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トレイ・ヤングの急成長と3年目プレイヤーの活躍

どうも。プレイオフ真っ只中で諸々忙しくなりブログが投稿できていなかったが、久しぶりに書かせて頂く。

 

<プレイオフ途中経過レポート>

カンファレンスセミファイナルでは、バックスとネッツが死闘を繰り広げ、改めてケビン・デゥラントの凄さ、現在のベストプレイヤーとしての地位を決定づけた気がする。2年前にアキレス腱を断裂したとは思えない復帰ぶりで、ハーデンがケガでほぼ動けない、カイリーが途中離脱という中、スコアリング、パス、ディフェンスの全てでハイレベルなプレーを披露した。つい10年ぐらい前では、アキレス腱をケガした人がその後100%の状態に戻ることなどなかったのだが、KDの信じられないような活躍を見ると医療の進歩を実感させられる。(もしくはKDがバケモノか) 彼のゲーム5とゲーム7のパフォーマンスはプレイオフの歴史でもかなり高レベルなものであったと思う。

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一方、バックスは多くの人の不信感を買った。もちろんKDが凄かったとはいえ、それ以外のスター選手がいない中で、第7戦で延長戦までもつれ込まれていたら、優勝を狙うチームとしてはいただけない。もちろん3勝2敗と追い込まれた中で、カムバックをし、第7戦でも苦しみながら勝利したことにはもちろん価値があり、ネッツという強敵がいなくなったことで、優勝への可能性は大いに高まったと言える。

 

エストも、クワイをシリーズ途中でケガで失ったクリッパーズが粘りと勝負強さを見せつけ、クワイなしで第5、第6戦を勝利したのは見事だった。Pandemic Pと揶揄され、ここ数年のプレイオフの不調でバスケファンから馬鹿にされ続けたポール・ジョージがステップアップし、チームを率いているのは感慨深く、ペイサーズ時代に見せたエースの才能を見せつけている。(まあアップダウンは未だに激しいのだが、、、)

 

そして、No.1シードだったジャズは、コンリーやミッチェルのケガがあったとはいえ、クワイなしのクリッパーズに2連敗したということで、チームの構成・方針を再検討する必要があるだろう。ゴルベアはレギュラーシーズンにおいては、ベストディフェンダーとして君臨できるが、毎年プレイオフでk繰り広げられるスモールボールで各チームに対抗され、巨体のゴルベアが3ポイントシューターを追い掛け回すことは不可能であり、この問題をどう対処していくか、ジャズの今後も気になるところだ。

 

また、サンズは対ナゲッツ相手に圧倒的な安定感を見せつけ、問題なくカンファレンスファイナルに進出した。クリス・ポールがワクチンをうちながらコロナになったり、ブッカーが鼻を骨折したりとカンファレンスファイナルでは災難続きだが、残りのチームの中では、オフェンスとディフェンスのバランスが一番取れたチームと言える。

 

そして、今年のプレイオフで最も驚くべき結果だったのが、アトランタ・ホークスの大躍進とシクサーズのCollapeseであろう。シクサーズの"Process"はジョエル・エンビードとベン・シモンズがチームのコアとなり、イースト屈指の強豪となったわけだが、4年連続でプレイオフ敗退となり、佳境を迎えた。ベン・シモンズが一切シュートできないなど課題が山積みではあり、このシクサーズをどうするよ問題はまた別の記事で言及したい。

 

サプライズが多い今年のプレイオフの中で、誰もが予想していなかったカンファレンスファイナルに進出したのがホークスである。シーズン当初は勝率も5割以下で、エースのトレイ・ヤングとチームメイトの確執がニュースになったり、コーチのロイ・ピアーズが解雇され、ネイト・マクミランが暫定ヘッドコーチとなるなど、チーム内の混乱が見られが、シーズン後半になると安定してきて非常にバランスの取れたチームへと変貌する。その勢いのまま第5シードでプレイオフに突入し、ニューヨーク相手に問題なく勝利し (多くの識者はニックス勝利を予想していたが、、、私はホークスが勝つと思っていた)、第1シードのシクサーズをアップセットまでしてしまう。正直私自身もホークスがシクサーズに勝つなんて思ってもいなかったし、シーズン途中の時点でホークスがカンファレンスファイナルに進出することなど誰が想像していただろうか。

 

<トレイ・ヤングの凄さ>

そんな誰もが期待してなかったホークスの快進撃の立役者は、紛れもなく3年目のスター、トレイ・ヤングである。しかもただ活躍するだけでなく、相手ファンを逆なでする挑発行為を幾度となく行い、久しぶりにNBAのVillanとしての地位も確立しつつある。ニックスのホームクラウドに向かってQuietサインをしたり、バックスとの第1戦では、シュート打つ前にShimmyダンスを披露して、3ポイントを決めるなど、一昔前のNBAならぶん殴られていてもおかしくない行動をしている。

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そんなヤングは、もちろんこういったトラッシュトークや挑発行為だけでなくプレーの面でも相手を黙らせており、シクサーズが誇るベン・シモンズやマティス・サイブルといったトップディフェンダーをきりきり舞いにしたのは単純に圧巻だった。彼は大学時代からロングレンジの3ポイントがメディアでは取り上げられ、ステファン・カリーと比べられることも多いが、実は3ポイントの確率はそこまで良くなく、彼より3ポイントがうまい選手は全然いる。彼のすごいところは、リーグトップレベルのペイントでのフローターとパス能力、ディフェンス読んでファールを引き出す能力である。そういう点で、彼はスティーブ・ナッシュとジェームズ・ハーデンのスキルと、アイバーソンのタフネスを混ぜた感じだろうか。

 

