア2人の更なる成長が見込め、デニス・シュルーダーの加入はガードのパンチ力がなかったボストンに吉と出るだろう。ただ彼らもファイナルを狙える位置ではない。

 

3.全く読めないシクサーズ

そしてベン・シモンズ問題が解決しないシクサーズについてはどうなるかが全く読めない。仮にシモンズがトレードさらずにしばらく彼抜きか、100%本気出さないシモンズがプレイしながらレギュラーシーズンが進んでも、エンビードが健康でいる限り5割の勝率は残せるだろうが、このドラマの行方によってはプレイオフ1回戦敗退になっても、トレードが成立して優勝候補に躍り出ることもあり得るかもしれない。

 

4.全体トップ2

残るは昨年覇者のバックスと今年の優勝候補筆頭のネッツである。この2チームがリーグ全体でもTop2であり、シーズンが順当に進んだ際に、エリート集団のネッツ vs. NBAで這い上がってきた雑草組のバックスの戦いという超面白いカンファレンスファイナルになるかもしれない。メンタルと勝負弱さが見られたバックスは昨年優勝したことで、今年はより自信を持ってプレイできるだろうし、イヤニスは昨年のプレイオフでネッツとのシリーズ以降今までになかった支配力を開花させ、更に強力な選手となって戻ってくると思う。PJ・タッカー以外主力が抜けていないかつ、ケガ人だらけの昨年での優勝へのいちゃもんが多いとことで、今年も手を抜かずに全力で優勝を狙うと予想される。

 

対するネッツは現在リーグ最強プレイヤーのデゥラント、最強オフェンシブプレーヤーのハーデン、最強ボールハンドラー&フィニッシャーのカイリーに加えて、ベンチ陣も強化し抜け目が少ない。普通に考えたら優勝候補の筆頭で、バックスと比べてもギャップがある気がする。ただここで一筋縄でいかないのがネッツである。厳密にはカイリーの存在である。

 

<カイリーとワクチン拒否>

あくまでスポーツと文化のブログなのであまりコロナとワクチンの効果について言及したくもないのだが、昨今それを逃れることができないのが常である。NBAも例外ではなく、ワクチンの接種がリーグ全体で義務化はされていないが大きく推奨されている。NFLにおいてはもう半強制のようなもので、ワクチン未接種の選手がコロナになった場合、その所属チームは問答無用に試合放棄をしなければいけない。1年17試合しかないNFLで1試合を失うことは一大事なのである。

それに比べたらNBAのルールはもう少し緩いが、リーグのワクチン接種率は90%を超えている。然し、一部の選手の中には未だにワクチンに懐疑的な意見を述べる人もいる。マジックのジョナサン・アイザック、ウィザーズのブラッドリー・ビールなどもそのグループに入るのだが、ここで特に問題になるのがアメリカは国単位でなく州ごと、更には都市単位での統治力が強い事である。

 

コロナの規制が強いニューヨークとサンフランシスコはホームプレイヤーがワクチンを接種しない場合、試合に出場できないルールを作った。これによりニックス、ネッツ、ウォーリアーズの選手がレギュラーシーズンの半数あるホームゲームでワクチンを接種することが義務付けられた。これに伴い大きな話題となったのが、ウォーリアーズのアンドリュー・ウィギンズとネッツのカイリーがワクチン接種を拒否したことである。ウィギンズについてはしばらくReligious Freedom (宗教上の理由) ということで接種に抵抗をしていたが、四方八方からプレッシャーがかかったのか、いやいやながら最終的に打った。

 

カイリーについてはワクチン接種はプライベートな問題として公表こそしていないが、彼が接種していないことは明らかで、シーズンの半分に出場できないとしてもこれからも接種する気がないようである。これは優勝候補筆頭のネッツを悩ます大問題だが、これがカイリーだから厄介かつ、おそらく自分の意思を通すだろうと思われるわけである。カイリーは以前から予想外の行動を起こすことはしょっちゅうあり、突然トレード要求をしたり、地球は平だと言ったり、昨年もチームに説明なくいきなり離脱したりと、いわゆるドラマクイーンである。更に彼は非常に頑固で信じたことは譲らない性格であり、チームとしては非常に扱いづらい。

