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クロスロードに立たされているアメリカ <Roe v. Wadeの意味>

どうも。NBAファイナルやドラフトなどバスケ関連で話したいこともたくさんあるが、今回はアメリカ社会において現在最も重要なことについて考えてみたい。それは最高裁が下したRoe v Wadeの撤回である。

 

Roe v Wadeはアメリカで妊娠中絶の権利を保障する採決として1973年以降、多くの女性・家族が頼りとしてきたのだが、先日6月24日に現在の最高裁がそれを覆す決定をしたのである。アメリカの場合は、州の力が強い為、国の憲法上の権利と州の決める法律で常にConflictがあり、特に南部の州では、Roe v. Wadeが守らていながら、これまでも中絶が出来ないようにうまく法律を作ったりしていたわけであるが、今回の決定により、それを堂々とできるようになったのである。これはアメリカの社会構造を揺るがす一大事であり、アメリカのニュースはこの件で話が持ち切りとなっている。

アメリカでは全国でプロテストが起きている

 

<なぜ保守派はPro-Lifeなのか>

なぜこれが重要なのかというと、アメリカは自由の国と言われながら、保守派とリベラル派の力のコントロールの奪い合いによって成り立っている国だからである。どこの国でも起きていることではあるが、アメリカでは特に中絶賛成派のPro-Choice(女性の権利を尊重)と中絶反対派のPro-Life(赤ちゃんはお腹でできた瞬間人間として扱うべき)で真っ二つに意見分かれる。特に保守のPro-Life派の政治活動はとても激しく、テキサスやミズーリなどの南部の州はキリスト教の教えを掲げて、中絶を実施するクリニックを廃業にさせたり、中絶をしようとする人を通報できるようにしたりなど、女性が必要な治療にアクセスできなくする悪策を上げたら枚挙にいとまがない。

 

保守派の意見としては、いかにどんな状況であれ宿した子供を絶対に産むべきであり、それが神の教えだと主張する。それが女性がレイプ、DVなど強制的なものから単純に望まない妊娠でも当てはまるのである。個人的に前からほんとに疑問なこととしては、なぜレイプというとてつもないトラウマを受けた人が、それによってできた子供を産まなければいけないのかということである。そんな形で生まれた子供を母親が愛せるなんてできるわけがないし、男性側が追及されない方がおかしい。そもそも子供を産めない男が女性にそれを強いること自体まったキリスト教の愛の概念に沿ってない。近くに中絶可能な病院がないこともあって、これまで多くの女性がすごい離れた土地までいって中絶の許可をもらわなければいけないということは問題になっていたが、Pro-Choice派が声を上げればあげるほど、共和党が力を持つ州はどんどんと制限を強めていった。その一方で、民主党側は守られるべき女性の権利の為に、然るべきアクションを取り切れていなかった。

 

ではなぜPro-Life派はそこまでこだわるのか。彼れはお腹に出来た子はいかなることがあれ中絶したら殺人であり、神が宿した子供をどうするんだと叫ぶ。でもだからといって自分とは関係のない人たちかつ、信条が違う人たちのことをどうしてそこまで気にするのか。結局それはパワーとコントロールなのである。人間は自分達の思い通りにさせることに快感を覚えることは往往にしてあるだろう。政治も結局同じである。自分と意見が違う相手を屈させて支配下において、中絶以外にも色んな問題で優先権を得る事ができる。これが目標となるわけだ。それは同姓愛結婚にしても、銃規制にしても、コロナ対策にしたって同じである。

 

<本当に子どもをケアするなら>

結局だが、子供のことを本当に考えていたら、子供を育てる環境を整えたり、母親が生きやすい社会にしたり、子供向けの保証やヘルスケアコストの軽減を図るだろう。然し、保守派は一切こういうことに手を付けない。そういった政策はリベラル派が提示するものである。特にヘルスケアに関して、アメリカは先進国で唯一ユニバーサルヘルスケアがない国であり、長年莫大な医療費が問題になっているのだが、それを改善する気は共和党にはない。保険は自分達で選ぶ権利があるというのが彼らの主張だが、お金がないのに中絶できなくて育てられない子供を産むことになったらどうだろうか。出産の費用から育児の費用まで捻出が厳しく、少なくとも金銭的に非常に苦しい生活を長年強いられるだろう。中絶反対なのは子供を守る為だと主張するが、そんなことはどうでもよく、実際に子供を育てやすい制度作りには手を出さない彼らの意見は、偽善どころじゃなくただの嘘である。

 

<銃やマスクは権利を主張する>

この嘘が顕著に出るのが銃規制の問題であるアメリカはとにかく銃による大量殺人が多い。スクールシューティングの数は毎年尋常じゃなく、多くの学生が銃によって当たり前のように命を失っている。つい先日もテキサスのロブ小学校で乱射事件が起こり18人が亡くなったばっかりである。小学校で銃乱射が起こるとか普通に他の国では考えられないし、子供の命を考えるなら銃規制をしようというのが普通の考えだろうが、そうはいかない。建国時に作られた大昔の憲法第2条に異常なまでに固執し、銃を持つことは自分達の自由であり、どんなに残虐な事件が起きても銃を規制するのではなく、メンタルヘルスが原因だと論点をずらし、より学校の警備を銃で強化し先生も銃の訓練をすべきだとか現実不可避な議論をしてくる。ただでさえ給料が少ない教師に何をさせようとしているだろうか。

