ディープなNBA・バスケトーク+アメリカ文化

NBAとアメリカンカルチャー中心のブログ

アメリカにおける黒人差別から何を学ぶか

f:id:atsukobe:20200606144517j:plain


今回はよりシリアスなトピックとして、アメリカ中で起きているプロテストと暴動について触れてみたい。何故このような事態になっているのかをこれまでの経緯を含めて考えると同時に、我々は何を学ぶことができるのかということをあくまで個人の意見としてまとめています。もちろん自分自身は黒人ではないし、彼らの歴史も経験をしていないが、アメリカ文化が大好きかつ勉強した身として、少しでも日本に住む人たちの理解が深まれば幸いである。

 

<事態の経緯>

既にご存知だと思うが、事の発端はミネソタ州で黒人男性のジョージ・フロイドが白人の警察官に取調べを受けた際に、合計9分近く彼の首に膝で押し乗り、そのうち最後の約3分はフロイドが意識を失ってからであった。主犯はデレック・ショービンという警官であるが、他にいた3人の警官もフロイドの体を抑えたり傍観しているだけだった。(そのうち一人はアジア系アメリカ人であった) この事件の直前にも黒人に対する無意味な殺害のニュースは出てきており、ジョージア州ではアマド・オーブリーがランニング中に白人の親子2人に銃撃される事件が起こり、事件発生自体は2月だったのにも関わらず、犯人の親子が捕まったのが4月であり、その理由も証拠となるビデオがSNS上で拡散されたという理由だった為多くの人が憤慨した。

 

<暴力だけではない差別> 

もっと軽い事象では、ニューヨークのセントラルパークで飼い犬に首輪をつけていなかった(法律上つける必要がある)白人女性のエイミー・クーパーに黒人男性のクリスチャン・クーパー(親戚ではない)が少し強めに注意したところ、警察に電話をかけ「黒人の男性が私を脅かしている」と通報したのだ。この状況を撮影していたクリスチャンにより事態が明らかになった。このエイミー・クーパーの件こそアメリカの根深い黒人差別が読み取れる。決して暴力を振るう・殺害するといったことはないが、自分が白人であるという権利を使い、戦略的に相手が黒人であるということを何度も警察に強調しているのだ。この手法こそ、黒人がこれまで社会で受けている差別、更に警察からの非道を浮き彫りにするSystematic Racismといえる。この2人の立場が逆であれば警察は何も対応しなかったかもしれない。同じ事をしていても白人は許され、黒人は罰せられるという現状を象徴する出来事であった。

 

<今回は何故特別なのか> 

黒人が警官によって不当な扱いを受けているというのは悲しいことだが決して珍しくはない。今回なぜここまでの大規模な事態となったのだろうか。

 

 1. 動画で撮影されて拡散されたこと

これはSNSが発達したことによる数少ない恩恵かもしれない。ジョージ・フロイドがどんどんと息ができなくなってきて、”Sir, I can’t breath”と繰り返し訴えながらも、警官が全く何もせずにそのまま殺したという映像はとても生々しい内容であり、視聴者の悲しみや怒りが込み上げるのは自然である。

 

人間は全く同じ事実でも、文字で起こされただけより、視覚や聴覚で受け取ることでより事の大きさを理解しやすいと言われる。以前NFLプレイヤーのレイ・ルイスが婚約者へのドメスティックバイオレンスをしたことで大問題となったが、その時も記事だけでは騒ぎとはならなかったが、彼がエレベーターで婚約者を殴る映像が流れた瞬間に大きなショックが広がり、レイ・ルイスはNFLに戻ってくることはなかった。

 

2. コロナによる不満と抑圧

現在プロテストが起こっており人々が同じ場所に集っているが、アメリカは現在もコロナウイルスの収束の目処が立っていない状況である。2ヵ月半近く在宅することを強要されていること、それに対して国レベル、州レベルでちゃんとした対策が行われていなかったことも人々が不満を溜める原因となっている。様々なストレスが重なりこれまで秘められていた社会・政府への怒りが爆発された形で表現されている可能性はある。

 

