ディープなNBA・バスケトーク+アメリカ文化

NBAとアメリカンカルチャー中心のブログ

日本の偏差値至上主義の問題

どうも。いつもはNBAアメリカ文化について語っていくこのブログですが、本日は少し違う視点で日本の教育の問題について個人的な経験とそこから見える社会の不条理を含めて考えたいと思う。きっかけとしては、先日東大前で起きた高校生2年生による刺傷事件について、個人的にも非常に考えさせられたこと、自分と少し重ねる部分もあったことからである。

 

もちろん、人を刺す、電車を放火しようとする行為は全く許されるものではなく彼が厳しく裁かれるのは当然だと思うのだが、この原因は決して彼一人の問題ではなく、日本の教育システムが学生に与えるプレッシャーと、いい学校に行くことでステータスが決まってしまう世の中を表す事象だと改めて感じた。日本の教育の問題について6つのセクションに分けて考えていくが、今回記載する内容はあくまで私の個人的な経験をベースにしており、大学まで行くことを想定した教育の内容であることをご了承頂きたい。

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<レールにしかれる学歴主義>

これについては私が小学生の時から疑問に思っているし、個人的にも経験したことだが、日本である程度知名度のある会社に就職する為には往往にして大学でフィルターがかかる。そしていわゆるいい大学=偏差値の高い大学に入るには、往々にしていい中高に行かなければ行けないとなる。私立の多い東京だと特に中学でどこにいるかが非常に重要になってきて、中高一貫を狙う場合が増える。(更に凄い人は小学校から、はたまた幼稚園から私立というケースもあるが) もちろん中学で公立に行く優秀な人材もいるのだが、教育の水準が私立と公立で大きく違ってきてしまう。そうすると私立に入れなければ行けないと考える親が多くなり、塾に行かせるわけだが、小学生で自ら塾に行きたいという人は少ないだろう。(これまた特別な学生や帰国子女などはまた別であるだろうが)

私が小学生だった時から今でも変わらず、とりあえずいい学校に行かせるのが親の目的になりがちである。

 

<塾の存在>

ここで問題になるのが、日本の受験システムと塾の存在である。特に小学校に置いて、学校の難易度と塾の難易度は雲泥の差がある。受験で出てくる問題に立ち向かう為には塾に行く必要があるのだが、まだ10歳前後の子供にはそれが大きな負担となる。私自身も小学校4年で塾に行きはじめ、学校のレベルとの違いに驚愕したと同時にどうしてこんな勉強をしなければいけないのだとものすごくストレスがかかったことを覚えている。何せストレスからやけ食いをして、野球をやりなが3か月で7キロ太ったほどである。私はとにかく塾に行く意味、塾に行かなければ受験で成功できない構造に納得がいかなかった。塾にとっては難関校の合格人数がビジネス拡大となるわけだし、別に勉強する意味などを教えてくれない。それは中学受験に限らず、高校・大学受験でも同じである。塾なんて行かなくて良い成績を出せるようになるのが本来の教育であり、根底から塾のレベルと学校教育のレベルの差を狭くすることが日本の教育で最も大きな課題の1つだと私は考えている。

 

<偏差値という物差し>

そして塾が存在する最大の理由は日本の偏差値大好きな社会にある。いい学校に行っている事がその人の価値となるというのが当たり前になっており、学校に入った後の事は一般的に大きな指標にならない。クイズ番組の高学歴芸能人などが最たる例で、偏差値の高い大学に行くことが偉いという風潮にずっとなっていると思う。メディアや周りの大人がそうやって学歴高い人を持ち上げるのであれば、視野が狭くなりがちな学生時代なんて、とにかく学校の偏差値で物事を考えてしまうことが多いはずである。親も、学校の先生も、塾もそれを人の物差しに使っているのだから。

 

私個人の話では、従弟含めて親戚に高学歴な人間が揃っていた。塾に数年行ったことで小6の時点ではそれが当たり前になってしまった私も偏差値の高い中学を狙っていた。然し受験本番で第1、第2志望で失敗してしまい、周りの親戚より偏差値の低い学校に行くことになってしまた。これが私自身のもの強烈な劣等感に繋がり、大学だけはいいとこに進学したい、皆を見返したいと超ガリ勉となるのである。中学に入ってから私の親からは特に勉強しなさい、いい大学行きなさいと強制されたことは一度もなかったのだが、偏差値という価値観でしか物事を考えられなかった私はとにかく一心不乱に突っ走しった。

 

<将来の目標を教えない日本の教育現場>

学歴至上主義に加えて、日本の教育で一番問題だと感じるのが将来どうなりたいかを教えないことである。私も無我夢中で勉強をしたのはいいが、じゃあ大学に入ってどうなりたいか、将来どういった仕事をしたいかというビジョンを全く考えていなかった。いい大学に行くのだということが最終目標になってしまい、その後の事が全く頭になかったのである。視野の狭い学生が陥りやすいこの罠を大人がちゃんと諭してあげることができればいいのだが、塾でも学校 (特に進学校) でも大学への進学が全ての目的になってしまい夢や人生の目的を教えてくれない。個人的にも中高時代の先生に将来どうなりたいのかという質問を投げかけられることなかったし、自分の友達にごく一部しか夢を持った人はいなかった。何が何でもいい大学にいくことだけが良きとされ、結局学歴が神格化されてしまうのである。

 

今回事件を起こした高校生も東大の理三に行くことだけが目標になってしまっていたのだろう。彼の学校や家庭での様子は分からないのであくまでの推測だが、本来であれば医者になることが目標でなければいけないところ、あくまでステップである東大の医学部ということだけがフォーカスになったことで必要以上のプレッシャーを自分にかけたのだと思う。東大の理三なんて本当にバケモノのような学力の人間しか入れない場所にだけ焦点を当ててしまったのは、彼も周りの人間もその後のビジョンが見えてなかったことによるだろう。医者になるには他の大学もたくさんあるわけだし、(学費はもちろん私立だとバカ高くなるが)、東大に行ったから優秀な医者になるとは限らない。そこを事前にしっかりと伝えてあげられることができなかったのは日本の社会と教育現場の責任でもあると思っている。

 

<高校3年生の実績で決まる違和感>

学歴社会の更なる違和感は、高校3年生の受験の結果で色んな事が決まってしまう点である。上述の通り、現状の新卒入社の制度では学歴でフィルターがかかることが多い。特に大企業になればなるほど学歴フィルターはかなり厳しい。然し、そのフィルターは高校3年生の時のものであり、本来であれば大学4年間で何をしたかの方が重要であるはずである。大学院に行けば最終学歴で更に上のとこに行ける可能性もあるが、4年間の大学生活だけであれば、あくまで高校生の実績が社会人で重視される。

 

また、学部についても大学入学時点で決めることは、学生にとっては負担が大きすぎると思う。大学生活を続ける中で自分はこれをしたいんだと考える機会もあるはずだが、入学後に学部を変えるとなるとかなり大変である。塾や高校が将来の目標の大事さをろくに教えてないにもかかわらず、高3の時点で学部を決めろというのは酷である。医者を目指していた人間だって、大学に入ってみて授業を受けたらやっぱり違うとなることはあるかもしれないし、より精神も成熟していく中で自分の選択肢を考えられる方が余裕を持って人生を過ごせるではないかと思う。

 

そして何より特に文系の学生は大学時代勉強を全然しなくて卒業できてしまうのはどう考えてもおかしい。せめて受験時のレベルとプレッシャーを少しでも緩め、大学でも勉強や研究をして実績を作っていく制度を形成することが必要であり、成人前の実績でその後の人生が決まってしまうのは社会の欠格であると思う。

 

<アメリカの大学から参考にできる事>

中学から大学受験に向けてまっしぐらに勉強してきた私だったが、途中からアメリカ文化に非常に興味を持ち、更に高校に入って改めて受験制度の違和感を感じたことで、アメリカの大学に行くことを決意する。親の反対など諸々あったが、運良くアメリカの大学に進学できて、無事卒業することもできた。アメリカの教育も、半端じゃない学費の高さなど色々と問題もあるが日本が参考とすべき点もある。

 

1. 公立の学校に行くのも当たり前

2. 自分の意見を発表する機会が多い (ひたすら教科書ベースで聞くことがメインの日本との違いは明確)

