ディープなNBA・バスケトーク+アメリカ文化

NBAとアメリカンカルチャー中心のブログ

大阪なおみとアメリカでの人気

どうも。大阪なおみが全豪オープンで優勝し、4大大会で通算4勝目と躍進を続けている。もちろん日本人選手として日本で大きく取り上げられるのは当たり前だが、日本人のアスリートの中でアメリカでも頻繁にスポーツトークショーの話題に挙がる希有な存在でもある。私自身が視聴する現地スポーツ番組やニッチなNBAポッドキャストですら彼女の名前がよく出てきており、そのプレゼンスの高さと人気が表れている。また、以前ジョン・マッケンローが大阪なおみはアメリカ人であると勘違いしていたことで話題にもなったぐらいである。そこで今回は、何故大阪なおみがここまでアメリカスポーツ界でも著名になったのかについてフォーカスして考えてみたい。

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1. 英語が喋れること

まあこれは当たり前のことではあるのだが、彼女が英語を喋ることができるのはアメリカのメディアにとっては好都合である。日本人のアスリートが世界的に大きく取り上げられづらいのは、記者とのインタビューや会見の際に、直接話さずに通訳が入ることで、どうしてもコミュニケーションの壁ができてしまうは大きな理由だと思う。例えば、現在NBAには何人ものNon-Native スピーカーがいるが、皆インタビューは英語で答えている。今トッププレイヤーのイヤニスやルーカはヨーロッパ出身であり英語により触れやすかったことも考えられるが、アジア出身のヤオも常に英語を喋っていた。(リーグに入った時と比べて、最後はかなりうまくなっていた気がする) それによって、彼らはメディアと直接コミュニケーションができるだけでなく、ファンとの交流もしやすく、トークショー番組にも出演できる。更にリーグ関係者からの評判がものをいうスポーツメディアの世界で、通訳なしで彼らと話すことができるのはその選手の印象度にも影響する。そうすることで、出身国だけでなきアメリカでも人気を獲得しやすくなる。

 

英語のスピーキングが世界的に弱い日本では、このコミュニケーション力が大きな弊害とはなっており、ここは日本のスポーツ業界が教育を進めていく必要がある分野だと思っている。(特に英語が喋れて当たり前だと思いちがちなアメリカ社会で生きていくには)。その点、大阪は幼少期からアメリカで育ったことで英語が堪能であり、問題なく世界のメディアとつながりを持てる能力は、彼女のアメリカでの人気を後押ししているはずである。

< 例えば、超有名司会者エレン・デジェネレスのトークショーにピンで出演すれば、テニスを全然知らない人にもリーチできる>

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2. 黒人のハーフであること

 これについても当たり前ではあるが、肌の色はその人のアイデンティティに大きな影響を及ぼす。特にアメリカにおいては、黒人対白人という構図が永遠のテーマであり、黒人は自分自身が黒人であるという事を強烈に出すことが多い。大阪なおみが、日本、ハイチ、アメリカという3つのアイデンティがあることは本人も語ったことがあるが、自分が黒人のハーフであることは常に意識しているのではないかと思う。逆にいわゆる純日本人ではないことで、応援したがらない人も日本国内には一部もいるようだが、アメリカでは、アジア人と黒人のハーフであることは、いい意味で彼女が注目されるきっかけとなりやすいのだろう。(一部の白人至上主義者を除き。。) もちろん、見た目や肌の色だけで人の判断をしてはいけないのだが、実際のところその人の魅力や人気に大きく関わっていることが多い。彼女は自分が日本人であることも、黒人であることもembraceしており、それが日本だけでなくアメリカでも受けいられる要素の1つとなっているのであろう。

 

