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クワイ・レナードはNBAの最恐ディーバか

どうも。NBAファイナルがかなり面白い。バックスが2連敗の後3連勝し、第4戦と5戦は最後まで見逃せない接戦となった。デビン・ブッカーの2試合連続40点 (かつ1試合7ファウル)もすばらしい活躍であったが、最も印象に残るのはイヤニスのブロックとダンクであろう。この2つのプレーはどちらもファイナルの歴史に残るスーパープレーであった。

 

第4戦のエイトン相手のブロックは、2016年のレブロンチェイスダウンブロックに匹敵する。レブロンのブロックは第7戦残り1分半という超重要なモーメントだったので、どちらがベストブロックと言われればレブロンだろうが、どちらがより難しいブロックかといえばイヤニスではないかと思う。ピックアンドロールでボールハンドラーのブッカーをカバーしつつ、アリウープが投げられたと同時に体をひねって7フッターのダンクをブロックできるのは、イヤニスと昔のデイビット・ロビンソン、ハキームとかぐらいではないか。

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更に第5戦のアリウープダンクの決め方もイヤニスじゃなきゃできないフィニッシュであった。ホリデーのスティールが最も重要なパートではあるのだが、1点リード残り10秒の場面でアリウープを狙い行くこと自体がものすごい勇気のいることである。少しでもパスがずれたり、ジャンプのタイミングがおかしかったらバックスは負けていたかもしれない。然し、結果としてはとっても記憶に残るかつ、サンズに大きなダメージを与える一撃となった。

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さて、私の予想していたサンズの4勝2敗が見事に外れたファイナルとなっているが、より詳細はファイナル終了後に総括させて頂くとして、今回は先日クワイ・レナードがACL (膝前十時靱帯) の怪我の手術したというニュースにフォーカスしたい。

 

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<今年のクワイの怪我と手術>

彼はカンファレンスセミファイナルのジャスとの第6戦で膝をケガしたと報告されたが、その際は心配ないと彼自身が言っていた。然し、カンファレンスファイナルになって蓋を開けてみると、結局一度も対サンズ戦でプレーすることはなかった。クワイ抜きで第6戦まで善戦していたクリッパーズを見ると、もし彼が数試合でも出場できていたら、おそらくクリッパーズがファイナルに進んでいたのではないかと思う。

 

しかも最初からカンファレンスファイナルに出場できないと発表されたわけではなく、毎回試合の数時間前まで出場するかが分からず、期待をさせた上でプレイしないということが続いた。ここで問題なのは彼の怪我のハンドリングの仕方である。まず、彼は自身のパーソナルメディカルスタッフをそろえており、その人たちの診断がどうなっているかが、チームにちゃんと伝わっていなかったとのことである。その為クワイがプレーできる可能性があるかないかがチームで判断ができない状態が続いた。個人的にこれはとてもアンプロフェッショナルであると思う。どんなに優れた選手であってもバスケはチームスポーツであり、試合の戦略を立てるにあたり、スーパースターがいるかいないかで全く組み立て方が変わってくる。どんな仕事をしていても、自分が休みを取るかどうかは上司に必ず報告する必要があると思うが、スポーツでもそれは変わらない。それを怠れば自分のチームが不利になるだけでなく、チームケミストリーにだって影響する。

 

それだけでなく、レナードはケガの間最終戦を除いて、ホームコートでベンチからチームを応援するのではなく、スタンドのVIP席から観戦していたのである。これは賛否があるかもしれないが、私的にはNGである。そもそもチームのスターがケガの時に、アリーナに来ていながら、観客席から試合を見るとか聞いたことがない。普通はそもそもアリーナに来ないか、ベンチからサポートする。しかもプレイオフの重要な試合で、スタンドから観戦するとなると、自分はチームメイトより上だといいたいのかとも思ってしまう。出場ができなくてもベンチから応援や戦略の助言をすることはできるし、その他サポートできることはいくらでもある中、彼はそれをしなかった。これではチームメイトにとって面白くない。

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さらにさらに、レナードはオフシーズンになってすぐに手術を受けなかった。クリッパーズが敗退してから2週間後にACLの手術をしたことがレポートで分かったのである。もしケガした直後に手術をしていたら1か月の違いがある。

 

Partially Torn ACLはFull ACLでのリカバリーの時期はほぼ変わらず、復帰に10か月はかかると言われる。コロナで後ろ倒しになっていたスケジュールが来年の2021-2022シーズンで元に戻る予定であり、その場合10月末にレギュラーシーズンが始まり、4月末からプレイオフとなる。となると、単純に彼が現実的に復帰可能なのは5月であり、元々慎重派であることを考慮したら来シーズンは絶望の可能性が非常に高いだろう。スパーズ時代からケガに悩まされ、ラプターズクリッパーズでもロードマネージメントという調整方法でレギュラーシーズンは休み休みプレイしていた彼が、この大きなケガの後にどのような状態で復活するか不透明である。しかもこのままオフシーズンにFAになるので、クリッパーズが長期契約を結ぼうとするのか、はたまたレナードがまた移籍するのか予想が難しい。

 

<クワイのディーバの歴史>

1. スパーズ時代

レナードと言えば、常に無表情で感情が表に出ず、トラッシュトークもせずにメディアにも面白い発言はしないで選手である。いわゆるスーパースターと呼ばれるグループの中でここまで静かなプレイヤーは滅多にいない。そのイメージが強いせいか、元々はレナードが所属チームでドラマを起こすとは全く考えられなかった。ティム・ダンカンという史上最も寡黙で特別扱いを嫌ったスーパースターで一時代を築いたスパーズに入団し、2014年にはファイナルMVPとなり、必然的にレナードがこのスパーズのトラディションを受け継ぐと思われていた。