3. 日本の一発受験ではなく、高校自体に何をしたかを大事にし、学校の成績と成績以外のアクティビティ、センター試験のようなSATも複数回受けた中でのベストスコアを出せて、総合的な判断で合否が決まる

4. 大学入学時に学部が決まることは稀で、大学1年目や2年目で進路を決められる

5. 大学名ももちろん重要だが、それ以上に何をしていたかを評価する

 

ポイント4については、例えば医者志望の人も、学部時代は医学部である必要はなく、その後メディカルスクールに行ける。その分お金と時間はかかるが、じっくりと自分のやりたいことを考えた人間が医者を目指せることは、高校3年までに医者になることを決めなきゃいけない日本と大違いである。ちなみに、日本の医学部の質は高いかもしれないが、医師国家試験の合格率が90%なのも、高3時点の学力で進路が決められる実態を大いに表している。また、日本の進学塾のような存在はなく学校での勉強をベースにする点も大きく違う。それだけで成熟段階の学生にかかるプレッシャーを少しでも軽減できるのではないか。

 

日本の高校までの教育レベルの高さは評価されるべきであるし、現状のシステムでも。自分で考えて夢をかなえられる人もたくさんいる。然し、その人を評価する物差しとして、学歴を振りかざす社会とそれを持ちあげるメディアの体質が変わらない限り、その環境にいる教師、学生、保護者の思考は凝り固まってしまう。それは成長の時間と付随するサポートが必要な10代の人間にはものすごいストレスをかけることになり、精神的に追い詰められた受験生によって今回のような事件が繰り返えされることは十分にあり得る。

 

取り入れられる海外の考えを活かしつ、全ての人が質の高い教育を受けられ、学歴に縛られない教育システムに日本が根本的に変わることを切に願っているし、変えていかなければならないと改めて決意させられた。

ジャ・モラントとグリズリーズの覚醒

どうも。オミクロン株の感染者数が日本でも大量に増えているが、NBAでも猛威を振るい、選手だけでなくコーチやスタッフも隔離を余儀なくされている。それにより、知らない選手や昔懐かしい選手がどの試合でも登場してきており、ゲームのクオリティはかなり下がってしまっている気がするが、なんとか試合を続けられる以上NBAがシャットダウンすることはなさそうである。特に10日契約の選手が激増しており、先週はこのチームでプレイしていたのに、次の週では全く違うチームにいたりとびっくりすることの連続があったりする。個人的には"Born Ready"ことランス・スティーブンソンが3度目のペイサーズ復帰で結構活躍していることにわくわくする。色々と問題がある選手ではあるが、必要以上に派手なプレーは健在で、紛れもないエンターテイナーである。

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また順位を見ていくと、イーストでは最近はネッツやバックスが調子を落としている。それにより好調をキープしているブルズがとうとうイースト1位になった。ブルズの躍進とその最大の貢献者であるデマー・デローザンについては先日書いたので是非見て頂きたい。

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エストにおいては、ウォーリアーズとサンズが1つ抜けている感はあり、ウォーリアーズにはクレイ・トンプソンが2年ぶりに帰ってくるということで、既にNo.1シードを争っている中で大きな起爆剤となるだろう。サンズは昨年のファイナル進出の勢いをそのままに非常に安定した成績を残している。そして、安定と言えばユタ・ジャズも隙が少なく、3ポイントを打ちまくるオフェンスとドノバン・ミッチェルのスターパワー、ゴルベアのディフェンスによってリーグ3位はほぼ確定だろう。

 

そんなウエストTop3に食い込んでくるような大躍進をしているのがメンフィス・グリズリーズである。昨年プレイイントーナメントでウォーリアーズを破ってプレイオフに進出し、第1シードのジャズ相手に善戦をしたグリズリーズではあるが、今年もプレイオフ進出ギリギリぐらいのレベルではないかと予想された。それが蓋を開けてみたら第5シードと大きな差をつけての第4位と、このままシーズン終了までホームコートアドバンテージ確保が行けるのではないかと思う。今年はナゲッツクリッパーズがケガ人続出、レイカーズはドラマだらけで戦力が弱く、ブレイザーズもプレイオフ圏外と過去に強かったチームが苦戦していることも追い風にはなっている。

 

然し、他チームが脱落しているからというのはグリズリーズに失礼である。このチームの躍進は紛れもなくリアルで、その最大の貢献者は今年3年目のジャ・モラントである。2019年にドラフト3位で入団した彼は1年目から平均18点、7アシストといきなり活躍をして新人王を獲得すると、2年目はプレイオフに進出して、ファーストラウンド第2戦では47得点を記録し、今後のポテンシャルを大いに示した。そして、今年は平均得点を25点まで上げ、数々のハイライトプレイとチームが強豪の仲間入りをしたことで、スーパースターへの道を着実に駆け上がっている。リーグに入った当初は、皆の大注目選手だったザイオン・ウィリアムソンばかり取り上げられていたが、ザイオン以上にアクロバティックでエキサイティングなプレイヤーであるのがモラントであり、やっと彼へのフォーカスがされるようになったのは単純にうれしい。

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ジャの凄さをまとめてみるとこんな感じである。

1) 圧倒的な身体能力

モラントを見てまず目につくのが彼の並外れた身体能力である。バケモノだらけのNBAの中でも彼のスピード、ジャンプ力、切り返しのクイックネスはリーグで5本の指に入るレベルであり、全盛期のデリック・ローズやラッセル・ウエストブルックを彷彿させる。ただ高くジャンプするだけでなく、パワーも兼ね添えており、ビッグマン相手に数々のダンクをトライすることができ、どんな相手でもポスターを狙ってくる。ジャンプ力がありすぎる為、ダンクに失敗した時の落下の際大きなケガをしてしまわないかと心配になってしまうほどである。

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直近のレイカーズ戦では、バックボードに頭をぶつけるほどジャンプしながらゴールテンドを避けてブロックをしており、単純なジャンプ力でいったら現在リーグトップかもしれない。(このブロックはマジですごい)

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そして彼は滞空時間が圧倒的で、ジャンプしてからディフェンダーも一緒にジャンプして、ディフェンダーが先に着地した後に彼がレイアップをするシーンも多々見られる。ただ滞空時間が長いだけでなく、ディフェンダーにぶつかりながらや空中でバランスを崩さないボディコントロールはカイリー・アービングを彷彿とさせる。彼はこの恵まれた身体能力を存分に生かし、ペイントで得点を量産している。(現在ペイントの得点数第3位!!)

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2) コートビジョン

ジャの凄いところは、単純に運動神経がいいだけでなく、ポイントガードとして必要なコートビジョンとパス能力も備えているところである。これについてはローズやウエストブルック、カイリー以上のものを持っている。ルーカ・ドンチッチやトレイ・ヤングのようなコートビジョンとまではいかないが、エリートPGとして必要なレベルは兼ね備えており、ペネトレーションからのキックアウト、ペイント内でカットしてきた選手を見つけるなどを得意としている。また上述のような空中での長い滞空時間の間にシュートかパスを決めて、パスを選択してアシストにつなげることも多々ある。最近はとにかくスコアファーストのポイントガードが増えているが、彼は自分の得点とチームメイトのセットアップをうまく組み合わせたハイブリット型である。

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3) 一人よがりにならない

ポイント2)にも共通することだが、彼は最近の若手スターと違いボールを独占しすぎない強みもある。決してカリーのように常に動き回ることはしないが、ヤングやルーカのようにボールを独占しまくり、ボールを持たない時は全く何もしないといった傾向は見れない。チームメイトにボールを渡して、他のガードがオフェンスのポイントになることを嫌がらず、接戦のクラッチの状況でもボールを手放すことを拒まないのは、3年目のスター選手としては評価されるべきである。

 

4)競争心とリーダーシップ

宇宙レベルの身体能力とバスケセンスを持った選手は他にもいるが、皆が成功するわけではない。NBAのスター選手とその他の選手を隔てるのは負けず嫌いな性格とメンタルのタフさである。どんなにセンスがあっても、自分は誰にも負けない、絶対に勝ってやるという精神と努力が伴わなければ一流にはなれない。モラントはこの競争心とタフさをリーグに入った時から兼ね備えていた。彼のインタビューや試合中のしぐさなどを見れば明らかだが、ジャは誰も恐れていないし、自分の目の前に立ちはだかる壁を全部打ち破ろうとしてくるのである。

