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レブロンが変えたNBA (ジェームズ・ハーデンとNBAプレイヤーの持つ力: 後篇)

どうも。今回の記事では、引き続きジェームズ・ハーデンのトレードとPlayer Empowermentについて最近の事例を基に深堀をしていきたい。
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既にネッツで3試合でプレーしているハーデンは、トレード前のロケッツの時と比べて、明らかにモチベーションが高い。デゥラントとのコンビネーションにも大方問題なく、ハーデンがアシスト役をかって出ている様子である。ここにカイリーが入ってきたのだが、そこでチームダイナミックスが変わってくるはずである。やはりボールが必要なアイソレーションスコアラーが2人いるのと3人では大きな違いがあると思う。実際現地20日キャバリアーズ戦ではカイリーがボールを保持しすぎてオフェンスのバランスが崩れていると感じたし、これがみんなが慣れてきた30試合目になったときにチームケミストリーがどうなっているかは見ものである。個人的にはこの3人では最終的には機能しないと思っていて、何より、チームディフェンスが弱すぎるのがプレイオフではネックになる気がしている。ネッツについては更に詳しく次回見ていきたいと思う。


ということで、ここからは本題であるPlayer Empowerment時代と呼ばれるここ10年の流れを変えたレブロン・ジェームズとその後に続いた選手について見ていきたい。レブロン登場前の歴史は前篇の記事をご参照。
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1. LeBronが変えたNBA

レブロンNBA史上最高の選手の一人であることは誰もが認めるところであるだろうが、彼のNBAにおけるインパクトはそれだけではない。ス―パスターである彼が、黒人差別、Police Brutalities、トランプといった政治的トピックに対しても積極的に自分の意見を発信したのたはスポーツ界に大きな影響を与えている。特にNBAでは、マジック、バード、ジョーダン、シャック、コービー等の最も有名なスター達がこういった社会問題に対して言及することは少なかった中、レブロンが自らリスクも負いながらも自分の意見を発信するようになったことで、NBAに限らず多くのスポーツ選手が表現の自由を重視するようになってきている。

彼がそれ以上にNBAの基盤を揺るがした革命的な動きがPlayer Empowermentである。そのターニングポイントとなったのは、2010年のレブロンFA権の動向についてNBA中が踊らされた、The Decisionだと言える。

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The Decisoinと名付けられた1時間の特番は大きな話題と批判を生んだ


2003年にクリーブランド・キャバリアーズに入団し、7年間のうち2007年にはファイナルにも進出したが、周りに他にスター選手がいない中孤軍奮闘していることが多かったレブロンは、The Decisionの前に既にNBAの慣習を変えることに成功している。ルーキー契約が終わる2007年は契約更新の年だったが、その当時通常5年以上の契約を結ぶ選手が多い中、彼は4年と短めの契約でサインしている。90年代後半から、2000年代初頭のNBAは、7年や8年契約といった長期契約が多く、チームはスターを確保する、スターは金銭面の安定を図るといった動きが見られていた。然し、これは各チームが不振になった際に再建しづらく、スターもチームに不満があっても、契約年数が多く残っていることから、トレード要求をしづらいという構造になっていた。そんな中、自分自身の実力に絶対な自信を持ち、4年目で既にリーグでもトップクラスの選手となっていたレブロンは、年数の短い契約にサインすることで、自分自身の選択肢を増やすとともに、チームが補強をしっかりとしなければ数年でFAでいなくなるぞというプレッシャーをかけるようにしたのである。


その後2008年にはカンファレンス・セミファイナルでセルティックスに敗退し、2009年には、MVPも獲得しレギュラーシーズン最高勝率を残しながらも、カンファレンス・セミファイナルでマジックに敗れていた。その為、フリーエージェントが迫る2009-2010年シーズンはレブロンがオフにどこに行くのかというのが1年中の話題となった。レブロンキャバリアーズに残留するとも、移籍するとも明言しなかったことで、メディアを踊らせていた。そしてその年のプレイオフでは再びカンファレンス・セミファイナルでセルティックスに敗れ、特に追い込まれた第6戦では、終盤諦めているようなしぐさやチームメイトに落胆しているような表情を見せながら、あっけなく負けたことで、彼が移籍するのではないかという報道が更に過熱していった。


希代のス―パスターを獲得しようと、キャブス以外に、ブルズ、ネッツ、ニックス、クリッパーズ、ヒートなどが名乗りを上げていた。様々な憶測が流れたが、ここでまたレブロンが歴史を作る。自分がどこに移籍するかをテレビで1時間の特番で放送すると伝えたのだ。そんなことは過去にどのスポーツでもなく、自分の移籍を世間の前で大発表するというのはメディアに驚きを与えた。テレビ放送をすると決まったことで、彼の行先は連日ようにスポーツ番組で取り上げられていく。そして、番組当日となり、アナウンサーのジム・グレイとレブロンが2人でひたすら話し、1時間のうち最初の45分はずーっと前置きというかなり退屈な内容であったが、最後の最後にレブロンが爆弾を落とす。"I am going to take my talent to south beach"と言い、マイアミ・ヒートに移籍することを発表したのである。しかも、地元クリーブランドの会場である。更に後から報道されたところによると、キャバリアーズレブロンが移籍をすることは事前に知らされておらず、皆と同じくテレビで知ったそうである。(これについて、キャバリアーズのオーナーがぶちギレしてレブロンを貶しまくる声明を発表したのもまた物議を呼んだ)


このある意味残酷な移籍発表のやり方だけでもレブロンは大きな批判を受けたが、移籍したチームがチームなだけに、更に反感を買った。レブロン移籍の前日に、ラプターズでスター選手になっていたクリス・ボッシュがスーパースターのドウェイン・ウェイドがいるヒートにFAで移籍することが決まっていた。そこにレブロンが加入するということで全盛期真っただ中のスター選手3人が同じチームに所属するという前例のパワーハウスとなったのである。それまでにも、80年代のレイカーズセルティックス、2008年に優勝したばかりのセルティックスもBig 3がいたが、それらはトレードやドラフトで集まった場合が多く、年代もバラバラであったが、同じ世代の仲良し3人選手が事前に話し合いをし、ヒートに3人で集まろうと計画を立てことが新しかったのである。また、昔ながらの考え方では特にレブロンとウェイドのようなス―パスターがチームメイトになろうとすること自体があり得ないことであり、違うチームで競い合うべきだと考えられていた。一気に優勝候補筆頭となり、シーズンが始まる前からちょっと調子に乗っていた感もあったレブロンとヒートはNBAのヒール役となり批判を受けまくったが、レブロンがいた4年間全てでファイナルに進出し、そのうち2回Championになったので、結果的にはレブロンが勝ったと言えるであろう。
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2. The Decision移行も歴史を塗り替えるLeBron


ヒートに移籍して念願のNBAファイナル優勝もしたレブロンだが、これだけでは満足はしない。4年間ヒートにいたと思ったら、あっさりと見切りをつけなんとキャバリアーズにまた戻ったのである。2014年の時点で、ヒートのサポーティングキャストは弱っており、ウェイドもケガが重なり全盛期を過ぎていた。レブロン移籍後最弱チームとなっていたキャバリアーズはドラフト1位でカイリー・アービングを獲得していた。そこでレブロンは今のヒートよりキャブスの可能性があると判断し、移籍を決断する。ちなみに、表上はレブロンが地元に戻ったのは、キャブスにチャンピョンシップを獲得させてあげたいからとエモーショナルな発表の仕方ではあったが、じゃあキャブスで優勝できるチャンスがない状態だったら戻ってはいないはずだと個人的に思っている。そしてキャブスに戻ることが決まると、レブロンはフロントにプレシャーをかけ、その年のドラフト1位のアンドリュー・ウィギンズをミネソタ・ティンバーウルブズのスター選手だったケビン・ラブとトレードさせ、再度Big 3を形成することになる。


