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ジャ・モラントとグリズリーズの覚醒

どうも。オミクロン株の感染者数が日本でも大量に増えているが、NBAでも猛威を振るい、選手だけでなくコーチやスタッフも隔離を余儀なくされている。それにより、知らない選手や昔懐かしい選手がどの試合でも登場してきており、ゲームのクオリティはかなり下がってしまっている気がするが、なんとか試合を続けられる以上NBAがシャットダウンすることはなさそうである。特に10日契約の選手が激増しており、先週はこのチームでプレイしていたのに、次の週では全く違うチームにいたりとびっくりすることの連続があったりする。個人的には"Born Ready"ことランス・スティーブンソンが3度目のペイサーズ復帰で結構活躍していることにわくわくする。色々と問題がある選手ではあるが、必要以上に派手なプレーは健在で、紛れもないエンターテイナーである。

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また順位を見ていくと、イーストでは最近はネッツやバックスが調子を落としている。それにより好調をキープしているブルズがとうとうイースト1位になった。ブルズの躍進とその最大の貢献者であるデマー・デローザンについては先日書いたので是非見て頂きたい。

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エストにおいては、ウォーリアーズとサンズが1つ抜けている感はあり、ウォーリアーズにはクレイ・トンプソンが2年ぶりに帰ってくるということで、既にNo.1シードを争っている中で大きな起爆剤となるだろう。サンズは昨年のファイナル進出の勢いをそのままに非常に安定した成績を残している。そして、安定と言えばユタ・ジャズも隙が少なく、3ポイントを打ちまくるオフェンスとドノバン・ミッチェルのスターパワー、ゴルベアのディフェンスによってリーグ3位はほぼ確定だろう。

 

そんなウエストTop3に食い込んでくるような大躍進をしているのがメンフィス・グリズリーズである。昨年プレイイントーナメントでウォーリアーズを破ってプレイオフに進出し、第1シードのジャズ相手に善戦をしたグリズリーズではあるが、今年もプレイオフ進出ギリギリぐらいのレベルではないかと予想された。それが蓋を開けてみたら第5シードと大きな差をつけての第4位と、このままシーズン終了までホームコートアドバンテージ確保が行けるのではないかと思う。今年はナゲッツクリッパーズがケガ人続出、レイカーズはドラマだらけで戦力が弱く、ブレイザーズもプレイオフ圏外と過去に強かったチームが苦戦していることも追い風にはなっている。

 

然し、他チームが脱落しているからというのはグリズリーズに失礼である。このチームの躍進は紛れもなくリアルで、その最大の貢献者は今年3年目のジャ・モラントである。2019年にドラフト3位で入団した彼は1年目から平均18点、7アシストといきなり活躍をして新人王を獲得すると、2年目はプレイオフに進出して、ファーストラウンド第2戦では47得点を記録し、今後のポテンシャルを大いに示した。そして、今年は平均得点を25点まで上げ、数々のハイライトプレイとチームが強豪の仲間入りをしたことで、スーパースターへの道を着実に駆け上がっている。リーグに入った当初は、皆の大注目選手だったザイオン・ウィリアムソンばかり取り上げられていたが、ザイオン以上にアクロバティックでエキサイティングなプレイヤーであるのがモラントであり、やっと彼へのフォーカスがされるようになったのは単純にうれしい。

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ジャの凄さをまとめてみるとこんな感じである。

1) 圧倒的な身体能力

モラントを見てまず目につくのが彼の並外れた身体能力である。バケモノだらけのNBAの中でも彼のスピード、ジャンプ力、切り返しのクイックネスはリーグで5本の指に入るレベルであり、全盛期のデリック・ローズやラッセル・ウエストブルックを彷彿させる。ただ高くジャンプするだけでなく、パワーも兼ね添えており、ビッグマン相手に数々のダンクをトライすることができ、どんな相手でもポスターを狙ってくる。ジャンプ力がありすぎる為、ダンクに失敗した時の落下の際大きなケガをしてしまわないかと心配になってしまうほどである。

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直近のレイカーズ戦では、バックボードに頭をぶつけるほどジャンプしながらゴールテンドを避けてブロックをしており、単純なジャンプ力でいったら現在リーグトップかもしれない。(このブロックはマジですごい)

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そして彼は滞空時間が圧倒的で、ジャンプしてからディフェンダーも一緒にジャンプして、ディフェンダーが先に着地した後に彼がレイアップをするシーンも多々見られる。ただ滞空時間が長いだけでなく、ディフェンダーにぶつかりながらや空中でバランスを崩さないボディコントロールはカイリー・アービングを彷彿とさせる。彼はこの恵まれた身体能力を存分に生かし、ペイントで得点を量産している。(現在ペイントの得点数第3位!!)