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ただ競争心が強いだけでなく、周りを鼓舞しようというリーダシップスキルもルーキー時代から持っており、現在最もケミストリーがいいチームであろうグリズリーズのまとめ役となっており、真のリーダーと言えるだろう。グリズリーズのベンチを見れば、誰もがチームメイトを応援していることが垣間見え、非常に雰囲気の良いチームであるとことがすぐわかる。その中心に彼がいるということは、彼の求心力の高さを表していると言える。

 

<モラントが向上しなければいけない点>

モラントの良い事ばかり書いたが、決して完璧な選手ではなくまだまだ改善の余地がある。まずは、ジャンプショットの安定度であろう。今年は3ポイントが38% (1/10日時点) と昨年の30%から大いに向上はしているが、まだまだ2ポイント含めてすごい安定しているかというとそうではない。但し3ポイントが改善されてきているように、モラントは常に努力をする選手であるので、今後数年でジャンプショットも平均以上レベルになる可能性は十分ある。

 

それ以上にレベルアップしなければいけないのがディフェンスである。彼のディフェンスはリーグ平均以下であり、注意力や頑張りも正直あまり高くない。ディフェンス時はオフェンスのように足が動いていないし、自分のマークマンのカットを見逃してしまうなどがしょっちゅう見受けられる。今年彼がケガで12試合欠場した際に、グリズリーズはリーグトップのディフェンス力を誇っていたのに対して、彼が欠場する前のチームはリーグ最下位のディフェンスであった。不在時に相手チームのシュート確率がたまたま低かったということもあるし、サンプルサイズも少ない為、一概にモラントが全ての原因とは言えないが、現状彼の存在がディフェンスにおいてはネガティブな影響をもたらしている。今後ジャが新のスーパースターとなるには、ディフェンスへの取り組みが重要となるだろう。

 

<グリズリーズの底力>

グリズリーズはモラントばかりに注目が集まりがちではあるが、チームの総合力が高いのも特徴である。なにせ彼が12試合不在の間、グリズリーズは10勝2敗という快進撃を見せた。上述のジャ抜きのディフェンス力は本物で、各ポジションに優れたディフェンダーが揃っている。また、ロスターの各選手の実力が高く、リーグでもトップクラスの若手の選手層とベンチ力の高さを誇っている。2年目のデズモンド・ベインは得意のシュート力を活かして安定したスコアラーとして成長をしているし、ディロン・ブルックスも得点力と相手を追いかけますタフなディフェンスが健在である。4年目のジャレン・ジャクソンJrはオフェンスはまだまだ成長段階だが、高さと機動力を生かしたディフェンスは確実に向上している。更に新加入のベテラン、スティーブン・アダムスはディフェンスとリバウンドに加えて、これまで見せてこなかったパスセンスも開花しており、ポイントセンター的な役割を担っている。

 

更にヘッドコーチのテイラー・ジェンキンスの存在も見逃してはいけない。モラントと同じく3年目のヘッドコーチであり、まだ若いコーチだが、彼の戦術やインバウンドプレイのクリエイティビティはもっと注目されるべきだし、若い選手ばかりのチームを束ねるコーチング力はリーグトップレベルであると言える。

 

<グリズリーズのポテンシャル>

現在ウエスト4位のグリズリーズが今年の優勝候補の1つかと言われるとそうではなく、上位3チームとのギャップはかなり大きい。ウォーリアーズ、サンズ、ジャズはいずれも選手層の厚さに加えてプレイオフ経験が豊富であり、まだまだ若手ばかりのグリズリーズとは実力の差は明らかである。またファーストラウンドでレイカーズナゲッツとマッチアップになったら、敗退することも十分考えられる。然し、今シーズンの飛躍は確実にチームの自信につながるだろうし、今後数年でモラントがスーパースターの座をに着くとともに、グリズリーズは長年リーグが恐れるチームとなっていくだろう。

デマー・デローザンの活躍とミッドレンジゲームの進化

どうも。コロナのアウトブレイクは年末に向けて更に加速しており、一大イベントのクリスマスゲームも試合自体は非常に面白かったのだが (5戦中4試合が接戦) 、デゥラント、ヤング、ルーカなどスター選手が多く欠場したこともあって物足りなさも残った。NBAとコロナの闘いについては先日まとめたので、そちらを是非ご覧頂きたい。

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そんなコロナの影響を非常に大きく受けたチームの1つであるシカゴ・ブルズは、昨シーズンまでプレイオフ圏外が続いた今シーズン躍進しており、現在イースト2位の勝率である。ザック・ラビーンというスコアラーに加えて、プレイメイクとディフェンスに優れたロンゾ・ボールやアレックス・カルーソが加入したことでオフェンスとディフェンスのバランスが優れたチームに進化したが、最もインパクトがあったのがデマー・デローザンの加入である。

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デローザンと言えば、ラプターズ時代にスコアラーとして台頭をしたが、プレイオフレブロン擁するキャバリアーズに散々苦しめられ、プレイオフに弱いというレッテルがついてしまった。そして何より3ポイントの革命が起きた現代NBAにおいて、3ポイントライン内のミドルレンジのジャンパーは非効率だと考えられ、3ポイントが苦手でミッドレンジで勝負するデローザンの評価が落ちてしまっていた。ただここにきてミドルレンジジャンパーの考え方も変わってきており、デローザンもMVP候補の一人にまでになった。そこで、今回はデローザンの個人としての進化とリーグ全体の2ポイントショットの進化について考えてみたい。

 

ちなみに3ポイントの進化と歴史については、つい最近記事にしたのでそちらも是非ご参考頂きたい。

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<デマー・デローザンの評価の変化>

前述のようにデローザンはラプターズ時代からスコアラーとして台頭を表し、平均20点以上をコンスタントに記録する。同時にラプターズイーストの強豪となっていき、2015-2018年まで毎年プレイオフの上位シードとなる。その間にデローザンは着実に実力を上げていき、類まれな身体能力に加えて、リーグ屈指の中距離ジャンパーとフットワークを生かして、リーグトップクラスのミッドレンジの使い手となる。

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ロサンゼルスのコンプトン生まれで、コービーがアイドルだったデマーは彼のプレイスタイルを継承していき最も安定したスコアラーの一人とはなるのだが、3ポイントがとにかく苦手で、確率低いし、本数も少ないままだった。彼がスターになったのは、ステファン・カリーが丁度MVPと優勝でリーグに旋風をし、アナリティクスがリーグを支配した時代である。ミッドレンジのジャンパーを中心にしたデマーのスアイルはアナリティックスの標的にされて、彼の評価を下げる要因となった。また、デマー自身もプレイオフで爆発できずに、毎プレイオフラプターズが苦戦を強いられたことで悪評を覆せなかった。更に追い打ちをかけるように、彼がスパーズにトレードされた代わりに加入したクワイ・レナードが2019プレイオフで大活躍をしてラプターズフランチャイズ初の優勝に導いたことで、比較対象となったデマーの評価がもっと下がってしまった。(彼がディフェンダーとして平均以下なことも大きいが)

 

スパーズに移籍後はラプターズ時代よりもプレイメイクに力を入れ、事実上のポイントガードとしての役割を担い、ミドルレンジの技術もどんどんと向上し、クリス・ポールやデゥラントと肩を並べるレベルとなっていた。然し、引き続き彼の3ポイントが上達せず、そもそもAttemptが現代NBAでは信じられない1本以下と打つ気すらなかった。そして彼が優勝争いから程遠いスパーズに所属していたこともあり、目立たない選手となったかつ個人の評価も上がらなかった。その為、彼がオフシーズンにシカゴ・ブルズと3年85億円の契約をした際は、多くの識者がお金払いすぎ、ブルズのスターのザック・ラビーンとプレーの相性が合わないと懐疑的な見方だった。私個人もディフェンスが弱いブルズにデローザンが入るのは更にディフェンスを弱体化させ、オフェンスにおいてもラビーンとのフィットが微妙だと思っていた。ブルズへの移籍が決定する前に、レイカーズやニックスも候補に囁かれていたが、昨シーズンまでの彼の評価が影響して両チームとも結局契約に向かわなかった。(今のデローザンの活躍を見たらどちらのチームもすごい後悔しているだろう、、、)

 