2回目のキャバリアーズ時代では、2016年にはNBAファイナル史上初めて1勝3敗から、カムバックし優勝するわけだが、彼の改革は止まらない。最初のキャバリアーズ時代にはじめた短期契約を更に加速させ、基本的に2年契約をし、1年ごとにFA権を行使できる内容にしたのである。その為、チームの成績次第でいついなくなることもできるぞと、毎年フロントオフィスにプレッシャーをかけ続けられる。実際キャブスはドラフトアセットを毎年のように使って、選手補強をしていた。こういったプレーヤーが主導権を握るパワームーブは、この頃からレブロン以外の選手も真似するようになる。

3. LeBron以外の事例


リーグNo.2プレイヤーのケヴィン・デゥラントもレブロンの後を追うように、スーパーチームにジョインする。当時オクラホマシティー・サンダーに所属していたKDは、毎年強いチームではあったが優勝までいかず、2016年のプレイオフではステファン・カリー率いる73勝チームのウォーリアーズに3勝1敗と王手をかけながら、逆転負けする。(その後ウォーリアーズがファイナルで3勝1敗からキャブスに逆転負けする訳だから面白い) その年FAとなった、デゥラントはなんと自分が負けたばかりのウォーリアーズに加入することになったのである。レブロンが移籍した時のヒートは前年まであまり強いチームではなかったのだが、デゥラントが移籍したウォーリアーズは既に優勝経験もあり、前年に73勝したチームである。そんなゴリゴリ強いチームにデゥラントが入ったことで、彼は大バッシングを受けたが、ウォーリアーズは史上最強チームの1つとなり、KDは2度ファイナルMVPを手にする。また、KDもレブロンと同じく1年毎の契約更新をしていたが、結局3年でウォーリアーズを去り、友達のカイリーと一緒にネッツに加入する。
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既にスパーズで優勝経験があったカワイ・レナードもPlayer Empowermentを行使する。レナードは寡黙でいかにもスパーズらしいティム・ダンカンの後継者と思われていたが、2017年シーズンにケガをした足の診断と治療の意見の違いからスパーズにフラストレーションを溜めていく。スパーズ側はレナードがいつでもプレーできる状態だと主張していたのに対して、レナードはまだまだケガが完治していないと試合に出ることを拒否した。結局レナードを説得しきれなかったスパーズは彼をトレードせざるなくなり、オフシーズンにラプターズにトレードする。サンディエゴ出身でLAのチームに移籍を希望していると報じられていたレナードが、極寒のトロントでハッピーになるのかと言われていたが、移籍した年にラプターズは優勝をし、レナードは1年できっぱりとラプターズを去り、以前の予想通りFAでクリッパーズに移籍する。プレイオフの大活躍でかなりの力をもつようになったレナードは、スパーズ時代より更にすごい要求をする。クリッパーズに移籍するためには、サンダーにいるポール・ジョージをどうにかして獲得するようにとクリッパーズに指示したのである。ジョージは前年にサンダーと契約更新したしたばかりであり、その選手をトレードで獲得するのは通常あり得ないことだが、ジョージもクリッパーズへのトレードを要求したのだ。優勝する為に躍起になっていたクリッパーズはレナードをどうしても獲得する為に、自分達の持っているドラフトアセットや有望な選手をまとめてサンダーにトレードして、ジョージを獲得した。まだチームに加入していない選手が自分が欲しいならこの選手をトレードしろ指示するのは新たなPlayer Empowermentの形となった。レナードもまた2年だけの短い契約を結んでいる。
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最後に、ニューオリンズペリカンズにいたアンソニーデイビスの例を紹介した。長年弱小チームで孤軍奮闘し、プレイオフに1度しか進出していなかったデイビスは、2018年のオフにやり手のエージェント、リッチ・ポールがいるKlutch Sportsとエージェント契約をする。このリッチ・ポールはレブロンの昔からの親友であり、レブロンはじめ多くの選手と契約している。レブロンの親友ということもあり、実質上レブロンもマネージメントに関わっているようなものである。なのでレブロンのいたキャブスでもKlutch Sportsと契約していた選手は高額契約を勝ち取ったりして、明らかにレブロンの影響力が見えていた。正式には現役選手がそういった行為をしてはいけないのだが、書面上レブロンが関わってないといことで、黙認されているような感じである。こんなところからもレブロンがどらだけリーグに変化をもたらしたかが分かる。


話を戻すと、丁度2018年にレブロンレイカーズに移籍をしており、その直後にデイビスがKlutch Sportsと契約をしたことで、デイビスレイカーズに移籍を希望するのではないかと噂がはじまる。そしてデイビスはまだ後1年半契約が残っていたのだが、シーズン途中でトレードを要求し、レイカーズを指定した。まだ1年半契約が残っていれば、昔であればチームがスーパースターをトレードする必要はないのだが、デイビスは本気でプレーすることなく、ペリカンズにとってチームケミストリーを崩す大きな問題となっていく。最終的にペリカンズは、そのシーズン中にデイビスをトレードすることを決め、移籍が確実視されていたレイカーズに送ることにしたのである。もちろんペリカンズは他チームにトレードすることもできたのだが、結局一番多くのトレードアセットを提示したレイカーズで決めている。希望通りのチームに移籍したデイビスレブロンは1年目から息の合ったプレーを見せ見事に優勝しており、デイビスもトレード要求をして大万歳であっただろう。
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Player Empowermentですごいのは、事例で見たように、移籍を希望するス―パスターは移籍先で大体成功を収めてしまうことが多い。その為、より多くの選手が自分の力を行使するようになり、今まで支配権を持っていたチームはこの動きをどんどんと怖がり、一体どこまでプレイヤーのわがままが通じるのかと懸念するようになっている。この究極の形が今回のジェームズ・ハーデンのトレードなのだが、ハーデンのトレードの詳細とネッツのドタバタについてはまた次回の記事で記載したい。

ジェームズ・ハーデンとNBAプレイヤーの持つ力 (前篇: 2010年以前)

どうも。前回はトランプやアメリカの情勢に関するシリアスなトピックとなったが、今回はNBAにおける超重要な話題、ジェームズ・ハーデンのブルックリン・ネッツへのトレードについて触れてみたい。

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また同時に今回のトレードはハーデンのトレードリクエストのやり方に色々と焦点が集まったが、ここ数年NBAで叫ばれているPlayer Empowerment (以前は、オーナーやチームが選手を好きなようにトレードしたりしていたが、最近は選手が主導権を握り、自分達の行きたい場所に移籍できるように仕掛ける動き) の新たな形と言えると思う。そこでこの記事ではこれまでのPlayer Empowermentの大まかな歴史 (細かい動きはカットしているのでご了承頂きたい) と、そのターニングポイントを絡めながらハーデンのトレードの全貌について考えていきたい。情報量が多くなってしまう為、前篇と後篇に分けて投稿をし、前篇はPlayer Emopowermentが本格化する前の歴史的側面について記載する。

 

1. NBA繁栄前のPlayer Empowerment

NBAプレイヤーがチームと契約中でありながら、トレードをリクエストすること自体は今にはじまったことではない。著名な選手で見ていくと、NBA史上最高の得点王カリーム・アブドゥル・ジャバーが挙げられる。カリームは所属していたミルウォーキー・バックスから1975年にトレードをリクエストしたのだ。(カリーム以前にもウィルト・チェンバレンがオーナとの対立からトレードを要求したが、対立関係なくトレードリクエストをした有力選手はカリームが初めてと言われている) 彼はバックスで既にチャンピオンにもなり、MVPも複数回選ばれ、NBAナンバーワンの選手となっていたが、ミルウォーキーという町自体が黒人や彼の信仰していたイスラム教に寛容でなかったという理由で大都市のニューヨークやロサンゼルスへのトレードを要求したのだ。これはカリームという思慮深い人間、70年代という時代背景の影響も大きかったという点で独特である。LAレイカーズ移籍後はマジック・ジョンソンがドラフトで入団するという幸運にも恵まれ、彼はその後5回優勝を獲得している。

カリームの黒人文化・問題へのinvolvmentと影響力については以前の記事をご参考頂きたい。

atsukobe.hatenablog.com

 