 

プロスポーツにおいてワクチン接種が何故大事かと言えば、自分が感染して、他の選手にもうつしてしまうと戦力が揃わなくなり、試合に出れなくなってしまうからである。特にプレイオフで集団感染が起きたら終わりである。どの職場でもコロナアのアウトブレイクを避けようとするだろうが、スポーツでお金を稼ぐ以上リモートワークはできないし、コンタクトスポーツであるバスケではそれが通常より難しい。だからこそチームに迷惑をかけない為のワクチンとなるのだが、カイリーにはそれが通じない。(カイリーは自分が社会全体よりスマートだと考えちゃう傾向が強い、、、)

 

正直カイリーがシーズン全休となってしまっても、ハーデンとデゥラントというリーグTop10、オフェンスに限ればTop5に入る選手を抱え、ベンチ層も厚いネッツは引き続き優勝候補である。スターの2人が健康であれば普通にバックス相手に台頭に挑める戦力が揃っているのは確かであるし、実際昨年はほぼKDの独壇場でバックスをぎりぎりまで追い詰めた。(ハーデンとカイリーのどちらかが最終戦まともにプレイできたらネッツが勝っていただろう)

ただ昨年と同じく今年もケガ人がでる可能性は否定できない。デゥラントは一昨年アキレス腱を断裂して昨年かなりの負担をかけているし、ハーデンもまたハムストリングを痛めてしまうことは全然あり得る。そういった事があっても大丈夫なように、スーパースターが3人集まったわけだが、カイリーも出場せず、残り2人のどっちかでもケガで離脱したらネッツの優勝の可能性は一気に低くなる。

 

カイリーの意思が変わってシーズン開始したらネッツが圧倒的な強さを見せてシーズン前の心配が消え去る可能性もある。もしくはプレイオフになっても彼がワクチン接種を拒否し、シーズンを通してこのストーリーが付きまとう事もあり得る。バスケジャンキーのデゥラントや、優勝経験のないハーデンにとって、優勝の可能性をチーム内の事情で阻まれるのは許せないだろうし、チームケミストリーもどうなるかが気になるところである。

 

ベン・シモンズのトレードドラマとカイリーの行方はシーズン開幕に向けたスパイスとして見逃せないニュースであり、どうなるか行方が楽しみである。

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NBA ベストボールハンドラー 歴代Top10!

どうも。今回はまたNBAトピックに戻って、突然だがランキング形式で私的な歴代ボールハンドラーTop10をまとめてみようと思う。以前にはトップダンカーに絞って、インゲームダンカーとダンクコンテストダンカーでそれぞれランキングを作ったのでそちらも是非チェックして頂きたい。

atsukobe.hatenablog.com

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このランキングはあくまで私的な見解なのでそんなはずはないとか選出がおかしいといった意見はあると思うが、数あるランキングの1つとしてご了承頂きたい。

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No.10 ピート・マラビッチ

長いNBAの歴史の中でドリブルの技術はどんどん進化してきた。最も古くは60年代のセルティックスレジェンドであるボブ・クージーがエンタメ要素を加えたドリブルをはじめたと言われるが、あくまで利き手の右手でのドリブルばかりだった。そこから更にショーマンシップと技術を持ち込んだのがピート・マラビッチである。60年代後半から大学での圧倒的な得点力と派手なドリブルやパスで大きな注目を集めたマラビッチは、70年にNBAに入ってからも同じようなプレイスタイルで人気を集めた。彼のプレイが直接チームの成功に結び付くことはなかったが、相手までも魅了するドリブル、パスの出し方、長距離のシュート力はその後のスティーブ・ナッシュやステファン・カリーに受け継がれており、NBAに革命を起こした一人として歴史上重要な存在である。

