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ステファン・カリーとNBAにおける3ポイントの歴史

どうも。ステファン・カリーがレイ・アレンの持つ歴代3ポイントの数を後少しで上回りそうということで、アメリカのスポーツメディアが大騒ぎしている最近のNBAだが、その記念として今回はNBAにおける3ポイントの歴史ついてざっくりと書いてみたい。カリーの登場はNBAのオフェンススタイルに大きな影響を与えたことは皆さんご存じだろうが、どうやってここに辿りついたのだろうか。

 

そもそも3ポイントシュートはNBAの初期には導入されていなかった。その為60年代に活躍したレジェンドのジェリー・ウエスピート・マラビッチは3ポイントレンジから打っていたのに、2点としか計算されなかったわけである。2ポイントかフリースローだけのなか1試合平均30得点を叩き出していたかつ、ペースが今よりも全然クイックだった時代に3ポイントがあったら、彼らの総得点数は大きく変わっていただろう。

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ロゴことジェリー・ウエス

 

また、70年代に活躍したボブ・マッカデゥ―はセンターながらロングレンジのショットを打つ選手の元祖のような存在で、その後のシューティング・ビッグマンの形を作った選手と言えるが、彼も3ポイントの歴史に埋もれってしまった一人である。

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ビッグマンシューターの先駆けであるマッカデゥ―

 

3ポイント自体は、NBAのライバルとなっていたABA (よりエンターテイメント性に特化し、ダンクやスリー、派手なドリブルを全面に出したリーグ) で60年代から採用されていたが、NBAでは1979-80年シーズンからやっとのこと使われるようになったのである。

 

然し、2ポイントしかなかったNBAでは当然ながらリング下にいるビッグマンが近距離でショットを決めるのが当たり前の必勝法となっていた。その為、スリーが解禁された以降も、どんなに優れたシューターがいてもまずはセンターにボールを渡すのが慣例化した。今考えてみたらなんとも効率が悪い話なのだが、ビッグマン以外の選手も3ポイントの中に入ってミッドレンジショットを中心とするのが普通だった。奇しくもNBAがスリーを導入した年に入団したレジェンドことラリー・バードは80年代最高のシューターと言われた。然しそんなバードですら、入団当初は1試合平均1本以下、最も多かった年でも3本程度と全然スリーを打っていなかったのである。その当時は3ポイントを正確に決められるシューターが少なかったこともあるだろうが、スリーは確率が悪く、ジャンプショット中心では勝てないとリーグ全体が思っていたわけである。

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バードはもっとスリーを打てばよかったのに。。。

 

バード以外のトップスターもほとんど3ポイントは打っておらず、スリーが登場して5年後の1983-84年シーズンの1試合のリーグ平均3PAは驚愕の2.4である!!今じゃベンチから出てくるロールプレイヤーの数である。10年後の1988-89シーズンですら6.6本と今年 (35.5) の約5分の1である。

 

バードの後にトップスコアラーとなったマイケル・ジョーダンも引退までミッドレンジが主戦場で最後までスリーの確率は良くはなかった。ジョーダンの登場で徐々にガードの影響力が強くなってはいたが、まだまだリーグはビッグマンの支配権が強く、90年代でもスリーポイントシューターはどこかスペシャリスト感はあった。また、80年代のレイカーズに象徴されるようなガンガン点を取りに行く時代からディフェンス中心のチームが多くなり、NBAのスコアリングの割合はどんどん下がっていたのが90年代の特徴であった。そんな状況に嫌気がさしてか、NBAは1994-95シーズンから1996-97シーズンの3年間、スリーの距離を本来の23.9フィートから22フィートに縮めるという暴挙に出る。これにより、前年の93-94シーズンでリーグ平均9.9本だったスリーの本数が一気に15.3本まで跳ね上がった。同時に、短くなった3ポイントラインの恩権を受けて、リーグ平均の割合が33%から35.9%と上昇した。

 