2. 90年代から増えてくるプレイヤーのパワー

カリームが移籍した70年代はまだまだNBAの人気がない時代であり、選手も力がなければ、チームも財力がなかった。その後70年代後半のジュリアス・アービングの登場から、80年代のマジック、バード、90年代のジョーダンによって、NBAの人気が非常に高まったと同時に選手も少しずつ力を持つようになっていく。有名なところでは、スーパースターのチャールズ・バークレーが万年NBAファイナルの進出の可能性がなく、92年にプレイオフを逃したばかりの、フィラデルフィア・セブンティーシクサーズから、優勝を狙えるチームへのトレードを要求し、フェニックス・サンズへ移籍をした。その年のサンズはリーグ最高の勝率を逃し、バークレーはMVPを獲得しただけでなく、唯一のNBAファイナルに進出しており、移籍は成功したと言えるだろう。

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NBAファイナルでジョーダンと対戦するバークレー

90年代は、スーパースターだけでなく、若い選手の要求が目立つようになっていく。チームメイトのラリー・ジョンソンとのエゴの衝突から、3年目終了後のオフシーズンにシャーロット・ホーネッツから移籍を要求したアロンゾ・モーニングコーチであるドン・ネルソンと馬が合わず、ルーキーシーズン後にトレードされたクリス・ウェバー、チームメイトのケビン・ガーネットが史上最高額の契約を結んだことに嫉妬したステファン・マーブリー等々が有名な話である。

 

この時代で面白い事例が1999年のドラフトで、当時のバンクーバーグリズリーズに指名された、ティーブ・フランシスである。テネシー出身の彼は、カナダの事を知らない、バンクーバーがものすごい寒いと思っていたなどの理由で、グリズリーズに入団すること拒否し、交渉の末シーズン開始前にヒューストン・ロケッツにトレードされている。入団前に拒否権を行使するのは、なんだかんだ日本のプロ野球のドラフトに近いのではないか。

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引退してからも色々苦労があったフランシス

 ロケッツで新人王も獲得したフランシスだが、その後のプロ生活は順風満帆とはいかなかった。上述のモーニングは病気、ウェバーはケガ、マーブリーはプレイスタイル等の問題で、皆ポテンシャルを出し切れなかった共通点があるのは面白い。

 

2000年代に入って、最も今のPlayer Empowermentに近い動きをしたのが、ヴィンス・カーターである。98年に入団したカーターは、カナダ史上初のNBAチームであるトロント・ラプターズを盛り上げる事に大いに貢献し、最高級のダンクの連発により、Air Canadaと呼ばれ、NBAでもトップクラスの人気を誇っていた。最初の数シーズンは飛ぶ鳥勢いの活躍を見せたが、その後はケガが重なりプレイオフでも成功を収められていなかった。また、マネージメントへの不満を溜めていた彼は、しばらくするとトレードを希望するだけでなく、どんどんとやる気をなくしたプレーを見せるようになっていく。そんなプレーぶりから、ラプターズファンからは、ケガをフェイクしているのではないかとまで言われていた。実際に、ラプターズで最後にプレーした2004年の成績と、シーズン途中で移籍するニュージャージー・ネッツでの成績を見ると明らかに彼が手を抜いていたことがわかる。ラプターズで平均15.9得点だったのが、ネッツ移籍後に27.5点になり、FG、3Pt、フリスロー全ての確率が5%以上上がっており、確実に移籍後やる気を取り戻したと言われておかしくない。ラプターズファンからずーと嫌われていた理由が分かる。

ヴィンスの22年に渡る選手歴については以前記事にまとめたので、是非お読み頂きたい!

atsukobe.hatenablog.com

 

3. レブロンが完全に流れを変える

NBAスター達がパワーを持ってきたとはいえ、2010年頃まではあくまでチーム側が主導権を握っていることが多かった。プレイヤーはチームの従うまでにトレードをされたり、チームやファンが選手にはロイヤリティを求めるのに、彼らにはロイヤリティが与えられていなかった。この構造を真っ向から変えたのが、泣く子も黙るスーパースター、レブロン・ジェームズである。レブロン自身がトレードを要求したことはないのだが、彼は自分が持つ選手としての価値を利用し、チームにコミットすることをせずに、自分が行きたいチームにはいつでもいけるんだぞというスタンスを取るようになる。これの最たる例が2010年のいわゆる、"Decision"である。

 

このDecisionからの10年間の動きは、後篇に続きます。

トランプというアメリカのカルトリーダーと陰謀に踊らされる白人至上主義

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どうも。前回のブログから大分時間が経ってしまったが、久しぶりに記事を書いてみようと思いたったので再始動してみます。というのも、1/6に起こったアメリカ議会の襲撃はアメリカの歴史上最悪の1日として多くの人を驚かせたが、これは決していきなり起こったことではないということを説明したいと思ったからである。ということで、今回はトランプという教祖とそれによってアクティベートされた白人至上主義、蔓延る陰謀論とこのテロの繋がりについてまとめてみたい。

 

1. トランプという異質な存在

トランプはアメリカの政治史上今まで全くいなかった存在である。これまでの大統領は政策や思考に違いはそれぞれあるとしても、国を1つにまとめようとするメッセージを発信してきたが、トランプは自分を信じる人達だけにアピールをしてきた。自分に従わない人、メディア、企業は全て敵となる。彼の戦法はいたってシンプルであり、人に恐怖を植え付けることで、その状況から支持者を守れるのはトランプしかないと謳うのである。リベラル、民主党は君達の権利を奪おうとしていると訴え、保守派や共和党でもトランプについて少しでも批判すれば、彼らは君達の敵であり、アメリカを落とし入れようとしていると主張する。そうすることで、彼の支持者は自分達のことを代弁してくれている強烈な指導者だと信じ込んでいく。

ここで面白いのは、トランプの政策は共和党が打ち出す小さな政府、裕福な層や大企業の税制を優遇していくものなのだが、トランプの支持者の大半は中西部や南部のブルーカラー層である。つまり、支持者の大半にとっては生活が苦しくなるはずの政策方針にも関わらず、表面上のメッセージをに踊らされ、何も疑うことなくトランプを信じている。要はトランプはカルト集団の教祖のような存在であると私は思っている。

 

2. 繰り返される嘘と大統領選挙

トランプは、毎日何十回のツイートや会見の中で、事実に全く基づかない無数の嘘をつくが、それをあたかも真実かのように語る (本人は本当だと思い込んでいるのかもしれないが) というある意味政治上有効なスキルを持っている。また、自分がミスをしたり、負けたということが一切認めることができない。(単なるナルシストなのか、病的なものではないかと疑うほどである)  例えば、アップルCEOのティム・アレンと話した時に、彼のことをティム・アップルと間違えてしまったのだが、その後トランプは自分はティム・アップルと間違えていないと言い張り、フェイクニュースだと突っぱねたりしている。その為、客観的に考えたらおかしいと思えることが、教徒となった支持者には全部真実のように聞こえてしまう。

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この4年間超で数えきれないフェイクインフォメーションがトランプ政権から流されてきたが、最も重大かつ最近の誤情報は大統領選挙に不正があったという主張である。2016年の大統領選でにヒラリー相手に勝ち当選した時ですら、トランプは選挙に不正があったと主張していたのである。州毎で票数の数が振り分けられ、各州勝つ事に合計票数が足されることで勝者が決まるElectoral collegeではトランプが勝ったが、単純な投票人数の合計であるPopular Voteではヒラリーが勝っており、それに対してトランプは自分の方が投票数が少ないはずがない、Popular Voteでも自分が多いはずだと言い張った。その時でも、全くといって不正の証拠は見つからなかったのだが、4年経っても演説で言い続けたのである。そして2020年の選挙では更に嘘が加速し、自分がElectoral Collegeで負けたのはおかしいと言い張り、11月の選挙の結果に対して未だに敗北を正式に認めていない。

 

トランプが敗北を認めないだろうという布石は選挙前から随所に見られていた。会見やツイッターではしきりに、もし自分が負けるとしたら不正があったからなはず、自分が敗北してもちゃんとした理由が確認できなければ政権移行はしないと言っていた。また、コロナの関係で郵便投票が通常よりかなり多くなるることについても、郵便投票で来た票は一部を無効にすべきとも訴えていた。コロナの中で選挙当日に投票所まで足を運ぶのは、マスクやコロナを信じない傾向が強い共和党支持者であり、郵便投票の多数はバイデンにいくからである。トランプの大きな特徴として、普通の悪人と違い、企んでいるプランを全く隠すことなく世間に伝えているのである。それなのに、メディアや政治家は、彼が事前にほのめかし方ことが現実になる度に驚いているのは不思議で仕方ない。