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No.9 ジェームズ・ハーデン

現代NBAのトップクラスのボールハンドラーと聞いてジェームズ・ハーデンを外すことができない。手にボールが吸い付いたかのようにドリブルを繰り返し、そこからステップバックスリーか、ドライブするという2択しかないのに誰もハーデンを止めれないのは、ディフェンダーを常に推測させる彼の読みの能力とリズム感からできる技であろう。また、彼の特徴はドリブルの回数の多さと姿勢の低さ、切り返しの上手さであると思う。ロケッツ時代は彼がオフェンスにいくら時間をかけてよかったこともあり、ドリブルを何回もしながらディフェンダーがリーチした瞬間を狙って低い姿勢から一気に切り返してペイントまで向かっていくことができた。逆にそこでディフェンダーがドライブを警戒してきたらステップバッグでシュート打つ。シンプルなようで止められない彼のスタイルに賛否両論あるが、その技術に疑問の余地はない。

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No.8 ジェイソン・ウィリアムズ

NBAとストリートボールはプレイのレベルやスタイルに大きな違いがあるが、ストリートボールをNBAに持ち込んだ先駆者の一人がジェイソン・ウィリアムズである。身長が高いか、シューターと言ったイメージが強かった白人選手の中で、派手なドリブルとパスで黒人選手みたいということでホワイト・チョコレートという特殊なニックネームがついたウィリアムズのプレーはとにかくエキサイティングであった。オープンコートに入ったら観客をあっと言わせるパスを出すことを楽しんだ彼のドリブル技術は卓越されたもので、クロスオーバー、ビハインド・ザ・バック、少し高めの位置でのドリブルなど多彩なスキルを誇った。プレーの安定感に欠け、チームを率いるリーダーではなかったが、特にリーグに入った最初の数年に残したハイライトの数々によって鮮烈なインパクトを残した。

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No.7 ジャマール・クロフォード

ウィリアムズと同じくストリートボールの要素が強いボールハンドラーがシアトルのレジェンド、Jクロスオーバーことジャマール・クロフォードである。彼はまさにHooperといった感じで、筋トレなどは一切せずにひたすらバスケをオフシーズンでもしまくっているタイプである。そんなバスケジャンキーのクロフォードは一旦シュートが決まりだすと止まらないヒートチェックタイプであり、スターターとしては安定感と協調性に欠けたが、キャリアの中盤以降はシックスマンとして開花した。彼のすごい所は30代半ばになっても自分が得意なクロスオーバーを中心として若手っぽいプレーができていたことであり、それは彼のドリブル技術の高さによって可能となった。

 

クロフォードのシグニチャーム―ブといえばビハインドバックなのだが、特にフェイクを入れてからビハインドバックをしながらギャザーステップをしてレイアップまで持っていくムーブをおそらくNBAで初めてした選手であり、彼以外にこの動きをマスターした人は知らない。

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スーパースターではなかったが、後世のアンクルブレイカーに残した功績は大きい。

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No.6 クリス・ポール

ウィリアムズやクロフォードがショーマンシップに長けたリスキーなアンクルブレイカーの代表だとしたら、クリス・ポールは堅実なボールハンドラーの代表である。Point Godのあだ名がつくほど、アシストの割合に比べてターンオーバーが少ないのが特徴であるのだが、その根底には彼のターンオーバーを誘発しないタイトなハンドリングがある。彼の代名詞であるミッドレンジエリアのフェイダウェイジャンプショットも綺麗なドリブルからなされる業である。ただ彼が派手なドリブルをしないわけではなく、相手の股下を通したり、パスと見せかけたヨーヨードリブルは別れの代表的ムーブである。

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今年で37歳と大ベテランの領域に入ったポールだがそのドリブルの技術は健在で、引退するその日まで堅実かつ効果的なクロスオーバーを見せてくれるだろう。

