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白熱のMVPレース:超ユニークプレーヤー 二コラ・ヨキッチの凄さ

どうも。NBAのレギュラーシーズンも残り1か月半ぐらいになり、シード争いがヒートアップしてきた。となると気になってくるのがMVPレース。MVPの基準に明確なものがない為、毎年シーズン最後までアメリカメディアで議論になることが多く、スタッツ中心の分析からメディアの好き嫌いとかも絡んでくる。

 

バックスのイヤニスが過去2年連続MVPを受賞したが、どちらのシーズンもプレイオフ途中で敗退したことで彼が本当にMVPにふさわしいのかという不満が高まっており、今年も成績も中々半端ないが3年連続はありえないだろう。(MVPはあくまでレギュラーシーズンの功績だけを判断すべきではあるのだが)

 

また、36歳になっても未だにNBAのキングであるレブロンについても、シーズン序盤は快調に飛ばしており、2013年以来MVPを取ってないことで、こんな年齢でこの成績はすごいぞというストーリーラインでメディアの後押しを受けるとも思われたが、ケガをしてしてしばらく戦線離脱をしており、かなり厳しくなってきた気がする。

更にネッツのジェームズ・ハーデンは、ネッツ移籍後すさまじい成績を残しているし、現在イースト1位の勝率を残しているネッツの最大の功労者である。私自身も彼がここまですぐにプレイスタイルを変えてフィットするとは思わなかった。ハーデンの成績が文句なしなことには変わらないが、彼のシーズン当初のロケッツから移籍劇の身勝手さについてはどうしても目をつぶることはできず、投票者の多くも同じような判断をするだろうと考えると彼が2度目の栄誉を獲得することは難しい。ハーデンのトレードリクエスト騒動とネッツの可能性については昔の記事をご参照。(自分の予想が全く外れており、恥ずかしいが、、、)

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その他、ブレイザーズのデイミアン・リラード、マーベリックスのルーカ・ドンチッチも圧倒的な成績を残してはいるが、シード順位が若干低すぎる。一方チーム成績がリーグトップクラスのドノバン・ミッチェル、クリス・ポール/デビン・ブッカーについては逆に個人成績が突出していない。(十分好成績を残してはいるが) 

 

ということで、残る候補はナゲッツ二コラ・ヨキッチシクサーズジョエル・エンビードとなる。ここ10年で急激にスモールボールが進み、ビックマンの存在が危ぶまれた中、センターである2人がMVPレースのトップ候補になるのはまたビッグマンの存在感がリーグ内で増えてきている証拠なのかもしれない。ただし彼らは非常にスキルの高い革新的なビッグマンであり、これまでのトラディショナルなセンターとは違う。エンビードは今年はコンディショニングを向上させて、オフェンス・ディフェンスともにアンストッパブルな状態でシーズン前半のMVPは文句なしだったのだが、オールスター直後にケガをしてしまい10試合連続で欠場したかつ、復帰後の成績も上がりきっていないことでかなり厳しくなってきた。

 

そこで今シーズン全試合出場し、序盤不調だったナゲッツを引っ張り続けているヨキッチがMVP最有力候補となった。エンビードと同じくコンディショニングが課題かつ、NBA選手とは思えない脂肪の多さが目立ったヨキッチだが、今年はやっと体を絞ったことでプレイのレベルを数段階あげている。ということで、今回はNBA史上最もユニークな選手の一人であるヨキッチのすごさをまとめてみる。

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<パス>

ヨキッチが一番凄いのはなんといってもパス能力である。彼はビッグマンの中では史上最高のPasserといえる。これはヨキッチがリーグに入ってから数年で当たり前のような事実となっていた。彼はありとあらゆるパスを繰り出すことができ、ポストアップからオープンシューターを見つけるだけでなく、カットした選手に絶妙なポジションにボールを出す。それを右からでも、左からでも、バウンスパス、ノールックパスでもなんでもできるのである。たまにディフェンダーの足の間からパスを通したりもする。それだけでなく、センターコートの近くから片手でいとも簡単にパスを投げられるし、代名詞となりつつあるフルコートのタッチダウンパスも自然な流れで超正確である。

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とにかくパスを出すタイミングとアングルが絶妙すぎて、過去にはビル・ウォルトン、クリス・ウェバーなどパスが上手いビッグマンはいたが、ヨキッチは次元が違う。比較対象はビッグマンではなく、マジックやルーカといった希代のパサーと同じようなスキルを持っているのである。今シーズン8.8アシストも記録しており、まさにトップポイントガード並みである。

