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ケビン・デゥラントの複雑なレガシー

どうも。世の中色んな事が起きている中ではあるが、今日はバスケにフォーカスしてみたい。オフシーズンも始まり次々とトレードやFAが決まっていき、サマーリーグも開幕してNBAは常にノンストップなわけだが、その中でも今回は特にオフシーズン直後にネッツからのトレードを要求したケビン・デゥラントと彼の複雑なレガシーについてまとめてみたい。

 

ちなみにKDと比較対象になりやすいステファン・カリーのレガシーについては過去2回ほど記事にまとめているのでこちらも是非ご参照。

atsukobe.hatenablog.com

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<デゥラントのタレント>

KDのスキルレベルを考えらた歴代随一であることに異論を唱える人はいないだろう。ほぼ7Foot (2m13センチ)の身長で、ガード並みのハンドル力とシュート力を兼ね備えた唯一無二の存在である。最近はビッグマンのような身長の選手がガードのようにプレーすることも増えたが、デゥラントが表れるまでに彼ほどのレベルでスコアリングができる選手はいなかった。マジック・ジョンソンやラマー・オドムは2メートル6cm前後でプレイメイクができる希有な選手だったが、KDのように得点は稼げないし、トレイシー・マグレディもスムーズさでは同じだが、彼は2メートル3センチでデゥラントの方が全然身長が高い。ダーク・ノウィツキ―は身長とシュート力は同じだが、デゥラントほど機敏に動けなかった。

 

生まれ持った身長、磨き抜かれたハンドリングとシュート力だけでなく、セルフレスで相手を巻き込もうとするプレイスタイル、パス能力、一定のディフェンス力も持っているということで、選手としてほんとに欠点が少ない。特にスコアリングのレベルは史上最高と言ってもおかしくなく、ボリューム、効率性、バリエーション、effortlessさの観点で全て超絶ハイレベルであり、おそらくウィングプレイヤーでは、ジョーダンとKDが1、2位を争うのではないかと思う。(コービーは効率性で劣り、レブロンはバリエーションで劣る)

 

特筆すべきはシュートの正確さであり、ジャンプシュートを中心にプレーするボリュームスコアラーでありながら、2012-2013シーズンから一度もレギュラーシーズンのFG%が50%切ってないのは異常な数字である。特にミドルレンジの安定度は群を抜いており、シャックやカリームなどインサイド勝負でないなか、いつでも30得点を取れる選手がこれだけの効率性を保つことができるのは過去に例がない。(True Shooting%でもスコアラーの中では、スリーを量産するカリーに次ぐ数字ではないかと思う)

 

若手の時はその細長い身長からNBAのフィジカルに耐えられるのか、もっと筋力をつけた方がいいのではないかと言われ続けたが、筋肉質にならなかったことで、プレーのスムーズさとシュート力を失わずにすみ、マッチョだらけのNBAで生き残れた彼は非常に希有な存在であると言える。

スコアリングタイトル自体は2014年から獲得していないが、この10年間以上で最も恐れられるスコアラーは誰かと言われたら、Easy Money SniperことKDの名前が真っ先にあがるはずである。

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<OKC時代>

では、今度はデゥラントの実力は置いておいて彼のキャリアの軌跡を振り返ってみよう。史上最高レベルの選手としては特異な経緯を歩んでいる。大学時代はセンターのグレッグ・オデン (ケガが惜しい、、、) とNo1とNo.2で争い、2007年に当時のシアトル・スーパーソニックス (今でもシアトルにあるべき、、、) に全体2位で指名され、当時のHCの方針でルーキー時代はシューティングガードをやらされたりしたが、いきなり平均20点を稼ぎ出し、3年目から3年連続得点王となり一気にスターの道を駆け上がる。

 

そして、デゥラント入団の翌年にラッセル・ウエストブルック、3年目にジェームズ・ハーデンが加入したことでチームもどんどん実力をつけ、3年目で初のプレイオフ出場、4年目でカンファレンスファイナル進出、5年目にはファイナル進出と、順調に階段を上っていた。更にハーデンのトレードもあり戦力がおちた2014年は、更に個人としてレベルアップし、シーズンMVPを獲得する。

 

然しその年のカンファレスファイナルでスパーズに敗退、次の年はケガでシーズンを棒に振ってしまった。勝負の年となった9年目の2016年はプレイオフで強豪スパーズを破りカンファレンスファイナルに進出し、レギュラーシーズン73勝のウォーリアーズを高さとフィジカルで圧倒し、3勝1敗と追い込んだのだが、そこから3連敗を喫してまさかの敗退となる。

 

と、ここまではよくあるスター選手の経歴な気もするし、若干運が悪かったなというところもあったのだが、その年のオフシーズンにFAで史上最高のレギュラーシーズンの成績を残し、自分が苦渋を舐めた相手であるウォーリアーズに加入したことで彼のレガシーが大きく変わってしまう。

 