 

マスクだって同じであり、多くの保守派の人間がマスクなんてつけたくない、自分の身体に身に着けるものは自分で選ぶ権利があると言ってくるのである。同じロジックであれば女性が子供を産むか否かの判断を選ぶ権利があるはずだが、そこは都合悪いから完全無視である。要は人命を大事にしたいわけではなく、自分達で勝手に解釈した宗教の教えの強要と相手をコントロールしたいだけである。

 

<アメリカの最高裁の政治化>

実はこの銃規制についても最高裁Roe . Wadeの撤回決定直前に、すごい判決を下している。ニューヨークで長年守られてきた公共スペースでの銃保持を規制する法律にNoを出したのである。ニューヨークのように大量に人がいる都市で銃の保持が認められたら混乱が起きやすくなるのは確実なはずだが、Gun大好き保守派にとっては銃をみんなが持つことが大事な為、倫理や論理など関係ない。

 

では、何故アメリカの最高裁が中絶の反対や銃規制の緩和をしているのか。それは9人いる最高裁の判事のうち6人が保守派であるからである。保守派とリベラル派で5対4となることは多々あったが、完全なる多数決となる状況はこの布陣が最初である。司法は政治と力関係上分離していなければならいはずだが、SNSやトランプの登場によって、世の中の全てのことが政治と関わりが強くなってしまっている昨今において、最高裁までも政治的アジェンダをベースに判決を下すようになれば社会が分断することは目に見えており、今後更にアメリカ社会は揺れるだろう。

 

 

保守派6人に対してリベラル派3人の最高裁判事


<アメリカの最高裁のシステムの問題>

そしてアメリカの最高裁がこんな政治色が強くなってしまったのは、そのシステムにある。これまた憲法が出来た時に確率された古臭いものなのだが、最高裁の判事は終身職な為、判事になってから死ぬまでアメリカの法を支配できる。そしてノミネーションの仕方もかなりやばい。判事が亡くなったもしくは引退した時点で、その時在職の大統領が新しい人をノミネーションをすることができ、議会でコンファームする。ということは、在職期間中に何人も判事をノミネートできる大統領もいれば、誰もできない大統領もいるわけである。

 

これが以前であれば、過半数の議決を持った政党と大統領の所属政党が逆になっていても、お互いの党への一定のリスペクトがあり、コンファームできるような民主主義になっていのだが、それをぶちこわしたのが現在のアメリカ政治の悪の元凶ミッチ・マコーネルである。2016年に当時大統領だったオバマがメリック・ガーランドを最高裁に任命しようとした際に、その時議会で過半数を持っていた共和党のSenate Majority Leaderとして、いかなることがあっても任命をブロックするようにしたのである。2016年はオバマの最終年で選挙が重なるからなど適当な理由をつけながら共和党全体を従わせ、結局ガーランドの任命を阻止することに成功したのである。これはほんの一例ではあり、マコーネルは自分の力を上手く利用して長年アメリカ政治をコントロールしまくっているのである。最近の分断政治において一番悪い奴は彼であると私は思っている。

中身は最悪だが政治家としては有能なマコーネル

 

そしてそこに悪の元凶二人目のトランプが大統領となったことで、更に事態が悪化した。ガーランドがブロックされた一枠を含めて、4年間でトランプは3人も保守派判事を任命してしまったのである。こんなにラッキーな野郎はいるだろうかというぐらい共和党にとってはとても好都合だった。だからどんなにトランプがクレイジーでも彼に忠誠を誓い、順調に保守派の中でもかなり右寄りな判事を3人も終身雇用させることができた。トランプの悪い意味でのレガシーは数えたらきりがないが、この最高裁のコントロールこそ、共和党が長年夢見たことであり、トランプの一番の保守派への功績と言えるだろう。

 

こうして、政治の副産物となった最高裁で6対3の体制となった今、保守派はやりたい放題なわけである。

 

<国としての岐路に立たされるアメリカ>

上記の妊娠中絶はアメリカの過半数が賛成していることであり、民主主義で考えたら一部の思想強めの人間によって支配されるべきことではない。

www.pewresearch.org

これは銃規制についても同じであり、過半数アメリカ人が銃購入の際のバックグラウンドチェックに賛成している。銃保有者であってもバックグラウンドチェックがあるべきと考えている人が多いわけだが、あたかも銃は正義だと議会で唱えられるのは、NRAなど一部のロビーストによって政治がコントロールされていることを象徴している。

 

そもそもアメリカでは現在リベラルの方が過半数であり、アメリカ議会、最高裁などがそれを全く反映していないこと自体がおかしいのだが、その抜け道をかいくぐって自分達の思い通りに悪事を働く共和党政治家はいい意味でも悪い意味でも行動力がある民主党は議会の過半数と世論が後押ししている今、何かアクションを起こさないといけないだろうが、彼らはまとまりがなく正直あまり期待はできないし、批判を恐れて全く行動力がない。

 

このままではアメリカの分断は更に進み、もはや2つ違う国が1つになってしまうかのようになってしまうだろう。そのくらいこの直近2つの最高裁の判決はアメリカ社会にとって大きな意味を持つものであり、アメリカという国のアイデンティが今後数年でどうなっていくのか非常に興味深いとともに恐ろしさも感じる。いつになるのか分からないが、誰もが安心して、自分の選択ができる世の中となることを切に願う。もう手遅れであるのかもしれないが。