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No.5 ステファン・カリー

NBA史上最高のシューターであるステファン・カリーがベストシューターに慣れた理由こそが彼のハンドリングスキルである。これまでも単純なシュート力でカリーと同等の選手はいたが、大体がスクリーンを使ってのショットがメインで、クロスオーバーで自らスペースを作ってシュートする選手はほとんどいなかった。(唯一レイ・アレンが全盛期に時々したぐらいであろう)  カリーがすごいのはドリブルからディフェンダーをかわしてオフバランスの状態から超高速リリースでシュートを打てることである。そして彼の3ポイントがあるからこそ、ドリブルからのペネトレーションも活きてくる。カリーもビハインドバックが結構得意でドリブルムーブの中でかなりの確率で入ってくる。対クリッパーズ相手に繰り出したレッグスルー→ビハインドバックでディフェンダーをかわして、3ポイントラインに戻り僅かなスペースで決めたショットは過去最高に難しいショットの1つであると思う。

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昨年孤軍奮闘で過去最高の得点を記録したカリーが今年こそはプレイオフに導けるか注目である。

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No.4 アレン・アイバーソン

ストリートボールの最高峰かつ、NBAのアイコンとして、2000年代以降のNBAファンにとっては、クロスオーバーと言えばアレン・アイバーソンを思い浮かべるのではないか。平均的な日本人と大して変わらない体格で得点王、MVPまでに上り詰めた彼を支えたのは誰も恐れないメンタルとハンドリング技術である。特にヘジテーションドリブルから右→左、左→右のクロスオーバーで相手を一気に抜き去りドライブする、そこからレッグスルーでステップバックしてのジャンプショットが彼のシグニチャームーブであった。彼のこのクロスオーバーはNBAに大きな影響を与え、その後多くの選手が取り入れるようになった。昔のNBA選手からはクロスオーバーの前でボールを1秒近く保持するのでキャリーじゃないか批判もされたが、ディフェンスをフリーズさせるという意味でこのちょっとのキャリーは非常に効果的だった。彼を一躍スターにしたのが、ルーキー時代にジョーダン相手に1 on 1を仕掛け、クロスオーバーからジャンパーを入れた瞬間だが、この時も高いボールの位置からのクロスオーバーを有効活用している。

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そのスタイリッシュさと観客を引き付けるプレーで時代を席巻したアイバーソンは今後も永遠に語り継がれる唯一無二の選手である。

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No.3 ティム・ハーダウェイ

アイバーソンのクロスオーバーをキャリーだと批判した張本人こそがティム・ハーダウェイである。90年代に活躍したハーダウェイは、キラー・クロスオーバーと呼ばれたムーブを開発し一時代を築いた。このキラー・クロスオーバーの特徴は低い状態からレッグスルーと左右の切り返しを1、2で連続で行うことであり、一瞬レッグスルーでディフェンダーの体重が後ろに乗った状態から一気に切り返す為、ディフェンダーのリアクションが追い付かない。しかもアイバーソンと違いキャリーせずに少ない動作で一連の動きが完結するのでで個人的によりプラスポイントである。クロスオーバーをマスターしたハーダウェイはハーフコートの1 on 1だけでなく、速攻の時でもミスなくこの動きを繰り出せたのが、他選手と違うことである。

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クロスオーバーを人気にしたのはアイバーソンだが、ボールハンドリングの技術に革命をもたらしたのはハーダウェイなのである。

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No.2 アイザイア・トーマス

この選出を見て、えっと思う人も多いかと思うが、クロスオーバーやシグニチャームーブ関係なしに、単純なボールハンドリングスキルで、80年代のスーパースター、アイザイア・トーマスに勝つ人はそうそういない。彼のスタイルはその後のハーダウェイやアイバーソン、ポールの原型となるようなもので、ボールハンドラーの先祖がピート・マラビッチだとしたらアイザイアがゴッドファーザーといった感じだろうか。彼の凄い所はとにかくハンドリングがタイトであることであり、低い姿勢からボールが手にくっついたかのようにドリブルを続けてられる。彼のハイライトには何個も転びそうになりながらボールをキープしているシーンが見られる。このドリブルの技術と勝負強さ、チームをセットアップできる実力によって80年代でマジック・ジョンソンに次ぐポイントガードとして君臨したレジェンドに敬意を払い2位とさせて頂いた。