<ウォーリアーズ移籍ドラマ>

既にスターが集まったウォーリアーズに彼が入団することができたのは、この年はサラリーキャップがいきなり上がってお金投資しまくりのウォーリアーズでもサラリースペースがあったことで実現したからなのだが、ファイナルでキャブスに負けたと言え、リーグ屈指の強豪にリーグトップ3の選手が加入することは、誰からも好意的に受け止められなかった。

 

KDはリングチェイシングしている、戦いから逃げているなど散々批判され、彼はNBAのエナミ―No.1となる。そういう意味ではDecision直後のレブロンと似ているかもしれない。ただデゥラントとしては、ただ強豪に加入するというよりは、これまで優勝経験がなかったことに加えて、1オン1中心でボールを渡さないPGのウエストブルックに嫌気がさした、オクラホマというど田舎を出て、サンフランシスコのような都会に行きたかったという理由もあったのだと言われている。

 

然しどんな理由があれ、スポーツにおいてリーグのバランスを崩してスターが1つのチームに集まることは基本白い目で見られてしまう。特にデゥラント程の実力者がリーグ史上ベストなチームの1つに加入することはとにかくご法度だった。彼がウォーリアーズ以外を選んでいれば臆病者、勝負かrあ逃げたとかもあまり言わなかっただろうし、サンダーを出ることも納得されただろうが、とにかく移籍先が悪かった。おそらくだが彼はそこまで批判を受けるとは思っていなかったのだろうと考えられ、ある意味ナイーブだったのかもしれない。

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シーズンが始まると、もともとベストスコアラーでありながらアンセルフィッシュなKDは、同じくスーパースターながらアンセルフィッシュなカリーと上手くマッチし、チームは予想通り勝利を重ねて、ファイナルでもキャブス相手に4勝1敗と圧倒する。そして何よりデゥラントは攻守で大活躍をして、レブロンを抑えてリーグのベストプレイヤーとして君臨するようなパフォーマンスを披露した。特に第3戦でボールを運びながら、そのままレブロンの目の前で3ポイントを決めて勝利を引き寄せたショットは彼が全盛期であり、自分が一番であるということを象徴していた。こうしてKDは念願の初優勝に加えて、ファイナルMVPも受賞することになる。

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<デゥラントの変化>

こう聞くとサクセスストーリーのように見えるが、世の中そう上手くはいかない。移籍時に大量の中傷を浴びながらウォーリアーズを優勝に導いたわけだが、優勝後も結局賛辞より批判が続いた。自分から強豪に行ったのだから勝って当たり前だろというのが大方のファンやメディアからのリアクションで、折角の彼の功績が認められなかったのである。移籍時の批判はまだしも、優勝しても止まらないネガティブなリアクションは彼も全く予想していなかっただろう。実際2017年のキャブスはロスターもかなり強力で、デゥラントがいなかったら、ウォーリアーズは負けていた気がするのだが、そんなことは一般のファンにはお構いなしだった。

どんなに優勝しても彼への評価は変わらなかった。



この優勝後も覆らない彼へのイメージによって、KDのパブリックペルソナを大きく変えたしまった気がする。特にサンダー所属時はとにかく彼がナイスガイなことが強調され、非の打ちどころがない性格のように言われていたが、度重なる批判で内面の性格に強烈な変化が起きたと考えられる。OKC時代はナイキが"He is not that nice"というキャンペーンを打つほどであったし、MVP受賞時のスピーチは彼の優しさと正直さが表れ、多くの感動を呼んだのだが、その後はナイスガイさが消えていき、より複雑な人間性が浮き彫りとなる。

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ウォーリアーズ2年目の2017-2018シーズン時点で既に彼のファンに対する不満は表情や発言から伝わり、何か満足いっていない感じが見て取れた。チームは前年程の強さはななかったが、カンファレンスファイナルではロケッツに追い詰められながら第7戦で制し、ファイナルではキャブスを圧倒し、ウォーリアーズは2連覇、デゥラントは2年連続ファイナルMVPと更なる栄光を手にした。然し、世間の反応は変わらずのままだった。そして、どんなに彼が大活躍してもウォーリアーズはいつまでもカリーのチームであり、カリーが存在する限りは途中から入ったKDの実力が上であろうが力関係を覆すことはできないことを彼は悟ったのである。

 

満たされない彼の3年目は、シーズン後の移籍話がずっと付きまとい、ニューヨークに行くという噂が絶えず流れた。シーズン開幕前からシーズン開始後もスポーツメディアはこの話ばかりをして、ウォーリアーズにとっては落ち着かない日々が続いた。そういった状況を象徴するかのように、レギュラシーズン序盤のクリッパーズ戦の試合中にチームメイトのドレイモンド・グリーンと大喧嘩して、グリーンが移籍の件を喧嘩中に持ち出したともいわれ、チームケミストリーに綻びが出ているのは明らかだった。

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絶え間ない移籍の噂によってデゥラントは更にメディア相手に攻撃的になり、ツイッターもアクティブに使い、一般のファンの挑発に乗って返信をしたりと、若干扱いづらい人間というレッテルを貼られるようになる。

 

