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大谷翔平でも救えないMLB (アメリカの野球人気低下の理由)

どうも。NBANFLもオフシーズンで大きなニュースはないということで、今日はMLBについて少し考えてみたい。日本でも毎日取り上げられている通り、大谷翔平の活躍は凄まじいものがあり、昨年から今年にかけてリーグNo.1の選手と言われてもおかしくない二刀流の大活躍をしている。昨年のMVPに続いて、今年はベーブ・ルース以来の二桁勝利、二桁本塁打ということで日本では大きな話題になっているのは当たり前だが、ニュースを見ると、アメリカも熱狂」といった報道がされるのはよく見ると思う。然し、本当にアメリカで大谷の快挙がたくさん伝えられているかというとそうではない。エンゼルスというプレイオフに望めないチームでいるから、かつアメリカ人ではないからということはもちろんあるだろうが、二刀流で活躍している選手など何十年もいなかったというものすごい事実が大きなニュースにならないのである。

 

大谷翔平だけではない。名門ニューヨーク・ヤンキースのアーロン・ジャッジは今年ホームランを量産し、MVP最有力とされているが、昔だったら連日全国ニュースになるところが、スポーツ番組で取り上げられることは少ない。天下のヤンキースでこんな状況であり、15年ぐらい前であれば毎日のように取り上げられていたはずの大車輪の活躍が、開幕前のNFLやオフシーズン真っ只中のNBAにすら負けている状況である。

 

10~20年ぐらい前までは、アメリカ全体の人気順でいえば、NFL >>>> MLB >>NBA >>>NHLぐらいだったものが、今は完全にNBAに抜かされた感がある。(NFLは引き続き圧倒的な地位を誇っている) そこで、今回は、アメリカのPasstimeと呼ばれていた大リーグが、どうして全国的に人気が下がってしまったのかを考えてみたい。

 

1. 試合時間が長い

これは、アメリカに限らず日本でもずっと課題になっていることだが、野球はとにかく拘束時間が長い。昔であれば試合時間が長くても他に見るものがないということもありテレビでみんな見続けてくれたかもしれないが、SNSが当たり前になり、テレビのチャンネルも数が増え、オンディマンドもたくさんある現代では、特に若い人のアテンションスパンはとっても短い。その為、だらだらと試合を見るという行為自体がそもそもできないのである。

 

アメフトだって試合時間が長いということは確かなのだが、それを補うアメリカ人が好きなフィジカルなプレーの数々、1Q15分と一応時間が決まっている、1プレー毎に区切りがある点などが若い人にも受け入れらやすいとこがある。一方バスケも、試合時間がある程度決まっていることや、やはりスピード感があるし、ファッションとしてのバスケと、Hip Hopがメインストリームになったこともあり、いわゆるクールな選手がたくさんいる。更に、最近はサッカーの人気も10年前に比べたら大分高まっていたりする。

 

2. 暗黙のルールの多さ

若者から最近人気が少ないもう一つの理由は、野球の暗黙のルールの多さであろう。どのスポーツにも暗黙のルールというのは存在しているが、その数が野球には多すぎるかつ、なんだかんだアメリカの方が日本に比べてそういった慣習やしきたりを大事にしたりする。バットフリップしてはだめ、大差がついてる試合は盗塁しちゃダメなど、昔からの教えが多すぎてめんどくさいのである。

 

特に最近の若者はそういった煩わしく古臭い習慣を嫌う傾向がある為、より自由さがあるバスケやサッカーに興味がひかれている傾向があると思われる。

 

3. ステロイドによるイメージの悪さ

また、直近30年の大リーグを語る上で絶対に欠かせないのが90年代から2000年代前半にリーグ全体に蔓延したステロイド問題だろう。94-95年の長く続いたストライキによって人気が下がってきていたMLBにおいて、1998年のマーク・マグワイアサミー・ソーサのホームラン争いは大きな注目を浴びる絶好の機会となった。更には他の選手もホームランが増え、リーグ全体で活気が出たことで離れた観客を取り戻す事ができた。ホームランの量産は2001年のバリー・ボンズのシーズン73本塁打で最高潮を迎え、まさにMLBに全盛期を迎えているようだった。

 

然し、この時期はリーグ全体でステロイドが蔓延しており、パワーヒッターの多くが異常なまえでの腕の太さで、体格もものすごいことになっていた。特にボンズステロイド前後ではその違いは顕著である。この時期リステロイドの事実を知りながらも黙認していたという話もあるし、MLBを盛り上げる為に関係者がみな協力していてたということになる。

 