 

大統領選は郵便投票の開票が、州によって選挙当日夜から最後にされたことにより、非常に時間がかかった。その為、最初の方はトランプがリードしているかのように見えたが、最終的には多くの郵便投票の数がカウントされ、キーとなる州でバイデンが勝ち、Electoroal Collegeで必要な票数を獲得した。当然のようにトランプは自分が勝っていた州が最後にひっくり返ったのは不正があったからに違いないと訴えたのである。ここでも面白いのが、開票の途中でトランプが逆転されたミシガンやペンシルバニア州では支持者が集まり投票のカウントをもう止めろと言ったのに対して、バイデンが優勢だったところ最後にトランプとの差が縮まったアリゾナ州では逆にもっと票数を数えろと連呼したのである。結局は自分が勝てば、主張の一貫性などどうでもいいということであろう。このつじつまが合わない事実を無視して盲目にひたすら支持をするグループがアメリカの半分近くいるのはまさにカルトそのものである。

 

3. 陰謀論の流行

大統領選挙については、たくさんの嘘、というか陰謀論がトランプ陣営から主張された。一部のトランプ票がカウントされていない、投票用紙を運んだ人が故意的に票を捨てた、投票機メーカーがおかしいといった様々な手を使って不正を訴えたが、何一つ証拠となるものは見れていない。トランプが負けた各州に対して、政府は訴訟を起こそうとしたが、事実がともわない為すべて失敗に終わっている。こうした陰謀に対しても、支持者は本当だと信じ込み、SNS等で自分達のセオリーを広めている。(なぜか日本でも信者が多いが、、、) こうした陰謀が広まりやすくなったのは、単にトランプが大統領になったというだけでなく、SNSの普及ももちろん影響しているだろう。特にSNSでニュースを見る人たちが増えたことにより、政治思考に関係なく、アルゴリズムやフォローする人によって伝えられる情報が全く違ってきていることは大きな社会問題である。その為、自分が信じている内容をサポートしているものだけ見るようになり、客観的な事実が把握できなくなっていく。

それの最たる例がQアノンであろう。その内容は、民主党議員やハリウッドの俳優は裏でアメリカを乗っ取っており、世界で売春組織を運営し、幼児愛者かつ子供の血を吸い取る悪魔のような組織であり、そしてそれを救う救世主がトランプなのだという普通に考えてありえないものである。この訳も分からない陰謀がSNSで拡散されると、Qアノン信者はどんどんと増えていき、今ではFBIから脅威と見なされるグループまでになった。これは誰もが好きなことを投稿できてしまうSNS時代になったことによる弊害であることは間違いない。このQアノンを支持する人の1人ががこの前共和党から当選したのが、これは恐ろしい事である。陰謀を信じる者が議会にいては、当然偏った政策しか支持されない。当然ながらトランプは彼らの事を批判はしていない。

 

こうして強烈なリーダーとそれを崇拝する陰謀信者によって、彼らは選挙の不正を出張し続け、バイデンが勝ったという事実を認めないだけでなく、自分達がどうにかしなければいけないと思うようになる。

 

4. 力を与えられた白人至上主義者

最後に重要となる要素は、強まる白人至上主義でる。もちろんアメリカの歴史は差別の歴史と言ってもいいかもしれないが、白人至上主義者が表立った活動をすることはKKK以外あまりなく、特に近年はメインストリームな動きではなかった。然し、前述のSNSの普及や黒人大統領のオバマの存在により、一部の白人達は、自分達は社会から除外されれていると考えるようになり、グループとして固まるようになる。そこにトランプが登場し、白人目線のメッセージを訴えたたことにより、彼らは白人が他人種より優れており、昔良きアメリカを取り戻す必要があるのだという認識を更に強めていく。そして世界で最も強力な国の指導者が自分たちのことを褒め、支えてくれていると感じ、自分達は何でもできると思うようになっていく。(実際トランプは、Proud Boysや白人によるユダヤ人差別デモについて公式に批判したことはない) 

年末から年始にかけて、トランプや、トランプJr.、ルディー・ジュリアーニは何が何でも政権を守る必要があると支持者に訴え、バイデンが正式に大統領に任命される1/6をみんなで阻止しようとまで伝えていた。自分の絶対的な指導者であるトランプが選挙は不正だったと言っている、彼が負けるはずがないと思い込んだ支持者達は、選ばれし存在だと思い込み、トランプの言われるまま議会を襲ったのである。

 

ここで見逃していけないのは、Black Lives Matterの際の警察の対応と今回の大きな違いである。前者は、特に昨年夏の警官によるジョージ・フロイド殺害があった後に大きなムーブメントなったが、一部の暴動を除き平和的に行われていた。もちろん暴動についてはしかるべき対応が必要だが、武器も保持せずただ行進している人達に対しても、警察は時に催涙ガスや暴力で対抗し、死者も何人も出た。それに対して、今回はアメリカ議会という最も安全が保証されなければいけない場所で白人達がテロを起こしたにも関わらず、警察が暴力で対応することは少なく、テロリスト達を簡単に議会に入れさせ、一部の警官が一緒にセルフィ―を取ったりしていたのだ。これは警官の中に一定以上トランプ支持者がいるからである。だから警察は黒人をサポートする運動には厳しく対抗し、白人達のテロには甘い対応となる。これが黒人によるデモだったとしたら、真っ先に銃が使われ、死者は数十人ではおさまらなかっただろう。まさに、White Privilaegeをまざまざと見せつけられた事象と言えるだろう。

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トランプというカリスマ的教祖、彼によって発信される嘘、SNSによって広がった多くの陰謀、力を持った白人至上主義者によって今回の事件は起きた。これは一過性のものではなく、過去4年間のトランプと彼の支持者の動きを見ていれば、驚くことでない。トランプを支持する者は何が起きても彼から離れず、副大統領のマイク・ペンスが選挙不正の件でトランプと一線を画しただけで、「ペンスの首を吊れ」と訴えていた。ペンスは4年間ずっとトランプのする事を黙認してきたのにである。

 

今回のテロについては決して許してはならず、今後の更なる情報の整備と議員達による議会の統制が求められる。トランプが大統領でなくなっても、ここまで大きくなった彼の基盤が今後も黙っていることは考えられず、4年後の大統領選までに様々な動きをしてくるであろう。バイデン政権にとっての試練は始まったばかりである。

終わらない黒人 v.s. 警察とラプターズGMのマサイ・ウジリに対する訴訟問題

どうも。今回はまたシリアスなトピックとなり、日本では全然報道されていない話をしたいと思う。現地時間8/24に、アメリカのウィスコンシン州のケノーシャという町でまた警官による黒人の銃撃が起きた。ジョージフロイドやブリアナ・テイラーといった警官による黒人の殺害が起きてアメリカ全土で抗議活動がここ数ヶ月起こっているが、そんな中でのこの事件ということで、またケノーシャを中心に大きなプロテストと暴動が起こっている。Black Lives Matterの概要については、以前の記事を是非見て頂きたい。

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今回銃撃されたのは、ジェイコブ・ブレイクという黒人男性である。29歳の彼は不法侵入や、性的暴行といった疑いがかけられており、(実証はされていないが)、決して聖人ではない。然し、今回職務質問を受けていたのはそれとは関係がない。近所で起きた激しい喧嘩の仲介に入ったブレイクは、駐車した車のそばで4人の警官に取り調べを受けていた。そこで、その場で止まっていろという警官の指示に従わず、自分の車の中から何かを取り出そうとしたところで、警官達に後ろから7発撃たれた。しかも車の中には彼の子供が3人いたのにである。ブレイクは一命を取り留めたが、今後歩くことはできないだろうと報道されている。この点について、警官の言う事を聞かなかったのがいけないという意見はもちろんあるだろうし、彼が車の中から何か凶器を取りだそうかもしれないということも考えられる。だとしてもだ、こういった時の為に警官はトレーニングを受けている訳で、4人の警官が1人の一般人相手に銃を使わずに単純に押さえ込むことができるのは容易に想像がつく。ブレイクが撃たれた時には手元に凶器もなかったのであるから。