特に黒人はコロナにおけるダメージが大きい。これはアメリカのヘルスケアシステムが機能していないことも示しており、公的な保険がないアメリカでは高価なプライベートインシュランスにしか入ることしかできず、平均年収が低い黒人が加入している割合は白人よりも低く、自動的に治療を受けることができないことで死亡する確率も高まる。また、郵便・スーパー等コロナの状況でも稼働しなければならない仕事しているのは黒人の方が多い。結果的に黒人はコロナに感染する可能性が高まるにも関わらず、保険に入れないせいで十分な治療が受けられないのだ。

 

3. トランプが大統領であるということ

言うまでもないがトランプはRacistであり、自分のことしか考えられないナルシストである。彼は国を分断し、そのうちの片方の支持層を取り込むことで大統領になっている。(共和党ゲリマンダー戦略、人口の少ない州なのにElectoral collegeによって田舎にも投票権力があるといった問題ももちろんだが) 自分の支持層は白人の労働者が圧倒的に多いことにより(自分自身は大金持ちのボンボンの中)、白人至上主義者の暴動に対しては全く制裁せず、自分に都合の悪い黒人や移民の問題にはやたらと口を出し、彼らに不利な政策を投入する。バージニア州シャーロッツビルで行われたネオナチのデモでそれに抗議する人が殺されたにも関わらず、記者会見で”very fine people from both sides”と白人至上主義者への批判を控えた事は有名な話であるが、その他にも常にオバマをターゲットにして攻撃したり(自分のした悪い政策は全部オバマのせいである)、レブロンジェームズ等の社会問題に発言をする黒人アスリートに対しても大統領とは思えない口調で常に批判をしている。

 

トランプの傍若無人さ、差別的発言は、国を真っ二つにする形となり、リベラル対保守派の対立を根強くし、社会の物事全てがPoliticized (政治化)された。分断された社会の中では現政権に不満を持つ人々がこの機会に立ち上がったことも影響していると思われる。現在の事態となっても、トランプはプロテスト側を批判し、彼らを逮捕し、軍隊を持ち込んで押さえ込むという発言を繰り返していることは彼がどういう思考であるかをよく表している。

 

4. 平和的なプロテストでも何も変わらないという事実

- キングとマルコムX -

公民権運動やその前の時代から非暴力的な運動を行うべきか、暴力も手段の1つとして使うかについては議論となっていた。一番有名なのは非暴力主義を主張したマーティン・ルーサー・キングと、時と場合によってはあらゆる手段が必要だと述べたマルコムXの違いがある。キングは白人の良心に訴えかけて彼らも巻き込んで黒人の地位を高めようとしたのに対して、マルコムは特に当初は黒人だけのグループ・国を作り、白人を敵として見なし、これまで散々ひどい扱いをしてきた白人を切り離した生き方をするべきと説いていた。キングの主張の方が大衆に受け入れられやすかったが、どちらの要素も正解な部分はあるとは思う。特に黒人にとってはマルコムの影響力は強く、それは黒人監督のスパイク・リーが1992年にキングの映画ではなくマルコムXの生涯を描いた作品を出したことや、ラッパーがマルコムのことをよく引用することからも見てとれる。

 

 - 何年も警官による暴力-

キングとマルコムが両方とも暗殺されて以降何十年も黒人の人権の侵害、特に白人警官により黒人への暴力はずっと起こってきた。91年のロドニー・キングに対するLAの警官によるリンチから、最近ではミズーリ州ファーガソンでのマイケル・ブラウン、ニューヨークでのエリック・ガーナーらが、警官によって殺害される。警官による殺害が行われる度にプロテストは行われ、特にファーガソンでの事件の後は”Black Lives Matter”運動が始まった。基本的には暴力は使わず行進するものであったが、それに対して各地の警察は武力行使も厭わず、参加者の逮捕や虐待を止めなかった。しまいには、”All Lives Matter”とか警官の”Blue Lives Matter”とかを保守派が言い始めてしまう次第であった。"All Lives Matter"という人はそもそもの概念をはき違えてしまっている。黒人がほかの人種と比べて不当に殺されてしまっているが故の心の叫びが"Black Lives Matter"であり、人権を守らている白人は既に"Matter"されているのだから、改めて権利を主張する必要はないのである。

 

