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デマー・デローザンの活躍とミッドレンジゲームの進化

どうも。コロナのアウトブレイクは年末に向けて更に加速しており、一大イベントのクリスマスゲームも試合自体は非常に面白かったのだが (5戦中4試合が接戦) 、デゥラント、ヤング、ルーカなどスター選手が多く欠場したこともあって物足りなさも残った。NBAとコロナの闘いについては先日まとめたので、そちらを是非ご覧頂きたい。

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そんなコロナの影響を非常に大きく受けたチームの1つであるシカゴ・ブルズは、昨シーズンまでプレイオフ圏外が続いた今シーズン躍進しており、現在イースト2位の勝率である。ザック・ラビーンというスコアラーに加えて、プレイメイクとディフェンスに優れたロンゾ・ボールやアレックス・カルーソが加入したことでオフェンスとディフェンスのバランスが優れたチームに進化したが、最もインパクトがあったのがデマー・デローザンの加入である。

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デローザンと言えば、ラプターズ時代にスコアラーとして台頭をしたが、プレイオフレブロン擁するキャバリアーズに散々苦しめられ、プレイオフに弱いというレッテルがついてしまった。そして何より3ポイントの革命が起きた現代NBAにおいて、3ポイントライン内のミドルレンジのジャンパーは非効率だと考えられ、3ポイントが苦手でミッドレンジで勝負するデローザンの評価が落ちてしまっていた。ただここにきてミドルレンジジャンパーの考え方も変わってきており、デローザンもMVP候補の一人にまでになった。そこで、今回はデローザンの個人としての進化とリーグ全体の2ポイントショットの進化について考えてみたい。

 

ちなみに3ポイントの進化と歴史については、つい最近記事にしたのでそちらも是非ご参考頂きたい。

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<デマー・デローザンの評価の変化>

前述のようにデローザンはラプターズ時代からスコアラーとして台頭を表し、平均20点以上をコンスタントに記録する。同時にラプターズイーストの強豪となっていき、2015-2018年まで毎年プレイオフの上位シードとなる。その間にデローザンは着実に実力を上げていき、類まれな身体能力に加えて、リーグ屈指の中距離ジャンパーとフットワークを生かして、リーグトップクラスのミッドレンジの使い手となる。

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ロサンゼルスのコンプトン生まれで、コービーがアイドルだったデマーは彼のプレイスタイルを継承していき最も安定したスコアラーの一人とはなるのだが、3ポイントがとにかく苦手で、確率低いし、本数も少ないままだった。彼がスターになったのは、ステファン・カリーが丁度MVPと優勝でリーグに旋風をし、アナリティクスがリーグを支配した時代である。ミッドレンジのジャンパーを中心にしたデマーのスアイルはアナリティックスの標的にされて、彼の評価を下げる要因となった。また、デマー自身もプレイオフで爆発できずに、毎プレイオフラプターズが苦戦を強いられたことで悪評を覆せなかった。更に追い打ちをかけるように、彼がスパーズにトレードされた代わりに加入したクワイ・レナードが2019プレイオフで大活躍をしてラプターズフランチャイズ初の優勝に導いたことで、比較対象となったデマーの評価がもっと下がってしまった。(彼がディフェンダーとして平均以下なことも大きいが)

 

スパーズに移籍後はラプターズ時代よりもプレイメイクに力を入れ、事実上のポイントガードとしての役割を担い、ミドルレンジの技術もどんどんと向上し、クリス・ポールやデゥラントと肩を並べるレベルとなっていた。然し、引き続き彼の3ポイントが上達せず、そもそもAttemptが現代NBAでは信じられない1本以下と打つ気すらなかった。そして彼が優勝争いから程遠いスパーズに所属していたこともあり、目立たない選手となったかつ個人の評価も上がらなかった。その為、彼がオフシーズンにシカゴ・ブルズと3年85億円の契約をした際は、多くの識者がお金払いすぎ、ブルズのスターのザック・ラビーンとプレーの相性が合わないと懐疑的な見方だった。私個人もディフェンスが弱いブルズにデローザンが入るのは更にディフェンスを弱体化させ、オフェンスにおいてもラビーンとのフィットが微妙だと思っていた。ブルズへの移籍が決定する前に、レイカーズやニックスも候補に囁かれていたが、昨シーズンまでの彼の評価が影響して両チームとも結局契約に向かわなかった。(今のデローザンの活躍を見たらどちらのチームもすごい後悔しているだろう、、、)

 

<ブルズでの開花>

そんな期待値低めで結成された新生ブルズであったが、蓋を開けてみると今年最もエキサイティングなチームとなり、デローザンがその中心となっている。ラプターズ時代に築いたミドルレンジとスパーズで鍛えたプレイメイキングの能力が交わり、更には4Qの得点数もリーグトップとクラッチ力にも磨きがかかっている。今年で32歳の彼だが今が全盛期と言っていいだろう。

 