要するにここが大きな問題なのである。警官の命が危うくない状況で、不必要に銃を使うのは何故かを追求しなければいけない。しかも7発も。たとえどんなに危険な状況であったとしても1発、2発打てば効果は十分あるはずであるのに、7発も打つのはただの見せしめとしか考えられない。これが相手が白人であったらどうだろうか。ほぼ全てのケースでまず銃で撃たれることはなく、いきなり取り押さえられるといったこともないだろう。白人であれば警察の指示を聞かなかった場合でも、暴力を振るわれることは考えづらい。今回は死亡までにいたらなかったが、前述のブリアナ・テイラーは深夜に自分の家で寝ているところを、いきなり3人の警官が侵入し、有無を言わさず銃で殺している。薬物扱いの疑惑を警官が持っていたらしいが、実際はテイラーは何もしていなかったことが証明されている。(白人の方が警官による射殺が多いというデータもあるが、そもそもの人口における白人対黒人の比率が圧倒的に違う)

 

今回の事件に関しては、現在プレイオフ真っ只中のNBAでも大きな話題となっている。リーグの大半を黒人プレイヤーが占めるNBAは、オーランドのバブルで行われる各試合のコート上にBlack Lives Matterと埋め込み、チームのTシャツにもBlack Lives Matterやその他のソーシャルメッセージが書かれており、この数ヶ月のムーブメントを大きくサポートしている。そんな中でのこの事件に対して、レブロン・ジェームズや、クリッパーズのヘッドコーチ、ドック・リバースが非常にパワフルな発言をしている。特にドック・リバースのスピーチの中で、「何故我々がアメリカを愛するように、アメリカが黒人を愛してくれないのか」という言葉は心が痛む。

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更に、トロント・ラプターズは抗議の意味でプレイオフ第2ラウンドの1試合目のボイコットすら検討している。ボイコットをすることによって多額の金銭的な損失が出るだけでなく、スポーツを超えてニュースとなり、より多くの人に背景が伝わる。それによって地域の権力者にプレッシャーをかけるという動きである。そんなトロント・ラプターズはつい先週コート外で他の話題が起きた。

昨年優勝したトロント・ラプターズの最高責任者であるマサイ・ウジリは、現代NBAで最も成功したGMの1人であり、1年契約しか残っていなかったクワイ・レナードをトレードで獲得してフランチャイズ初の優勝に導いた。また、NBAの中でも数少ない黒人のGMで、現在一番影響力があるといえる。(ナイジェリア出身のマサイがここまで上り詰めたのはまさにアメリカンドリームだと思う)

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そんな彼はチャンピオンシップを獲得したNBAファイナル第6戦が終わった後、ゴールデンステート・ウォリアーズのホームコートであるオラクルアリーナで当日セキュリティをしていた郡保安官から訴えられたのである。当初の報道では、優勝を祝う為にコートに降りてきたマサイが関係者であると証明するカードを持っていないにも関わらず、保安官をプッシュして暴力を振るったというものである。それにより保安官は精神的な苦痛を受けて、仕事を辞めざる終えず、今後の人生を壊したと主張した。加えてこの保安官の奥さんまでもが、家族に大きなダメージを与えたとしてマサイを訴えていた。この保安官は言うまでもなく白人である。

この訴えに対して、マサイ側が事実無根であるとカウンター訴訟を起こし、長期戦となっていたが、1年経って先週にいきなり保安官が付けていたボディーカメラの映像がマサイの弁護側から公開された。

 この映像を見てもらえれば明らかだと思うが、マサイ側がプッシュしている証拠は一切ない。明らかにセキュリティ側がマサイを突き飛ばしている。ルールとして関係者であると示すバッジを最初付けていなかったのは確かだが、最初にプッシュされた後にバッジを見せようとしており、もう1回突き飛ばされる理由は一切ない。これだけでもおかしな話だが、自分の主張をバックアップする証拠がないにも関わらず、マサイを訴える神経がすごい。ちなみに、白人のNBAレポーターはマサイと同じようにバッジを持っていなかったが、何も言われずにコートの中に入ることができたと証言している。

 

そもそも保安官側が、虚偽の訴えがまかり通ると思ったこと自体が、現代アメリカの問題を表している。白人の警官・保安官が事実と違う話を伝えた場合に、責任を問われないどころか、賠償金すら得られる可能性がある構図ができてしまっているのである。NBAチームのトップであり、金持ちのマサイであったから、大金を払って弁護士を雇い自分の無実を証明することができるが、果たしてアメリカ全体の何%の黒人が同じ事ができるだろうか。何も悪いことをしていないのに、黒人であるということで白人に訴えられ、ほとんどの人が諦めて賠償金を払う、もしくはムショに入ることになるだろう。何もしていないのに、白人警官から暴力を加えられ、場合によっては殺されてしまうケースもある。繰り返しになるが、NBAというプラットフォームがあるからこそ、この問題が取り上げられるが、全く知られていない一般人に対して毎日同様の仕打ちか、それよりひどい事が行われているのである。

 

上述のように一般人であったジェイコブ・ブレイクは、凶器を持っていなかったにもかかわらず、少しの抵抗を見せただけで7発打たれて下半身不随になってしまう。一方、マサイ・ウジリはNBAという世界最高峰のスポーツリーグのチームプレジデントとなり、その業界の頂点を極め、自分が集めたロスター達が優勝を勝ち取った瞬間で、改めて思い知らされるのである。どんなにその道を極め、偉大な存在となったとしても、何よりもまず自分は黒人ということを。保安官から押されたマサイの顔がそれを物語っている。

NBAプレイオフ開幕! (第1ラウンドプレビュー:ウエスト)

どうも。NBAレイオフがとうとう開幕した。既に各チーム1試合戦った中、少し後だし感はあるが、今回はウエストのプレイオフの第1ラウンドの展望を予測したい。イーストについては、前回の記事をご覧頂きたい。既に予想が外れているものもあるが、、、

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<ウエスト>

1. LA・レイカーズ (第1シード) vs. ポートランド・トレイルブレイザーズ (第8シード)

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ブレイザーズはバブルに入ってから、毎試合ギリギリの接戦をものにして、第8シードに滑り込んだ。レギュラーシーズンでは怪我人が続出し低迷していたが、元の戦力でいったら普通の第8シードよりは確実に強い。昨年の大怪我からバブルで復帰したセンターのユスフ・ナーキッチは100%といえないまでも、安定した活躍を見せている。そして何より、デイミアン・リラードが怪人的なプレーを続けて、完全なゾーンに入っている。なんといったて、ハーフコートから何事もないかのように3ポイント打って決めちゃうぐらいである。

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こんな遠くから普通にシュートしてくるなんて常識的にありえない

リラードに加えて、CJ・マコラムという強力なバックコートがいるのがブレイザーズの強みであり (マコラムは腰を怪我している中プレーしている状況ではある)、ガードのディフェンスがレイカーズの最大の弱みであることから、ブレイザーズにチャンスがあると思われている。レイカーズで一番のガードディフェンダーである、エイブリー・ブラッドリーがオーランドに来ないことを決めたことで、レイカーズのガードは非常に手薄で、リラードとマコラムとマッチアップできる選手がいない。他方、ブレイザーズはディフェンスがとっても貧弱である。リラードが超人化した背景もブレイザーズが全然相手チームのオフェンスを止められなかったことによる。特にバブル後半ではベンチプレイヤーだらけのチームにも大量得点を許してしまっており、リバウンドが全く確保できていなかった。加えて、レイカーズレブロンとアンソニーデイビスを制御できるデイフェンダーが1人もいないのが痛い。レブロンのマッチアップとなるのは、親友のカーメロ・アンソニーやバブルで台頭してきたゲリー・トレントJrとなるが、全く相手にならないだろう。デイビスに関しては止められる要素がない。デイビス中心のオフェンスとなった場合は、ミッドからローポストで無理なく得点をということで、オフェンスが物を言わせるシリーズとなりそうだが、最終的にはリーグ1位の実力とそもそもレブロンが第1ラウンドで負けるとは考えづらい。