<ブルズでの開花>

そんな期待値低めで結成された新生ブルズであったが、蓋を開けてみると今年最もエキサイティングなチームとなり、デローザンがその中心となっている。ラプターズ時代に築いたミドルレンジとスパーズで鍛えたプレイメイキングの能力が交わり、更には4Qの得点数もリーグトップとクラッチ力にも磨きがかかっている。今年で32歳の彼だが今が全盛期と言っていいだろう。

 

スリーポイントもスパーズ在籍時よりはトライしているが、今でも基本ミッドレンジが主戦場となっている。それでも上手くいっているのは彼の周りにシューターが揃っているからだろう。ボールとカルーソはスポットアップから打てるし、センターのブサビッチもシュートが比較的うまいセンターであり、デローザンがシューターじゃなくてもフロアが開く。また、第2スコアラーのラビーンもスリーとドライブが得意な選手かつハーデンのようにボールを支配しないので、思った以上にコンビネーションが上手くいっている。つまりデローザンがボールを保持している時に、全員スリーポイントラインで待機、もしくはゴール下にカットできるのである。特にラビーンとはお互い信頼し合っているようで、2人とも優勝経験がないためか、それぞれ一定の犠牲を払いつつ、お互いの強みを活かそうとしているのが伺える。実際デローザンが平均26点、ラビーンも平均25点とそれぞれがリーグトップ10に入る得点数と非常に強力なデゥオとなっている。

 

デローザンはチーム構成とこれまで培ってきたスキルによって、ブルズ内でボールを一番保持するようになったわけだが、特に第4Qの活躍が凄まじい。3ポイントレボリューションによって、どのチームもがんがんスリーを狙うようになったわけだが、それでも接戦の第4Qはディフェンスがタイトになることにより、簡単にオープンスリーは狙えない。そうすると1on1オフェンスが非常に重要になるのだが、その時にミッドレンジからジャンプショットを確実に決められる選手が重宝される。スリーの一辺倒は爆発しればすごいが、ステファンカリーでもない限り確率が落ちる。そこで、ある程度安定した2点の確保が必要なのである。更にデローザンは、ターンオーバーも少なく (平均2以下)と、上達したプレイメイクによって安心してボールを任せられる。(ラビーンはタフショットを決めるのがすごい上手いが、デシジョンメイキングでまだ不安が残る) こうして、デローザンは過去最高の成績と評価を今シーズン残してきている。

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<ミッドレンジの考えの変化>

ミッドレンジショットは3ポイントラインが79年に出来て以降、長らくトップスコアラーだけでなく各選手の要となる手段であった。特にマイケル・ジョーダンが大得意とし、ブルズ後期3連覇の時はミッドレンジでのポストアップフェイダウェイ、ドリブルからの2ポイントショットが彼の主戦場となっていた。彼のフットワーク、ショットの正確性と美しさによってその後のスター選手の多くがこのスタイルを真似するようになる。ジョーダンは引退するまでスリーの取得にはあまり重きを置かなかった。

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その後ジョーダン2世として、コービーがフェイダウェイとミドルレンジのマスターとなり、その他トレイシー・マグレディポール・ピアースなどもフェイダウェイを得意とした。また、ビッグマンでもケビン・ガーネットやダークノウィツキ―、ラマーカス・オルドリッジが主にミッドレンジをベースに多くの得点を稼いだ。(ダークはスリーもたくさん決めたが、シグニチャームーブはフリースローラインからのフェイダウェイであろう)

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それが2010年に入るとアナリティクスとカリーの登場によりどんどんとスリーが強調されるようになり、スター選手もスリーをどんとんと打っていくようになる。(というかスリーが得意な選手がスターになりやすくなっていく) 同じ2ポイントでもジャンプショットよりレイアップやダンクの方が高確率な為、各チームがスリーとレイアップばかり狙うオフェンスにシフトにする。(それを個人として最も体言したのがロケッツ時代のハーデンである) そうしてデローザンのように2ポイントしか稼げない選手が悪者かのようにメディアでも否定的な意見が増えるようになる。2015年から2019年頃まではある意味アナリティックスが行き過ぎた感があった。

 

そこがここ数年また変わってきているような気がしており、ミドルジャンパーもそれがかなりの高確率であれば狙うべきだという風潮に戻ってきたのでないかと思う。ラプターズで優勝した際、レナードは試合終盤多くのミッドレンジを決めてジョーダンを彷彿とさせる活躍をしたし、リーグベストスコアラーのKDも一番得意なのはスリーではなく中距離ショットである。デビン・ブッカー、ジミー・バトラー、クリス・ミドルトンなどのスコアラーはミドルレンジからオフェンスを始めることは多いし、クリス・ポールはミスター・ミッドレンジで有名である。要はジャンプショットでも精度が高い選手が打てば、レイアップを狙うのと同じぐらいの確率で決められるのである。であれば、彼らが打っても問題ない。反対にスター選手でない人がスリーの代わりに2ポイントを打っても非効率だから彼らはスリーにフォーカスすべきということである。一時は"Midrange is dead"などと言われていたが、決してなくなったわけではない。

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ディフェンスがタイトな中で簡単にドライブできない試合終盤、特にお互いを戦術を出し尽くしたプレイオフでは、最終的に誰が得点を決められるかが勝負になるわけで、1on1からのジャンプショット試合を勝ち抜く手段となる。それを圧倒的確率で決められる選手がいる限り、ミッドレンジの芸術は死なないだろう。

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NBAのコロナアウトブレイクと今後への影響

どうも。NBAもシーズンの3分の1ぐらいが終了してきたが、コロナのアウトブレイクが止まらない。最初はシカゴ・ブルズで始まりはじめ、イヤニスやハーデン、KDなどのスーパースター含めて各チームで多くの選手が隔離を余儀なくされている。これにより、ロスターの半分ぐらいしか出場できないチームが出てきているだけでなく、一部のマッチアップは延期され始めている。既にオミクロンの感染者がNBA関係者に発見されているという事で、感染拡大は必至となっていたが、ここまで感染が進んでいるとなるとシーズンの中断も検討をし始めないけどいけないレベルになってきている。

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今年躍進のブルズはデローザン、ラビーンのスターがコロナで試合も延期になった

<各試合への影響>

NFLなどでもアウトブレイクが起こっているが、バスケは15人しかロスターがいないという所が問題で、スターにとって代われる選手そうそう出てこれないのである。そうすると、NBAの「品質」が問題になってくる。最近の試合を見ていると、割と選手名たくさん知っている方の私ですら聞いたことない名前が両チームで出揃うことが増えている。それにより必然的にプレーのレベルは落ちてしまうし、何よりNBAファンの興味も落ちてしまう。特に現代NBAはスターが物を言うリーグである。知らない選手ばかり出てきて楽しめるのは本当のNBAジャンキーだけであろう。

 

例えば、先日ネッツはラプターズと対してOTでなんとか勝利したが、全く名前を聞いたことがなかった、ケスラー・エドワード、デイビッド・デゥークJr (なんとも言い難い名前だが、、、) がそれぞれ40分前後もプレーするというある意味全体未聞の試合であった。コロナのProtocoolに入る前のKDはこの試合で48分もプレイしており、選手層が薄くなくなることで、スター選手へのレギュラーシーズン中の負担がかなり大きくなっている。ここ最近のトレンドであったLoad Managementとは完全に相反する事態となっているわけである。スター選手への負担が強くなればなるほどケガのリスクも増えるわけで、レギュラーシーズンの終盤の怪我やプレイオフ中の負担が選手達の限界を超えるレベルになることも考えられる。

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隔離を余儀なくされる前に凄まじい活躍をしていたデゥラント

 

<それでも強行されるシーズン>

上記のように、このままの状態でシーズンを続けることはリーグにとってもネガティブな話ばかりに見えるのだが、オーナー陣はシーズンをストップするつもりが全くない。なぜならどんなにプレーの質や有名な選手が出場できなくても、シーズンを続行し続けることでテレビのお金は一定入るし、何より収入の3分の1を占めるチケット代を手放したくないという気持ちが強いのだろう。コロナ直後の2020年のバブルプレイオフは結局リーグにとってかなり財政的にマイナスになったという話ではあるので、その二の舞を避けたい気持ちも分かる。ただ個人的には入れる観客の数を減らす、アリーナ内は必ずマスク着用を義務付けるなどしないと、観客だけでなくスタッフや選手がコロナにかかる可能性を高めってしまい、かなり悪影響であると考えている。観客席見渡してもマスクをしている人はほとんどいないし、それなのに満員で入っているのはどう考えてもリスクでしかない。(ポートランドだと結構みんなマスクしていて好印象だが)ちゃんとマスクをしている日本人と比べるとアメリカ人はやっぱり色々緩い。