 - アスリートによる抗議 -

また、2016年にはNFLのサンフランシスコ49rsのクオーターバックであったコリン・キャパネックは警察の黒人に対する扱いに抗議する為、国歌が流れる間立ち上がらずに膝をつくという (Kneeling) 抗議を行った。これはNFL界に留まらず全米中の議論となり、保守派や白人至上主義者は、膝をつくことはアメリカを侮辱している、アメリカの為に戦っているミリタリーに対する反逆行為だと述べた。トランプも介入していき、国歌斉唱中に立たない選手達はくそ野郎と表現した。結局この件は各チームの選手だけではなくオーナーまで巻き込み、キャパネックはその後プレイすることができず、他チームとの契約もできなかった。当時彼が既に2010年前半の活躍はできていなかったことは確かだったが、控えの選手としてどのチームも獲得しようとしなかったことは、彼がリーグから締め出されたことを意味していた。昔ながらの業界でお金を稼いできた年寄りの白人のNFLのオーナー達は、世間から批判を受けていた黒人選手を守る気はなかった。そもそもの理由が決してアメリカに対する抗議ではなく、黒人を不当に扱う警官に対する抗議を平和的に行おうとしていただけあったはずが、いつの間にか関係のない大義にすり替えられていたのである。これが白人選手がやっていたらここまでの事態になっていたことは考えづらい。実際白人選手で敬虔なクリスチャンのティム・ティボウは、信仰の為とはいえ同じようにしょっちゅう膝まづいていた。それに対して文句を言うオーナーやファンはいなかった。

 

<Systematic Racism>

黒人に対する人種差別のルーツは根深い。黒人というだけで仕事に就ける機会は最初から白人より少なく、それによって稼ぐことができず、お金がないことで子供に十分な教育を受けさせることができず、教育を受けることができなければ結局いい職には就けないという負のスパイラルに陥る。お金がないことで、十分な保険に入ることもできず健康も危険にも冒されやすい。お金もなく教育を受けられなければ、ストリートに住む人や犯罪件数が増えるのも当然のことである。然し同じ犯罪をしても、黒人の方が重い罪を受けることが圧倒的に多い。例えば黒人がマリファナ所持で捕まる割合は白人の4倍だそうである。黒人であればスピード違反で殺されることもあるが、白人でそんなことはありえない。スポーツにおいても、白人の選手がパーティー好きでビッグマウスであれば人生を楽しんでいるエンターテイナーと言われるが、黒人の選手が同じことをすればギャングスターだと言われる。今アメリカ中が荒れているのは、ただ単にジョージ・フロイドが殺されたという事に対してのプロテストではなく、何百年と存在しているSystematic Racismという社会の闇に対しての反乱なのである。

 

<日本だって例外ではない>

人種差別や差別そのものに関しては決してアメリカだけの問題ではなく、ヨーロッパでも非常に色濃く残っているし、ここ日本でだって差別は往々に存在している。日本は人口の98%が日本人である為あまり実感がないかもしれないが、海外から来る外国人をどこか面白がって扱っている気がする。外国人タレントだってテレビに出る際はギャグのネタとされることも多い。外国人労働者に対してどういった態度を取っている人が多いか?未だに争いが収まらない韓国人や中国人に対して世の中でどんな発言をしているか?といったことを考えると日本人も差別意識が高いことが伺える。古くから続くアイヌ人差別だってその一つである。白人 vs. 黒人と同じく、外国人が逮捕されたら、必ず何国籍とまで言及し、あたかも外国から来る人の方が犯罪しやすいかのように報道する。また差別という枠で見た場合、日本は女性に対する差別、性的マイノリティーに対する差別が顕著である。特に女性の経済的地位の低さや、社会的立場の弱さは他の先進国と比べて明らかであり、例えばシングルマザーに対する支援が著し弱かったり、Me Tooムーブメントが日本で起こりきらなかったことは、いかに日本が男尊女卑の社会であるかを表している。これはSystematic Sexismと言えるだろう。

 

アメリカで起きていることは世界共通の課題である。日本人には全然関係ないといって聞き流すのではなく、生まれた人種、性別、環境による差別が少しでもなくなる社会の構築を考えていくことが必要なのではないか。