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デイミアン・リラードのすごさを改めて考える

どうも。NBAのレギュラーシーズンも残り1日となり、来週からプレイオフ開幕である!上位のチームではレイカーズクリッパーズ、バックスが完全な本調子とはいえない (もしくは手を少し抜いている?) 雰囲気だが、インディアナ・ペイサーズのTJ・ウォーレンが30点以上取る試合を連発したり (しかも昔ロングシュート苦手だったのに決めまくっている)、トロント・ラプターズの安定感とチーム力が半端なかったり、デンバー・ナゲッツの実質ルーキー、マイケル・ポーターJrが高身長を行かしたシュート力とフィニッシュ力で大活躍していたり、 (おまけにコロナに対する勝手な陰謀説を流すという暴れっぷり) サンアントニオ・スパーズはデマー・デローザンをPFで起用して、若手を一杯使うスパーズっぽくない采配で勝ち星を重ねたり、プレイオフのチャンスはほぼ0%だと思われたフェニックス・サンズは無敗の快進撃を続けたりとエキサイティングかつ、面白いサプライズが一杯見られる。

イーストとウエストとも大体シードが決まってきている中、各チームともベンチプレイヤーの起用が目立ってきているが、このバブルNBAで超真剣にプレーを続けているのがウエストで第8シードを目指すポートランド・トレイルブレイザーズであり、その勢いを支えているのは、現在どの選手よりも存在感を見せつけているDame Dollaことデイミアン・リラードである。そこで今回はリラードのハイレベルなプレーと、また現代NBAでどうしてユニークな存在かについてまとめてみたい。

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彼のシグチニチャーサインであるDame Time

 

 1. スコアリング能力

リラードと言われて真っ先に思い浮かぶのはそのシュート力とスコアリング力の高さであると思う。リラードは3ポイントラインを大幅に超えた位置から躊躇することなく普通のフォームでショットを決めたり、スピードを生かしてストレートラインでドライブ (ワンステップでそのまま同じ方向に向かっていく) するスタイルは彼の代名詞であるといえるだろう。特にロングレンジからのシュート力は目を見張るものがありショットクロックがまだ十分に残っているにもかかわらず、1on1やピックを使って、少しでもフリーなったら遠くからいきなりシュートを放つ。

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<但し、正確性に関しては、ライバルの一人と見なされるステファン・カリーより大分劣る。カリーの3ポイントのキャリア平均が43%なのに対して、リラードは37%である。True Shoooting Percentageもカリーのキャリア最高が67.4%に対して、リラードのベストは今年の62.4%である。リラードもトップクラスの選手であるが、カリーがNBAの歴史でベストシューターと言われる所以である>

1on1からのスコアリング能力ではカリーと同等かそれを上回っていると考えられ、最近は特に爆発力が凄くなってきている。トラップしてきたディフェンダー達をドリブルでスリップして交わしたり、少しの隙間を見てのシュート、ファールを誘う能力によって年々アンストッパブルとなってきている。今年はチームに故障者が多かった為、リラードが頑張らなければいけなかった背景もあるが、バブルの試合での61点の活躍を入れて、1シーズンで3回60得点以上たたき出した2人目の選手となった。(信じられない記録を作りまくったウィルト・チェンバレンは1シーズン60点以上を15回している。なんという恐ろしさ) 

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2. 勝負強さ

リラードの名がNBAファンで大きく知られるきっかけになったのは、彼の勝負強さではないかと思う。プレイオフだけに限って言えば、昨年のウエスタン・カンファレンスファイナルでウォーリアーズにスイープされたのがこれまでのベストシーズンであり、リング獲得もできてはいないが、試合毎のクラッチ力には定評がある。その勝負強さから、Dame Timeという言葉も生まれたぐらいである。(What time is it? It is Dame Timeという意味で、試合終盤は彼の独壇場であるということである。90年代は、史上屈指のクラッチプレイヤーのレジー・ミラーがビールブランドのMiller LiteのキャッチコピーのMiller Timeにかけて同様のニックネームで呼ばれていた) リラードが勝負強いシュートを決めると、腕時計をしているかのように左手首を指してDame Timeと見せるのは定番となっている。試合終盤での勝負強さには、自分でシュートを作り出せるスキルだけでなく、失敗を恐れない自分自身への絶対的な自信と度胸が必要だが、リラードに現在のリーグでその2つが最も備わっている選手である。

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また、彼はプレイオフで2回ブザービーターを記録している。しかも2回ともそのシリーズを終了させる試合でのショットというところからもリラードの勝負強さが見える。まだ2年目のシーズンの対ロケッツとの第1ラウンドの決定打も十分すごいのだが、昨年のレイオフの対サンダー相手に放った決勝3ポイントは史上最高のショットじゃないかと思う。第1ラウンドの試合ではある為、NBAファイナルのブザービーターに比べたら重要度は低いが、ショット自体の難しさ、クリエイティビティで言えば間違いなく1番であると確信している。試合時間が10秒残りながら全くロゴの位置から動こうとせず、残り2秒の段階で、サイドステップして3ポイントを打つプレイヤーなんかこれまで見たことない。そんなアホみたいなことを試みる人は私の長いNBAウォッチの中でもはじめてである。

