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なぜ2022年NBAファイナルがウォーリアーズとカリーのレガシーを決定的なものとするか

どうも、とうとうNBAファイナルのカードが決まった。シリーズスタート前に書いた個人的なカンファレンスファイナル予想は若干外れてしまい、セルティックスとウォーリアーズのカードとなった。(セルティックスの勝利は予想したが、第7戦までもつれるとは思っていなかった)

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<カンファレンスファイナル総括>

ヒート対セルティックスは両チームの主力選手の怪我の多さや、3ポイントの決まり具合によって、全く読めないシリーズとなり、1試合毎の変化がすごい大きかった。最初の5試合は全て二桁以上の差がついた結果であり、稀に見る波の激しさであったが、5試合目でセルティックスが圧倒した段階で、ヒートは完全にガス欠かと思われた。然し、第6戦で膝の悪いジミー・バトラーが人生最高のパフォーマンスを披露して、そのままの勢いで第7戦も全48分プレイして、セルティックスを追い込んだ。(最後は力尽きたが)

 

ジミーはレギュラーシーズンではスーパースター級のレベルから1つ下がるが、2020年のバブルと今シーズンのプレイオフでのヒロイックは確実に彼のステータスを上げたと言えるだろう。ただヒートは、バトラー以外でオフェンスのパンチが無かったのが最後まで響いた。オフェンスのパンチがないことがもともとヒートのファイナルへの道の懐疑ポイントではあったのだが、重要なシックスマンであるタイラー・ヒーロも4試合目以降ケガで不在となり、バトラー頼みになってしまった。バトラーも晩年ケガで来期以降同じ活躍できるか分からないし、ラウリーは明らかに峠をすぎた感あり、バムはスコアラーとしては2番手としては心細いので、第2の頼れるスコアラーがヒートの補強ポイントになるだろう。

最後の逆転を狙ったスリーは、ベストショットではなかったが、休憩ゼロでガス欠状態だったことを考えると責めることはできない

ファイナルに12年ぶりに進むセルティックスは、お家騒動激しいネッツをスイープ、ミドルトン不在のバックスに競り勝ち、戦力不足のヒートに苦しんだが、何とか勝ち抜いたといったところである。若いチームとはいえ、既に直近6年で4回目のカンファレンスファイナルであり、ついに時が来たと言えるだろう。(過去3回は戦力的にも年齢的にもファイナルにいける気はしなかった) 。主力プレイヤーのドリブル力の低さ、オフェンスが終盤滞りがちなど、懸念要素も多いが、ディフェンス力は本物である。

セルティクスは対ウォーリアーズ相手に相性がいいだけに、ファイナル初の選手が多い若手中心チームと百戦錬磨のチームということで、面白いシリーズとなることには間違いない。

 

一方ウエストにいくと、カンファレンスセミでは最後サンズを崩壊させたルーカとマーベリックスの勢いがあると予想されたのだが、蓋を開けてみるとウォーリアーズが圧倒してしまった。ウォーリアーズのディフェンスの総合力もあったが、マブスのシュートの不安定さが際立ち、、あたボールムーブメント中心のウォーリアーズ相手では。ルーカのディフェンスとマブスのリムプロテクションの弱さを露呈する形となった。ピックアンドロールや1 on 1を中心とするチームと違い、ウォーリアーズのオフェンスは、怠けがちなディフェンダーが一番苦しむスタイルであり、完全にそれにはまった印象である。

 

セルティックと同じようにマブスもルーカがまだまだ若いし、彼は歴代Top10になる可能性を秘めた選手であるだけに、今後への期待はもちろんあるが、彼を支える強力なNo.2と、もう少しサイズのあるビッグマンが必要となりそうである。

 

<ウォーリアーズのダイナシティ>

個人的には正直ウォーリアーズがここまで来るとは想像できなかった。プレイオフ中も、モラント不在のグリズリーズ相手に結構苦しんだり脆さが感じられたが、今年のウエストの怪我の多さと層の薄さで流れに乗りTake Advantageしたところはさすがチャンピオンといった感じである。

 

カリーはまだ健在かつ、トンプソンも2年前の怪我から徐々に調子を取り戻しつつあるし、ドレイモンドのディフェンスとパスは全盛期並みで、ルーニー、ウィギンズは期待以上の活躍、今年覚醒したオフェンスの起爆剤であるプール、ルーキーのカミンガやムーディーまでもが貢献するなど、今年のウォーリアーズは想像以上に層が厚い。ここ8年で6回目のファイナルということで歴史に残るチームとしての地位を確立したのではないかと思う。(既に確立していた気もするが、2年のブランクを経て、大きな補強なしに今年再度ファイナルに戻ってきたことは非常に価値がある)

 

そこで改めて、ウォーリアーズの偉大なるレガシーとステファン・カリーの歴史的ステータスを振り返りながら、過去のダイナシティと比較してみたい。

 

先程記載した通り、ウォーリアーズは直近8回中6回ファイナル進出に進出しており、カリーの覚醒とチームがプレイオフに2013年に出始めたころを考えると10年続く強豪チームということで、NBAの歴史の中でも最も繁栄期が長いチームである。デゥラントが在籍した2017-2019シーズンの3年間はファイナルに行っても当たり前な感があったが、初めてファイナルに進出した2015年、リーグ歴代ベストの73勝挙げた2016年、そしてプレイオフから2年離れた後カムバックした今年2022年は、いずれもカリーのみが唯一のスーパースターであり、いかにカリーが偉大かを表している。もちろん、グリーン、トンプソンというコアもいるが、彼らはあくまでスターであるし、オールラウンダーというよりはスペシャリストである。そして、1オン1オフェンスや、ペイントでの得点が重要視されてきたNBAの歴史で、ベストスコアラーの2人がジャンプシューターかつ、NBAに革命を起こした誰もが常に動き回るムーブメントを中心としたオフェンスが今でも通用するというのが凄いのである。