 

状況が一転したのは2017-18シーズン時の怪我とスパーズのメディカルスタッフとのいざこざである。前腿をケガしてた彼は9試合のみ出場したのだが、チーム側は彼はもっと早く出場できると診断していたのに対して、クワイ側はもっと回復に時間が欲しいと思っていたようである。更に、レナードは自分で様々な医者と相談をして、スパーズの言う事を聞かなかった。この確執はシーズン中どんどんと広まっていき、レナード側はスパーズを信用できず、スパーズ側もチームの指示に従わない彼に嫌気がさしたようであった。

 

ここで凄いのが、レナードが何を考えているか、トレードを希望しているのかといったことが全くマスコミにリークしなかったことである。それほど彼の周りはタイトなグループで口が固い人を固が集まっており、彼の周りで何が起こっているかが分からない。とはいえ、シーズンが進むにつれて両者の溝が縮まることがないことは明らかとなっており、結局シーズン終了後には、彼がトレードを希望していることが公に伝えられ、最終的にトロント・ラプターズに移籍となった。

 

2. ラプターズ時代

ラプターズにトレードされることになったのはいいのだが、レナードの契約年数は残り1年となっており、出身のサンディエゴに近いロサンゼルスのチームへの移籍を希望していると言われていた。このレナードの要望によって、彼がどこに移籍しても実質1年しかプレーすることがないと思われ、トレードするには非常にリスキーだと思われていた。そんな中、優勝経験がなく、数年連続プレイオフで苦渋を舐めていたラプターズは賭けに出ることにした。

 

移籍したレナードはプレイオフで大活躍をし、見事ラプターズを優勝に導いたわけだが、そのプロセスは大変だった。彼のロードマネージメントが話題になったのはこの年が最初であろう。今までもスター選手が怪我ではなく休養かねて数試合休むことはあったが、シーズンを通して出場と欠場を繰り返したスーパースターは彼が初である。怪我をしていた太ももに負担を掛け過ぎないようにという彼の考えではあったが、試合に出るか出ないかの決定権がレナードの一任であったところが注目すべき点である。チームではなく個人の都合でそのチームの方針が全てが決まるというのはプレイヤーエンパワーメントの新たな形であったと言え、寡黙なスターが絶対的パワーを持っていたのである。

 

もちろんチームに優勝をもたらした為、このロードマネージメントは成功だったと言えるだろうが、もしプレイオフの初期で敗退かつレナードがオフシーズンに移籍していたら、プレイヤーを自由にさせすぎた悪い例として批判の対象になっていたかもしれない。

 

3. クリッパーズ時代

ラプターズで見事優勝したら、予想されていた通り、クリッパーズに移籍したわけだが、この移籍の仕方もなかなか衝撃的だった。クリッパーズには入団するが、そのチームメイトにポール・ジョージを指名して、クリッパーズにジョージを獲得するようにプレッシャーをかけたのだ。ジョージは前年にサンダーと4年契約を結んだばかりであり、普通に考えたらトレードしづらい。然し優勝経験がなく、レナード獲得に必死なクリッパーズは大量のドラフトピックと若手ホープのSGA (シェイ・ギルジアス=アレクサンダー) を放出してジョージ獲得に踏み切った。ス―パスターがフリーエージェントで加入することはもちろん当たり前だが、そのチームに対してスターがこいつも一緒にトレードしろと要求することが前例がない。これもクワイのプレイヤーエンパワーメントが発揮された瞬間である。しかも、このジョージがトレードされるという話は直前に誰も報道しておらず、レナードが裏でずっと動いていたと考えると恐るべしである。

 

ところがクリッパーズはプレイオフで予想された結果を残せず、ナゲッツ相手に3-1リードの跳ね返され、特に第7戦は大量リードを奪っていた中で第4QはまさにChoke Jobであった。そしてシーズンが終わるとクリッパーズのチームケミストリーの問題が色々と取り出されるようになる。その中で挙がったのが、クワイのスーパースター扱いである。もちろんどんなスター選手もロールプレイヤ―より権力を持つのは当たり前だが、クワイの場合は、ラプターズ時代と同様に自分が好きな時に出場するだけでなく、家のあるサンディエゴからLAに行き来していた為、彼の到着をチームメイトが待たなければならずチーム内で不満が溜まっていたという報道もされていた。

Report: Some Clippers 'Bristled' at Kawhi Missing Games, Being Late for Flightsbleacherreport.com

 

そして、上述の今回の怪我の対応の仕方と、レナードのディーバエピソードは予想以上に多い。彼が特別なのはメディアに何も語らないし、チームメイトにすら何が起きているか伝えないので、誰も彼が何を考えているか分からない点である。これは出たがりの傾向があるはずの一般的なスター選手とは大違いである。だが、プレイオフでの怪我のアップデートのように、誰ともコミュニケーションを取らないことでチームとしては彼の真意や状況が分からず、どうしたらいいか分からなくなる。それではただやりにくいだけである。彼のお父さんはレナードが高校の時に射殺されて亡くなっており、そういったこともあってもしかしたら人を信用しづらいのかもしれない。(あくまで憶測だが) ただバスケットボールがチームスポーツである以上最低限のチームワークとコミュニケーションが求められるのも事実である。

 

もちろんどの業界のトップスターはハイメンテナンスでわがままである。現在のNBAスーパースターの中で誰が最も扱いづらいと考えたときに、多くのファンがレナードの名前を挙げることはないだろう。然し、常に顔色を窺わなければならず、何を考えているかがはっきりせず、チームの将来を不安にさせるという観点で見ると、実はレナードが最強かつ最恐のディーバなのかもしれない

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