3. 黒人テニスプレーヤーであること

テニスは歴史的に見ると白人のスポーツである。プレーや衣装に格式を求め、トッププレイヤーもずっと白人が占めていた。その点ゴルフに似ているかと思うが、タイガー・ウッズが黒人選手としてゴルフ界を圧倒したように、ヴィーナスとセリーナ・ウィリアムズがテニスを変えた。特にセリーナ・ウィリアムズの圧倒的な強さとテニス史上最長であろう全盛期によって史上最強のテニスプレイヤーとなった。彼女はアメリカではテニス界を超えて、マイケル・ジョーダンモハメド・アリ、トム・ブレイディなどスポーツ史上のGOAT (Greatest o All Time)の一人に数えられている。GOATトークはスポーツショーの恰好のディベートトピックであり、彼女の名前は本当にたくさん出てくる。スポーツ記者やメディアのセリーナラブLoveは本物で、テニス界の差別と戦いながら頂点に立った彼女の事を悪く言う人を全然聞かない。常日頃黒人選手にインタビューするNBAアナリストでもしょっちゅう彼女についてのツイートが出てきたりする。そんなセリーナも既に39歳とさすがに全盛期は過ぎているので、この黒人かつテニス界No.1プレイヤーの後継者こそが大阪なおみとなるわけである。テニスは未だに白人が大多数を占める状態ではあるが、その中でセリーナのような存在感を見せつけることが大阪には期待され、アメリカ人からもサポートを得られやすいことは少なからずあるのではないかと思う。実際、全豪オープンでのセリーナ対大阪のマッチアップはNBAポッドキャストでも試合前に話題となっていた。(Jalen and Jacobyなど) また、大阪自身もコービーのウェアを着てトリビュートしたりしており、大阪なおみとNBAのクロスオーバーは結構見られる。

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全豪でセリーナに勝利した後、コービーのウェアを着て質問に答える大阪なおみ

 

4. アスリートアクティビストであること

上記の黒人のアイデンティとしての強さは、彼女が黒人差別に対して大きく声を上げている事にも見られる。これまでも黒人スポーツ選手がActivismに携わってきたことは記事にしてきたが、(

アスリートとプロテスト (前篇: パイオニア達) - ディープなNBAトーク+アメリカ文化

アスリートとプロテスト (後篇: NBAスター達) - ディープなNBAトーク+アメリカ文化

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上述のように保守的な世界にいるテニスプレーヤーとしてプロテストをリードするのは非常に珍しい。2020年のシンシナティオープンでは、Black Lives Matterムーブメント真っただ中で、ウィスコンシンで起きた警察によるジェイコブ・ブレイクの銃撃 (

終わらない黒人 v.s. 警察とラプターズGMのマサイ・ウジリに対する訴訟問題 - ディープなNBAトーク+アメリカ文化)

に抗議し、今はテニスよりも大事なことがあるとトーナメントの途中で辞退を表明した。結果的に大会自体が1日延期されることになった為、最終的にマッチに挑んだが、大阪が見せた勇気ある発言と行動は大きな賞賛を浴びた。更にその後のUSオープンでも7試合で7つ違うマスクを着用し、そのマスク全てに直近の黒人の被害者 (主に白人警官による) の名前が記載されているという画期的なプロテストを行った。これについても世界で大きな話題となり、大阪の人気を後押しすることになった。

 

ただ黒人の殺害に反対と言うだけでなく、トーナメント辞退や犠牲者の名前が書いてあるマスクの着用といった目に見える形で差別への強烈な問題提起をすることは非常に意義があることだと思う。世界中の人にリーチができるプラットフォームがある大阪なおみが、このようにムーブメントを扇動することで、日本の影響力がある芸能人やアスリートが少しでも自分の意見が発信できるような社会に変わっていって欲しいと願うばかりである。

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毎回違う黒人の犠牲者の名前が書かれたマスクを着用



5. 結局のところ彼女の人間性とカリスマ性

これまで、大阪の人気について語学や人種的な面に焦点を当ててまとめてきたが、一番大事なのは結局彼女がいつも明るく謙虚な人であることであろう。それに加えてユーモアのセンスがあり、人を引き付ける魅力を彼女自身が持っており、それが国を問わず支持されている理由なのだと思う。今後もテニス界で頂点を目指すだけでなく、コート外でも世界をリードする彼女から目が離せない。