 

頑なオーナーとリーグはどうにしかしてシーズンを続けようと、コロナで出場不可となったプレイヤーの数だけ各チームが新しい選手をサインできるようにルールを変更した。これによりGリーグの選手達が10日契約などを結んでいる。彼らにとってはまたとないチャンスではあるかもしれないが、コロナになった選手が完治したらまたGリーグに戻るだけで、チームスタッフは使い捨てとして見ていないだろう。

 

<議論を呼ぶカイリーの復帰>

先述のコロナ続出のネッツに話を戻すと、こんな状況の中、選手が足りないという理由でワクチン未接種のカイリー・アービングロスターに戻すと宣言した。カイリー対ワクチンについてはシーズン開幕前に言及したが、彼は一貫してワクチン接種を拒否し、現在も未接種である。

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ニューヨーク市の法律でワクチン未接種の選手はホーム試合に出場できないという決まりがあり、ワクチン規制が緩いアウェイゲームだけ参加するか、完全にカイリーをシャットダウンするかの2択を迫られたネッツは当初は後者を選択した。(チームケミストリーや戦術の一貫性のためであると思うが)それがここにきてオミクロンだけでなくデルタ株も引き続き感染が続く状況で、選手不足の為にコロナを更に広める可能性がある彼を復活させるという決断には非常に疑問符が残るし、ネッツの倫理観を疑う。コロナが猛威を振るう中でコロナの脅威をリーグに戻すのは、ほんとちぐはぐであり、もっと非難されるべきであろう

 

そんなカイリーはチームに戻るという発表がされて僅か2日でSafety Protocoolで隔離される事態となったのはなんとも皮肉な話である。

 

<読めないシーズン>

コロナの終焉が見えない中、今年のレギュラーシーズンの勝率はコロナとケガの影響を最小限に受けたチームがトップになっていくだろう。今のところサンズやウォーリアーズはコロナの被害は少なめだが、いつ爆発してもおかしくない。イヤニスがコロナになる前好調気味になっていたバックスは、ミドルトンの怪我も重なりまた負けが込んでいるし、ブルズは2試合の延期を余儀なくされた。単純な選手層とチームの総合力以上に、今年は運が物をいうシーズンとなることは必至であり、予想のつかない恐怖が付きまとう何とも落ち着かない展開となるだろう。

ステファン・カリーとNBAにおける3ポイントの歴史

どうも。ステファン・カリーがレイ・アレンの持つ歴代3ポイントの数を後少しで上回りそうということで、アメリカのスポーツメディアが大騒ぎしている最近のNBAだが、その記念として今回はNBAにおける3ポイントの歴史ついてざっくりと書いてみたい。カリーの登場はNBAのオフェンススタイルに大きな影響を与えたことは皆さんご存じだろうが、どうやってここに辿りついたのだろうか。

 

そもそも3ポイントシュートはNBAの初期には導入されていなかった。その為60年代に活躍したレジェンドのジェリー・ウエスピート・マラビッチは3ポイントレンジから打っていたのに、2点としか計算されなかったわけである。2ポイントかフリースローだけのなか1試合平均30得点を叩き出していたかつ、ペースが今よりも全然クイックだった時代に3ポイントがあったら、彼らの総得点数は大きく変わっていただろう。

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ロゴことジェリー・ウエス

 

また、70年代に活躍したボブ・マッカデゥ―はセンターながらロングレンジのショットを打つ選手の元祖のような存在で、その後のシューティング・ビッグマンの形を作った選手と言えるが、彼も3ポイントの歴史に埋もれってしまった一人である。

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ビッグマンシューターの先駆けであるマッカデゥ―

 

3ポイント自体は、NBAのライバルとなっていたABA (よりエンターテイメント性に特化し、ダンクやスリー、派手なドリブルを全面に出したリーグ) で60年代から採用されていたが、NBAでは1979-80年シーズンからやっとのこと使われるようになったのである。

 

然し、2ポイントしかなかったNBAでは当然ながらリング下にいるビッグマンが近距離でショットを決めるのが当たり前の必勝法となっていた。その為、スリーが解禁された以降も、どんなに優れたシューターがいてもまずはセンターにボールを渡すのが慣例化した。今考えてみたらなんとも効率が悪い話なのだが、ビッグマン以外の選手も3ポイントの中に入ってミッドレンジショットを中心とするのが普通だった。奇しくもNBAがスリーを導入した年に入団したレジェンドことラリー・バードは80年代最高のシューターと言われた。然しそんなバードですら、入団当初は1試合平均1本以下、最も多かった年でも3本程度と全然スリーを打っていなかったのである。その当時は3ポイントを正確に決められるシューターが少なかったこともあるだろうが、スリーは確率が悪く、ジャンプショット中心では勝てないとリーグ全体が思っていたわけである。

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バードはもっとスリーを打てばよかったのに。。。

 

バード以外のトップスターもほとんど3ポイントは打っておらず、スリーが登場して5年後の1983-84年シーズンの1試合のリーグ平均3PAは驚愕の2.4である!!今じゃベンチから出てくるロールプレイヤーの数である。10年後の1988-89シーズンですら6.6本と今年 (35.5) の約5分の1である。

 

バードの後にトップスコアラーとなったマイケル・ジョーダンも引退までミッドレンジが主戦場で最後までスリーの確率は良くはなかった。ジョーダンの登場で徐々にガードの影響力が強くなってはいたが、まだまだリーグはビッグマンの支配権が強く、90年代でもスリーポイントシューターはどこかスペシャリスト感はあった。また、80年代のレイカーズに象徴されるようなガンガン点を取りに行く時代からディフェンス中心のチームが多くなり、NBAのスコアリングの割合はどんどん下がっていたのが90年代の特徴であった。そんな状況に嫌気がさしてか、NBAは1994-95シーズンから1996-97シーズンの3年間、スリーの距離を本来の23.9フィートから22フィートに縮めるという暴挙に出る。これにより、前年の93-94シーズンでリーグ平均9.9本だったスリーの本数が一気に15.3本まで跳ね上がった。同時に、短くなった3ポイントラインの恩権を受けて、リーグ平均の割合が33%から35.9%と上昇した。

 

ここで面白いのが、歴代最高の45.4%というスリーの確率を誇るスティーブ・カーは3ポイントラインが短くなった3年間で52.4%、51.6%、46.4%と大恩恵を受けていることである。スリーがずっと同じ距離だったらおそらく平均42、43%に落ち着いていたのではないかと想像する。

 

90年代のシューターとしては真っ先にレジ―・ミラーの名前が挙がると思う。彼はいわゆるシューターのスペシャリスト的な存在ながらチームのエースでもあったという希有な存在である。スクリーンを多用してオープンな状態を作り出してからのシュートが多かった彼だが、それでもまだ2ポイントの割合の方が多い。スリーの距離が短かった3シーズンを除いて最も3PAが高かった年で5.5本と今年のカリーの半分以下である。アナリティックスがミラーの時代に登場していたら、彼のAttemptも倍になっていただろう。

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希代のクラッチシューターであるミラー

 

他にも90年代に活躍したグレン・ライス、ミッチ・リッチモンド、クリス・マリンなどはシュート力が売りではあったが、3ポイントをアベレージで5本以上狙うことはなかったし、3ポイントラインが元に戻った97-98シーズン以降はリーグ平均の3PA1試合13本台に戻ってしまった。

 

2000年代に入ってもスリーについて大きな変化はなかったのだが、レイ・アレンが積極的に3ポインターを狙うスコアラーとして台頭してくる。身体能力も優れ、スラッシャーとしても活躍したアレンだが、史上最も美しいシュートフォームから3ポイントを1試合5本以上打ち始め、全盛期の2005-2007シーズン頃は平均8本以上スリーとなっていった。レジ―で最も多かったのが5.5前後だったのを考えると3本近くとかなりの増加ではある。また、アレンがこれまでの選手と違ったのは、これまでスリーと言えばミラーのようにスクリーンでオープンの状態を作ってもらってが基本だった中、ドリブルからスリーを打てた点である。3ポイントの確率が常に40%を超えていたわけではないが、現在のスリー偏重の流れを作った革命的な選手の一人と言えるだろう。

