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レジェンドになったGiannis <NBAファイナル総括>

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どうも。NBAファイナルが第6戦で終わり、バックスの優勝で幕を閉じた。今回のファイナルは単純に面白かった。特に4〜6試合目は全て接戦で最後まで結果が分からず、両チームが互角の近くを持っていたことがわかる。そして、この4-6戦、更にはファイナル全体で最も輝いていたのは紛れもなく、Giannis Antetokounmpoである。初のNBAファイナルで、35点、13リバウンド、5アシスト、61FG%を記録しただけでなく、第4戦ではザ・ブロック、第5戦ではザ・アリウープ、そして第6戦では50点、5ブロックとまさにスーパーヒューマンの活躍をした。第6戦に関してはファイナル史上最高のパフォーマンスのランキングでもTop5には絶対入ると思うし、個人的には彼のディフェンスでの貢献も考えたら、Top3、もしくはベストかもしれないと思っている。50点を取りながら、ブロックだけでなく、ルーズボールへの執着や、スイッチしてポールやブッカー相手の1 on 1ディフェンス、ヘルプディフェンスと全面的にバックスのディフェンスをカバーすることは並大抵の選手では絶対できない。

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そして突出すべきは彼の得点の仕方である。バックスは前半彼のチームメイトがボビー・ポータス以外全くステップアップせず、ミドルトンも微妙、ホリデーは散々なシューティングパーセントであり、ヤニスのみオフェンスのリズムがある状況だった。そんなことに嫌気がさしたのが、第3Qは俺に任せろという感じで一気に20点を獲得し、バックスのオフェンスを一人で動かした。英語でPut the team on his backというが、第6戦のパフォーマンスはまさにそれにあたる。更に、プレイオフ期間ずっと問題になっていたフリースローも第5戦で4-11しか決められなかったのに、超重要な試合で17-19とステファン・カリーみたいな確率で決めまくったのである。これをクラッチと言わずになんと表現できるだろうか。ヤニスは勝負弱いとか、第4Qで信頼できないという意見を一気に粉砕し、まさにゾーンに入っていた。

 

この優勝を決める試合での圧倒的なパフォーマンスによってはGiannisはまさにNBAレジェンドとなったのだが、今回は彼のこれまでの軌跡とレジェンドレベルについて考えたい。

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ダンクも凄いが、レブロンのエージェントと付き合っていると噂される歌手のアデルの反応も面白いw

<誰も想像していなかったヤニスの超絶的成長>

既に多くの人が知っているだろうが、ヤニスのNBAへのジャーニーは非常に特殊である。ナイジェリアからの移民の両親の間に生まれたヤニスと兄弟はギリシャで育ったが、移民だった両親はなかなか定職につけず、貧しい生活を強いられた。その為子供たちもストリートでDVDを売ったりして少しでも家計を支えて、なんとか毎日しのぐ環境だった。ただそういった生い立ちにも関わらず、彼は生まれ持った身体能力と身長の高さがあった為、高校生の頃ギリシャのバスケ界に目が留まり、プロチームでプレーするようになる。そして、まだまだ超粗削りで身長も206センチ、ひょひょろだった中、NBAのスカウトの目に留まり、半ばギャンブルで全体15位で18歳の時にバックスにドラフトされたわけである。そしてNBAに入ると数年で身長が5センチぐらい伸び、ウェイトルームにこもって筋力もつけまくって現在の身体にトランスフォームしたわけである。(2つの写真を比べたらその差は明らか)

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バックスに入団してルーキーからポテンシャルは所々で見られたが、まさかMVPになるとはだれも想像をしていなかっただろう。ルーキー時の平均得点は6.8、2年目は12.7、3年目で16.9と着実に成長はしていたが、この成績からはス―パスターになることは考えづらかった。ところがみるみる筋肉とスキルがついてくると、7シーズン目までには1試合30点近くとり、リバウンドも確実に毎試合10以上、更にはリーグトップクラスのヘルプディフェンダーとなったわけである。それはもちろん彼の生まれ持った背の高さ、筋力、圧倒的な身体能力が揃ったエイリアンみたいな身体によるものが大きいが、加えてコービーを彷彿とさせるWork Ethicの賜物とも言えるだろう。特に全盛期のレブロン以上にパワーと足の長さによって繰り出されるバケモノみたいな一人ファストブレイクの威力はリーグトップに違いない。