特にフローターとパスの組み合わせの威力はすさまじく、ペイントに入ったらほぼモーションなしでフローターを打て、そのフローターと同じモーションで、クリント・カペラやジョン・コリンズなどのビッグマンにロブパスをできるもんだから、ディフェンダーはゴール下で待機したらフローターをされ、ヤングをカバーにいったらアリウープをされるということで非常に対応が難しい。それでいて、シューターにキックアウトやクリエイティブなパスをできるのだから、ディフェンダーからしたらお手上げである。

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<トレイ・ヤングへの批判と成長>

然しヤングの株が急に上がったは、今年のレギュラーシーズン終盤とプレイオフに入ったこの3か月である。彼のプレイスタイルは元々新人ながらボールをずっと保持して、自分がプレーに関わらない時はつったまま何もしない、ボールを運んだと思ったら、30フィート先からパスを一切せずにシュートを打つこともあるなど、それにあきれる・不満に持つチームメイトの顔やボディーランゲージが明らかに見て取れた。

 

鳴り物入りで入ったルーキーに対して、チームがお咎めなく好きなようにプレーさせ、ベテラン選手やタフなコーチがいなかったら、まだ二十歳前後の選手が自分の好き勝手プレーしてしまうのは、当たり前なのかもしれない。それで勝ち星につながったらまた違うのだろうが、ヤングの独りよがりなプレーではチームの勝率は低く、よくいるGood Stats Bad Team Guyというレッテルを貼られていた。

 

では何が変わったのだろうか。1つはシーズン途中で暫定HDとなったネイト・マクミランの影響があるだろう。彼のプレイオフでの采配に何年もの間疑問を持たれているが、チームをまとめる力とスター選手にも屈しない姿勢は以前から評価されていた。そして、ホークスのコーチとなった際は、ヤングに対して彼のセルフィッシュなプレイスタイルとそれに対するチームメイトへのコート上でのリアクションをビデオで見せたようである。そういった指導もあって、ヤングは徐々にチームプレーとケミストリーの重要さを理解してきたのではないかと思う。

 

また、彼をサポートするチームメイトも確実に強化された。センターのクリント・カペラはジェームズ・ハーデンとプレイしていた為、ボール保持率が高いガードに慣れているし、ボグダン・ボグダノヴィッチはプレイメイクもでき、ヤング以外のボールハンドラーとして機能もするし、キャッチアンドシュート力も高い。そして国際大会での実績も証明済みである。加えて、ベテランのルー・ウィリアムズ、ダニロ・ガリナリ、ソロモン・ヒルといった選手はヤングはチームのオフェンスだけでなく、リーダーシップ面でもチームをうまくまとめる役割を担っているはずである。

 

更に、彼はまだ3年目の選手である。どんなプレイヤーだって1年目から苦しまない選手はいない。ジョーダンやレブロンだって1年目はプレイオフに出ていないし、特にジョーダンについては数字は残しても勝てない選手という批判をずっとは言われていた。プレーする期間が延びれば、スキルだけでなく、精神的にも成長するようになり、ゲームを理解していくようになるのは当たり前である。そういう意味では最近はメディアが各プレイヤーをジャッジするのが早すぎる。1年目、2年目の選手が数試合活躍しないだけで、すぐにBust (失敗) と評される。これはTwitterなどのSNSでどんどんと意見を言い合うTake Cultureの影響もあるだろう。ヤングだってルーキー前のサマーリーグで全然活躍できず、彼はBustだと言われていた時期だってあった。そこから、1年目の後半に片鱗を見せ、昨年は個人成績の躍進、今年はチームプレイヤーとしての成長、一気にカンファレンスファイナル進出と非常に順調な階段を上っていると言えるだろう。

 

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<その他の3年目選手の活躍>

ヤングと同じ3年目の選手と言えばルーカ・ドンチッチの存在は絶対に忘れてはいけない。ヤングとトレードという形でマーベリックスに入っただけでなく、同じボールDominantプレイヤーという点で、2人はよく比較されることが多かったが、これまではルーカの圧勝だった。2年目からMVP候補となり、昨年はプレイオフに進出して1回戦敗退はしたが、圧倒的なポテンシャルを見せつけてくれた。今年も昨年レベルの成績を残し、チームメイトがついてこない中、孤軍奮闘してクリッパーズをぎりぎりまで追い込んだ。現在22歳の年齢を考えたら、リーグ史上最高の22歳かもしれないレベルである。ただ2年連続ファーストラウンドで敗退し、ヤングがいきなりカンファレンスファイナルに出場したことで、2人の差が少し縮まったかもしれない。2人のどちらかがすごいかと言われたが、サイズも2回り大きく、パスレベルも上で、ありとあらゆるオフェンスパターンを保持するルーカがまだ上なことは確実だが、これからチーム成績を含めてどちらが伸びていくかを見ていくのかが楽しみである。

 

ヤングとルーカ以外にも、フェニックス・サンズからは、ディアンドレ・エイトン、ミカル・ブリジッズはチームの中核を担い、エイトンに関してはプレイオフでヤングのように大きな飛躍をしており、昔は苦手だったディフェンスで大きく貢献しており、オフェンスでもフックショットやジャンパーでチームの大黒柱の一人となってきている。

 

加えて、シュート力とディフェンスのハイブリットプレイヤーである、ジャレン・ジャクソンJr、若手ガードの中でも超有望株のシェイ・ギルジアス=アレクサンダー、ナゲッツで超ハイレベルシュート力を披露しているマイケル・ポーターJrなど、これからのリーグを支える3年目プレイヤーが台頭してきており、来年以降も彼らの成長を見逃せないし、リーグ全体でスターの若返りの時期になっているのではないかと思う。