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アトランタ銃撃事件で浮き彫りになるアメリカのアジア人差別と銃社会の問題

どうも。今回はアメリカ時間の3/16に起きたアトランタでのアジア人マッサージ店を標的とした銃撃事件についてピックアップしたい。この件については、日本ではあまり大きな話題になっていないが、アメリカでは連日取り上げられている。

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この事件は、別々の場所にある3つのマッサージ店 (セクシーマッサージ店ではある)を狙った単独犯行であり、容疑者はロバート・アーロン・ロングという白人の男である。合計8人が殺害され、そのうち6人がアジア人女性であった。容疑者は犯行の動機を自分がセックス依存症だったからだとして、自分のような症状に悩む人を苦しめる存在をなくしたかったからだと述べている。これがどこまで本当だかわからないが、この件は最近増加するアジア人差別とヘイトクライムジェンダー差別、職業差別、終わらない銃撃事件と白人至上主義いった様々なアメリカ社会の問題を露呈している。そこで、この記事では今回の悲劇につながった理由・問題をそれぞれの角度から深堀していきたい。

 

<アジア人差別とアイデンティ>

アメリカでのアジア人差別が昔からなかったわけではもちろんなく、古くは中国移民が1800年代に鉄道建設の重労働を低賃金で働かせられたり、中国人虐殺も起こっていた。日本人も第2次世界大戦直後は、子供も含めて強制収容所に入れられ過酷な生活を強いられたりした。然し、アジア人が勤勉かつスマートというイメージや、体格も小さめで「脅威」と思われづらいこともあってか、黒人が経験するような非道な待遇や、警察による殺害を受けづらかった。(そのイメージこそが差別主義なのだが) 奴隷として連れてこられ、アメリカの誕生時から存在する黒人と比べると、アジア人の移民はまだ歴史も短く、潜在的に存在する嫌悪感が比較的少ないのだろう。

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また、アジア人差別が問題になりにくのは、黒人と違いエンターテイナー界やスポーツ界での力もまだ弱いため、アジア人のボイスが届きづらく、差別が起きているという事実が世の中に知られづらいこともあると思う。(エンタメ界のアジア人Representationが少ないのは今後の大きな課題であると感じている) 

 

更に、差別が可視化されづらいかつ、アジア人としてまとまりづらいこともこともBlack Lives Matterのような大きな運動にはなりにくい理由なのかもしれない。黒人が黒人としてのアイデンティティを強く持って団結するのに対して、アジア人はその中でも東洋系、東南アジア系、インド系など様々なアイデンティが存在している。同じ東洋系の中でも中国人、日本人では全然違う考えを持っていることが多く、一致団結しづらいのは確かである。こういったことから全国ニュースで取り上げられるようなアジア人差別への抗議のムーブメントは起きてなかった。

 

<コロナの影響>

状況が大きく変わったのが、コロナウイルスである。そしてコロナの時に大統領がトランプだったのことも差別に拍車をかけた。発症国が中国であることには間違いないのだが、トランプがそれをしきりにChina Virus (中国のウイルス)と連呼し続け、全ての原因が中国にあると言い続けた責任は非常に大きい。トランプはカルトリーダーだった (今でもだが) わけで、その信者は彼が言う事が絶対であり、信者はアメリカで40%もいたのである。このトランプのカルトの影響は1/6の議会襲撃とも大きく関連しており、トランプが2020年の大統領選挙が不正と言い続けたことで、それを信じた者たちがトランプの為にと議会を選挙したのである。この件については下記の記事にまとめているのでご覧頂きたい。

atsukobe.hatenablog.com

 

このカルト信じている人達や、コロナによるストレスを暴力的かつ臆病な形で表すやからによって、アジア人は格好のターゲットとなり、銃撃事件の前からニューヨークやサンフランシスコでアジア人の高齢者に背後から強くぶつかる、殴るといった事件が発生しており、ヘイトクライムアラートは出ていた。

 

また、現在NBAのG-Leagueでプレーしているアジアンスーパースターのジェレミー・リンは、事件の直前に試合中に相手選手からコロナウイルスと呼ばれたと訴えた。実は黒人からのアジア人差別の要素も見逃せない。黒人は黒人で差別を受けているのだが、正直個人的な経験も含めて黒人によるアジア人差別意識が意外と強かったりするのである。まさしく負の連鎖といったところかもしれない。その後今回の惨事も受けて、リンはCNNなどのニュース番組にも出演して、アジア人差別の啓蒙を行っている。

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今回の容疑者はアジア人差別が動機ではないと言っているが、アジア人が経営しているマッサージスパを狙って、アジア人を殺害の対象で狙っていたことは明らかで、元々アジア人に対する嫌悪があったことは間違いない。そして、自分は人種差別主義者じゃないという奴こそ差別主義者なわけで、人種差別主義者かどうかは本人が決めるものではなく、周りが判断するものである。