予想:レイカーズが4-2で勝利

 

2. LA・クリッパーズ (第2シード) vs. ダラス・マーベリックス (第7シード)

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今年の優勝最有力候補と見られているクリッパーズについても怪我人が多く、1年を通してフルロスターとはいえない状況が続き、バブルに入ってからも全員揃っていなかったが、プレイオフ開始に合わせてようやく万全のロスターに戻りつつある。とはいえ懸念が無いわけではない。どうも毎試合本気を出さない傾向があり、やる気のアップダウンが激しい。昨年ファイナルMVPのクワイ・レナードが気を抜くとは思えないが、他の選手がついてくるかがカギとなりそうである。クリッパーズの2大スーパースターのもう1人のポール・ジョージは素晴らしい選手だが、試合によっては存在感が非常に薄くなることもあるのが懸念ではある。とはいえ、リーグで最も厚い選手層を保持していることには変わりなく、ベンチからルー・ウィリアムズやモントレズ・ハレルといった強力スコアラーに加えて、トップディフェンダーのレナードとジョージや、PGのパトリック・ビバリーによるシャットダウンディフェンスも本気を出せば、対抗できるチームはいないと考えられる。一方、久しぶりのプレイオフ進出となったマブスは2年目にしてMVP候補となったルーカ・ドンチッチ率いる、NBA歴代ベストのオフェンス (Offensive Efficiencyというスタッツによる) でチャレンジする。ルーカは天性のパス力とスコアリング力を持っているだけではなく、どんな場面でも物怖じしない強心臓を持ち合わせている。但し、残念なことに彼はレナードとジョージに常にガードされることになり、最大の力を発揮することが難しいと思われる。(逆にこのシリーズで大活躍したらルーカは真のスーパスターになるはず) マブスのオフェンスの全てがルーカを中心に回る為、彼が押さえ込まれた場合のリカバリーが難しい。もう1人のスターである2メートル21センチのクリスタプス・ポルジンギスは素晴らしいロングシューターだが、とっても身長が高いにもかかわらず、ガード相手にもポストアップがろくにできないという弱点がある。クリッパーズはサイズが欠点であるだけにそこを突けないのは痛い。ルーカが爆発する試合は何試合かあると思うが、最終的にはクリッパーズが問題なく勝ち抜くだろう。

予想:クリッパーズが4-2で勝利

 

3. デンバー・ナゲッツ (第3シード) vs. ユタ・ジャズ (第6シード)

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怪我人トークが続くが、ジャズも例外ではない。スターのドノバン・ミッチェルに続くスコアラーである、ボヤン・ボグダノビッチが手術の為外れており、元々薄かったベンチが更に貧弱になっている。更に以前ジャズの注目プレイヤーに挙げたマイク・コンリー (https://atsukobe.hatenablog.com/entry/2020/08/05/094138) については、子供が丁度生まれる為、一旦バブルを離れたばかりである。その為とにかくどこからオフェンスを作り出せるかによって、ジャズのチャンスが決まってきそうである。そこでまだ3年目のミッチェルがオフェンスの重責を担うことになる。強力ディフェンダーがいないように見せかけてチームディフェンスに優れたナゲッツの壁をミッチェルが打ち破るかことができるか見物である。相手のナゲッツは史上最高のパス能力を持つセンターのニコラ・ヨキッチがオフェンスの中心となる。パス、シュート、フットワーク、体格の良さを持つヨキッチ対、ジャズディフェンスの砦であるルディ・ゴルベア (2年連続Defensive Player of the Year) のマッチアップは非常に面白くなりそうである。ヨキッチのポストアップも多々見られるだろうが、それ以上にヨキッチとガードのジャマール・マレーのツーマンゲームのケミストリーは素晴らしく、2人でピックアンドロールを繰り返しミスマッチを作り出して、ゴルベアを困惑させるオフェンスを披露するのではないか。以前から言われるマレーの試合毎の安定感には引き続き懸念が残る為、何試合かはジャズが奮闘できるはずではあるが、その他にも、ジェレミー・グラント、モンテ・モリスといった安定感あるプレイヤーが支えるナゲッツの総合力が選手不足のジャズを上回ると思われる。

予想:ナゲッツが4-2で勝利

 

4. ヒューストン・ロケッツ (第4シード) vs. オクラホマシティ・サンダー (第5シード)

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今回の第1ラウンドで最も面白くなる可能性があるのが、このロケッツ対サンダーのマッチアップである。昨年までチームメイトだったジェームズ・ハーデンとクリス・ポールは最後の方は険悪な仲になったと伝えられており、その2人が争うだけでも面白みがあり、ラッセル・ウエストブルックが10年過ごしたサンダー相手に初のプレイオフというストリーもあり、ドラマ性が高い。それだけでなくチームのプレースタイルが両極なのも注目ポイントである。ロケッツは有名なマネーボールを駆使して、ひらすらハーデンがアイソレーションを繰り返し、3ポイントかレイアップとフリースローという極端なスタイルである。更にチーム内にビッグマンが1人もいないため、全員2メートル5センチ以下のスモールラインアップで48分戦い抜く。対して、サンダーはポールがゲームをコントロールしながら、得意のミッドレンジショットを勝負どころで幾度と無く繰り出す。更に大型センターのスティーブン・アダムスもプレーし、2年目のシェイ・ギルジアス=アレクサンダーやダニロ・ガリナリといったらスコアリング能力の高い選手が脇を固め、どちらかというとトラディショナルなプレースタイルである。シリーズの展望はロケッツとサンダーがそれぞれどっちのスタイル中心の試合に持っていくことができるかのがポイントになってくると思われる。ロケッツ中心の展開になった場合、アダムスの出番はかなり制限されるだろうし、サンダーのスローテンポに持ち込めればロケッツのスモールボールを押さえ込むことができるだろう。普段であればロケッツの爆発力が優勢と見られるが、ウエストブルックが怪我の為、最初の数試合は出場できない予定である。チームのNo.2がいない中、ハーデンにかかる負担は大きい。またロケッツの3ポイント打ちまくるプレーは浮き沈みも激しく、サンダーが突けいる隙はあり接線が予想されるが、7試合中の半分はロケッツの3ポイントが的中してロケッツが次のラウンドに進むと思われる。

予想:ロケッツが4-3で勝利

NBAプレイオフ開幕! (第1ラウンドプレビュー:イースト)

どうも。オーランドのバブルでの1チーム8試合のレギュラーシーズンが幕を閉じた。最後の数試合はウエストの第8シードをめぐる戦いを繰り広げたチーム以外は、名前も聞いたことないようなベンチプレイヤーばかりの出場となったが、総じてクオリティの高いプレイが見られ、NBAファンとしても満足する内容であったのではないか。そして何より、未だに彼らが使用しているディズニーランドの敷地からコロナの感染者が1人も出ていないというからすごい。もちろんファイナルが終わるまで安心はできないが、このバブルは今後のモデルケースとして参考になるべきであろう。現在レギュラーシーズンを観客無しの状態で、各都市でやっているMLBでも、プレイオフは一箇所のバブルでやるべきかという議論が起こり始めている。(昔から選手のことなど全然気にしない金の亡者であるNFLはそんなことはしないだろうが)

 

本題のNBAシーズンに戻って、ブレイザーズグリズリーズの白熱した試合もブレイザーズの僅差の勝利で終わり、バブルMVPに輝いたデイミアン・リラードだけでなく、クラッチではC.J・マコラムも3連続でシュートを決め、勝利を呼び寄せた。リラードについては丁度前回の記事で書いたのでご覧頂きたい。

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これでブレイザーズがウエストの第8シードとなり、全てのシードが決まったということで、第1ラウンドの各マッチアップのプレビューと予測をしようと思う。接戦が予測されるものから、全く盛り上がりにかけるマッチアップもあるが、まずはイーストから1つずつ見ていこう。