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No.1 カイリー・アービング

ポールやアイザイアの確実なハンドル、アイバーソンやハーダウェイのクロスオーバー、クロフォードやウィリアムズの派手さが全て組み合わさったのがカイリー・アービングであり、彼のレベルは歴代での中でも頭1つ抜けていると思っている。(リーグ入団当初はよくカリーと一緒にベストハンドラーの一人と言われていたが、カリーとカイリーでは雲泥の差がある) 彼のハンドリングと、空中でのものすごい角度からのレイアップの正確さは群を抜いており、バスケをやる為に生まれてきたボディーコーディネーションだなとつくづく感じる。これまで挙げてきたような左右のクロスオーバー、ビハインドバック、レッグスルーだけでなく、スピン、インアウトドリブルなど技術の多彩さがとにかく光る。

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それだけでなく、ボールが手にくっついているかのごとくどんな方向にも切り返しができ、どのボールの高さでも自由自在にドリブルをし、どんなに体勢が崩れてもボールを失わないコントロール力には脱帽である。長いNBAの中でもここまで見ていて美しく感動するボールハンドラーは他にはおらず、ハイライトを見たらただただ見とれてしまうので最後の動画を是非見て頂きたい。

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オマーのアメリカンカルチャーにおけるインパクト <The Wire> RIP Michael K Williams

どうも。アメリカではNBAのニュースが非常に少なく、アメリカンフットボールのシーズンが丁度はじまった時期で、アメリカのスポーツ熱は完全にフットボール一色であると言える。フットボールももちろん面白いのだが、今回はスポーツから少し離れてエンタメの話をしたい。

 

皆さんはマイケル・K・ウィリアムズという俳優をご存じだろうか。ハリウッドのトップスターではなく、有名な映画の出演もあまりなかった彼だが、ボードウォーク・エンパイアや、ザ・ソプラノズなどのドラマに出演した名脇役的な存在であった。日本での知名度はかなり低いとは思うが、アメリカでは特に黒人コミュニティから非常に多くの尊敬を得ていた。そんな彼は以前から薬物の問題を抱えていたようで、残念ながら9月6日に薬物の過剰摂取で54歳の若さで亡くなってしまってた。そこで彼へのトリビュートを込めて彼の代表作であり、私自身も大好きなHBOのドラマ「The Wire」のキャラクターであるオマーアメリカンドラマにおけるインパクトについて焦点を当てて記事を書いてみる。

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The Wireもあまり日本ではあまり知られていないTV Showだと思うが、アメリカでの評価は非常に高く、毎年のように評論家から絶賛を浴びるドラマをリリースするHBOの中でも歴代トップドラマの1つとして必ず名前が挙がる。The Wire自体放映当初すごい人気があったわけではないのだが、じわじわと知名度が上がり、2008年に放送が終了してからもストリーミングなどの効果でベストショーの1つとしての地位を確立をし、オバマ大統領が最も好きなドラマであると公言していた。

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The Wireの何がすごいかというとその徹底したリアリズムである。アメリカのボルティモアという都市を舞台に、5シーズンを通して、警察、ドラックディラー、ボルティモア議会、ブルーカラーワーカー、メディア、人種差別など、犯罪、政治、教育、差別などが複雑に絡み合った社会を描いている。通常の刑事ドラマのような激しい銃撃戦やドラマチックな展開がしょっちゅう起こるわけではなく、地味な警官の仕事をそのまま見せたり、世の中の現状、社会構造を描くことにフォーカスした作品であることで多くの賞賛を浴びた。一応主人公っぽいキャラクターはいるが、彼のストーリーはあくまで各エピソードの一つであり、登場人物と描かれている舞台の全てがアンサンブルキャストといった感じである。そして警察や一般市民が善とは限らず、悪の警察もいればドラックディーラーの中でも善悪が分かれ、世の中に絶対的な正義はないことを見せてくれる。

 

