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終わらない黒人 v.s. 警察とラプターズGMのマサイ・ウジリに対する訴訟問題

どうも。今回はまたシリアスなトピックとなり、日本では全然報道されていない話をしたいと思う。現地時間8/24に、アメリカのウィスコンシン州のケノーシャという町でまた警官による黒人の銃撃が起きた。ジョージフロイドやブリアナ・テイラーといった警官による黒人の殺害が起きてアメリカ全土で抗議活動がここ数ヶ月起こっているが、そんな中でのこの事件ということで、またケノーシャを中心に大きなプロテストと暴動が起こっている。Black Lives Matterの概要については、以前の記事を是非見て頂きたい。

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今回銃撃されたのは、ジェイコブ・ブレイクという黒人男性である。29歳の彼は不法侵入や、性的暴行といった疑いがかけられており、(実証はされていないが)、決して聖人ではない。然し、今回職務質問を受けていたのはそれとは関係がない。近所で起きた激しい喧嘩の仲介に入ったブレイクは、駐車した車のそばで4人の警官に取り調べを受けていた。そこで、その場で止まっていろという警官の指示に従わず、自分の車の中から何かを取り出そうとしたところで、警官達に後ろから7発撃たれた。しかも車の中には彼の子供が3人いたのにである。ブレイクは一命を取り留めたが、今後歩くことはできないだろうと報道されている。この点について、警官の言う事を聞かなかったのがいけないという意見はもちろんあるだろうし、彼が車の中から何か凶器を取りだそうかもしれないということも考えられる。だとしてもだ、こういった時の為に警官はトレーニングを受けている訳で、4人の警官が1人の一般人相手に銃を使わずに単純に押さえ込むことができるのは容易に想像がつく。ブレイクが撃たれた時には手元に凶器もなかったのであるから。

要するにここが大きな問題なのである。警官の命が危うくない状況で、不必要に銃を使うのは何故かを追求しなければいけない。しかも7発も。たとえどんなに危険な状況であったとしても1発、2発打てば効果は十分あるはずであるのに、7発も打つのはただの見せしめとしか考えられない。これが相手が白人であったらどうだろうか。ほぼ全てのケースでまず銃で撃たれることはなく、いきなり取り押さえられるといったこともないだろう。白人であれば警察の指示を聞かなかった場合でも、暴力を振るわれることは考えづらい。今回は死亡までにいたらなかったが、前述のブリアナ・テイラーは深夜に自分の家で寝ているところを、いきなり3人の警官が侵入し、有無を言わさず銃で殺している。薬物扱いの疑惑を警官が持っていたらしいが、実際はテイラーは何もしていなかったことが証明されている。(白人の方が警官による射殺が多いというデータもあるが、そもそもの人口における白人対黒人の比率が圧倒的に違う)

 

今回の事件に関しては、現在プレイオフ真っ只中のNBAでも大きな話題となっている。リーグの大半を黒人プレイヤーが占めるNBAは、オーランドのバブルで行われる各試合のコート上にBlack Lives Matterと埋め込み、チームのTシャツにもBlack Lives Matterやその他のソーシャルメッセージが書かれており、この数ヶ月のムーブメントを大きくサポートしている。そんな中でのこの事件に対して、レブロン・ジェームズや、クリッパーズのヘッドコーチ、ドック・リバースが非常にパワフルな発言をしている。特にドック・リバースのスピーチの中で、「何故我々がアメリカを愛するように、アメリカが黒人を愛してくれないのか」という言葉は心が痛む。

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更に、トロント・ラプターズは抗議の意味でプレイオフ第2ラウンドの1試合目のボイコットすら検討している。ボイコットをすることによって多額の金銭的な損失が出るだけでなく、スポーツを超えてニュースとなり、より多くの人に背景が伝わる。それによって地域の権力者にプレッシャーをかけるという動きである。そんなトロント・ラプターズはつい先週コート外で他の話題が起きた。

昨年優勝したトロント・ラプターズの最高責任者であるマサイ・ウジリは、現代NBAで最も成功したGMの1人であり、1年契約しか残っていなかったクワイ・レナードをトレードで獲得してフランチャイズ初の優勝に導いた。また、NBAの中でも数少ない黒人のGMで、現在一番影響力があるといえる。(ナイジェリア出身のマサイがここまで上り詰めたのはまさにアメリカンドリームだと思う)

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そんな彼はチャンピオンシップを獲得したNBAファイナル第6戦が終わった後、ゴールデンステート・ウォリアーズのホームコートであるオラクルアリーナで当日セキュリティをしていた郡保安官から訴えられたのである。当初の報道では、優勝を祝う為にコートに降りてきたマサイが関係者であると証明するカードを持っていないにも関わらず、保安官をプッシュして暴力を振るったというものである。それにより保安官は精神的な苦痛を受けて、仕事を辞めざる終えず、今後の人生を壊したと主張した。加えてこの保安官の奥さんまでもが、家族に大きなダメージを与えたとしてマサイを訴えていた。この保安官は言うまでもなく白人である。

この訴えに対して、マサイ側が事実無根であるとカウンター訴訟を起こし、長期戦となっていたが、1年経って先週にいきなり保安官が付けていたボディーカメラの映像がマサイの弁護側から公開された。

 この映像を見てもらえれば明らかだと思うが、マサイ側がプッシュしている証拠は一切ない。明らかにセキュリティ側がマサイを突き飛ばしている。ルールとして関係者であると示すバッジを最初付けていなかったのは確かだが、最初にプッシュされた後にバッジを見せようとしており、もう1回突き飛ばされる理由は一切ない。これだけでもおかしな話だが、自分の主張をバックアップする証拠がないにも関わらず、マサイを訴える神経がすごい。ちなみに、白人のNBAレポーターはマサイと同じようにバッジを持っていなかったが、何も言われずにコートの中に入ることができたと証言している。

 

そもそも保安官側が、虚偽の訴えがまかり通ると思ったこと自体が、現代アメリカの問題を表している。白人の警官・保安官が事実と違う話を伝えた場合に、責任を問われないどころか、賠償金すら得られる可能性がある構図ができてしまっているのである。NBAチームのトップであり、金持ちのマサイであったから、大金を払って弁護士を雇い自分の無実を証明することができるが、果たしてアメリカ全体の何%の黒人が同じ事ができるだろうか。何も悪いことをしていないのに、黒人であるということで白人に訴えられ、ほとんどの人が諦めて賠償金を払う、もしくはムショに入ることになるだろう。何もしていないのに、白人警官から暴力を加えられ、場合によっては殺されてしまうケースもある。繰り返しになるが、NBAというプラットフォームがあるからこそ、この問題が取り上げられるが、全く知られていない一般人に対して毎日同様の仕打ちか、それよりひどい事が行われているのである。

 

上述のように一般人であったジェイコブ・ブレイクは、凶器を持っていなかったにもかかわらず、少しの抵抗を見せただけで7発打たれて下半身不随になってしまう。一方、マサイ・ウジリはNBAという世界最高峰のスポーツリーグのチームプレジデントとなり、その業界の頂点を極め、自分が集めたロスター達が優勝を勝ち取った瞬間で、改めて思い知らされるのである。どんなにその道を極め、偉大な存在となったとしても、何よりもまず自分は黒人ということを。保安官から押されたマサイの顔がそれを物語っている。