 

<カリーのレガシー>

カリーにフォーカスしてみると、デゥラントがいた時は実力は若干KDが上だったかもしれないが、チームのエンジン、スタイルは常にカリーをベースとしていたた。ウォーリアーズのオフェンスは全てカリーの動きとシュートを起点としており、オフェンスにおける彼の重力と貢献度は歴代ベストであるといっても過言ではない。彼が動くだけでディフェンダーは反応し、それによってオープンスペースが作り出され、ロールプレイヤーが簡単なレイアップを決めることは多々あり、つまりスタッツとしてはアシストではなくても、その得点はカリーの存在によって作り出されているのである。ここがハーデンやドンチッチなど、ボール支配力が高くかつ、自分がボール持たない時に動かない選手と一線を画すところである。

(カリーのシュート力の凄さは皆さんご存じだと思うが、以前スリーポイントの歴史と一緒にまとめたのでこちらご参照頂きたい)

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カリーは、身長、ジャンプ力、スピードなどフィジカルな面でいったら、超人揃いのNBAでは目立たない為、不当な評価を受けがちだが、歴代のトッププレイヤーと比べても引けを取らないレジメを築き上げてきているのは皆さんお気付ぎだろうか。

1 ) 2年連続シーズンMVP

2) 2年目はNBA史上初の満場一致MVP

3) 3つのチャンピオンシップ (1つ目はベストプレイヤーとして)

4) 6回目のファイナル (バード、ウェイドの5回を超え、ダンカン、シャック、ジョーダンに回数が並ぶのはかなりレジェンダリー)

5) NBA史上最強のスリーポイントシューターなだけでなく、 NBAのオフェンスの根底を変えた

 

これはもしではあるが、セルティックスに勝ち4度目の優勝、初のファイナルMVPを獲得したとしたら (2015年はイグダラでなく、絶対カリーが取るべきだったが)、カリーは歴代ベストプレイヤーランキングで、限りなくTop10に近づくだろう。既に現状でTop20の域にはいると思われるが、彼のリーグへのインパクト、オフェンスのプレイの仕方を変えたという意味では、マジック、バード、レブロンなどに匹敵するものがあり、そこに更に4つ目の優勝が加われば、デゥラントやコービー、オラジュワンあたりと肩を並べるレジメがあると言っても全然おかしくない。(つまり9位~13位ぐらいのレンジ)

もちろんまだ引退していない選手を評価するのは難しいが、34歳という少し年齢高めの彼がベストプレイヤーとして再度優勝することは、NBAのレガシーの中でも非常に重要な意味を持つ。4つのチャンピオンシップとなれば、レブロンと同じ数であり、2010年以降を代表する選手として、レブロン、デゥラントを抑えてカリーが最も影響力があるという議論があってもいいと思う。

 

<ウォーリアーズのレガシー>

ウォーリアーズのレガシーはカリーのレガシーともいえるが、このチームを歴史的コンテクストで見た場合、少なくとも2010年以降で最強のチームであることは誰もが納得するだろう。過去を振りかえってみると、60年代のセルティックス (60年代10回中9回優勝!!)、80年代のレイカーズセルティックス(セルティックスは3回優勝しただけではあるが)、90年代のブルズ(6回)、2000年代のレイカーズ(5回)、スパーズ(3回+前後2回=5回)がいわゆるダイナシティと考えられる。優勝の数、強豪である期間の長さを考慮すると、ウォーリアーズは、80年代のセルティックス、2000年代のレイカーズ、スパーズと同等レベルで比べてもおかしくない位置にいると思う。

 

繰り返しになるが、ウォーリアーズはス―パスターが一人しかいない。その中でこれだけファイナルに行けていることは、チームの総合力、コーチング力、結束力の高さを示すものである。そういった意味でウォーリアーズはスパーズに近いと言えるだろう。実際、2000年代のスパーズはダンカンだけが唯一のスーパースターであり、チームの為に自分のスタッツやサラリー犠牲にする、コーチの言う事を良く聞くという意味でも、カリーは現代のティム・ダンカンであると考えられる。

 

既に歴史上アイコニックなチームであることは間違いないのだが、優勝→ファイナル敗退→2連覇→ファイナル敗退からの、プレイオフ2年連続逃すという屈辱を味わってから、復活して再度同じコアで優勝することは、このチーム、カリーの歴史上のステータスを一気に押し上げるものとなり、我々は歴史的偉業を目撃することができるかもしれないのである。そしてカリーにとっては、彼の競争相手である、レブロンやデゥラントが達成することができなかった、歴史に残るダイナシティーの中心として君臨することができる。

 

これでセルティックスが勝ったら、この記事は全く使い物にならないが、NBAの歴史上、新米チームよりも、過去の覇者が再度制する確率が高い。その為、単なるチームの実力だけでは語ることができない不可抗力のような運命なものが働きウォーリアーズが4勝2敗でセルティックスに勝つと予想する。