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レイ・アレンのフォームはただただ美しい

 

そして、アレンが全盛期に入るにつれてNBAのプレイにも変化が起きる。ジョーダンが繁栄を築いた90年代は決して面白いバスケスタイルの時期ではなく、とってもペースが遅くディフェンスとアイソレーション中心のバスケであった。それによってジョーダンという絶対的な存在がいなくなった後のNBAは人気が落ちた。因果関係は証明できないが、ディフェンス重視のスローなバスケで興味をなくしたファンは少なからずいたはずである。そんなときに彗星のごとく誕生したのが2000年代中期のフェニックス・サンズである。イタリアンバスケのスタイルを取り入れたヘッドコーチのマイク・ダントーニと歴代屈指のPGスティーブ・ナッシュによって、ショットクロック8秒以内にシュートをするというラン・ガンスタイルを作り上げたサンズはとにかくどんどんシュートを放ち、隙あらばスリーも積極的に狙っていた。2004-2005シーズンのリーグ平均3PAが15.8だったのに対して、サンズは平均24.7と10本近く多くスリーを打っていたのだからその違いは明らかだった。(ダントーニはとにかく確率より数に重きを置いていた) このスタイルは他NBAチームに大きな影響を与え、より多くのチームがどんどん得点を狙う姿勢を見せるようになっていくのだが、カリー擁するウォーリアーズの原型とも言えるかもしれない。

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ナッシュ自身も史上最高の3ポイントシューターの一人である

この時期の更なる変化がNBAもAdvanced Statsを徐々に利用するようになっていった点である。アナリティックス自体は元々野球で導入され、ブラッド・ピットが主演の「マネーボール」で描かれているように、オークランド・アスレチックスがアナリティックス重視で成功した例として他のスポーツでも注目を集めるようになる。2000年代初頭から何人かバスケットボールアナリティックスで有名になった人物もいるが、リーグに最も影響を与えたのが2007年にロケッツのGMとなったダリル・マレーであろう。マレーはバスケ経験のない人物として初めてNBAGMとなり、プレイぶりやベーシックな数字ではなく、とにかく定量的なデータを重視するチーム作りを行った。それに伴い、例え2ポイントより3ポイントの方が入る確率は低くても、できる限り3点を狙った方が最終的な得点数は多くなると説いた。また、2ポイントを狙うならリム下のレイアップ以外は非効率と考え、ジョーダンやコービーが天下の宝刀としたミッドレンジショットが最も効率が悪いショットと考えた。これを体現したのが2012年からロケッツに加入したジェームズ・ハーデンである。彼に常にボールを持たせ、ひたすら彼がドライブしてレイアップかファールを受ける、スリーを打つ、もしくは3ポイントラインで待つチームメイトにパスをするという3択しかないという手法は非常に極端で、個人的には見ていてつまらないが、効率性を究極に突き詰めたワンマンショーであったわけである。(ハーデンはミッドレンジでほぼシュートを狙わない)

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2010年代のリーグを象徴するスタイルのハーデン

 

オフェンス重視の流れ、アナリティックスの導入と重なって時代の申し子となったのが今回の主役のステファン・カリーである。カリーが他の選手と一線を画すのが、その圧倒的なボリュームと正確性、そしてシュートの難易度である。ボリュームで言ったらハーデンも1試合平均13.2本打ったことあるし、正確性だけでいったらスティーブ・カーやカスティーブ・ナッシュの方が数字上は上かもしれない。ただハーデンは平均36%ぐらいの確率だし、カーやナッシュは基本オープンな状態しかシュートは打たなかった。カリーの凄さは巧みなドリブルで自らスペースを作り出し、異次元なスリーを正確に大量に決められるところであり、この3つが揃った選手は今まで誰もいなかった。キャリアで1試合平均8.7本の3PAで43.2%の3P%というのは驚異的な数字である。(しかもドリブルからのシュートが半分)

 

カリーがスターとして頭角を現した2012-13シーズンでは、アベレージ本数が7.7とレイ・アレンとそこまで大きな違いはなかったが、その年のリーグ平均は20まで上がってきてはいた。そして彼が満場一致でMVPを受賞したシーズンはカリーもスリーの割合が平均11.2まで上昇し、リーグ平均も24.1と一気に跳ね上がっている。これは、カリーとクレイ・トンプソンを中心としたウォーリアーズのプレイとアナリティクスの影響を受けたチームがウォーリアーズを真似しようと試みた結果でもある。

 

どのチームも次のカリーを探してスリーを大量に打つようになり、特にここ5年のスリーの多さは異常というぐらいで、カリーの2016年のMVPシーズンからリーグ平均の1試合の3PAは、24.1→27.0→29.0→32.0→34.1→34.6→35.5 (今年)と毎年どんどん増えている。そろそろスリーだらけすぎて嫌気がさすぐらいである。

 

但しどのチームがいくらスリーばかり狙ったり、カリーのプレイスタイルを真似しようとしても、彼を超える存在は誰一人として表れていない。というか彼のレベルに近い選手すら存在しない。よくデイミアン・リラードがカリーと比べられるが、シュートの難易度やボリュームが近いだけで、リラードのスリーの確率が最高だった年で40%に対して、カリーはキャリアで一回も平均41%を下回ったことがない。正確性で言ったらこの二人は比べてものにならないのである。

 

カリーがどこまで記録を伸ばせて、今後何年間彼が3ポイント王者に君臨できるかは気になるところである。もちろんいずれ破られるのが歴代記録の常なのではあるが、カリーほどのボリュームと正確性を持ったプレイヤーがこの10年出てきていないことを考えると、カリーのスリーポイント数がカリーム・アブドゥルジャバーが30年以上保持している歴代得点数のように一生破られない圧倒的な数値となることも十分考えられる。

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レブロンの衰えとトッププレイヤーの変化

どうも。あっという間に2021-2022シーズンの4分の1が終わり、ある程度各チームの強みと弱みや今年のトップスターなどが見えてきた今日この頃である。

 

<各カンファレンスのトップチーム>

エストではウォーリアーズが快進撃でリーグトップの成績を残している。加えてクレイ・トンプソンも12月には復帰する予定となっておりもう楽しみでしかない。やはりカリーや他の選手が常に動き回ってボールムーブメントでディフェンスを崩すウォーリアーズのスタイルは本当に面白いし、アイソレーションヘビーなチームが多い中で新鮮であるし、バスケの良さを体現したチームである。

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同様に、サンズも11月28日時点で16連勝をしており、昨年から続く安定感抜群のチームである。オーナーであるローバート・サーバーのチーム内外での不適説行動が1か月前にニュースになった時は1週間ぐらいこの話で持ち切りだったが、その中でサンズは勝ち続けいつの間にかスキャンダルもどっかにいってしまったような印象である。サンズは前から言っているがとにかく弱点がない。クリス・ポールも昨年レベルの活躍をしているし、強固なディフェンスと安定したオフェンスのバランスは健在である。

 

一方、イーストでは抜きんでたチームがまだないが、なんだかんだでネッツが第1シードになっている。カイリーはワクチン不接種ということで、今シーズンはこのままプレイしないのではないかと思われるし、ハーデンも昨シーズンと比べて明らかにレベルが下がっている中、デゥラントの圧倒的な実力と脇を固めるベテラン陣によって安定してきてはいる。ただしディフェンスが弱く実力のあるチーム相手には敗戦を喫しており、決して頭抜けた感じではない。

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ヒートは逆に強豪相手に常に互角に戦えており、ジミー・バトラーはこれまでのキャリアで最高の活躍をしているし、シックスマンのタイラー・ヒーローも3年目でブレイクアウトしており、サンズと同じくオフェンスとバランスが良い。ケガがなければトップ4シードに入ってくるのは確実だろう。

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今年のバトラーのEfficiencyは目を見張るものがある

<レイカーズの苦戦>

リーグ全体で最も議論されるのは、良くも悪くもレイカーズである。開幕から勝率5割ギリギリのラインを行き来しており、ウエストで1位を狙えるという下馬評に全く応えられていない。強豪チーム相手にほぼ勝ててなく、11月29日時点で挙げた11勝全てが、12点差以内、延長戦にいったのが4試合と常にギリギリの戦いをしている。