そんな混沌とした中でも、彼は圧倒的な実力を見せつけるとともに、チームは3連覇に向けてセカンドラウンドまで順調に進んだが、そこでKDは怪我してしまう。ファイナルでは怪我を押して第5戦で復帰したが、そこでアキレス腱を断裂してしまい、これが彼のウォーリアーズ最後のユニフォーム姿となった。

 

<ネッツへの移籍>

結局噂された通り、彼はオフシーズンに移籍し、ブルックリン・ネッツに仲良しのカイリー・アービングと一緒に入団することを決める。ここからの彼の複雑さが更に増す。

そもそもリーグ屈指のアンセルフィッシュなスターであるカリーの元を離れて、現代NBAで最も扱いが難しい選手のカイリーと組むという事自体かなりの賭けであった。

 

更に2人の親友で当時既に下り坂だったセンターのディアンドレ・ジョーダンを契約させたり、コーチとして評価の高かったアッキンソンを首にさせ、スティーブ・ナッシュがコーチになると、かなり自分の持つパワーを行使するようになる。

 

前年アキレス腱を断裂した為、ネッツ最初のシーズンはほぼ棒に振ったのはいいが、2年目で更に大きな動きが出る。ロケッツに不満を持っていたハーデンを勧誘して、ネッツのフロントオフィスから大量のアセットをトレードさせてハーデン獲得を強行し、同時に若手有望センターのジャレッド・アレンを放出させ、引き続き下り坂のジョーダンはキープするという愚行もした。この2年間の動きは、元々チーム優先的な考えが強かった彼がプレイヤーエンパワーメントを身にまとったことを大いに表すものであった。結局2年目のプレイオフではBig3を引っ提げて優勝候補筆頭となったわけだが、カンファレンスセミファイナルでバックス相手に、ハーデンとカイリーが次々とケガをしてKDの孤軍奮闘状態となり、第7戦の延長戦まで行ったが敗退となった。但し、このシリーズでのKDの活躍自体は神がかっており、リーグNo.1選手として彼への評価は幾分高まったかに思えた。

 

然しネッツ3年目で全てが爆発する。親友カイリーのコロナワクチン接種拒否によって、ハーデンがしびれを切らせて再度のトレードを要求してシクサーズに行き、代わりに入ったシモンズは一度もプレイせず、カイリーはシーズン終盤までほとんどプレイできずに終わる。KDも途中までチームを引っ張たがケガをしてしまいネッツは第7シードまで下がり、プレイオフではセルティックスにスイープされるという屈辱を味わう。彼自身もセルティックスのタフなディフェンス相手に苦しみらしさが出せずに終わる。

歴史に残る短命なBig3となってしまった

 

<下り坂のレガシー>

結果的にBig3全員一緒にプレイしたのは僅か合計16試合のみに終わり史上最もDisappointingなBig3だったと言えるだろう。ただ敗退しただけならいいのだが、運も悪い?ことにウォーリアーズがカリーのみがスーパースターというチームで再度優勝したことで、やっぱりデゥラントがいなくてもよかったじゃんという見方が加速し、KDの立場が更に弱くなった感はある。元チームメイトのカリーの評価は上がり、歴代プレイヤーランキングでもKDより上に置く人も多くなってきている。

 

そして、自分勝手な行動が続くアービングへの批判はオフシーズンで更に強くなり、ネッツが彼のトレード先を模索していると言われていた。が、今度はネッツの状況にしびれを切らしたデゥラント自身が4年契約を残した段階でトレードを要求するのである。彼のトレード希望先はサンズと報道されたりしていたり、彼を欲しがるチームは引く手あまたかと思われたが、トレード先はなかなか決まっていない。これは思った以上に彼価値が低くなっていることを表しており、今年で34歳になり、最近はケガも多く、ムーディーになりやすい彼を多くのアセットを使ってまでトレードしたいというチームが少ないのである。

 

更にもし彼が希望通りサンズのような強豪に入って優勝できたとしても、世の中の評価は変わるだろうか。また競争から逃げて簡単なチャンピオンシップを取りに行ったと揶揄されてしまうだろうし、彼のレガシーに更に傷がつく気がしてならない。それが嫌でウォーリアーズから出ていったはずであり、彼のこのトレード希望先は理解するのが難しい。

 

<KD vs. 歴代トッププレイヤー>

KDがもし今引退をしたとしても、おそらく史上Top15 (低くてもTop20) に入る選手と評価はされるだろう。但し真の意味でのチームのNo.1として優勝した経験はなく、元チームメイトのカリーの優勝で少し差をつけられた感もある。スキルレベルとタレントレベルだけでいったら史上Top5に入っても全くおかしくない選手のはずなのだが、様々なシチュエーション、彼自身の決断の方向性などが邪魔をし、なんとも奇妙な選手生活を送っている。非常に優れた選手でありながら、最大級のポテンシャルを活かしきれていないという点では、タイプは違うがシャックに近い存在なのかもしれない。デゥラントが果たして自分の納得する形で移籍し、自分自身のレガシーを好転させることができるのか、はたまたネッツからトレードせずに頑張るのか、今後の動きから目が離せない。