 

<ジェンダー差別と職業差別>

世の中の女性差別について新しい情報は特にないと思うが、容疑者は明らかに女性を下に見ていたのであろう。自分がセックス依存症になった原因を女性側の責任にしており、あたかも自分に非がないとでも思ったのだろうか。

 

また今回のターゲットがいわゆるセックスワーカーであったことも重要なファクターである。これも女性差別と同じく自分の問題を、スパで働いている人達が原因なんだと、アホみたいな意識のすり替えが行われている。セックスワーカーは社会の中で低い階層にあるという考え方は日本でも非常に強いが、彼らは他に選択肢がないからその仕事をしている、人前でそんな仕事をするなんて汚らしいといった思っている人は多いと思う。そういった職業の差別的意識が容疑者であるロバート・アーロン・ロングの大きな動機となっており、こういった考え方を社会全体で修正していかなければならない。

 

セックスワーカーは司法や社会から守られていないことが多く、昔から男性客や雇い主による暴力や差別にあってきた。セックスワーカーの大半は女性であり、女性を守るという事が大事なのはもちろんだが、全ての職業には意味があり、誰もが恥を感じることなくやりがいを持って仕事をできる世の中になってほしいものである。

 

<銃社会と白人>

銃撃事件の多さはアメリカ社会特有の問題であり、アメリカ人の銃に対する愛着は他国からすると理解しづらい。私も一部のアメリカ人の銃への執着の理解には苦しむ。憲法の2nd Amendmentの銃の保持の権利を異常なほどまでに守ろうとし、保守派はどんな事件が起ころうとも銃規制をしようとしない。事実、先進国の中でアメリカの銃による死亡数は圧倒的に高く、NRA (全米ライフル協会)が長らく、政界でも圧倒的な力を持っていたことがアメリカのおかしさを露呈している。

 

当たり前であるが、銃は刃物に比べたら不特定多数の人を一気に殺すことができるわけで、銃を使った虐殺はアメリカでは後を絶たない。ここ5年以内でもラスベガスやオーランドの繁華街での大量虐殺はそれぞれ50人前後の死者が出ているし、学校での銃撃事件も毎年のように起こっている。その度にGun Adovocateは銃に問題があるわけではなく、各容疑者の精神状態に問題があり、精神疾患を発見・治療することが一番大事だと訴える。この議論自体論点がずれており、そもそも精神的に不安定な人含めて誰もが殺人兵器となるライフルやハンドガンを手に入れることができてしまうことが問題なのである。メンタルに問題がある人を全てケアすることはほぼ不可能だが、そこから発生する大量虐殺は銃規制によって防げるはずなのにである。

 

では銃による犯罪が起こったときに、精神疾患について強調したり、銃規制について言及しないのはどうしてなのか。その大きな理由の1つが、多くの場合容疑者が白人男性だからである。ここでも人種差別と白人至上主義というアメリカ社会の闇が表れている。大量殺人が黒人やムスリムによって行われたらなんとメディアで表現されるだろうか。それは、テロである。でも白人が容疑者だとそうならない。

 

保守派のメディアは異国、特に中東や、メキシコからの脅威を誇張して伝え、移民の恐怖を訴えるのに対して、 (中東からのテロはもちろんあるが)、国内の脅威については軽視しようとする。彼らは、白人が大半の主犯である1/6の議会襲撃についても、暴動やテロと伝えたがらなかったわけだが、黒人扇動のBlack Lives Matterについてはドメスティックテロリズムと表現する。銃によるテロについても同様で、容疑者は世の中にストレスを抱えていた、闇を持っていたとすぐに容疑者側の弁護に走る。黒人が銃を持っている場合はギャングだ、凶悪犯だと叫ぶくせに、白人だったら銃を持っていても普通だと言っているのである。

 

今回も事件の翌日の警察の会見で、容疑者を擁護するかのように"He was having a bad day"と警官が発言した。気分が乗らない日を過ごしていたら、何も関係ない8人を命を殺害してもいいのだろうか。白人以外が同じことをしたら、このPolice Cheifは同じように言うだろうか。改めてアメリカにおける白人擁護を誇示する悲しい現実を突きつけられた。

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銃好きな人達は、自分の身を守る為に銃を保持しなければいけないというが、そもそも誰もが銃を手に入れることができなかったら、凶悪犯罪も起こりづらいはずである。差別意識を持った人が、自分が気に入らない人種や、職業、性別をターゲットにして悪事を企むことは容易に想定ができ、今回の惨事は今後何度も繰り返されるだろう。いつまでたっても変わらないこの銃規制の問題と、表沙汰になりづらかったアジア人差別、職業差別が組み合わさった複雑、いやシンプルで非情なアメリカ社会の異常さを考えさせられる事件であった。