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<栄光と高まる批判>

ヤニスは4年目からオールスターに選ばれて、6年目にはMVP、7年目には2年連続MVPだけでなくDefensive Player of the Yearも獲得するなどリーグトップクラスの選手となり、チームも2年連続レギュラーシーズン勝率1位となった。ヤニス以外にスーパースターがいない中でその成績を残すだけでも十分すごいのだが、メディはそれで満足しない。どんなスーパースターもプレイオフでの勝敗が評価の対象となるのが常である。2019年は順調にカンファレンスファイナルに進出し、ラプターズ相手に0-2とリードしていたのだが、その後4連敗を喫っする。その大きな理由の1つが、ラプターズが行ったヤニスへのディフェンスであり、彼がドライブできないように、”壁"を作って苦手なアウトサイドショットを打つように仕向けた。ヤニスがドライブしてそのまま決めるか、チームメイトにキックアウトするかがパターン化していたバックスのオフェンスは封じられてしまい、そのままアジャストメントがされず負けた。

 

そして昨年は同じようなプレイスタイルを保ち続け、レギュラーシーズンで更に良い成績を残しながら、カンファレンスセミファイナルでヒートに0-3と追い込まれ、ヤニスも怪我をして1-4で負けてしまった。これにより彼とバックスへの批判が更に高まり、ヤニスの契約も残り1年となったことでバックスを移籍するのではという憶測も高まった。

 

然し、ここでヤニスと他のアメリカ出身のスーパースターとの違いが出る。最近のアメリカの選手は小さいときからバスケ漬けの毎日を過ごし、自分の所属チームへの帰属意識よりも自分がやりたいことを優先する。また、小さいうちからバスケチームで友達ができ、NBAに入ってからもそのコネクションで一緒にスーパーチームを作ろうとする。ネッツがこれ最たる例である。一方ヤニスはまず自分の家族とコミュニティを大事にする。彼にとっては、他のスターと組んでビッグマーケットで複数優勝するより、自分をドラフトし、はじめてのアメリカ都市で成長させてくれたミルウォーキーでチャンピョンを取りたいという気持ちのほうが強かった。また昔ながらの考えを持つ彼は自分と同じレベルかそれ以上の選手と一緒にプレーするより、そいつらを倒すことに注力してい。結果として彼はバックスとシーズン前に延長契約を結び、バックスがプレイオフで勝てるようになるよう自分のプレイスタイルを変えることにもポジティブに取り組んだ。そのため今年のレギュラーシーズンはチームのディフェンスの仕方やラインアップも実験的なものが多く、勝率自体はリーグ3位だったが、以前よりプレイオフへの準備ができていたと言える。

 

 然し、ファイナルまでの道が簡単だった訳ではない。ファーストラウンドでは天敵のヒート相手に4連勝をしたが、次の対ネッツ戦で大きな試練が待ち受ける。2連敗を喫し、特に第2戦では40点差で負けるという屈辱的な形となり、バックスはもうだめなのかとも思われた。第3戦を僅差で勝利したが、バックスのオフェンスはレギュラーシーズンのようなスムーズさがなく、全く見ていてい美しいものでなかった為、勝利したのにも関わらずバックスのポテンシャルへの疑問がより強まってしまった。その後第4戦も勝利し、第5戦も終盤までリードしておきながらデゥラントの神がかり的活躍と、またまたオフェンスが機能しなくなり、結局負けて追い込まれしまった。この試合で終盤オフェンスの活躍ができなかったこともあり、またヤニスに対する批判が高まった。ヤニスが怪我で片足しか機能していないハーデン相手にポストからフェイダウェイを打って外したのはこれを象徴するようなプレーであった。これについては酷評されて当然ではあり、もっとアグレッシブに攻めるべきであった。

 

もちろんもっといいショットを狙うべきだし、まだまだ経験不足もあったわけだが、このシリーズ中には、彼がNo.1オプションでは優勝できない、彼はロビンで、ミドルトンがバットマンだというアホみたいな議論もアメリカで起こるようになる。(ケンドリック・パーキンスが最たる例で彼の分析はとにかくひどい)  これはヤニスがミッドレンジジャンパーやフリースローを決められないから接戦の第4Qでは頼りにならないというものである。この批判は一理あるかもしれないが、そんなこと言ったらシャックだってフリースローが決められないからコービーやウェイドが必要だった。でも誰もが彼をチームのベストプレイヤーと認めていいたし、同じようにバックスが強豪となり、各試合で接戦に持ち込めるのはヤニスのプレーによるものであり、それを忘れてはいけない。これはおそらくヤニスがシャックのようなビッグマンでなく、ウィングプレーヤーのプレーに近かったことから起きた認識の相違かもしれない。

 