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2) コートビジョン

ジャの凄いところは、単純に運動神経がいいだけでなく、ポイントガードとして必要なコートビジョンとパス能力も備えているところである。これについてはローズやウエストブルック、カイリー以上のものを持っている。ルーカ・ドンチッチやトレイ・ヤングのようなコートビジョンとまではいかないが、エリートPGとして必要なレベルは兼ね備えており、ペネトレーションからのキックアウト、ペイント内でカットしてきた選手を見つけるなどを得意としている。また上述のような空中での長い滞空時間の間にシュートかパスを決めて、パスを選択してアシストにつなげることも多々ある。最近はとにかくスコアファーストのポイントガードが増えているが、彼は自分の得点とチームメイトのセットアップをうまく組み合わせたハイブリット型である。

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3) 一人よがりにならない

ポイント2)にも共通することだが、彼は最近の若手スターと違いボールを独占しすぎない強みもある。決してカリーのように常に動き回ることはしないが、ヤングやルーカのようにボールを独占しまくり、ボールを持たない時は全く何もしないといった傾向は見れない。チームメイトにボールを渡して、他のガードがオフェンスのポイントになることを嫌がらず、接戦のクラッチの状況でもボールを手放すことを拒まないのは、3年目のスター選手としては評価されるべきである。

 

4)競争心とリーダーシップ

宇宙レベルの身体能力とバスケセンスを持った選手は他にもいるが、皆が成功するわけではない。NBAのスター選手とその他の選手を隔てるのは負けず嫌いな性格とメンタルのタフさである。どんなにセンスがあっても、自分は誰にも負けない、絶対に勝ってやるという精神と努力が伴わなければ一流にはなれない。モラントはこの競争心とタフさをリーグに入った時から兼ね備えていた。彼のインタビューや試合中のしぐさなどを見れば明らかだが、ジャは誰も恐れていないし、自分の目の前に立ちはだかる壁を全部打ち破ろうとしてくるのである。

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ただ競争心が強いだけでなく、周りを鼓舞しようというリーダシップスキルもルーキー時代から持っており、現在最もケミストリーがいいチームであろうグリズリーズのまとめ役となっており、真のリーダーと言えるだろう。グリズリーズのベンチを見れば、誰もがチームメイトを応援していることが垣間見え、非常に雰囲気の良いチームであるとことがすぐわかる。その中心に彼がいるということは、彼の求心力の高さを表していると言える。

 

<モラントが向上しなければいけない点>

モラントの良い事ばかり書いたが、決して完璧な選手ではなくまだまだ改善の余地がある。まずは、ジャンプショットの安定度であろう。今年は3ポイントが38% (1/10日時点) と昨年の30%から大いに向上はしているが、まだまだ2ポイント含めてすごい安定しているかというとそうではない。但し3ポイントが改善されてきているように、モラントは常に努力をする選手であるので、今後数年でジャンプショットも平均以上レベルになる可能性は十分ある。

 

それ以上にレベルアップしなければいけないのがディフェンスである。彼のディフェンスはリーグ平均以下であり、注意力や頑張りも正直あまり高くない。ディフェンス時はオフェンスのように足が動いていないし、自分のマークマンのカットを見逃してしまうなどがしょっちゅう見受けられる。今年彼がケガで12試合欠場した際に、グリズリーズはリーグトップのディフェンス力を誇っていたのに対して、彼が欠場する前のチームはリーグ最下位のディフェンスであった。不在時に相手チームのシュート確率がたまたま低かったということもあるし、サンプルサイズも少ない為、一概にモラントが全ての原因とは言えないが、現状彼の存在がディフェンスにおいてはネガティブな影響をもたらしている。今後ジャが新のスーパースターとなるには、ディフェンスへの取り組みが重要となるだろう。

 

<グリズリーズの底力>

グリズリーズはモラントばかりに注目が集まりがちではあるが、チームの総合力が高いのも特徴である。なにせ彼が12試合不在の間、グリズリーズは10勝2敗という快進撃を見せた。上述のジャ抜きのディフェンス力は本物で、各ポジションに優れたディフェンダーが揃っている。また、ロスターの各選手の実力が高く、リーグでもトップクラスの若手の選手層とベンチ力の高さを誇っている。2年目のデズモンド・ベインは得意のシュート力を活かして安定したスコアラーとして成長をしているし、ディロン・ブルックスも得点力と相手を追いかけますタフなディフェンスが健在である。4年目のジャレン・ジャクソンJrはオフェンスはまだまだ成長段階だが、高さと機動力を生かしたディフェンスは確実に向上している。更に新加入のベテラン、スティーブン・アダムスはディフェンスとリバウンドに加えて、これまで見せてこなかったパスセンスも開花しており、ポイントセンター的な役割を担っている。

 

更にヘッドコーチのテイラー・ジェンキンスの存在も見逃してはいけない。モラントと同じく3年目のヘッドコーチであり、まだ若いコーチだが、彼の戦術やインバウンドプレイのクリエイティビティはもっと注目されるべきだし、若い選手ばかりのチームを束ねるコーチング力はリーグトップレベルであると言える。

 

<グリズリーズのポテンシャル>

現在ウエスト4位のグリズリーズが今年の優勝候補の1つかと言われるとそうではなく、上位3チームとのギャップはかなり大きい。ウォーリアーズ、サンズ、ジャズはいずれも選手層の厚さに加えてプレイオフ経験が豊富であり、まだまだ若手ばかりのグリズリーズとは実力の差は明らかである。またファーストラウンドでレイカーズナゲッツとマッチアップになったら、敗退することも十分考えられる。然し、今シーズンの飛躍は確実にチームの自信につながるだろうし、今後数年でモラントがスーパースターの座をに着くとともに、グリズリーズは長年リーグが恐れるチームとなっていくだろう。