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3. リーダーシップ

リラードが単純にバスケットボール選手として凄いのは上記の通りだが、それ以上にNBA界で尊敬を得ているのは彼のリーダーシップクオリティである。ブレイザーズでプレーしたことある選手やスタッフはリラードがいかに優れたリーダーであるかということを常に語っている。よく出てくる内容は、リラードがどの選手に対しても平等に接するということである。出場する機会が全然ない選手の悩みを聞いてあげたり、自分の車を飛ばしてその選手の家まで話をしたりすることもあるそう。チームのもう1人のスターであるC.J・マコラムもリラードと同じスコアリングガードであり、普通であればここは誰のチームだといったエゴの対立も起きたりするが、そんな話も一切出てこない。また、試合に負けた時に自分のチームメイトやコーチの批判をしてしまうスタープレイヤーもいるが、リラードはそういったことは絶対にせず、常に自分が責任を取っている。当たり前と思うかもしれないが、チームの批判を公でしないスーパースターは意外と少ない。勝っても負けてもいつも冷静にインタビューに対応し、自分が表に立って批判を受け入れる姿勢は正にリーダーの鏡と言えるだろう。

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4. 地域へのインパク

リーダーシップスキルにも繋がる部分ではあるが、リラードのポートランドに対する貢献もよく取り上げられる。様々なチャリティやイベントを企画したり、高校教育の改善や教育現場の環境改善に努めたりしている。ポートランドのコミュニティに深く関わっているのは、彼のブレイザーズに対するコミットも意味している。前述の通りリラードはプレイオフで未だにNBAファイナルを経験していないが、彼はしきりにブレイザーズでチャンピオンになりたいと言っている。レブロンによる改革 (レブロンはプレーする場所を自分の影響力と意思でコントロールすることに成功した初のスーパースターである) で、リーグがチーム主体から選手主体となったこの10年で、プレイオフで成功しなければすぐに移籍を要求して、スーパーチームを作る選手が主流となってきている。他にスーパースターと呼べる選手とプレーしたことがない中、ブレイザースでの希望を捨てないリラードは昔のスター選手に近い希有な存在である。実際リーグのトップ選手でルーキーから同じチームに10年近くいるのは彼とカリーぐらいだ。(カリーは既にチャンピオンになっている為、移籍する理由がない) リングの数で評価される傾向があるNBAだが、マーべリックス一筋で1回だけ優勝したダーク・ノウィツキーが引退後も非常に愛されるのは同じチームで何度もプレイオフで屈辱を味わった後も移籍をせずに、やっと優勝することができたからであると思う。純粋なNBAファンとして、リラードにはブレイザーズに引退するまで残って、その間に優勝して欲しいと願っている。その時のファンからの賞賛は、他の強豪チームに移籍してリングを獲得するよりもきっと大きいだろう。

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5. 番外篇: NBA最強ラッパー

これまでの話を見ていくと、リラードはバスケ一筋の人かと思われるかもしれないが、彼の才能は音楽でも発揮されており、ニックネームのDame Dollaという名前でラッパーとしても活躍している。リラードはこれまでのNBAの歴史上間違いなくラップが一番上手い。過去にもそこそこラップができる選手はいて、有名なところでシャック、アイバーソン、コービーといったところから、クリス・ウェバー、ロン・アーティストとかもいた。リラードの前で実は一番上手かったのはイマン・シャンパートだったりする。然し、リラードには彼を圧倒するスキルがある。ラップする上で一番難しいのはビートにあわせたフローであり、アマチュアミュージシャンNBA選手はそこが一番弱いはずなのだが、リラードのフローはとってもスムーズである。スムーズすぎて、ビートしか気にしていない最近の下手くそだらけのメインストリームのラッパーより確実にスキルがある。(個人的にはここ7,8年の有名ラッパーにはろくなのがいないと思っている) それでいて歌詞もよく考えられており、基本的にポジティブな内容が多い。

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とはいってもラップに欠かせないBeefもたまにあり、昨年はシャックと誰が一番ラップが上手いかという対立が起こり、お互いDiss Trackを公開したが、結果的にリラードがシャックを負かしている。(あくまで個人的な意見だが) 特に"Reign Reign Go Away"はかなりのレベルである。

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彼のラッパーとしての実力は年々上がっており、引退後はラッパー専門でも十分成功するのではないかと思う。コート内だけでなく、コート外でもDame Dollaの活躍から目が離せない。