<レジェンドへの道>

話をカンファレンスセミファイナルに戻すと、第6戦で勝負強さを見せてホームで勝利し、シリーズは第7戦までもつれたわけだが、ここでヤニスは覚醒し始める。この試合で負けたら3年連続プレイオフ敗退となりコーチのブーンホーザーは解雇、バックスのコアの解体、ヤニスへの更なる批判が避けらない中、彼は40点、13リバウンドとの大活躍をし、デゥラントと対等に張り合ったのである。この試合も上述のファイナル第6戦のようにホリデーとミドルトンのショットが全然入らない中、ヤニスが安定した活躍をし続けてチームを引っ張った。特にオーバータイムとなってみんなが疲れまくっている中、同点となるフックショットを決めたのは、彼のオフェンスのバリエーションが増えてきている、そして試合終盤でも物怖じせずシュートするという姿勢が見られた成長のサインであった。

 

オーバータイムでネッツとの激戦を制した訳だが、ヤニスとバックスは引き続き懐疑的な目で見られた。ネッツはハーデンとカイリーが怪我をし、最後はデゥラントの独壇場となっていたからである。然し、おそらく昨年までのバックスだったら、そんなことは関係なく第5戦で負けた時点でカムバックできなかっただろう。そんなところからもバックスとヤニスの精神的タフネスと成長が見られた。

 

それ以上にネッツとのシリーズの中で、ヤニスのプレーにも変化が見られるようになる。類まれなスピードとパワーを持ちながら、ペイントを攻めるより、ペリメーターからドライブだけすることが多かった彼がようやくセンターのようにプレーし始めたのである。今まではチームもメディアも彼をデゥラントやレブロンのようなボールを保持して1 on 1から攻めるスタイルにさせようとしていたのだが、やっと自分より身体に恵まれた、インサイドで止められる選手はいないと気づいたようである。更にどこでパスを出すか、どこで攻めるか、ミドルトンやホリデーとのピックアンドロールをするタイミングなどがゲームの理解力が高まっているように見えた。

 

然し、カンファレンスファイナル第4戦で膝を怪我し、怪我の仕方からは靭帯断裂か、今シーズン絶望かと思われ、ネッツ戦での活躍が水の泡になることもあり得た。ただヤニスはただの人間ではなくエイリアンである。残りの2試合は欠場したわけだが、チームメイトがなんとかステップアップしファイナル進出を決める。するとファイナルの第1戦から早速ヤニスは復帰する。普通の人間だったら確実にそんなことはできないはずなのだが、彼の体は何かが他と違うのだろう。ファイナルの初戦は少し膝を気にしている様子も見えたが、その後の活躍は最初に書いた通りで、膝が反対側に曲がってから2週間半後にはファイナル王者というだけでもレジェントの武勇伝の1つとなるだろう。

 

<レジェンドの地位へ>

このプレイオフを通してヤニスは選手として一気に飛躍した。チームが苦しいときに自分の力でなんとかする精神力の強さ、自分の強みを理解しインサイドを攻めまくるプレイスタイルの確立、いつ自分で攻めて、いつチームメイトとセットアップするかというゲームの理解など、全ての側面のレベルが一段階上がった。そしてビッグマーケットでスーパーチームを作ることが主体となってきたリーグで、スモールマーケットであるバックスに所属し、ヤニスが唯一のスーパースターとして優勝した価値はデゥラントやアンソニーデイビスなど他のどのチャンピョンシップより重みがある。(レブロンもスーパーチーム候補だが何回も優勝しているので) ダーク・ノビツキーはマーベリックでの20年間で1度しか優勝しなかったが、その1勝はNBAファンとダラスにとって非常に印象に残るものになっており、今年のヤニスの優勝も同等の価値があると言えるだろう。

 

現時点でもし引退したとしても、優勝、NBAファイナルMVP、レギュラーシーズンMVP2回、ディフェンシブプレイヤーオブザイヤー、オールスターMVPと文句ない結果を残しており、殿堂入りは確実、NBA史上Top30の選手として名前を連ねるのは間違いない。然しヤニスはまだ26歳であり、全盛期は後2年後となるかもしれない。既にリーグトップかトップ3の選手であるが、これから数段階レベルアップしてレブロンのようにリーグを支配する日が来るのではないかとすら思えてくる。もしそうなれば、リーグ史上トップ10のスターになれるかもしれないし、彼のポテンシャルは計り知れない。ヤニスの生い立ちとバスケの出会いを考えたら、映画でも描けないようなストーリーである。

 

ただ、ヤニス自身はこういった過去の栄光や自分のステイタスに捉われることがない。ファイナル期間で有名となったインタビューの発言のように、常に現在進行形で謙虚にかつ着実に前に進み続ける彼には無限の可能性があり、我々は彼のGreatnessの目撃者となるのである。

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