この事実は元スラッガーかつステロイド使用者のホセ・カンセコの暴露本によって大きくニュースでも取り上げられ、2000年代半ば以降の調査で多くの選手がステロイドを使用していたという報告がされ、多くの失望を買った。これにより、ファンにエキサイトメントを与えた数々のホームランは偽りだったのかということでイメージダウンは免れられなかった。(どんなに筋力があっても打てる技術がなければHRなど打てないことも事実だが)

 

4. アナリティックスの影響を受けすぎた

イメージダウンとともに、野球の興味を下げる要因となっているのが、アナリティックス偏重のプレイスタイルである。アメリカスポーツ界においてアナリティックスは非常に影響力が強くなっており、例えばバスケにおいてもスリーとレイアップを重視するいわゆるモーリーボールはリーグに革命をもたらした。それにより、どのチームも似たような戦略でチームごとの違いがなくつまらなくなってきているという声はありつつ、今のところスターの存在もありNBAの人気は上昇傾向である。

 

然し、野球ほどこのアナリティックスに影響を受けたスポーツはないだろう。野球については攻撃も守備もほぼ全ての評価軸がアナリティックスで測れてしまう。オークランド・アスレチックスGMであった、ビリー・ビーンがデータ分析を多用した選手構成をしたことで、マネー・ボールとして非常に有名になったが、野球の根本を変えていくようになる。

 

データを重視すると、得点の効率性を考えた時に、最終的にヒットよりホームランを狙う方がベターとなり、誰もがパワーヒッターを目指すようになった。これにより三振かホームランかのどちらかという事が増えてしまい、当たれば面白いが、打率を考えたらその確率の方が断然低いことがわかる。

 

同様にバッターの傾向を考慮した極端なシフトによってヒットの機会を奪ったり、バントは非効率として実行しなかったり、盗塁を狙う回数を減らしたりと、戦術としては正しいのだが、面白みがないプレイスタイルにどのチームも移行してしまったのである。各チームの違いがないかつ、いちかばちかのホームラン狙いが多くなったことでエキサイティングな野球の部分は減ってしまったかもしれない。(大谷のかなりアッパーなスイングはアナリティックスの影響を受けていることがわかる)

 

5. アメリカ選手の減少

アメリカのスポーツである上で更に欠かせない要素がアメリカ人選手が活躍しているかである。それはもちろんアメリカ人は自分達が一番好きだからである。

然し、最近のMLBアメリカのスーパースターがとても減ってしまった。日本の選手は勿論のこと、特に南米選手を若くして見つけて安い育成費でMLBまで昇格させるというシステムが出来上がっていることで、2000年以降海外選手の数がみるみる増えた。

 

加えて、90年代以降に生まれたアメリカの黒人たちはマイケル・ジョーダンの影響を多大に受けているためバスケに行きがちだし、白人の選手もより人気のあるアメフトへに持ってかれがちなのである。単純な年俸や競技人生の長さでいったら、野球で成功することが一番お金持ちにはなれるのだろうが、かっこよさが足りない今のMLBにはなびかなというところなのだろう。実際80年や90年前半の大リーグの黒人の割合はヒスパニックより多かったが、今や黒人は全体の7%程度しかおらず、ヒスパニックの4分の1、白人の8分の1程度しかいない。どれだけ黒人選手達が野球を選んでないからこのデータからわかる。

 

6. 全国でなくローカルへのシフト

一辺倒のスタイルかつ長時間な試合、リーグのイメージダウン、アメリカ人スターの不在など、大リーグ人気低迷の要素は考えてみるといくつもある。こうして、長らくアメリカのスポーツと言われてきた野球は2000年代途中から勢いを失い、大谷の二刀流やヤンキースのジャッジが全国ニュースとならないレベルまで落ちてしまったのである。但し野球が完全にDeadというかというとそうではなく、今だにプレイオフになると大いに盛り上がりを見せるし、ローカルテレビとは巨額の金額で契約ができている

 

なぜローカルが強いのかというと、アメリカは各州の大きさが日本とはけた違いな為、州単位のローカルテレビやラジオ、ニュースが揃っているし、地元愛が強い場所では自分達のチームしか注目していない人もたくさんいる。レギュラーシーズンの試合数が多く、地元の人たちがふらっと立ち寄れるイメージの強い野球は、より地域に根差しているといえるかもしれない。以前の栄光を取り戻すのは難しく、スポーツニュースサイクルに入ることは難しいのかもしれないが、ローカルベースにしっかりと収益が出せれば、早々にMLBが世の中から消えることはないだろう。