 

レイカーズが苦戦するだろうということは、ウエストブルックのトレードが成立した時点で予想していたが、やはりエストブルックの補強はネガティブな影響がポジティブを上回っている印象である。

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彼のクラッチ状況下でのデシジョンメイキングは相変わらず疑問符だらけだし、パスがどんどんと下手になってきている気がする。彼のアシスト数が毎年多いのはクリス・ポールのように本当に正確なパスを送っているわけではなく、単純にボール保持率が高いからである。今年もそれは変わらずなのだが、よりチームメイトが頭を抱えるプレイをすることが増えているという印象である。(スタッツ上は今ままで通りでこうだと証明はできないが、試合を見たらわかる)

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アンソニーデイビスも2年前に優勝してから覇気のあるプレイをしておらず、今年は3ポイント%が20%という壊滅的な数字で、レイカーズ移籍時に期待されたようなレブロンの後を継ぐスーパースターという地位を確立できていない。先日バックス戦でヤニスと対決して圧倒されていたように、3年前にはリーグNo.1ビッグマンになる、ヤニスよりも良い選手という評判だったが、かなりの差がついてしまった。

 

他のロスターを見ても、どう考えてもディフェンスがウィークポイントのカーメロの出場時間が長すぎるし、ディアンドレ・ジョーダンも他チームじゃ完全ベンチ行き、ウェイン・エリントンやモリーク・モンクもディフェンスが弱点であり、戦力が整っているとは到底言い難い。そんなロスターであっても、ここ15年ぐらいレブロンさえいればどんなチームも軌道に乗るはずなのだが、そう上手くいかないのが12月で37歳になる彼の現状である。

 

<レブロンの覇権の終了>

もちろん、この年齢かつ、20歳からプレイオフにほぼ毎年出て、2011年から8年連続ファイナルにいった彼が未だにリーグトップクラスの選手と言われることだけでも偉業なわけで、とても評価されるべきことではある。シーズン開幕まではリーグトップのプレイヤーは誰かという質問に、今でもレブロンと答える識者も多かった。然しいつまでもトップでは居続けられないというのが世の中、特にスポーツの常である。(Father Time is undefeatedという言葉はスポーツでよく使われる)

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まず今シーズンはケガで既に2回離脱しているのが気がかりで、レイカーズに移籍する前まで大きなケガを一度もしたことないアイアンマンだった彼の身体に若干ガタが来ているのは確かである。また、スタッツだけ見たら今年も平均25得点、6.8アシストと素晴らしい数字ではあるのだが、ウエストブルックと同じく実際のプレイを見るとやはり衰えたなと言わざるおえない。身体能力が落ちるのは36歳なら当たり前なのだが、プレイスタイルの違いが見ていて目につく。

 

レブロンと言えば、若い時はスピードと跳躍力を活かしたリムへのドライブ、後期クリーブランド時代からはパワードライブで相手を蹴落としてレイアップを決めるのがシグニチャームーブとなっていたが、今年はとにかくジャンプショットが多い。特に3ポイントの数が1試合平均8.5本と、昨年の6.3より2本以上、キャリア平均の4.4より4本以上とかなりスリー偏重となっている。これでスリーが得意ならいいのだが、彼はもともとジャンプショットでベストプレイヤーになったわけではないし、今年も34.4%とリーグ平均以下である。スリーが増えたのに比例するように、フリースローの本数が減っているのも気がかりである。キャリアで1試合平均7.9、ここ2シーズンも5.7だった中、今年は4.8と確実にファウルを誘う機会が減っている。これはやはりバスケットにアタックするという彼のベースであったスタイルがジャンプショット中心に変わっていることを表している。更に、リバウンドもレブロンの強みではあったのだが、キャリア7.4に対して、今年は5.2とこれも彼のアグレッシブさが落ちたことを象徴するスタッツとなっている。

 

ディフェンスについても2年前に優勝した際は、オールディフェンシブチームに入るかぐらい頑張っていたが、今年はかなり手を抜いている印象でやはり体力の温存をしているのだと思う。ディフェンスの弱さ、ジャンプショットの数が増える、リバウンドの数が減るという典型的な晩年選手の姿となってきている。もちろん1試合だけであれば、今でもベストプレイヤーとなれる気はするのだが、シーズンを通して、はたまたプレイオフを通してベストプレイヤーとして君臨するには中々厳しい現状となっている。実際昨年のプレイオフファーストラウンドでアンソニーデイビスがケガで離脱した際に、レブロン一人でサンズに打ちかつことができなかった。おそらく3年前であったらフェニックス相手にもレブロン一人で真っ向勝負できたではあろうが、Father timeが来たということなのだろう。(2018年のプレイオフは本当にレブロン一人でファイナルまで行ったと言っても過言でなかった) とはいっても、彼が未だにリーグ屈指の選手であることには変わりになく、確実にTop10には入るし、Top5-7の間ぐらいと個人的には思っている。然し、デイビスをはじめ他の選手がステップアップするか、また新たなトレードを仕掛けない限り、レイカーズの優勝の可能性は低いのではと考えている。

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<現在のトッププレイヤー4人>

レブロンが長く君臨したベストプレイヤーの称号は昨年あたりから変わってきており、誰がそのタイトルを確実なものにするのかというのが今シーズンのストーリーの1つとなりそうである。また、以前も記載したファウルコールのルール変更による影響がジェームズ・ハーデンやデイミアン・リラードに大ダメージを与えており、トップ10プレイヤーと言えば必ず入っていた彼らが圏外になっており、リーグのダイナミックが少しシフトしている気がする。

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ということで、より詳細なトップランキングはまた今度考えてみたいと思うが、ざっくりと現在のトッププレイヤーをまとめてみたい。個人的にTop4は確定しており、Top5以降はTBDといった感じである。

 

1. ケビン・デゥラント

現在のNBAで最も完成された選手であり、オフェンスにおいて全く弱点がない。今年は平均28.6得点、FGが54.8%と圧倒的な効率性で、シュートを外す気がしない。ディフェンスもここぞで頼りになれる存在であり、総合力で言ったら彼がNo.1であろう。今シーズンもバックス相手にヤニスとやり合ってくれることを期待している。

 

2. ヤニス・アデトクンポ

昨年ファイナルMVPのヤニスはケガ人が多く序盤つまづいたバックスで孤軍奮闘している。彼自身の実力は更に上がっており、インサイトの圧倒的な支配力に加えて、ミドルレンジショットやパスに磨きがかかっている。変わらずリーグトップのヘルプディフェンダーでもあり、デゥラントと僅差で2位だが、この2人が頭1つ抜けている印象である。

 

3. ステファン・カリー

泣く子も黙る史上最強シューターのカリーはウォーリアーズをリーグトップの成績に導いており、3度目のMVPも狙える。若干シュート確率は落ちているものの、今年はスリーを今まで以上に連発しており、一試合13発も打っている!彼の動き回るスタイルとシュート力はウォーリアーズオフェンスの全てと言ってもいいだろう。

 

4. 二コラ・ヨキッチ

昨シーズンMVPのヨキッチは、昨年以上の数字を残しており、課題と言われたディフェンスも今年は多いに向上している。ジャマール・マレーやマイケル・ポーターJRが戦線離脱中の中、ヤニス以上に孤軍奮闘状態ではあるが、シュートの確実性、オフェンスの多彩さと圧倒的なパス能力で、カリーと同じくナゲッツオフェンスの全てを担っていおり、リーグトップ4の選手であることを確実にし、センター対決でジョエル・エンビードの上をいく。

 

5. TBD

候補としては、レブロン、ルーカ・ドンチッチ、エンビード当たりが濃厚だが、今年で言えばポール・ジョージ、ジミー・バトラーが入ってもおかしくなく、今後のシーズンの経過に注目したい。

 

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現在のベストプレイヤーとして、この2人が真っ先に挙がる。