 

イースト>

1. ミルウォーキー・バックス (第1シード) vs. オーランド・マジック (第8シード)

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正直言って、このマッチアップは全然面白みがない。なぜならマジックが4勝するシナリオが全く見えないからである。NBAでは第8シードがアップセットを起こすことがそもそもほぼないが、まずバックスのイヤニスを止められるディフェンダーがマジックにはいない。今年ディフェンダーとして大きな飛躍をしたジョナサン・アイザックは残念ながらバブルの試合でアキレス腱断裂をして離脱してしまった。となるとアーロン・ゴードンとかに頼ざるえないが、パワーとスキルでイヤニスに完全に負ける。オフェンスについては、センターのニコラ・ブーチェビッチが一番の稼ぎ頭だが、バックスのセンターのブルック・ロペスとロビン・ロペスの兄弟コンビは共に素晴らしいディフェンダーであり、ブーチェビッチを押さえ込むことができる。ベンチからの起爆剤のテレンス・ロスも個人的事情により一旦チームを離れており、マジックのオフェンスの爆発力がどうしてもかける。オフェンス、ディフェンス両面でバックスが圧倒すると予想。

予想:バックスが4-0で勝利

 

2. トロント・ラプターズ (第2シード) vs. ブルックリン・ネッツ (第7シード)

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バックス対ネッツと同様に第2シードかつディフェンディングチャンピョンのラプターズはネッツに対して大きなアドバンテージがあると見る。昨年ファイナルMVPのレナードがいない中、ラプターズの総合力とディフェンスの鉄壁さは健在である。ペイントではマーク・ガソール、サージ・イバカといった過去のトップディフェンダーがいて、パスカル・シアカッム、OG・アヌノビとウィングディフェンダーも強力かつ、カイル・ラウリー、フレッド・ヴァンブリートというガード陣も素晴らしいディフェンスを見せる。(特にラウリーの張り付くような相手をイラつかせるディフェンスは見物) オフェンスにおいては大スコアラーはいないが、セットアップのユニークさ、ベンチ含めて自分でオフェンスを作り出せる選手がたくさんいるのが大きな強みである。ネッツはカイリー・アービングとケヴィン・デュラントのスーパースターがいない中、ジャレッド・アレンやジョー・ハリスといった若手のクオリティプレイヤーが存在し、キャリス・レヴァートは持ち前のミッドレンジショットやドライブ力を生かしてスコアラーとしてバブルで大活躍している。総合力が弱めの中、常に全力でプレーするのもネッツの魅力である。が、強固なディフェンスを誇るラプターズ相手には苦戦を強いられるだろうし、ネッツがラプターズのオフェンスを止める力もないかつ、ラプターズもネッツ以上に全力でプレーしてくるので、1試合勝ち取るのが限界でないかと思う。

予想:ラプターズが4-1で勝利

 

3. ボストン・セルティックス (第3シード) vs. フィラデルフィア・セブンティシクサーズ (第6シード)

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もし、シクサーズのベン・シモンズが怪我をしなかったら、なんとも面白いマッチアップとなっていただろうにと嘆かれるシリーズである。シモンズとジョエル・エンビードのコンビは、シモンズがジャンプショットを打てないこともあり常にミスマッチといわれ続けており、シモンズがいないことでよりオフェンスがスムーズになるという意見もあるが、個人個人として素晴らしい選手達であることに変わらない。特に今年リーグトップクラスとなったシモンズのプレミターでのディフェンスは、ボストンが抱える、ジェイソン・テイタム、ジェイレン・ブラウン、ゴードン・ヘイワードといったウィングプレイヤーにブレーキをかけるのに大きな効果があったはずだ。シモンズ以外にも、ルーキーのマティス・サイブルもいるが、今年のオールスターのジェイソン・テ-タムを押さえ込むことはできないだろう。対して、ペイントの巨人エンビードはボストン相手に大きなアドバンテージもある。セルティックスのセンターであるダニエル・タイスは良いディフェンダーだが、いかんせんサイズが10センチ足りないし、ベンチでも有力なディフェンシブビックマンはいない。なのでエンビードが活躍するチャンスは大いにあるが、問題はエンビードが毎試合本気で臨まない傾向があり、更にシクサーズにノックダンシューターや、クラッチ場面で確実に点を取ってくれる選手が見られない。(トバイス・ハリスでは全然物足りない) ディフェンスにおいても、セルティックスのバランスの取れたスコアラー陣が全員不振に陥るとは考えづらく、ボストンが問題なく勝ち抜くと思う。

予想:セルティックスが4-1で勝利

 

4. マイアミ・ヒート (第4シード) vs. インディアナ・ペイサーズ (第5シード)

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あまり番狂わせが期待できないイーストの第1ラウンドの中で、一番接線になる可能性が高いのがヒート対ペイサーズのマッチアップである。レギュラーシーズンで既にジミー・バトラーとTJ・ウォーレンが2回口論になっており、1回は退場処分にもなっているというところからも注目のカードではある。(ウォーレンにキスをするバトラーは面白すぎる)

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以前の記事でも記載したが、ペイサーズが躍進できるかどうか、元エースのビクター・オラディポにかかっていると思う。

NBA再開: 有力チーム注目キープレイヤー (イースト) - ディープなNBA/アメリカ文化トーク

インサイドの安定した得点力とパス能力を持ったPFのドマンタス・サボニスが怪我の為出場できず、センターのマイルズ・ターナーはアウトサイドショットでしか貢献できない。TJ・ウォーレンがバブルで大活躍をしているが、彼以外でオフェンスでステップアップできる選手がいなければ、ヒートの強力なディフェンスを切り崩すことは難しい。バブルの試合になってからも、平均15得点前後と物足りない感が否めないが、プレイオフという大舞台でプレーの質を上げられるかがカギとなりそうである。追加でマルコム・ブログドンやアーロン・ホリデーといったPGもクリエイターの素質はあるので、活躍を期待したいところである。一方、マイアミの方はバランスの取れたオフェンスとリーグトップの3ポイントの確立で攻める。ダンカン・ロビンソン、タイラー・ヒーローといった新鋭スナイパーや、ベンチからゴラン・ドラギッチが出てきてスパークとなる。そして勝負所になったら、ジミー・バトラーがオフェンスを作り出す。特に今年は彼は自由自在にフリースローをゲットできるようになっており、この相手からファウルを誘うスキルはクラッチ時には欠かせない。更にバム・アデバヨを中心としたディフェンスも素晴らしく、ペイサーズの爆発力が欠けるオフェンスを押さえ込むことができるはずで、総合力でヒートが上回る。

予想:ヒートが4-2で勝利

 

次回の記事ではウエストの4つのマッチアップを予想!

デイミアン・リラードのすごさを改めて考える

どうも。NBAのレギュラーシーズンも残り1日となり、来週からプレイオフ開幕である!上位のチームではレイカーズクリッパーズ、バックスが完全な本調子とはいえない (もしくは手を少し抜いている?) 雰囲気だが、インディアナ・ペイサーズのTJ・ウォーレンが30点以上取る試合を連発したり (しかも昔ロングシュート苦手だったのに決めまくっている)、トロント・ラプターズの安定感とチーム力が半端なかったり、デンバー・ナゲッツの実質ルーキー、マイケル・ポーターJrが高身長を行かしたシュート力とフィニッシュ力で大活躍していたり、 (おまけにコロナに対する勝手な陰謀説を流すという暴れっぷり) サンアントニオ・スパーズはデマー・デローザンをPFで起用して、若手を一杯使うスパーズっぽくない采配で勝ち星を重ねたり、プレイオフのチャンスはほぼ0%だと思われたフェニックス・サンズは無敗の快進撃を続けたりとエキサイティングかつ、面白いサプライズが一杯見られる。

イーストとウエストとも大体シードが決まってきている中、各チームともベンチプレイヤーの起用が目立ってきているが、このバブルNBAで超真剣にプレーを続けているのがウエストで第8シードを目指すポートランド・トレイルブレイザーズであり、その勢いを支えているのは、現在どの選手よりも存在感を見せつけているDame Dollaことデイミアン・リラードである。そこで今回はリラードのハイレベルなプレーと、また現代NBAでどうしてユニークな存在かについてまとめてみたい。