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<フットワーク>

彼がすごいのはパスだけでなく、そのスコアリング能力である。彼は非常にアンセルフィッシュな選手で自分の得点より、常にパスやオフェンスのフローを考えてしまうタイプで、昨シーズンまでは試合の半分ほぼシュートしないことがあるぐらいであった。これはいいときもあるが、アンセルフィッシュ過ぎるのはチームの得点が必要な時にたまに傷となる。然し、彼のオフェンスレパートリーがないわけではなく、逆にスキル満載で、特にフットワークは目を見張るものがある。そしてヨキッチはNBAの中でもかなりスピードが遅く、ジャンプ力も乏しいがそれを補うゲーム感覚と体の大きさもある。彼のアップアンドアンダーとフックショット、度重なるフェイクは往年のケビン・マクヘイルのようであり、ディフェンダーのポジショニングに合わせて様々なカウンターをする。決して身体能力とパワーで圧倒する訳ではないが、持って生まれたバスケセンスと頭の良さ、タッチの柔らかさを使うのが特徴的である。今シーズンはより積極的に点を取りに行っており、昨シーズンの平均20得点から、一気に26.3得点まで上げてきている。

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<シュートスキル>

ヨキッチがユニークである1つがそのシュート力である。以前から3ポイントを打ってはいったが、確率は30%ちょっとで平均以下ではあった。それが今年はなんと43%まで向上させており、これじゃディフェンスは太刀打ちできない。更に彼は上述のフットワークを生かしてミッドレンジからのシュート力も高い。シュートのアーチが非常に高い彼のショットはブロック不可能である。そしてヨキッチのシュートで一番やばいのが、右足軸の1本足ショットである。一本足シュートといえばダーク・ノウィツキ―が有名であるが、ダークは左足を軸にする一本足であった。というか、右利きの選手であればどんなシュートを打つ時でも左足軸で打つのが当たり前なのだが、ヨキッチはその常識を覆してしまった。彼はフェイスアップした状態からでも、ポストアップからのターンアラウンドでも右足軸でシュートしてしまう。これまで見たことないかつシュートのタイミングが独特な為、ディフェンダーは意表を突かれてしまう。ヨキッチは左足を故障している際に、このシュートの仕方を覚えたようだが、結果的に難易度MAXのムーブが開発されたわけである。一度試してみたらわかると思うが、頭で理解しても自分でやろうとしてできるショットではない。

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<勝負強さ>

ヨキッチはアンセルフィッシュなことで有名だが、一方試合終盤でのクラッチ力も実は高い。有名なNBA Analystのザック・ロウが、ヨキッチはビッグマンではダーク以来クラッチシチュエーションでボールを預けられる選手と最近よく言っている。これは本当に確かで、ローポストからのフックショット、フェイダウェイ、3ポイントも打てる彼は僅差の試合でボールを渡しでも自分でオフェンスを作り出すことができる。常にひょうひょうとしているからなのか、緊迫した状況でも緊張した様子は見せず何事もなかったかのようにシュートを決めるのはヨキッチの凄いところである。昨年のプレイオフでもジャズのゴルベアの上からフックショットを決めて勝利を呼び込んだのは記憶に新しい。普段はパス優先なのに、ここぞという場面で決めてくれるのは彼の魅力である。

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<世の中のふとっちょの希望>

これは番外編であるが、前述の通り今シーズンに入るまでヨキッチはNBA選手としてはかなり太っており、ばりばりのアスリート感は全然なかった。いつも疲れてるいるような走り方や表情をしていおり、何も知らない人が見たら彼が一流選手だとは到底思わないだろう。更に、ビッグマンながらダンクはほとんどしなかったし、同じ身長でケビン・デゥラントやイヤニス、アンソニーデイビスのような宇宙人みたいな選手達がいる中、ヨキッチはすごい一般的な運動神経である。それなのにトップアスリートをきりきり舞いにするヨキッチはとってもユニークかつ、誰もが親近感を持てる選手である。(もちろん身長は211CMなのでそこは普通ではないのだが) 

彼の少年時代のパスポートの写真を見たらどこにでもいるちょっと太めの子供にしか見えず、そんな彼がMVPのフロントランナーになっている事実は世の中の子供に希望を与えてくれる?はずである。

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ぽっちゃり体系だけでなく、ユーモアに富んで面白いキャラクターのヨキッチはこれから更に知名度を上げて、NBAを代表する選手になっていくであろう。

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