ここで面白いのが、歴代最高の45.4%というスリーの確率を誇るスティーブ・カーは3ポイントラインが短くなった3年間で52.4%、51.6%、46.4%と大恩恵を受けていることである。スリーがずっと同じ距離だったらおそらく平均42、43%に落ち着いていたのではないかと想像する。

 

90年代のシューターとしては真っ先にレジ―・ミラーの名前が挙がると思う。彼はいわゆるシューターのスペシャリスト的な存在ながらチームのエースでもあったという希有な存在である。スクリーンを多用してオープンな状態を作り出してからのシュートが多かった彼だが、それでもまだ2ポイントの割合の方が多い。スリーの距離が短かった3シーズンを除いて最も3PAが高かった年で5.5本と今年のカリーの半分以下である。アナリティックスがミラーの時代に登場していたら、彼のAttemptも倍になっていただろう。

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希代のクラッチシューターであるミラー

 

他にも90年代に活躍したグレン・ライス、ミッチ・リッチモンド、クリス・マリンなどはシュート力が売りではあったが、3ポイントをアベレージで5本以上狙うことはなかったし、3ポイントラインが元に戻った97-98シーズン以降はリーグ平均の3PA1試合13本台に戻ってしまった。

 

2000年代に入ってもスリーについて大きな変化はなかったのだが、レイ・アレンが積極的に3ポインターを狙うスコアラーとして台頭してくる。身体能力も優れ、スラッシャーとしても活躍したアレンだが、史上最も美しいシュートフォームから3ポイントを1試合5本以上打ち始め、全盛期の2005-2007シーズン頃は平均8本以上スリーとなっていった。レジ―で最も多かったのが5.5前後だったのを考えると3本近くとかなりの増加ではある。また、アレンがこれまでの選手と違ったのは、これまでスリーと言えばミラーのようにスクリーンでオープンの状態を作ってもらってが基本だった中、ドリブルからスリーを打てた点である。3ポイントの確率が常に40%を超えていたわけではないが、現在のスリー偏重の流れを作った革命的な選手の一人と言えるだろう。

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レイ・アレンのフォームはただただ美しい

 

そして、アレンが全盛期に入るにつれてNBAのプレイにも変化が起きる。ジョーダンが繁栄を築いた90年代は決して面白いバスケスタイルの時期ではなく、とってもペースが遅くディフェンスとアイソレーション中心のバスケであった。それによってジョーダンという絶対的な存在がいなくなった後のNBAは人気が落ちた。因果関係は証明できないが、ディフェンス重視のスローなバスケで興味をなくしたファンは少なからずいたはずである。そんなときに彗星のごとく誕生したのが2000年代中期のフェニックス・サンズである。イタリアンバスケのスタイルを取り入れたヘッドコーチのマイク・ダントーニと歴代屈指のPGスティーブ・ナッシュによって、ショットクロック8秒以内にシュートをするというラン・ガンスタイルを作り上げたサンズはとにかくどんどんシュートを放ち、隙あらばスリーも積極的に狙っていた。2004-2005シーズンのリーグ平均3PAが15.8だったのに対して、サンズは平均24.7と10本近く多くスリーを打っていたのだからその違いは明らかだった。(ダントーニはとにかく確率より数に重きを置いていた) このスタイルは他NBAチームに大きな影響を与え、より多くのチームがどんどん得点を狙う姿勢を見せるようになっていくのだが、カリー擁するウォーリアーズの原型とも言えるかもしれない。

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ナッシュ自身も史上最高の3ポイントシューターの一人である