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彼のシグチニチャーサインであるDame Time

 

 1. スコアリング能力

リラードと言われて真っ先に思い浮かぶのはそのシュート力とスコアリング力の高さであると思う。リラードは3ポイントラインを大幅に超えた位置から躊躇することなく普通のフォームでショットを決めたり、スピードを生かしてストレートラインでドライブ (ワンステップでそのまま同じ方向に向かっていく) するスタイルは彼の代名詞であるといえるだろう。特にロングレンジからのシュート力は目を見張るものがありショットクロックがまだ十分に残っているにもかかわらず、1on1やピックを使って、少しでもフリーなったら遠くからいきなりシュートを放つ。

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<但し、正確性に関しては、ライバルの一人と見なされるステファン・カリーより大分劣る。カリーの3ポイントのキャリア平均が43%なのに対して、リラードは37%である。True Shoooting Percentageもカリーのキャリア最高が67.4%に対して、リラードのベストは今年の62.4%である。リラードもトップクラスの選手であるが、カリーがNBAの歴史でベストシューターと言われる所以である>

1on1からのスコアリング能力ではカリーと同等かそれを上回っていると考えられ、最近は特に爆発力が凄くなってきている。トラップしてきたディフェンダー達をドリブルでスリップして交わしたり、少しの隙間を見てのシュート、ファールを誘う能力によって年々アンストッパブルとなってきている。今年はチームに故障者が多かった為、リラードが頑張らなければいけなかった背景もあるが、バブルの試合での61点の活躍を入れて、1シーズンで3回60得点以上たたき出した2人目の選手となった。(信じられない記録を作りまくったウィルト・チェンバレンは1シーズン60点以上を15回している。なんという恐ろしさ) 

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2. 勝負強さ

リラードの名がNBAファンで大きく知られるきっかけになったのは、彼の勝負強さではないかと思う。プレイオフだけに限って言えば、昨年のウエスタン・カンファレンスファイナルでウォーリアーズにスイープされたのがこれまでのベストシーズンであり、リング獲得もできてはいないが、試合毎のクラッチ力には定評がある。その勝負強さから、Dame Timeという言葉も生まれたぐらいである。(What time is it? It is Dame Timeという意味で、試合終盤は彼の独壇場であるということである。90年代は、史上屈指のクラッチプレイヤーのレジー・ミラーがビールブランドのMiller LiteのキャッチコピーのMiller Timeにかけて同様のニックネームで呼ばれていた) リラードが勝負強いシュートを決めると、腕時計をしているかのように左手首を指してDame Timeと見せるのは定番となっている。試合終盤での勝負強さには、自分でシュートを作り出せるスキルだけでなく、失敗を恐れない自分自身への絶対的な自信と度胸が必要だが、リラードに現在のリーグでその2つが最も備わっている選手である。

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また、彼はプレイオフで2回ブザービーターを記録している。しかも2回ともそのシリーズを終了させる試合でのショットというところからもリラードの勝負強さが見える。まだ2年目のシーズンの対ロケッツとの第1ラウンドの決定打も十分すごいのだが、昨年のレイオフの対サンダー相手に放った決勝3ポイントは史上最高のショットじゃないかと思う。第1ラウンドの試合ではある為、NBAファイナルのブザービーターに比べたら重要度は低いが、ショット自体の難しさ、クリエイティビティで言えば間違いなく1番であると確信している。試合時間が10秒残りながら全くロゴの位置から動こうとせず、残り2秒の段階で、サイドステップして3ポイントを打つプレイヤーなんかこれまで見たことない。そんなアホみたいなことを試みる人は私の長いNBAウォッチの中でもはじめてである。

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3. リーダーシップ

リラードが単純にバスケットボール選手として凄いのは上記の通りだが、それ以上にNBA界で尊敬を得ているのは彼のリーダーシップクオリティである。ブレイザーズでプレーしたことある選手やスタッフはリラードがいかに優れたリーダーであるかということを常に語っている。よく出てくる内容は、リラードがどの選手に対しても平等に接するということである。出場する機会が全然ない選手の悩みを聞いてあげたり、自分の車を飛ばしてその選手の家まで話をしたりすることもあるそう。チームのもう1人のスターであるC.J・マコラムもリラードと同じスコアリングガードであり、普通であればここは誰のチームだといったエゴの対立も起きたりするが、そんな話も一切出てこない。また、試合に負けた時に自分のチームメイトやコーチの批判をしてしまうスタープレイヤーもいるが、リラードはそういったことは絶対にせず、常に自分が責任を取っている。当たり前と思うかもしれないが、チームの批判を公でしないスーパースターは意外と少ない。勝っても負けてもいつも冷静にインタビューに対応し、自分が表に立って批判を受け入れる姿勢は正にリーダーの鏡と言えるだろう。

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4. 地域へのインパク

リーダーシップスキルにも繋がる部分ではあるが、リラードのポートランドに対する貢献もよく取り上げられる。様々なチャリティやイベントを企画したり、高校教育の改善や教育現場の環境改善に努めたりしている。ポートランドのコミュニティに深く関わっているのは、彼のブレイザーズに対するコミットも意味している。前述の通りリラードはプレイオフで未だにNBAファイナルを経験していないが、彼はしきりにブレイザーズでチャンピオンになりたいと言っている。レブロンによる改革 (レブロンはプレーする場所を自分の影響力と意思でコントロールすることに成功した初のスーパースターである) で、リーグがチーム主体から選手主体となったこの10年で、プレイオフで成功しなければすぐに移籍を要求して、スーパーチームを作る選手が主流となってきている。他にスーパースターと呼べる選手とプレーしたことがない中、ブレイザースでの希望を捨てないリラードは昔のスター選手に近い希有な存在である。実際リーグのトップ選手でルーキーから同じチームに10年近くいるのは彼とカリーぐらいだ。(カリーは既にチャンピオンになっている為、移籍する理由がない) リングの数で評価される傾向があるNBAだが、マーべリックス一筋で1回だけ優勝したダーク・ノウィツキーが引退後も非常に愛されるのは同じチームで何度もプレイオフで屈辱を味わった後も移籍をせずに、やっと優勝することができたからであると思う。純粋なNBAファンとして、リラードにはブレイザーズに引退するまで残って、その間に優勝して欲しいと願っている。その時のファンからの賞賛は、他の強豪チームに移籍してリングを獲得するよりもきっと大きいだろう。

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5. 番外篇: NBA最強ラッパー

これまでの話を見ていくと、リラードはバスケ一筋の人かと思われるかもしれないが、彼の才能は音楽でも発揮されており、ニックネームのDame Dollaという名前でラッパーとしても活躍している。リラードはこれまでのNBAの歴史上間違いなくラップが一番上手い。過去にもそこそこラップができる選手はいて、有名なところでシャック、アイバーソン、コービーといったところから、クリス・ウェバー、ロン・アーティストとかもいた。リラードの前で実は一番上手かったのはイマン・シャンパートだったりする。然し、リラードには彼を圧倒するスキルがある。ラップする上で一番難しいのはビートにあわせたフローであり、アマチュアミュージシャンNBA選手はそこが一番弱いはずなのだが、リラードのフローはとってもスムーズである。スムーズすぎて、ビートしか気にしていない最近の下手くそだらけのメインストリームのラッパーより確実にスキルがある。(個人的にはここ7,8年の有名ラッパーにはろくなのがいないと思っている) それでいて歌詞もよく考えられており、基本的にポジティブな内容が多い。

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とはいってもラップに欠かせないBeefもたまにあり、昨年はシャックと誰が一番ラップが上手いかという対立が起こり、お互いDiss Trackを公開したが、結果的にリラードがシャックを負かしている。(あくまで個人的な意見だが) 特に"Reign Reign Go Away"はかなりのレベルである。

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彼のラッパーとしての実力は年々上がっており、引退後はラッパー専門でも十分成功するのではないかと思う。コート内だけでなく、コート外でもDame Dollaの活躍から目が離せない。