そんな中でもファンから最も愛されたキャラクターがマイケル・K・ウィリアムズが演じたオマー・リトルである。彼はドラックディーラーを襲って現金やドラックを奪ういわゆるStickup Manであり、ボルティモアのストリートから最も恐れられた人物という設定である。オマーは実際に存在したドニー・アンドリューというSitckup Manをモチーフにしている。ボルティモアストリートに彼の名前と伝説が知れ渡っており、オマーがショットガンを持って口笛を吹きながらストリートに現れると、皆が"Omar coming"と叫びながらその場から逃げていくというほど凶悪な存在である。

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本来であれば彼が悪役となってもおかしくないのだが、何故こんな彼の人気が最も高かったかというと、不条理だらけの社会の中で自分の生き様に負い目を感じることなく、また何も罪がない一般人は襲わないという自らのを信念を貫いていたからである。(A man gotta have a code) オマーが狙うのはドラッグディーラーを中心とした犯罪者のみで、何の罪もない一般人、もしくは女性や子供を狙う事は絶対しないのである。

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自ら罪を犯しながら、視聴者の人気者となった点でオマーはいわゆるアンチ・ヒーローの先駆けの一人と言えるだろう。アンチヒーローといえば、ドラマではThe Wireのちょっと前にザ・ソプラノズがこのジャンルを広め、その後マッド・マンのダン・ドレーパーやブレイキング・バッドのウォルター・ホワイトなどに繋がっていく。

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マフィアのボスが主人公というこれまでにないドラマの形を作ったザ・ソプラノズ

オマーはストリートの絶対的な強者であり、誰もが怯える冷酷さと、信念を貫くかっこよさを兼ね備えた人物であったのだが、それ以上にモラルとは何か、正義を訴える人は偽善者なのか、人によっては悪者が他の人には救世主となるといった、The Wireが教えてくれる世の中の複雑さを体現した存在であった。そこが彼のアメリカドラマ史上におけるステータスを押し上げた要因の1つと言える。オマーの有名なセリフの中に、ドラックディーラーを弁護するが、彼らに強盗しかけるオマーは極悪人だと主張する弁護士に向かって、"I got a shotgun. You got a briefcase"と言って、手段が違うだけでやっていることはどっちも同じと主張したものがあるが、まさにこのドラマのメッセージを象徴するシーンである。

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それ以上に大きなインパクトがあったのが、この誰もが恐れるギャングが黒人のゲイという設定である。それまでのドラマにおけるゲイのキャラクターはコメディー要素が強く、ギャグのネタとなったり、主人公の面白い友達といった扱いを受けることが多かった。また、ヒップホップやマッチョカルチャー、キリスト教の影響が強い黒人の間では、ゲイに対する反応が白人以上にネガティブだったりしていた。そしてそもそも白人もいるドラマの中で黒人キャラクターが脚光を浴びることが少なかった当時、そのドラマで最もクールなキャラクターが黒人かつゲイというのはこれまでのステレオタイプを根本から覆す革命的な出来事だったわけである。昔だったらあったキャラクターがなよなよしたり、ゲイであることを強調するシーンやセリフは一切なく、過酷なストリートを生き抜くタフな人物がたまたまゲイであるというスタンスで描かれている。

 

またただゲイという設定だけでなく、外ではタフなオマーは、自分の恋人と一緒いる時はパートナーに隠すことなく愛を伝えており、これまでタブーとされてきたゲイカップルのラブシーンをごく普通にストーリーの流れで入れた点もオマーは時代の先を行っていた。これもまたコメディタッチで描かれやすかったゲイのキャラクターをあくまで社会の中の一人として表現したThe Wireらしい演出である。

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このハードな外面とソフトな内面を持ち合わせていたこともオマーの大きな魅力の1つであり、マイノリティのRepresentationという点でも彼のアメリカンエンターテイメントへの影響は非常に大きいわけである。

 

複雑なキャラクターを見事にまで演じ、その他の作品の演技でも大きなリスペクトを得ていたマイケル・K・ウィリアムズがドラック依存症に悩まされて、早すぎる死を迎えたのは悲しい限りではあるが、彼とオマーのレガシーは今後もしっかりと受け継がれていくだろう。何故なら彼はいつまでもKingなのだから。

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