この時期の更なる変化がNBAもAdvanced Statsを徐々に利用するようになっていった点である。アナリティックス自体は元々野球で導入され、ブラッド・ピットが主演の「マネーボール」で描かれているように、オークランド・アスレチックスがアナリティックス重視で成功した例として他のスポーツでも注目を集めるようになる。2000年代初頭から何人かバスケットボールアナリティックスで有名になった人物もいるが、リーグに最も影響を与えたのが2007年にロケッツのGMとなったダリル・マレーであろう。マレーはバスケ経験のない人物として初めてNBAGMとなり、プレイぶりやベーシックな数字ではなく、とにかく定量的なデータを重視するチーム作りを行った。それに伴い、例え2ポイントより3ポイントの方が入る確率は低くても、できる限り3点を狙った方が最終的な得点数は多くなると説いた。また、2ポイントを狙うならリム下のレイアップ以外は非効率と考え、ジョーダンやコービーが天下の宝刀としたミッドレンジショットが最も効率が悪いショットと考えた。これを体現したのが2012年からロケッツに加入したジェームズ・ハーデンである。彼に常にボールを持たせ、ひたすら彼がドライブしてレイアップかファールを受ける、スリーを打つ、もしくは3ポイントラインで待つチームメイトにパスをするという3択しかないという手法は非常に極端で、個人的には見ていてつまらないが、効率性を究極に突き詰めたワンマンショーであったわけである。(ハーデンはミッドレンジでほぼシュートを狙わない)

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2010年代のリーグを象徴するスタイルのハーデン

 

オフェンス重視の流れ、アナリティックスの導入と重なって時代の申し子となったのが今回の主役のステファン・カリーである。カリーが他の選手と一線を画すのが、その圧倒的なボリュームと正確性、そしてシュートの難易度である。ボリュームで言ったらハーデンも1試合平均13.2本打ったことあるし、正確性だけでいったらスティーブ・カーやカスティーブ・ナッシュの方が数字上は上かもしれない。ただハーデンは平均36%ぐらいの確率だし、カーやナッシュは基本オープンな状態しかシュートは打たなかった。カリーの凄さは巧みなドリブルで自らスペースを作り出し、異次元なスリーを正確に大量に決められるところであり、この3つが揃った選手は今まで誰もいなかった。キャリアで1試合平均8.7本の3PAで43.2%の3P%というのは驚異的な数字である。(しかもドリブルからのシュートが半分)

 

カリーがスターとして頭角を現した2012-13シーズンでは、アベレージ本数が7.7とレイ・アレンとそこまで大きな違いはなかったが、その年のリーグ平均は20まで上がってきてはいた。そして彼が満場一致でMVPを受賞したシーズンはカリーもスリーの割合が平均11.2まで上昇し、リーグ平均も24.1と一気に跳ね上がっている。これは、カリーとクレイ・トンプソンを中心としたウォーリアーズのプレイとアナリティクスの影響を受けたチームがウォーリアーズを真似しようと試みた結果でもある。

 

どのチームも次のカリーを探してスリーを大量に打つようになり、特にここ5年のスリーの多さは異常というぐらいで、カリーの2016年のMVPシーズンからリーグ平均の1試合の3PAは、24.1→27.0→29.0→32.0→34.1→34.6→35.5 (今年)と毎年どんどん増えている。そろそろスリーだらけすぎて嫌気がさすぐらいである。

 

但しどのチームがいくらスリーばかり狙ったり、カリーのプレイスタイルを真似しようとしても、彼を超える存在は誰一人として表れていない。というか彼のレベルに近い選手すら存在しない。よくデイミアン・リラードがカリーと比べられるが、シュートの難易度やボリュームが近いだけで、リラードのスリーの確率が最高だった年で40%に対して、カリーはキャリアで一回も平均41%を下回ったことがない。正確性で言ったらこの二人は比べてものにならないのである。

 

カリーがどこまで記録を伸ばせて、今後何年間彼が3ポイント王者に君臨できるかは気になるところである。もちろんいずれ破られるのが歴代記録の常なのではあるが、カリーほどのボリュームと正確性を持ったプレイヤーがこの10年出てきていないことを考えると、カリーのスリーポイント数がカリーム・アブドゥルジャバーが30年以上保持している歴代得点数のように一生破られない圧倒的な数値となることも十分考えられる。

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