スリーポイントもスパーズ在籍時よりはトライしているが、今でも基本ミッドレンジが主戦場となっている。それでも上手くいっているのは彼の周りにシューターが揃っているからだろう。ボールとカルーソはスポットアップから打てるし、センターのブサビッチもシュートが比較的うまいセンターであり、デローザンがシューターじゃなくてもフロアが開く。また、第2スコアラーのラビーンもスリーとドライブが得意な選手かつハーデンのようにボールを支配しないので、思った以上にコンビネーションが上手くいっている。つまりデローザンがボールを保持している時に、全員スリーポイントラインで待機、もしくはゴール下にカットできるのである。特にラビーンとはお互い信頼し合っているようで、2人とも優勝経験がないためか、それぞれ一定の犠牲を払いつつ、お互いの強みを活かそうとしているのが伺える。実際デローザンが平均26点、ラビーンも平均25点とそれぞれがリーグトップ10に入る得点数と非常に強力なデゥオとなっている。

 

デローザンはチーム構成とこれまで培ってきたスキルによって、ブルズ内でボールを一番保持するようになったわけだが、特に第4Qの活躍が凄まじい。3ポイントレボリューションによって、どのチームもがんがんスリーを狙うようになったわけだが、それでも接戦の第4Qはディフェンスがタイトになることにより、簡単にオープンスリーは狙えない。そうすると1on1オフェンスが非常に重要になるのだが、その時にミッドレンジからジャンプショットを確実に決められる選手が重宝される。スリーの一辺倒は爆発しればすごいが、ステファンカリーでもない限り確率が落ちる。そこで、ある程度安定した2点の確保が必要なのである。更にデローザンは、ターンオーバーも少なく (平均2以下)と、上達したプレイメイクによって安心してボールを任せられる。(ラビーンはタフショットを決めるのがすごい上手いが、デシジョンメイキングでまだ不安が残る) こうして、デローザンは過去最高の成績と評価を今シーズン残してきている。

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<ミッドレンジの考えの変化>

ミッドレンジショットは3ポイントラインが79年に出来て以降、長らくトップスコアラーだけでなく各選手の要となる手段であった。特にマイケル・ジョーダンが大得意とし、ブルズ後期3連覇の時はミッドレンジでのポストアップフェイダウェイ、ドリブルからの2ポイントショットが彼の主戦場となっていた。彼のフットワーク、ショットの正確性と美しさによってその後のスター選手の多くがこのスタイルを真似するようになる。ジョーダンは引退するまでスリーの取得にはあまり重きを置かなかった。

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その後ジョーダン2世として、コービーがフェイダウェイとミドルレンジのマスターとなり、その他トレイシー・マグレディポール・ピアースなどもフェイダウェイを得意とした。また、ビッグマンでもケビン・ガーネットやダークノウィツキ―、ラマーカス・オルドリッジが主にミッドレンジをベースに多くの得点を稼いだ。(ダークはスリーもたくさん決めたが、シグニチャームーブはフリースローラインからのフェイダウェイであろう)

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それが2010年に入るとアナリティクスとカリーの登場によりどんどんとスリーが強調されるようになり、スター選手もスリーをどんとんと打っていくようになる。(というかスリーが得意な選手がスターになりやすくなっていく) 同じ2ポイントでもジャンプショットよりレイアップやダンクの方が高確率な為、各チームがスリーとレイアップばかり狙うオフェンスにシフトにする。(それを個人として最も体言したのがロケッツ時代のハーデンである) そうしてデローザンのように2ポイントしか稼げない選手が悪者かのようにメディアでも否定的な意見が増えるようになる。2015年から2019年頃まではある意味アナリティックスが行き過ぎた感があった。

 

そこがここ数年また変わってきているような気がしており、ミドルジャンパーもそれがかなりの高確率であれば狙うべきだという風潮に戻ってきたのでないかと思う。ラプターズで優勝した際、レナードは試合終盤多くのミッドレンジを決めてジョーダンを彷彿とさせる活躍をしたし、リーグベストスコアラーのKDも一番得意なのはスリーではなく中距離ショットである。デビン・ブッカー、ジミー・バトラー、クリス・ミドルトンなどのスコアラーはミドルレンジからオフェンスを始めることは多いし、クリス・ポールはミスター・ミッドレンジで有名である。要はジャンプショットでも精度が高い選手が打てば、レイアップを狙うのと同じぐらいの確率で決められるのである。であれば、彼らが打っても問題ない。反対にスター選手でない人がスリーの代わりに2ポイントを打っても非効率だから彼らはスリーにフォーカスすべきということである。一時は"Midrange is dead"などと言われていたが、決してなくなったわけではない。

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ディフェンスがタイトな中で簡単にドライブできない試合終盤、特にお互いを戦術を出し尽くしたプレイオフでは、最終的に誰が得点を決められるかが勝負になるわけで、1on1からのジャンプショット試合を勝ち抜く手段となる。それを圧倒的確率で決められる選手がいる限り、ミッドレンジの芸術は死なないだろう。

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