繰り返される不正義と許され続ける白人

どうも。NBAで書きたいことは一杯あるが、今回はそれよりもっと重要なアメリカの社会、司法制度の問題について議論したい。これまでもジョージ・フロイドの事件をきっかけに、アメリカ社会の白人至上主義について数回書いてきたが、またもアメリカを分断するかつ白人は何をしても許される構造が明らかになる判決が下された。何を話しているかというと、Kyle Rittenhouse (カイル・リッテンハウス) の無罪判決である。この僅か17歳の白人男は2人を殺害し、1人をケガさせたのに自己防衛として無罪となったわけである。拳を使ったわけでもなく、近くにあった器物を使ったわけではなく、AR-15を使っての自己防衛である。通常どんな状況で一般市民がAR-15を保持しているだろうか。それを考えただけでおかしな話なのに、銃保持の罪もなく、自己防衛として司法に守れたのである。ただただ怒りがこみ上げるが、正直驚きもしないのが悲しい現実である。何故なら彼が白人であるから。ただこれにつきる。彼が黒人だったら無罪になることなどありえない。それがアメリカの司法制度であり、未だに続く巨悪の根源を表している。(決してアメリカだけの問題ではなく、最もひどい国もあるし、日本の司法制度も十分やばいが)

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<何故全米の注目となったのか>

この裁判の経緯を改めて振り返ると、そもそもはウィスコンシン州のケノーシャで黒人のジェイコブ・ブレイクが白人の警察から銃撃を受けたことによる市民の暴動が発端である。これは昨年2020年にジョージ・フロイドの殺害をきっかけに全米で起こったBlack Lives Matterムーブメントの真っ只中で起きた事件であったことで大きな話題となった。ブレイク自身は運良く生存することができたが、無防備な状態で背後から4人の白人警官に7発打たれる映像は衝撃的なものであり、人々の大きな怒りを買ったと同時にジョージ・フロイドの件に続きまたかとなったのである。

 

昨年事件が起きた時もブログで書いたが、一番の問題は4人対1人の状況で、武器を保持していない一般人を7発も打つ必要がどこにあるのだろうかいうことである。4人もいればどんなことがあっても銃を使わずに取り押さえることは可能だろう。(そもそも武器の保持もしていなかったわけだが) 逆に銃を使わずに取り押さえられない時点で警察などやめた方がいい。ブレイクが何故7発も打たれたのかと考えると、それはどう捉えても相手が黒人であったからである。逆に白人であったらそもそも警察に囲まれることすらないだろう。atsukobe.hatenablog.com

 

この事件によってウィスコンシンに本拠地を置くミルウォーキー・バックスは第1シードながらプレイオフのファーストラウンドのオーランド・マジックとの第5戦をボイコットする事態となった。これ自体も大きなインパクトがあり、当時フロリダのバブルで実施していたNBAレイオフをこのまま継続する必要があるのかという議論になったぐらいである。

 

<事件の経緯>

ジョージ・フロイド、ブリアナ・テイラーなどを筆頭に何件も続いた白人警官による黒人への攻撃に人々は声を上げデモがはじまり、デモが過激化してケノーシャでは暴動化していた。その暴動に対して反発する人達で作られた(主に白人至上主義者) がFacebookでの呼びかけによって、一般市民による防衛隊もどきとなるものが出来上がる。彼らは普通のどこにでもいる市民なわけだが自ら武器を持っていて、抗議者に対抗するというものであった。そこに参加したのが今回の登場人物のカイル・リッテンハウスである。ケノーシャ市長は公にはこの防衛隊に反対したが、白人だらけのウィスコンシンの警官が彼らに感謝の意を示して、水を渡していたと伝えられている。

 

リッテンハウスはウィスコンシンではなく隣のイリノイ州に住んでおり、かつ僅か17歳の年齢でわざわざ乗り込んできたわけである。州をまたいでわざわざ防衛隊に参加していること自体で動機満点だが、自己防衛のためにAR-15を持ってくるような人間はまともじゃない。人を殺しにやってきたようなものである。そんな彼や市民軍もどきの人達に対して、そこにいた白人中心の警官達は何も言わずにむしろ行動を促したわけである。これをWhite Privilageと言わずになんと言うだろう。(もしリッテンハウスが黒人だったらどうなるだろうか。問答無用に逮捕、最悪射殺されるだろう)

 

そして彼はプロテストに参加していた3人を銃撃し、そのうち2人を殺害した。もちろん暴動が起きていた為、カオスな状況だったわけで、彼が自らの危険を感じた可能性は否定できない。だからといって3人にも銃弾打つことがどうして正当化されるのだろうか。そもそも自分からわざわざ暴動の鎮静の為という目的 (本当はBLMへの反対だろう)で来ているのだから、事態を落ち着かせようとしたということであれば納得がいくが、悪化させた張本人なわけである。

 

そして3人殺した後に彼は得意げに警察の前を通ったにも関わらず、何もお咎めなく一旦家まで帰れちゃったのである。これこそがダブルスタンダードなわけである。黒人が3人を銃撃して警察の前に歩いてきたら、確実に銃を置いて立ち止まるように囲まれる、もしくは多くの場合その場で射殺されるだろう。彼がこれをできたのは警察も白人ばかりで白人至上主義のトランプ支持者が多かったことに他ならない。この待遇の違いもWhite Priviliageの表れであり、白人である限りどんな暴力を働いてもすぐに逮捕されない構造がアメリカ社会の闇を表している。この点は1/6のトランプ支持者によるアメリカ議会襲撃に似ている。

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<裁判の不当性>

そして裁判にうつると、裁判官のリッテンハウスへの明らかな贔屓な態度が話題になった。彼は携帯の着信音にトランプのテーマである曲を入れていたり、殺害された3人は犠牲者じゃないと発言したり、明らかにリッテンハウスよりの思考を持っていたわけである。何故この裁判官が選ばれたのか疑問だらけだが、初めからフェアではなかったのは確かであろう。

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裁判中もおそらく弁護チームが彼の正当防衛感を高める為の作戦であろうが、リッテンハウスが大きな声で泣き出したら裁判官が休憩を与えたりしていた。これがウソ泣きかどうかというのもTwitterでは大きな議論になり、レブロンもコメントしていた。個人的にこれはどう考えても陪審員の印象を良くしようという演技であろうと思う。

 

これも、もし黒人が同じように泣き出した時に白人の裁判官が似たような同情を見せることは想像づらい。こうして最初から最後まで弁護側に傾いた白人色が強い裁判で、リッテンハウスの無罪が決まったわけである。白人であれば人を殺しても罪に問われない、黒人と同じスタンダートでは裁かれないというメッセージを世界中に見せつける結果となった。最も悲しいのはまあそうだろうなという半ば諦めのような反応が多かったことである。

 

<分断される社会に光はあるのか>

この事件は改めてアメリカ社会の分断を象徴するものであった。BLM運動を支持する者はリッテンハウスが極悪人だと言い、BLMに反対するトランプ支持層 (保守派ではなくもう右翼である) は彼をヒーローと呼ぶ。真実はその間で、彼は極悪ではないが特権を持った白人至上主義の正義ぶった犯罪者であろう。少なくとも彼はヒーローとはほど遠い。彼は何かの危険から人を救っただろうか。彼が銃を使わなかったらおそらく当日誰も死ななかっただろう。また、彼が黒人だったら右翼は極悪犯罪者と呼ぶだろう。犯罪者をヒーローとして扱うナンセンスな話をニュースチャンネルであるはずのFox Newsが広めるのだから保守派が過激化するに決まっている。Fox Newsのアナウンサーのタッカー・カールソンはリッテンハウスをヒーローとして描き裁判の行方を追うドキュメンタリーを作成したぐらいである。中立性の欠片もない。  (ワクチンが右対左の政治問題になるのだから仕方ないのかもだが) 

 

左サイドはそれはそれで批判だけして建設的な話ができていないのも問題である。いかにこの悪の根を撲滅していくかということをもっと真剣に考えて、現実的かつ実効できる解決策を見つけていかなければいけない。

 

結局のところ、BLMで大きなモメンタムができた変革への動きは非常に遅いペースで進んでおり、腐った社会構造は今まで通りなわけである。更に社会がこれまで以上に分断されていくにつれて、裁判官や警官という秩序をもたらすべき存在が偏った思想を持つようになってしまう。これは将来に向けた大きな課題であり、どちらのサイドが何かしらの中間地点を見つけるようにしなければ悲劇は終わらない。今回の判決は驚きもしなかったが、昨年の世界中のうったえにより社会が変わるという兆候が見えていたからこそ、逆に背筋が凍るものであった。